すれ違いの再会
「……」
背を向けている勇樹が、恐る恐るといった感じで体をこちらに捻った。ぼくの方も、久々の対面で力んでいる。
互いに口をつぐんだままだ。
だけど、振り返った勇樹の口は、ぼくを見た瞬間に開いた。なにか言葉を発するわけではなく、しきりに息を交換している。
公園の入り口とベンチという、遠い距離間でも息遣いが聞こえる。辺りの静けさのせいかもしれないが。
「え……」
喉の底から絞り出したような、掠れた声がした。水面を指先でとん、と突くくらい、瞬時のことだったけど。色んな感情が渦巻いているのがわかった。
勇樹はぼくからみても、明確に動揺している。吐く意識をしながら深呼吸をして、爪が食い込むほどに拳を握っている。
そんな勇樹は、やっとの思いで次の言葉を口に出した。
「ど、どうして……」
声とも言えないかもしれない。空気がかすれるような音だったけど、ぼくは聞き取れた。
どうして。どうしてこんなところにいるのか。そんな風な問いだろう。勇樹を安心させるように、優しくぼくが言おうとしかけた時。
「どうして……ここに……」
「勇樹。それは――」
「どうしてここに……大介が?」
「だいすけ……?」
はっきりと、ぼくに向けて呼ばれた名前だった。
ぼくの名前は、大介ではない。だけれど、その名前を聞いたことがないわけではなかった。かなり前にうっすらと聞いた覚えがある。というより、その名前の記憶を封印していた。
「大介って……勇樹の弟じゃ?」
あっちの態度とは真逆の、間の抜けた対応をぼくはした。しかしそんなものには構わず、勇樹はぼくの胸ぐらを掴んで揺さぶってきた。
「おい! 本当に大介なのか!? 生きてたのか!?」
「ちょ、ちょっと待って! ぼくは大介じゃない! 一回落ち着いてよ」
自分でも珍しいと思う大声で、勇樹を止めようとする。ぼくの叫びを聞いて一歩二歩退いた彼は、驚きながらも落胆した様子だった。
「え、でも見た目は……でもそっか……」
はぁー、と息を吐いて、若干体を曲げた。残念そうなのが痛いくらいに伝わってくる。
勇樹がぼくのことを大介と間違えた訳には、今見当がついた。多分、ぼくの入っている器のせいだろう。
今のぼくの体というのは、魂を死体に入り込ませ、その体を動かしているというもの。ヘブンバックで見つけた今の器。どこか見覚えがあると思っていたのだが、どうやら大介の体だったらしい。
でも、それがわかった今。勇樹に会えたからと言って、嬉しさの感情が一切湧いてこなかった。何故か。これでもう、勇気の弟の、大介の死が確定してしまったからだ。
過去、ぼくと勇樹が知り合って少し経った頃。着実に仲を深めていたという時に、事件は起こった。大介が謎の失踪をしたのだ。
大介のことは時折聞かされていて、学校の中で低学年として見かけることもあった。いつか、面と向かってしっかり話してみたいところだった。
学校生活も上りの軌道に乗ってきたという時に、大介は消えてしまった。その真相は、世間的には迷宮入りとなっている。世間的には、という言い回しをするのは、ぼくたちのような一部の人間はとある仮説を立てていたからだ。
ぼくはふと思い出して、勇樹の袖から見え隠れする足を見る。
色味は薄いけど、あざが見える。以前見た場所と同じ位置にあったので、あざが治ってきているのだと安心した。でも、永遠に消えないであろう跡が残っているはずの肩近くの腕には、あまり目を当てられなかった。
「勇樹。お母さんは……」
「黙ってくれっ!」
「……」
「大介じゃないんだろ? お前は。じゃあその姿で喋るんじゃねぇよ……誰なんだよ」
ぼくは。とても、言いづらかった。教えていいのだろうか。ただ、躊躇ってまごまごしているのが嫌いだと勇樹は言っていた。
「ぼくは、君の幼馴染の真宮正太だよ」
口に出してしまえば、なんてことなかった。きっと、自信たっぷりに自分を名乗れる。勇樹の幼馴染を名乗れる。
「正太……?」
お読みいただきありがとうございます。
アークの人間時代の本名。隠してた理由は特段ないのですが...勇樹に会えた時に初めて明かされたっていうのは、なんだかいいですよね。あと、アークの器について、伏線地味にあったんですよね。微妙にですが、わかってくれる方いましたら嬉しいです。




