31話 龍殺しの一矢
龍には自然治癒能力がある。生半可な攻撃では足止めにすらならない。
高い耐久力と頑丈さを持つリアの拘束魔術氷柱棺すら破壊するほどの魔術耐性と力を持ってもいる。普通に考えれば手詰まりなのだが───。
こちらには、ココノハが持つ『龍殺しの剣』がある。勝機は充分にあるのだ。
私と炎龍皇は左右に別れて走り出す。龍の側方から挟撃する構えだ。
リアは魔力を高めている。こちらが攻撃に移ったと同時に攻撃するつもりだろう。
シィナはココノハを背後に守りながら少しだけ離れた場所にいた。
「はあっ!!」
「ふんっ!!」
左右からの攻撃に龍は一瞬どちらを狙うか迷ったようだ。リアがその隙を突く。
「『氷槍』」
氷で出来た槍が何本も宙に現れて龍の眼を正確に狙い飛んでいく。
「Garrrrrrrrrrrr!!!?」
龍は咄嗟に眼を瞑った、が左右にいる私たちから完全に目を離してしまう。
「隙だらけだ」
その隙を逃さずに武器の斬れ味を極限まで強化する。そして時間加速を併用してその翼を斬り落とした。
「Ahrrrrrrrrrrr!!!!!!!」
先程よりも凄まじい絶叫をあげる龍。炎龍皇は反対側の翼に穴を開けていた。
「ほう、翼膜はだいぶ柔らかいな! 甲殻は硬いがこれなら余裕で斬れるわい!!」
手応えを感じている私たちに、後方からリアの声が届く。
「ホシミ様! 炎龍皇様! もう一度足を止めます、その隙に頭を!」
「了解した!」
「応とも!!」
再び左右に散会する。そのタイミングを見計らって先程よりも巨大な氷柱棺が龍の足を凍らせる。
「これでも喰らうといい」
動けなくなった龍の頭に袋から取り出した小瓶を投げつけた。小瓶は頭にぶつかった瞬間に割れ、中身をぶち撒ける。
「Guuaaaaaaraaaaaa!!??」
小瓶の中身は強酸だった。頭に直接浴びた龍は、異臭を放ちながら頭の甲殻を溶解させる。
「国王殿!」
「任されよ! 我が一撃、受け取れぃ!!!」
戦斧が灼熱に燃え上がりながら龍の柔らかくなった頭部に強烈な一撃を叩き込む。その後すぐに腹部へと移動し二、三度斬りつけた。
「ココノハ!」
「はい!」
今が好機だとココノハに呼びかける。返事を返したココノハは龍に向けて走って……いない!?
見れば弓を構えて弦を引いている。違うのは飛ばすものが矢ではなく『龍殺しの剣』であることだ。
近くにいたシィナも目を丸くしている。
「わたしは……生まれてこのかた剣なんて振ったことが無いんですよーーー!!!」
そう叫んで弦を放す。剣は強烈な一撃を喰らい頭をもたげていた龍の頭部へと吸い込まれていき……。
「──────────!!!!!!!」
頭から腹を通り尾まで貫通していったのだった。
声にならない悲鳴を上げた龍はそのままよろめき、突っ伏すように倒れ込んだ。そして剣の通り道に綺麗な穴を開けて、大量の血を流しながら絶命したのだった。
「「「「………………」」」」
あまりの出来事に全員が言葉に詰まる。
まさか剣を矢の代わりにして撃ち出すなんて誰も思っていなかっただろう。常識破りもいいところだ。ココノハがふぅと息を吐き、親指を立てた。
「やりました! わたしたちの勝ちですよ!」
龍は死んだ。確かに彼女の言う通りである。
驚きはしたが、勝てば官軍なのだ。龍には悪いが己の不運を呪ってもらおう。
「そうだな。我々の勝利だ」
「やったー!」
ココノハが走り寄ってきて飛びついてくる。それを見たリアも負けじと飛びついてきた。
シィナがその様子を呆れた表情で見ていて、炎龍皇は大笑している。
王宮は滅茶苦茶になってしまったが、龍を相手に全員無事であることを喜ぶのだった。
これにより、南国でのライゼルの謀反及び龍退治が終わったのである。
ーーーーーー
龍を殺してから一週間が過ぎた。その後のことを軽く話しておこう。
ライゼルは表向きは病死したということになった。理由として、混乱は王宮内だけで市街には一切の被害が無いことによる。
彼に龍石の製造法を記した書籍を譲渡した戦争犯罪者の遺族たちについては、今回のライゼルの暴走の発端だったことから影ながら処刑したらしい。
龍に殺された兵士たちは、街で行方不明者を出していた殺人鬼が王宮に忍び込み暴れたこととして片付けた。ライゼルに従った兵士たちには龍のことも含めて箝口令を敷き、減給や体罰等の制裁で許したそうだ。箝口令を破った者が変死していたという噂もあるが、あくまで噂の類いである。そう信じたい。
最後に私たち四人は、大量に兵士を殺し、市民すら手にかけた殺人鬼を相手に戦い見事討ち取った英雄という扱いを受けていた。頼んでもいないのにパーティだなんだと引っ張り回されて忙しい日々を送っていたのだった。
さて、そんなごたごたもようやく落ち着いて、私たちは赤龍庵に戻ってきた。
シィナも自分の荷物を纏めて一緒について来ている。
「あー、パーティとかわたし初めてだったんですけど。凄く緊張しました」
「ドレス姿のココノハちゃん素敵でしたわよ。ふふっ、モテモテでしたわね」
新緑のドレスを着たココノハはその容姿もあって人形のような愛らしさがあった。
森精種は美形揃いであるが、ここまで整った娘も珍しい。貴族たちが「是非息子の嫁に」と言うのも分かる。
「嬉しくありませんよ。何回も言われてめんどくさかったんですからね。ホシミさんは炎龍皇様に捕まってるから助けてくれないし。既に結婚していますって言ってようやく解放されたんですから」
膨れ面で文句を言ってくる。助けてやれなかったのは申し訳ないが、自力で脱出してきた後に堂々と私の膝に座ってきたのは忘れていない。物凄く睨まれたんだぞ。
「貴重な経験が出来たと思っておけ。シィナなんて毎度炎龍皇に酔い潰されていたんだ。まだマシだろう」
「あー……あれは酷かったですね」
「……なによ。なんでそんな憐れみの視線を向けるの?」
「気のせいですよ」
ココノハはシィナが憶えていないことに気付いて流そうとしたのだが、リアが天然を発動してしまった。
「酔ったシィナがホシミ様の首筋にずっとキスしていましたのよ。ほら、跡も残ってますわ」
「うっきゃーーーーーーー!!!!!!!??」
一瞬で顔を赤く染めたシィナが奇声を上げながらリアの口を塞ぐ。リアは微笑みながらもごもご言っていた。
「……仲が良いですね。あ、そうだ、ホシミさん」
「なんだ?」
「もしわたしが龍人との間に子どもを作ったとしたら、その子どもはどっちの種族になるんですか?」
「知らないのか? この世界は全て母系遺伝だぞ。父親の種族が何であれ、母親の種族の子どもが産まれてくる。ココノハであれば、子どもは純森精種だな」
「そうなんですね。元から受ける気はありませんでしたけど、断って良かったです。龍人の国で生きる純森精種なんて肩身が狭いに決まってますから」
悲しそうに言うココノハ。そんな彼女を慰めるように頭をぽんと叩く。
「種族の壁は越えられないが……私はココノハを差別なんてしないぞ」
「知ってます。ホシミさんは優しい人ですから」
そう言って、ふにゃっと微笑む。
「そうか」
その後言葉の無くなった私たちは、リアとシィナのじゃれ合いを眺めることにしたのだった。




