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怪物勇者   作者: Toooji
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第十八章 遠征


エルフの賢者から真名石の存在を聞いてから、数か月が過ぎていた。


永遠の森にも短い春が訪れようとしていた。


男は賢者の住処と泉を行き来しながら、真名石について調べ続けていた。


真名石。


魂を固定する石。


魔王のチャームに対抗できる唯一の手段。


その産地は二つ。


北方の竜骨山脈。


そして西の滅びた大国。


賢者の話によれば、竜骨山脈に残る真名石は極めて少なく、採掘場所も不明。


一方、西の大国には未だ眠っている可能性が高いという。


男は迷っていた。


西へ向かうべきか。


しかし海を越える術がない。


悩み続けていたある日。


賢者が煙草を吹かしながら言った。


「王都が騒がしいのう」


男は顔を上げた。


「何かあったのか」


「遠征じゃ」


賢者は退屈そうに答える。


「西の大陸へ向かうそうじゃぞ」


男は立ち上がった。


「何だと」


賢者は千里眼で見た光景を語り始めた。


王都。


港町。


兵士。


大型船。


物資。


家畜。


そして――


王子。


男の目が細くなる。


魔王。


やはり動き始めた。


賢者は煙を吐いた。


「救出遠征らしい」


「西の大陸に生き残りがおるとか何とか」


男は鼻で笑った。


生き残りなどいるはずがない。


あの国は滅んだ。


人間は絶滅した。


男自身が知っている。


監獄島で看守達が言っていた


食料が絶滅し、この国も危ういと。


だからこそ魔王の目的が分かった。


これは救出ではない。


魔王の帰還だ。


----


それから数週間後。


王都は祭りの熱気に包まれていた。


中央広場には数千人の兵士が整列している。


磨き上げられた鎧。


掲げられた王国旗。


歓声を送る民衆。


壇上には王子と王女。


王子は相変わらず美しかった。


陽光を受けて輝く金髪。


優しい微笑み。


誰もが信頼する英雄。


王子は兵士達を見渡しながら言う。


「西の大地には今も苦しむ人々がいる」


「我々は彼らを救う」


歓声が上がる。


王子は続ける。


「共に未来を築こう」


歓声はさらに大きくなる。


兵士達も誇らしげだった。


この遠征で功績を挙げれば王子に認められる。


そう信じている。


その隣で王女も微笑んでいた。


男は遥か遠く離れた屋根の上からそれを見ていた。


王女は幸せそうだった。


それが少しだけ胸を痛ませる。


やがて演説は終わる。


兵士達は港へ向かった。


祭りは夜まで続いた。


翌日も。


その翌日も。


巨大な船団が次々と出港していく。


騎兵隊もいた。


かつて男が育てた馬達もいる。


立派になっていた。


男は人混みの中から静かに見送った。


最後の日。


港に残ったのは貨物船だった。


荷台には家畜。


大量の物資。


農具。


種子。


遠征後の開拓を見据えた積荷である。


夜。


誰も気付かぬうちに。


ひとつの影が船底へと入り込んだ。


黒い外套。


鉄の仮面。


腰の剣。


男だった。


家畜達が小さく鼻を鳴らす。


何頭かはこちらを見た。


そして一頭の馬がゆっくり近付いてくる。


かつて世話をしていた騎兵隊の馬だった。


老いたが賢そうな瞳は変わらない。


男は鼻先を撫でた。


馬は嬉しそうに首を擦り付けてくる。


「久しぶりだな」


馬は小さく鳴いた。


船の鐘が鳴る。


ゆっくりと船が動き始める。


男は暗闇の中で海を見つめた。


西。


全てが始まり。


全てを失った場所。


そして。


魔王が向かった場所。


黒い海を進む船は静かに夜の闇へ消えていった。

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