76話 戦闘後の穏やかなひと時
気がつくと、時刻はもう日が落ちる頃だった。
私の隣ではココノハとクルルが腕を枕にして眠っている。二人ともとても満ち足りた表情を浮かべていて、幸せそうだった。
「ああ……そうか……」
早朝からシン国の軍勢二百人を相手に一方的だったとはいえ戦闘を行なったのだ。
兵たちを全滅させた後、敵の指揮官を捕らえて連れて来たのだった。
おそらくまだ木に縛られて繋がれているだろう。
男が目を覚ますまで、朝食の用意でもしようかと思ったところでココノハとクルルの二人に襲われたのだ。
『ご褒美』が欲しいと言われて、それに対して出来ることなら何でも良いなどと言ってしまったのが悪かった。
その言葉に目を輝かせた二人は普段よりも貪欲に私を求め、先ほどまでずっと食い散らかされ、搾り取られていた。
「普通の人間だと死んでいるぞ……」
あまりの激しさにため息しか出なかった。
二人とも貪るだけ貪ってから満足して眠ってしまったので、結局朝から何も食べていないことになる。
二人を起こさないように腕を抜き取る。起きたらすぐに食べられるように準備しておこうと、食事の用意をすることにした。
「そういえばあの男に聞きたいことがあったが……。まぁ、後で良いか」
後で殺すつもりのむさ苦しい髭面の男と愛らしい寝顔を見せてくれる二人を比べたら天秤がどちらに傾くかなど分かりきったことだった。
調理器具と食材を袋の中から取り出して机の上に置いていく。時間と空間を弄ったこの袋は欠かすことの出来ないほど便利な品だ。
私は製作者なので当然持っているが、他にはリア、シィナ、クルルもそれぞれ一つ持っている。近いうちにココノハとユキユキの分も作っておくとしよう。
そんなことを考えながら火を点けるのだった。
もうすぐ料理が完成する頃に、匂いにつられて二人が起きてきた。
朝から何も食べずにあれだけ動いたのだ、さぞ空腹だろう。
「おふぁよう……ございます」
「おはようございます主」
クルルはしっかりと目を覚ましているが、ココノハはまだ眠いようだ。欠伸をしながらの言葉に苦笑する。
「もう夜だぞ。誰かさんたちのせいでな」
「申し訳ありません…にゃ。でも、すっごく……良かったです…にゃ」
クルルは鍋の前に立つ私の背後に抱きつき鼻を寄せる。声に艶があるのできっと頬が紅潮しているだろう。
「ごめんなさーい。いやー流石にやり過ぎたかなって思ったんですけど、どうしても自分を抑えられなかったんですよ。どうですか? 今夜、もう一回」
ココノハは椅子に座って笑みを浮かべる。あまり悪びれた様子はない。それにしてもあれだけやってまだ足りないのだろうか……。底なし過ぎて少しだけ恐ろしくなってくる。
「お前は底なしか」
私がそう言うと、手を横に振りながら否定する。
「いやいや。もうわたしは充分満足しましたし割と限界です。でもわたしたちばかりが好き勝手にやってしまったので、お返しにホシミさんもどうかなーって思っただけですよー?」
「私も充分だ。だがまぁ、考えておく」
「分かりました。いつでも良いですからねー」
折角の好意だ、貰っておいても良いだろう。ココノハの言葉にクルルも抱きしめを強くしてきたので、クルルも了承らしい。
そんなことを話していると、そろそろ料理が完成するので人数分の皿に取り分けるのだった。
食事を並べて、三人で食べ始める。
今回は鮭のムニエルにカリフラワーソテー、ミネストローネである。教えてもらったレシピ通りに作ったのでプロには劣るものの美味しく、変な味になってはいなかった。
関係ないが、レシピに忠実に料理を作れるというのは、ある種の技能だと思う。
何故かレシピから逸脱して独自に手を加えるようなことをしでかす人には、絶対に料理をさせてはいけない。そういう輩はまず味見をしないし、美味しくなると思ったなどと頭のネジが外れたようなことを言うのだ。
……まあ昔のヴァンのことだが。
過去にそんな地獄を経験したことで自身の調理技術が上がったことは、今となっては喜ぶべきことだった。
ココノハとクルルは美味しそうに食べてくれる。作り手としてこれ以上に嬉しいことはないだろう。
空腹も相まってお代わりを要求しそれも含めて綺麗に平らげた。
「あー……美味しかったです……。幸せ……」
食器の片付けをしている私の背後でココノハが机に突っ伏していた。
クルルは片付けまで私にやらせてしまっていることに申し訳なさを感じているようだが、代わりに明日は任せると伝えると嬉しそうに頷いて尻尾を揺らすのだった。
食事を終えて、ココノハとクルルはお風呂に浸かりに行った。食事と並行して風呂の用意もしていたのだ。
流石に汚れすぎていたので本来ならば食事前に入らせてやりたかったのだが空腹には勝てなかった。その為風呂が後になってしまっている。
その間、私は捕らえた敵の指揮官から話でも聞いておこうと思った。
集落の外れの大木に縛られている男は、足音に気付くと顔を上げる。
時間が経ち過ぎていたので流石に起きていたようだ。猿轡を外して話せるようにする。
「随分と放置するんだな……で、俺をどうするつもりだ」
「少し聞きたいことがあったのでな。ああそうだ。虚偽、黙秘をするのならその都度身体の一部が無くなると思え。身体が無くなっても良いというのなら止めはせんが」
事務的な私の口調に男の瞳に僅かに怯えが宿る。目の前で部下を皆殺しにされたのだ。私が冗談で言っているとは思っていないだろう。
「ハッ……。どうせ聞き出した後に俺を殺すつもりだろうが……。なら言うことはねえよ、殺すなら早く殺せ」
だが男は自分の先も理解していた。どうせ死ぬのなら、何も言うことはないと突っぱねる。
そしてそのまま口を開くことはなかった。
「ふむ……。まあ、良い。朝にまた来る。期待しているが良い」
私がそう言うと物凄い勢いで睨み付けられた。まるで、何に期待しろって言うんだと言わんばかりだった。
私は男の場所を後にする。
あの男、そのまま此処で殺すつもりだったが……。起爆剤として利用してやるのも悪くない。
非道なことは自覚している。だから、これから先のことは私一人でやる。二人は明日塔に帰すとしよう。この先に巻き込むのは私の本意ではないし、何より……ついてきたとしても良い結果にはならないだろうから。
風邪を引きました。まだ頭が痛いですがなんとか出来たので投稿です。寒暖差が大きいので体調にはお気を付けを。




