↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/107

すれ違いの再会

 「……」



 背を向けている勇樹が、恐る恐るといった感じで体をこちらに捻った。ぼくの方も、久々の対面で力んでいる。



 互いに口をつぐんだままだ。



 だけど、振り返った勇樹の口は、ぼくを見た瞬間に開いた。なにか言葉を発するわけではなく、しきりに息を交換している。



 公園の入り口とベンチという、遠い距離間でも息遣いが聞こえる。辺りの静けさのせいかもしれないが。



「え……」



 喉の底から絞り出したような、掠れた声がした。水面を指先でとん、と突くくらい、瞬時のことだったけど。色んな感情が渦巻いているのがわかった。



 勇樹はぼくからみても、明確に動揺している。吐く意識をしながら深呼吸をして、爪が食い込むほどに拳を握っている。



 そんな勇樹は、やっとの思いで次の言葉を口に出した。



「ど、どうして……」



 声とも言えないかもしれない。空気がかすれるような音だったけど、ぼくは聞き取れた。



 どうして。どうしてこんなところにいるのか。そんな風な問いだろう。勇樹を安心させるように、優しくぼくが言おうとしかけた時。



「どうして……ここに……」


「勇樹。それは――」


「どうしてここに……大介が?」


「だいすけ……?」



 はっきりと、ぼくに向けて呼ばれた名前だった。



 ぼくの名前は、大介ではない。だけれど、その名前を聞いたことがないわけではなかった。かなり前にうっすらと聞いた覚えがある。というより、その名前の()()()()()していた。



「大介って……勇樹の弟じゃ?」



 あっちの態度とは真逆の、間の抜けた対応をぼくはした。しかしそんなものには構わず、勇樹はぼくの胸ぐらを掴んで揺さぶってきた。



「おい! 本当に大介なのか!? 生きてたのか!?」


「ちょ、ちょっと待って! ぼくは大介じゃない! 一回落ち着いてよ」



 自分でも珍しいと思う大声で、勇樹を止めようとする。ぼくの叫びを聞いて一歩二歩退いた彼は、驚きながらも落胆した様子だった。



「え、でも見た目は……でもそっか……」



 はぁー、と息を吐いて、若干体を曲げた。残念そうなのが痛いくらいに伝わってくる。



 勇樹がぼくのことを大介と間違えた訳には、今見当がついた。多分、ぼくの入っている器のせいだろう。



 今のぼくの体というのは、魂を死体に入り込ませ、その体を動かしているというもの。ヘブンバックで見つけた今の器。どこか見覚えがあると思っていたのだが、どうやら大介の体だったらしい。



 でも、それがわかった今。勇樹に会えたからと言って、嬉しさの感情が一切湧いてこなかった。何故か。これでもう、勇気の弟の、大介の死が確定してしまったからだ。



 過去、ぼくと勇樹が知り合って少し経った頃。着実に仲を深めていたという時に、事件は起こった。大介が謎の失踪をしたのだ。



 大介のことは時折聞かされていて、学校の中で低学年として見かけることもあった。いつか、面と向かってしっかり話してみたいところだった。



 学校生活も上りの軌道に乗ってきたという時に、大介は消えてしまった。その真相は、世間的には迷宮入りとなっている。世間的には、という言い回しをするのは、ぼくたちのような一部の人間はとある仮説を立てていたからだ。



 ぼくはふと思い出して、勇樹の袖から見え隠れする足を見る。



 色味は薄いけど、あざが見える。以前見た場所と同じ位置にあったので、あざが治ってきているのだと安心した。でも、永遠に消えないであろう跡が残っているはずの肩近くの腕には、あまり目を当てられなかった。



「勇樹。お母さんは……」


「黙ってくれっ!」


「……」


「大介じゃないんだろ? お前は。じゃあその姿で喋るんじゃねぇよ……誰なんだよ」



 ぼくは。とても、言いづらかった。教えていいのだろうか。ただ、躊躇ってまごまごしているのが嫌いだと勇樹は言っていた。



「ぼくは、君の幼馴染の真宮(まみや)正太(しょうた)だよ」



 口に出してしまえば、なんてことなかった。きっと、自信たっぷりに自分を名乗れる。勇樹の幼馴染を名乗れる。



「正太……?」

お読みいただきありがとうございます。

アークの人間時代の本名。隠してた理由は特段ないのですが...勇樹に会えた時に初めて明かされたっていうのは、なんだかいいですよね。あと、アークの器について、伏線地味にあったんですよね。微妙にですが、わかってくれる方いましたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。