30話 集合
side:ホシミ
一面真っ暗闇の視界が開ける。位置が中庭にずれていたが無事に元の場所に戻れたようだ。
「先ほどまでは気にしていなかったが……我ながら酷い有り様だ」
自分の身体を見回して一人ごちる。
服はズタボロに破れてボロ布を身体に貼り付けているみたいだ。しかも血まみれである。
「着替えたいが、まずは状況の確認が先か。三人とも無事だろうか」
謁見の間に戻ろうと足を踏み出した。
そのとき遠くから二人分の足音が聞こえてくる。
「ホシミさーん!!」
「良かった無事みたいねー!!」
ココノハとシィナの声だ。振り向くとこちらに向けて走ってきていた。私のボロボロの姿を見ると表情を曇らせる。
「ホシミさん大丈夫ですか?」
「ああ、だいぶ手酷くやられてしまったがな。だが奴は死んだよ」
「そ、まああんたが無事で良かったわ。それより身体! ちゃんと隠しなさいよ! 見えそうになってるじゃないの!!」
シィナは手で目を覆うが全然隠し切れていない。
ココノハは逆に積極的に触れてくる。
「おおー、前から思ってましたけど、魔術師なのに結構鍛えてるんですね。細いのにガッシリしてるというか」
「なんでココノハは平気なのよ!」
「そんなことないですよ、わたしこれでも凄くどきどきしてます。いや、まあそれは置いておきましょう。話が進みません」
「何かあったのだな。先程からリアと炎龍皇の魔力を感知しているんだ。……二人は何と戦っている?」
二人は顔を見合わせてから、真剣な表情で私に告げた。
「龍です」
「龍よ」
考え得る限りで最悪な存在の名前を。
ーーーーーー
「ぐおっ!?」
「炎龍皇様!」
龍の尾に吹き飛ばされ壁に激突する炎龍皇。
しかし彼はすぐに立ち上がり武器を構えた。
「まだ無事だ! 心配要らぬ!」
頭から血を流しながらニヤリと笑う。その姿にリアは安堵しつつ治癒魔術をかけた。
「あまり無理はしないでくださいませ。それにしても……」
リアの龍に視線を向けての呟きに炎龍皇も頷く。
先程からずっと身体に傷を付けてきたのだが、それが次々と癒えていくのである。
今も腹に出来た傷が癒えている途中だった。
「これではこちらの体力が持ちませんわ。わたくしの魔力が足りないということはありませんがこのまま戦い続けるとなるといずれ押し負けますわね」
「自然治癒持ちは厄介だのう。しかも頑丈ときた。理性が無いお陰でなんとかなっているが確かにこのままではジリ貧か」
話しているうちに傷の修復が終わった龍は炎龍皇に向けて爪で切り裂きにくる。
「ぬうううぅぅぅぅん!!!」
全身に力を込めて爪と打ち合う。戦斧で受け止め続けている間にリアも魔術を放つ。
「『氷柱棺』!!」
氷柱の棺に両足を封じ込める。龍の足が完全に止まった、その隙を炎龍皇は逃さない。
「はああああぁぁぁぁぁあああ!!!!」
身体を駆け上り龍の左眼に渾身の一撃を叩き込んだ。
「Guuuuurarahaaaaaaaa!!!!!!」
絶叫を上げ身体を思い切り捩り炎龍皇を振り落とす。炎龍皇は空中に放り出されてしまった。そこに眼を潰された龍が怒りの形相で両腕を炎龍皇に叩きつける。
「がっ、はっ!!!」
炎龍皇は床に叩きつけられた。そのまま追撃をしようと腕を振り下ろす龍。
「炎龍皇様!!」
リアの声が聞こえるが、もはや回避は間に合わない。体制も整っておらず受け止めることも叶わない。
「我が輩もこれまでか……」
瞼を閉じると愛する妻と娘の顔が浮かんでくる。二人に幸運があらんことをと祈りながら龍の攻撃が己に当たるのを待っていたが、いつまでも攻撃が当たることはなかった。
不思議に思って眼を開く。そこには、堅牢な土の壁があった。
「まったく……貴方が此処で死んでどうするのですか国王殿」
その声に振り向くと、ボロボロの服を纏った男の姿があった。
「賢者殿!!」
「すぐに脱出を。攻撃の威力が高過ぎてあまり保ちません」
「応とも!」
すぐに跳び退り距離を取る。龍のもう一撃の攻撃で壁が破壊されてしまった。
「あいや、また助けられてしまったな」
「礼には及びません。しかし…そう何度も国王殿の危地に遭遇している私は異常なのでしょうね」
「がっはっは! そうかもしれないな!!」
呵々大笑する炎龍皇。奥に目を向けると、リアがこちらへ飛んできていた。
「ホシミ様あ!!!」
そのままの勢いで飛びついてくる。そんな彼女を宥めるように頭を撫でた。
「よく頑張ったな。今からは私も一緒に戦おう」
「はいですの! ……ところで、シィナとココノハちゃんは?」
「そろそろ来る筈……ほら、来たぞ」
全力疾走してきた二人は息を切らしながら膝に手をついていた。途中までは一緒に走っていたのだが、嫌な予感を感じて置いてきたのだ。
「ぜぇ……ぜぇ……自分だけ、時間加速する、っとか…はぁっ、ありえない……!」
「はぁ……はぁ……王宮広過ぎて、もう、走るの嫌です……」
「あらあらまあまあ」
私は二人に近寄って治癒魔術をかける。これで疲労が消えただろう。
「すまないな二人とも。だがそのお陰で炎龍皇の危地には間に合ったぞ」
「えっ! 父様は!?」
「ここにおるぞ!」
いつの間にか隣に来ていた炎龍皇がシィナに元気な姿を見せる。
「良かった……また父様を助けてくれてありがとう」
シィナは泣きそうな顔を隠しながらお礼を述べた。意外と泣き虫なのだ、そこが可愛いのだが。
「Ghaaaaaaaaaaaaa!!!!!」
突如龍が咆哮をあげる。リアの氷柱棺がひび割れて砕け散ってしまった。
左眼が煙を上げながら修復していく。どうやら眼を攻撃されたことでお怒りのようだ。
「無駄話はここまでだな。龍退治の時間だ」
「がっはっは! これだけ居れば先程よりも優位に戦えるだろうな!!」
「でしょうね。前衛は私と炎龍皇で引き受ける。リアは動きの阻害をしつつ負傷した者に回復を」
「はいですの」
「シィナはココノハの護衛を頼む。ココノハの持つ剣だけが頼りだ」
「ええ、分かったわ」
最後に、ココノハに向き直る。重圧を背負わせてしまうが、彼女にしか扱えない武器なのだから仕方がない。
「私たち全員で奴の動きを止める。ココノハ……奴の首を斬り落としてしまえ」
「……分かりました。剣なんて使ったことありませんけど、これなら触れさえすれば斬れる予感がするんです。……わたしが、龍を殺します」
「無理だけはするんじゃないぞ」
「勿論ですよ。ホシミさんが何でもお願いを聞いてくれる権利も残ってるんですから」
そう言って微笑むのだった。そういえばそんなことを言ってしまった記憶があるな。この状況でそんなことを言える余裕があるのならば大丈夫だろう。
「さあ、龍退治を始めようか」
各々の得物を構え、龍と向き合ったのだった。




