33話 Seaside Vacation 後編
side:ココノハ
「さてと、ホシミさんは日陰でぼんやりとしていますし、わたしはどうしましょうかね」
しばらくは海水を掛け合ってはしゃいでいた三人だったが、シィナは少し遠くまで泳ぎに行き、リアは比較的浅いところで浮き輪でぷかぷかと浮いている。
「後で怒られること前提にするならばやれることは色々あるんですけど……ん?」
ココノハは波打ち際に座り押し寄せる波を浴びながら今後の行動について考えていた。
そんな時、沖から流れて来た瓶が目についた。中に何か入っているようだ。
「あれ、なんでしょう……」
気になって拾い上げる。中には手紙らしきものと小さな鍵が入れられていた。
瓶の蓋を外して手紙を取り出し読んでみる。
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はずれ
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「馬鹿じゃないんですか!!!??」
つい叫んでしまった。いくらなんでもしょうもなさすぎるだろうこれは。破り捨てようかと考えたとき、二枚の紙が糊付けされて重なっていることに気付いた。
なるほど、一枚目の手紙は文字通りの意味ではずれだと。紛らわしすぎる!!
気を取り直して紙を慎重に剥がし二枚目の手紙を読む。
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貴方がこの手紙を読んでいる時、私は既に
死亡していることだろう。
この瓶の中にはかつての私の宝物が入った
宝箱の鍵が入れてある。
宝物といっても、財宝の類ではない。
私が海賊になる前に出会った娘から
無理を言って貰ったただの首飾りだ。
どうかこれを私の故郷に届けて欲しい。
急で一方的な願いなのは承知している。
しかし恥を忍んで頼みたい。
私が生涯彼女を愛した証なのだ。
首飾りの入った宝箱を隠したのは、とある
南国の入り江にある洞窟の中だ。
センタレアル大陸の南には龍人の暮らす
国があるというが、そこに近いと思う。
見ず知らずの貴方よ、どうか私の願いを
叶えてくれ……。
海賊・サンソン
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「手紙に書いてある場所ってもしかしてここ……?」
近くに龍人の国がある南の入り江。条件としてはバッチリだろう。
「センタレアル大陸って言うんですねここ。ただ大陸としか呼んでませんでしたから名前が付いているとは思いませんでした。しかし……サンソン? とかいう人の故郷って何処ですか?」
そう、問題はサンソンの故郷に関する記述がないのだ。種族が分かればまだある程度見当もつくが、それすらもない。
「まあ、名の馳せた海賊なら調べれば見つかるでしょう。折角ですしわたしは宝探しでもしましょうかね!」
そう言って立ち上がり周囲を見渡した。
まずは入り江の洞窟とやらを見つけ出さなければいけない。コテージから反対側の方は岩が多いから、あるとしたらあちらだろうか。
「〜〜〜♪」
鼻歌を歌いながら怪しいと思われる箇所を見て回る。すると、海に面した所に横穴のようなものを見つけた。
「うわあ。本当にありましたよ」
中を覗き込む。中には光る苔が群生しており、なんとか奥へ進むことが出来そうだった。
一応罠に警戒しながら中へ入る。
穴は奥に行くにつれてだんだん狭くなっているようだ。
「滑って転んで頭とか打って気絶したら満ち潮で溺れて死ねますねこれは……」
足首が浸かる程度の海水に足を浸しながら小さな身体を活かしてすいすいと進む。すると、奥に魔術で中が密閉された特注品の宝箱があるのを発見した。
「あ、ありました。しかもこれ、昔からある特注のすっごいお高いやつじゃないですか」
宝箱のあまりの貴重さに驚くが、すぐに気を取り直して鍵を差し込む。
右にゆっくりと回すと、カチリという音がして鍵が外れたのが分かった。
蓋を開けて中を覗くと、女性用と思しき小さな首飾りがあった。星形の中にハートが入っている、可愛らしいものだ。
「これが、貴方のお宝だったんですね」
亡き海賊に向けて言葉をかける。
しばらくじっと首飾りを眺めていたココノハだったが、一つ頷いて手に取った。
「海賊さん、お宝はわたしが頂いていきます。貴方の故郷が見つかったら、その時はきちんと返しに行きますよ」
首飾りが無くなって空になった宝箱に、瓶に入っていた手紙と鍵を入れてからその場を後にするのだった。
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「ホシミさーん」
「どうした? ココノハ」
先ほどから姿が見えないと思っていたが、どうやら奥へと行っていたようだ。無事だと分かり一安心する。
しかし何かあったのだろうか。それにさっきは首飾りなんて付けていなかったと思うが……。
「その首飾りはどうしたんだ?」
「あ、これですか? 海賊さんのお宝だそうです。ホシミさんはサンソンって名前の海賊さんに心当たりはありますか?」
「いや、無いな。昔はそれなりに居たが……。海賊というのは良くも悪くも悪名しか残らんものだ。もしかしたらそういう人物が居たのかもしれんが、私が記録しているのは歴史でな。偉業や悪行のような何かを成した人間しか覚えていないのだ」
ただの一個人など、何かを成した人物でない限りよっぽどその人間に近しい人物でもないと覚えていることはないだろう。
ただ生まれて、懸命に生きて、そして老いて死んで行く。そんなごく普通の人間の名は世界の記録には残らないのだ。逆に英雄や皇帝、世界を震撼させた殺人者や大きな大戦での功労者などは記録に残りやすい。
「そうですかぁ。ちょっと残念な気もしますがそんなものなんでしょうね。幸い時間だけはありますし、のんびり探してみようと思います」
「力になれなくて済まないな」
「いえいえ。最初から駄目元でしたからお気になさらないでください」
そう言って私の隣に座った。ところどころ濡れていたので乾いたタオルを渡してやると、受け取って身体を拭き始める。
「ねえホシミさん」
「何だ?」
「……いえ、何でもありません」
ココノハに目を向けると、遠くを眺めて考え事をしているようだった。
「そうか」
彼女なら聞いて欲しくなったら自分から言うだろう。それに敢えて聞き出すようなことでもなさそうだ。
しばらく隣り合って座っていたが、ココノハが私の肩に頭を預けてくる。
「ココノハ?」
「すぅ……すぅ……」
ココノハは穏やかな寝息を立てて眠ってしまっていた。朝早くに起きて、ずっとはしゃいでいたから疲れてしまったのだろう。
「少しだけこのまま寝かせてやるか」
シィナとリアが戻ってくるまでそのままでいるのだった。
少し経って。
浮き輪で浮かんでいたリアが戻ってきた。手に何かを持っている。
「ホシミ様! ナマコを見つけましたわ!」
「……あ、あぁ」
何故持ってきたのだろう? しかも鷲掴みで。疑問だったが、とても楽しそうな様子を見て問うのはやめておいた。
「あら? ココノハちゃんいつの間に……って眠っていますのね」
「何やら一人で冒険してきたらしい。あとはまぁ、はしゃぎ疲れたのだろうな」
リアはココノハの正面にしゃがみこみ寝顔を眺めて微笑んだ。
「本当に愛らしいですわね。まるで精巧に作られたお人形さんみたいですわ」
「リアがそれを言うのか。昔の君の方が容姿と状態も相まって人形らしかったぞ」
「わたくしは憶えていませんわ〜」
そう言いながらココノハとは反対側に座りもたれ掛かってくる。腕が胸に挟まれて……とても柔らかい。
「何故腕を挟むんだ?」
「わたくしがこうして差し上げたいと思ったからですわ。あ、もしかしてこちらの方がよろしかったですの?」
リアは私の腕を取って自身の肩に回しそのまま胸を掴ませる。
「ぁんっ!」
「……」
この娘は何をやっているのだろう。頬を赤らめて誘うようにチラチラと見てくる。そのまま私の手を無理矢理動かして胸を揉み始めた。
「あっ……んっ……ホシミ様ぁ……もっと、わたくしを堪能してくださいまし……」
艶かしい声をあげるリア。ココノハが隣で眠っているのだ、流石に注意しようと思ったとき、リアに向けて何かが飛んできた。
「きゃいんっ!」
見事頭に命中した物体はナマコだった。
飛んできた方向を見ると、遠泳から戻ってきたシィナが向かってきていた。怒り半分呆れ半分といった様子だ。
「こんな明るいうちから外で盛るな馬鹿リアっ!!」
「盛ってませんわ! 欲求に素直になっているだけですの!」
「それを盛ってるって言うんでしょうが! ていうかリアは焦り過ぎだっていつも言ってるじゃないの! 行き遅れた年増じゃあるまいし、もっと余裕持ちなさいよ!」
「それは年増の方に失礼ではありませんの!? そも、龍人が只人や獣人のようにポンポン子どもを産めるならこんなに焦っていませんわよ! お父上の年齢とわたくしの年齢を考えれば子が産まれにくいのは理解しておりました。だからこそ早いうちから対策をしておくべきなのですわ!」
「だから時と場所を考えなさいよ!? リアが子ども欲しいってのは知ってるし邪魔する気も無いけどココノハだっているじゃない!!」
二人の言い合いはある種日常茶飯事なのでまあ良いのだが。その肝心のココノハは眠っているのだ。
「二人とも、ココノハが寝ているからもう少し静かに頼む」
「「……」」
私の言葉にこくこくと頷くシィナとリアだった。そのまま小声で何か言い合っているが私には聞き取れない。
当のココノハは、騒ぎなど無かったようにどこか幸せそうな表情をしたまま眠っているのだった。
日が暮れて、私たちはコテージに戻った。
夕食の準備をするために炭に火を付ける。今日の夕飯は新鮮な肉と野菜を串に刺して網焼きにするものだ。
串に刺す作業はココノハとリアがやってくれている。私とシィナは火付けと火力の調整を行っていた。
「外で食べるのって開放的でいいわよね。なんかいつもより美味しく感じられる気がするの」
魔術で火力を調節していたシィナは楽しそうに微笑む。
「そうだな。家族や仲間……親しい誰かとの食事はそれだけで楽しくなるし美味しく感じられるものだ」
「ふぅん……。そんなものかしら」
「そんなものさ。だが、そんな単純なものが何より尊かったりする」
火力の調節が終わり、網を敷く。
丁度良くココノハたちの方も終わったようだ。皿に乗せて持ってきてくれた。
「お待たせしました。さあじゃんじゃん焼いちゃいましょう!!!」
「焼き上がった串を持つときは火傷に気をつけるんだぞ」
「大丈夫ですよ子どもじゃないんですから」
網の上にどんどん串を乗せていく。
じゅう、と音を立てながら炙られて食欲をそそる香りが漂い始めた。
「ホシミ様、お飲み物ですわ」
「ありがとうリア」
手渡されたカップの中はお酒のようだ。見ればシィナとココノハも手に持っている。
「飲むのはいいが、また二日酔いは勘弁してくれよ」
「だ、大丈夫よ! ……たぶん」
「わたしは今回はほんと、控え目にします。二日酔いは冗談抜きでキツかったので……」
ココノハはげんなりした表情をしている。よほど堪えたのだろう。シィナは……私が注意して見ててやろう。酒は好きな癖にそこまで強くないのだから。
「では、そろそろ焼き上がる頃ですし乾杯致しましょう?」
串の様子を見てくれていたリアがカップを持ち上げる。それに合わせて私たちも持ち上げた。
「では、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
口を付けて一気に飲み干す。本来ならばやらない方が良いのだが、今日はなんとなく気分が乗った。
「焼けたようだぞ。熱いから気をつけてな」
各々串焼きを手に取って口に運ぶ。
食材が新鮮なことと、開放感のある外での食事はとても美味しかった。
酒を飲みながら他愛もないことで笑いあって料理に舌鼓を打つのであった。
そして翌朝。
ベッドの上で美少女三人に囲まれて目を覚ました。右腕をシィナが、左腕をリアが、私の上にココノハが乗って眠っていた。
……何故自分に割り当てられた部屋で寝ないのだろうか。答えは苦笑いで帰ってきたのだった。




