70話 予想外すぎる解決策
「それは、冗談じゃ……ないのよね。今までホシミちゃんがそんなつまらない冗談を言ったことないものね」
「はい、主が鏡で様子を見た時には、既に国を出立していました…にゃ。あと四、五日でこの集落がある森まで到着する筈ですにゃ」
アリエスティアの言葉にクルルが答える。
しばらく難しい表情で考え込んでいたが、やがて両手を挙げてため息を吐いた。
「無理ね。今この森の中に戦える戦士は存在しないわ。偵察隊の娘だってようやく姿は隠せるようになったばかりなのよ? 此処まで来たあなたたちなら分かると思うけど、隠形が全然なってなかったでしょう?」
頬に手を当てながら話すアリエスティアの言葉に私たちは頷いた。
思い返してみれば、姿は見えなかったが気配は全然隠れていなかった。なるほど、あれはわざとでは無く、彼女たちの実力が足りていなかったからなのだ。
偵察隊でああなのだ。もうこの集落には戦える人材が残っていないというのは本当なのだろう。
「これは想定外だな……。本来なら森精種の戦士たちと共にシン国の兵を追い返すつもりだったのだが、まさか根底から考え直さなければならないとは」
どうしようもない現状に流石に頭を抱えたくなるが、フューリとの約束もある。まだ打てる手は無いかと思考を回していると…。
「あ、そうだ。ねえホシミさん」
ココノハが手を叩いて私の服の裾を引っ張った。全員の視線がココノハに向かう中、これまた予想外のことを言い出した。
「この集落の森精種たちも塔で保護しちゃえばいいんじゃないですか? 今更二人も二十数人も変わりませんよ」
「……なに?」
停止する思考を無理矢理動かして、何とかその言葉だけを発する。
どう考えても二人と二十数人では全然違う。部屋は広いものの部屋数の少ないあの塔では彼女たちのプライバシーなど無くなってしまうだろう。それにいくら危機が迫っているとはいえ急に現れた者の言葉で納得して着いてくる筈がない。
そう思っていたのだが。
「それにゃ! みーんな主のものにしちゃえばいいんですにゃ!」
クルルはそう言って興奮した様子で立ち上がった。
急に立ち上がったクルルに少し驚いたアリエスティアは、ココノハの言葉を少し考え込んだ。
「それ、良いかもしれない。ホシミちゃんなら人格は問題無いし、安全は保証してくれる。しかも純森精種を娶ってる不老不死! 純森精種と婚姻を結んだ男性ならあの娘たちも喜んでホシミちゃんに着いていくわ! ……うん。うん、イケる、これなら全部の問題が一気に片付くわね。よし、クルルちゃん、善は急げって言うし、みんなへの説明に同行してくれないかな?」
「分かりましたにゃ。ふふっ、主、可愛い娘がいっぱい増えて良かったですにゃ?」
アリエスティアもココノハの提案に利点を見いだしたようで次々と考えを纏め上げる。
そしてそのままクルルを連れて集落の森精種たちに説明をしに行ってしまったのだった。
「……」
何も意見を言う間も無くトントン拍子で進む事態に、もはや言葉は出なかった。
「えへー。いい案ですよね? 森精種たちは守れるし、リアさんの目指すホシミさんのハーレムにも一気に前進しますし、ホシミさんも可愛い森精種たちを侍らせられますし。一石三鳥ですねっ! あっ、この集落には男性がいなかったですけど、ホシミさんがいれば森精種族の繁栄の為の子どももいっぱい作れますね! 一石四鳥ですよっ!」
だから満面の笑みでそう言ってくるココノハに対して何も言うことが出来ず、気まぐれな猫のように頭をすり寄せてくる彼女を撫でて思考を放棄することしか出来なかった。
この集落の中心人物で純森精種であるアリエスティアの言うことならば、ここの森精種たちは言うことを聞くのだろう。
それだけ純森精種という存在は絶対視されているし、何より苦難を共に過ごして信頼を得ているのだ。反対を表明する者はフューリのような特別な事情が無ければあるまい。
しばらくしてから戻ってきたアリエスティアとクルルによって、全員が納得して着いていくことが伝えられ、この森の森精種は全て私の庇護下に入ることになったのだった。
……はぁ。
ーーーーーー
side:クルル
アリエスティアに着いていった私は、話をしやすいように集落に存在する森精種の娘たちを一つの所に集めた。
先ほどは結構無理矢理気味に決まってしまったので主が少し呆然としていた。悪いことをしてしまったかな? とは思うものの、私の主は此処に居る全ての森精種を愛することの出来る器であると信じている。
それに、女の子にはどこか甘い主のこと。もし反対されても押せば折れてくれるだろうとは思っていた。
「よーしみんな集まったわねー?」
アリエスティアの声が響く。再びの招集に何があったのだろうかと話し合う声が聞こえるが、アリエスティアはそれを気にせずに言葉を続けた。
「私の古い友人から齎された、良いお話と悪いお話があります。先ずは悪いお話からね。シン国がこの集落に向けて軍を動かしました、到着予定は四、五日後です」
森精種たちが一気にざわめく。シン国の悪評はこんな人里離れた集落にも轟き渡っていることに驚くと同時に、それだけのことをやってきている証であるとも思える。
彼女たちが只人であるならばそこまで害はなかっただろうが、残念ながらそうではない。もし捕まれば、良くて奴隷。悪ければ散々弄ばれた挙句殺されることになる。
戦える者が居ないせいもあるのだろう、一同が暗い表情をしていた。
が、アリエスティアはすかさず次の言葉を発する。
「でも大丈夫です! 私たちはシン国の奴らに捕まることはありません! 今日此処に来てくれた私の古い友人が、みんな纏めて面倒見てくれるって言ってくれました!」
この言葉で場の暗い雰囲気が少し吹き飛んだ。だが、希望で表情が明るくなった者が半分、疑ってかかっている者が半分といったところだろうか。
「その人の名前はホシミ。みんなも見たと思うけど、あの男の人よー。私の隣にいるこの娘や、肩車されてた小さな純森精種もお嫁さんにしているくらい頼もしい人なのです! しかも、ホシミちゃんの家にはまだまだお嫁さんが居て、その全員を一人で養ってて、みーんなを愛しているの! その中にはもちろん森精種もいるし、最近では子どもも産まれて、幸せいっぱいな所なんだって! そんな訳でクルルちゃん! 大切な主様のアピールをどうぞ!」
「えっ、ここで振りますか…にゃ?」
アリエスティアに私たちの近況を話していたのでこちらの様子を森精種たちに説明するのは理解出来たが、まさかこんなところで話を振られるとは思っていなかった。
純森精種を嫁に迎えて、かつ同族である森精種にも愛されていると聞いた彼女たちの表情には先ほどのような暗さは残っていなかった。
しかもこの集落には男性がいなかったのも大きいのだろう。自身の最愛の主への興味深々な眼差しを向けられて、ここは主の長年の従者としてしっかりとアピールして彼の良さを知ってもらいたいと思った。
「えーっと……。初めましてです…にゃ。私はクルクル。主からはクルルという愛称で呼ばれてます…にゃ」
愛称で呼ばれていると言ったところで黄色い悲鳴が聞こえてきた。少し恥ずかしい。
「主とは、これでも千年以上の付き合いがあります…にゃ。皆さんにまず知ってもらいたいのは、私の主は不老不死である……ということです…にゃ。長命のあなたたちよりもずっと、ずっと……。親しい友や愛する人が死しても一人で生き続けなければいけない呪いを背負っております…にゃ。私はそんな主に、私と出会えて良かったって……。幸せだったって……。そう言ってもらいたい。その為に全てを主へと捧げました…にゃ。私以外の他の娘たちも、みんな同じ気持ちです……にゃ」
私の告白に聴衆はだんだんと声を潜め、いつの間にか聴き入っていた。
中には薄っすらと涙ぐんでいる娘も見える。
「優しい主のことですから、皆さんのことを無碍にすることは絶対にありません……そこは信用して頂いて大丈夫です…にゃ。それでもし、あなたたちが主のことを気に入って頂けたのなら……私たちには到底理解出来ないことで一人で苦しんでいるあの人にいっぱい愛情を与えてあげてほしいです…にゃ。終わります」
そう言って頭を下げる。少し柄でもないことを言ってしまっただろうか。
私が主のハーレムを推す理由はリアとは少し違う。あの人はいつも、私たちには見えない何かに苦しんでいる。
それは何なのかは分からない。終わりの無い生なのか、死に別れた過去の友人や愛人を想っているのか。はたまたまったく別の……例えば、主が不老不死となった原因についてなのか。
私はそれを少しでも癒してあげたい。だから最大限の愛情を主に注ぐのだ。
でも、私一人では足りないのではないか。と思ったことがある。実際、エレノアと共に主に愛情を注いでいた時は以前ほど苦しそうにすることはなかったのだ。
だから私は、主を愛する人を集めて主の為のハーレムを作る。いつか愛した人と死に別れることになろうとも、悲しみをいっぱいの愛情で上塗りしていけたらと。
そんな私の想いが伝わったのかどうかは分からない。
おそらく、伝わることはないだろうとも思う。
静かだった空間はやがてまばらに拍手がなり、いつの間にか私に向けて大きな拍手を送られていた。
「あーもー! 妬けちゃうくらい愛しているのね! ホシミちゃんも罪作りな男の子だなあ!」
どうでも良いが、アリエスティアは主よりほんの数年だけ年上である。
それだけでこんなにお姉さん面しているのだから、このエロい身体のお姉さんは単純なのだろうなぁと思った。
「そんな訳で私たちはホシミちゃんのところにお世話になります! 異論のある人はいるかしら!?」
アリエスティアの言葉に、異議なしや賛成といった声が飛んでくる。
森精種の娘たちからは、どんな人なんだろう? とか、あの可愛い純森精種もあの人にメロメロなんだって! といった声が聞こえてくる。
なんとか彼女たちの心象を良くすることが出来たのだろう。とにかく悪くはなっていない筈だ。これで主の評価を下げてしまったら従者としてお側に居られなくなってしまう。……まあ主のことだから私が居なくなると間違いなく悲しむので冗談でもそんなことは出来ないけれど。
「お疲れさまークルルちゃん。結構無茶振りだったけど、凄いわねー。やっぱり愛かしら?」
「うるさいにゃ。無茶振りだって分かってたならそもそも振るな…にゃ。あと明日には転移するから今日中に荷物を纏めるように言っておくのを忘れちゃダメですよ…にゃ」
「分かってる分かってるー。ささっ、ホシミちゃんたちのところに戻りましょうかー!」
アリエスティアと共に主の待つ家に戻ると、猫のようにじゃれつくココノハとその相手をする主が居て。
羨ましくて私も混ぜてもらったのは別のお話。
ホシミさんの心労増えそ(´・ω・`)




