ぼくたちは幼馴染
時間なんていうものを気にせず、ぼくと勇樹は喋っていた。しかも、いつものような勇樹から始まる会話ではなくて、ぼくの方からいきいきと語っていくものだ。
天界につくまで、着いてからの波瀾万丈。魂となってからの動き心地。大介の器を見つけた話。死んでからの発見や友人たち。
ぼくが語れば語るほど勇樹は瞳を輝かせ、ぼくの方も思い出を振り返っていくみたいで楽しかった。
「それでいっこ、びっくりしたのがあってさ。フロートっていって、魔法の絨毯みたいな布があるんだ」
「えー! それ乗ったのか?」
「乗ったよ! あと布だから、それを縫ったりすればベッドが浮くようにできて、浮かびながら寝れるんだよ」
「うわー……羨ましい!」
ずっとファンタジー物に憧れてきた彼だ。実際に体験できない悔しさは強大だろう。そういうぼくも、勇樹の影響でフィクションが好きになってしまって、早く伝えたいという気持ちは膨らんでいた。
話し込む中で、大介についての話題も出た。母親がどうにかしたはずの大介の体が、天界のヘブンバックにあったこと。勿論勇樹に心当たりも何もない。
「なんか、ゼルっていう天使が言うにはさ。ヘブンバックの器……まぁ死体たちは、地上から持って行ってるらしいんだよ。極力迷惑にならないものを選んで。大介のもそれで巻き込まれたのかなぁ」
「迷惑にならないって……警察とかも探してるのに、迷惑かかんないわけないだろ。そんな期待してないけどさ。体が本当に、ヘブンバックって奴に必要なのか?」
勇樹が言うことは、少なくともぼくには真っ直ぐな正論に聞こえた。たとえ天涯孤独だろうが、その身をさらっていいということではない。
ぼくが誇れるこの幼馴染は、そういう曲がったことには真面目に憤る。声色も怒った感じで、ぼくはまあまあと宥める。
「もう二度と会えない。眠った顔も見れないって思ってた大介に、変な形だけ会えたんだよ。良かったじゃん」
「んー……」
「それにさ、もし何十年も先に死んじゃった時、自分の体が焼かれてたり埋まってたりするの、嫌じゃない? ぼくは、誰かの役に立ってるんだなって考えられたら、死ぬこともなんだか受け入れられるよ」
「それはお前がもう死んでて、感覚をわかってるからだろ」
勇樹の突っ込みが響く。そうだったね、とぼくはおどけてみる。
「……ねえ、勇樹」
「ん? なんだ?」
肩に、無意識に力が入ったのがわかる。ぼくは一呼吸置いた。
「大介のこと……この見た目だけど中身は正太だって、本当に信じてくれてるの?」
「え、そりゃ信じてるよ」
「その、さ、実は隠れてるだけで天使がこの近くにいるよって言ったらどうする?」
「どうするって言われても。その言葉を信じるだけだよ。実際ここに連れてきてくれたら、そりゃすごく嬉しいけどな」
「そっか。ありがと」
「いいけどさ。この質問って意味あったか?」
彼が聞いてくる通りだ。どうしてこんなことを聞いたんだろう。答えはわかりきっている。
「……ちょっと真面目に話すね」
「あ、ああ」
「さっき医者が、ぼくが息を引き取ったって言ってたんでしょ? それって実は、車に轢かれた時からぼくは死んでて、ある天使が原因で死なないように回復させてたんだ」
「……」
そりゃ、こんな現実からぶっ飛んだことを一度に言われたって困るだろう。話をなんとか理解しようと黙り込んでいるのがわかる。
「そのせいで、ぼくはこれまで生死の判断がつかなかった。まだ生きているのかもと期待して、最終的には死んでいると現実を突きつけられて。でもさっき、いや、自分が死んでいると勘付いた頃から、覚悟を決めてたんだ」
なぜか、次の言葉が出ない。少し落ち着いて状況を確認しようとすると、勝手に自分の口が開き、軽い過呼吸のようになっていた。
怖い。こんなこと、言わなくていいなら、しなくていいなら絶対に言わない。でも、変わらなくてはいけないんだ。
「大丈夫だ。俺はなんでも受け止めるよ」
勇樹はにかっと笑ってくれる。うん、と頷いて息を吐く。
「ぼくはけじめをつける。この地上の世界とは、もうさよならだ」
お読みいただきありがとうございます。
そろそろ思いや行動を切り替える時期です。残念ではありますが、もう地上とはお別れです。次話は2人の別れがメインかと思います。




