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怪物勇者   作者: Toooji
11/57

第十章 賢者を探して


永遠の森は広かった。


どこまでも。


果てしなく。


大樹が空を覆い隠し、昼であっても森の中は薄暗い。


木々の根は大蛇のように地面を這い。


巨大な岩には苔が積もり。


鳥の声すら滅多に聞こえない。


男はそんな森の中を歩いていた。


目的は一つ。


エルフの賢者を探すこと。


魔王を倒すためだった。


男は既に理解している。


自分一人では足りない。


剣だけでは勝てない。


十二年前も。


そして数年前の礼拝堂でも。


あと一歩のところまで追い詰めながら敗北した。


原因は明白だった。


チャーム。


魔王最大の武器。


王女ですら奪われた。


国王も。


城の者たちも。


皆、心を操られた。


今後もし再び戦うなら。


まずあの力を破らなければならない。


そのために必要なのがエルフだった。


数千年を生きる長命種。


世界の理に通じる者たち。


精霊と語り。


魔法を操り。


高位の癒しや解呪を行うと言われる種族。


中でも賢者と呼ばれる者は。


呪いを祓い。


精神支配すら解除すると噂を聞いた。


もちろん噂でしかない。


男も確かな証拠を持っているわけではない。


それでも探す価値はあった。


今の自分に必要なのは希望だった。


----


だが問題があった。


誰もエルフの居場所を知らない。


人族との戦争があったのは遥か昔。


その後、彼らは人の世界から姿を消した。


人の及ばぬ場所で暮らしている。


そう語られているだけだった。


それでも噂は残っている。


病を治した。


飢えた村を救った。


怪物を退治した。


森で迷った子供を帰した。


そんな話が各地に存在する。


だから男は信じていた。


まだどこかにいると。


----


永遠の森へ入って数週間が経っていた。


男は大岩の隙間を拠点にしていた。


巨大な岩壁に囲まれた天然の洞窟。


雨風もしのげる。


近くには獣も少ない。


寝床としては十分だった。


もっとも。


最近になって少し困ったことが起きていた。


仮面の住人である。


初めて遭遇した時は警戒した。


魔王の手先かもしれない。


そう思った。


だが違った。


彼らはチャームに掛かっている様子がない。


瞳が正常だった。


会話こそ出来なかったが。


少なくとも敵意は感じない。


それどころか奇妙な行動を取るようになった。


数日に一度。


仮面の住人がやって来る。


そして大岩の前へ食料を置く。


木の実。


干し肉。


魚の燻製。


時には酒まで。


それだけ置くと。


膝をつき。


頭を下げる。


そのまま帰っていく。


毎回同じだった。


男は首を傾げる。


何かの儀式だろうか。


あるいは。


この岩そのものに意味があるのか。


彼らの聖地なのかもしれない。


いずれにせよ敵意はない。


今はそう判断していた。


----


朝。


男は荷物をまとめる。


探索へ出るためだった。


数日前。


北側で小さな小川を発見している。


澄んだ水。


魚もいた。


普通の川に見えた。


だが気になることがあった。


周辺に獣の足跡がほとんど無かったのだ。


まるで何かを避けているように。


男は考えた。


源流付近に何かあるかもしれない。


精霊。


エルフ。


あるいは。


賢者へ繋がる痕跡。


何でもよかった。


雲を掴むような探索が続いている。


それでも進むしかない。


立ち止まれば終わる。


男は外套を羽織る。


剣を背負う。


そして岩場から森へ足を踏み出した。


朝霧が立ち込めている。


小川のせせらぎだけが聞こえる。


男は流れに沿って歩き始めた。


どれほど進んだだろう。


太陽が真上へ来る頃。


男の足が止まる。


森が静かだった。


静か過ぎた。


鳥がいない。


虫も鳴かない。


風も止んでいる。


男は剣の柄に手を掛けた。


嫌な予感がする。


戦場で何度も感じた感覚だった。


その時。


遠くから悲鳴が聞こえた。


子供の声だった。


続いて。


地響き。


木々が揺れる。


何か巨大なものが動いている。


男の赤い瞳が細くなる。


悲鳴はさらに続く。


仮面の民の言葉だろうか。


意味は分からない。


だが。


助けを求める声であることだけは分かった。


男は駆け出した。


剣を抜きながら。


森の奥へ。


轟く咆哮の方角へ。


その先で待つ運命を知らぬまま。

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