29話 龍
side:リア・ココノハ・シィナ
謁見の間へとたどり着いたココノハ、リア、シィナの三人は、大きな声でライゼルを斃したことを告げた。
「戦いはそこまでです! ライゼルはわたしたちが斃しました!」
「これ以上抵抗する意味はもうありませんの」
「観念しなさい! まだ戦いたいなら相手になるわよ!」
突然の三人の登場……しかも自国の姫と北国の姫が並び立っている姿を見て、場が騒然とする。彼女たちによってライゼルが敗北したことを告げられたライゼル派の兵士たちは戦意を喪失し、抵抗することなく捕らえられたのだった。
近くで大声を張り上げて味方を纏め戦っていた炎龍皇が三人に気付く。
「父様! 無事だったのね!」
「シィナか! 我が輩は賢者殿のお陰で何とかな。おお、お久しぶりですなウィリアーノース殿、そしてその森精種の娘は新顔かの?」
「はい、お久しぶりでございます炎龍皇様」
「初めまして。ココノハです」
再会の挨拶を済ませた四人は現状の確認に入る。
「賢者殿がここに来たからにはお主たちも居るとは思っていたが、まさかライゼルを斃してくるとはな。奴は何か自信に満ちた様相をしておったから何事か秘策があったのだとは思うが……」
「それなんだけどね、父様。ライゼルはよりにもよって龍石の製造方法を知って作り上げてしまっていたの」
「何だと!!」
「御安心くださいませ炎龍皇様。龍石は既に破壊致しましたわ」
リアの言葉を聞いても炎龍皇は難しい顔をしたままだった。
「壊したのに何が不安なんですか? 龍石ってそんなにヤバイものなんですか?」
「そうではないのだが、ううむ……いや、仕方あるまい。龍石は既に破壊したのだな。その欠片は回収してあるのか?」
「いえ、そのまま……ライゼルの身体の近くに散らばったままですね」
ココノハのその発言に炎龍皇は目を見開いた。表情からは焦りが見える。
「不味い! このままでは───」
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!!!」
「うわああああぁぁぁぁああ!!!!」
謁見の間の外から、兵士たちの悲鳴と共に大きな破壊音が響いた。
直ぐに扉から様子を見ると、そこには六メートルほどもある龍の姿があったのだった。龍はライゼル派の兵士を連行していた兵士諸共喰らっていた。
「ちょっと! どういうことよ父様!!」
「龍石の欠片がライゼルの身体を取り込んでしまったのだろう! あれは破壊しただけでは駄目なのだ! 一種の呪いと同じように解呪もしなければ無差別に人を喰らう怪物と化す!!」
「いやいやいや……反則ですよあれは……」
壁を破壊しながら兵士を薙ぎ倒し喰らう龍の姿に、思わずココノハの声が震える。リアは落ち着いて様子を見回してから炎龍皇に質問した。
「炎龍皇様、ホシミ様は何処にいらっしゃいますの?」
「分からぬ……。いつの間にかあの男と共に姿を消しておった。窓が破られていたことから外で戦っているのやも知れぬ」
「そうですの……ホシミ様がいらっしゃれば……いえ、無い物ねだりをしても仕方ありませんわね」
そう言ってリアが一歩前に出る。
「リア?」
「リアさん?」
シィナとココノハがリアのその行動に困惑するように名を呼んだ。
リアはそんな二人に微笑みかける。
「わたくしが時間を稼ぎますのでホシミ様を探してきて頂けますかしら? 本来ならわたくしが行きたいところなのですが、アレは普通の方では相手にするのがお辛いでしょうから」
「リア……あんた死ぬ気?」
「そんな訳ありませんわ。わたくしはまだホシミ様との御子も授かっていないのですわよ」
シィナの問いかけに苦笑して答える。その表情からは悲壮感や絶望感は一切見当たらなかった。
「行きましょうシィナさん。リアさんなら大丈夫ですよ。ただ、危なくなったらすぐに逃げてくださいね」
「勿論ですわ。こんな所で死ぬ訳にはいきませんもの」
「……無茶しないでよ。あいつ、すぐに連れてくるから」
「はい、お待ちしておりますわ」
二人は謁見の間に戻り、ホシミを探すために割れたガラスの向こうに降りていった。リアは、残る一人に視線を向ける。
「炎龍皇様は如何致しますの?」
顎を撫でながら考える素振りを見せる炎龍皇。ゆっくりと目を見開いて口元に笑みを浮かべながら言った。
「ガハハ! 家を滅茶苦茶にされて大人しくしていられるほど立派な大人ではないな! 我が輩も助力しようウィリアーノース殿。我が輩も孫の顔を見るまでは死ねんからの、お互い生き残るとしようか!」
「あらまあうふふ」
炎龍皇の言葉に楽しげに笑うリア。釣られて炎龍皇も笑い出す。
「ガハハハハ! では参ろうか! 今のアレならばまだ何とか抑え切れよう!」
「承知致しましたわ。うふふ」
炎龍皇は戦斧を構え、リアは翼を広げて少しだけ飛び上がる。
「理性の無い怪物に言っても仕方ないが……我が名は炎龍皇ナンゼルレック! この国を統べる王なり!」
「氷龍ウィリアーノースと申しますわ。北国の姫にして……ホシミ様の伴侶の一人ですの」
二人は名乗りを上げてから龍へと攻撃を仕掛けた。
リアは既に魔力を放出して周囲を凍て付かせ始めていた。そのまま魔力を練り上げて龍の動きを制限するために魔術を放つ。
「凍りつきなさい、『氷結牢』」
脚部と翼部を集中的に狙い凍らせていく。しかしあまり効果は見られなかった。
「魔術耐性が高過ぎますわ……! ですが動きを止められなくとも行動しづらくさせるには充分ですの!」
「見事なものだ! 我が輩も負けてはおれぬ! ふんぬぅ!!!!!!」
龍は炎龍皇を喰らおうとするが、リアの魔術により動きの鈍った龍の足元をすり抜けて強烈な一撃を叩き込む。
「Gyaaaaaooooooo!!!!!」
苦しそうな声を上げる龍。炎龍皇は自身の攻撃に手応えを感じていた。
「さあ、どんどん行こうじゃないか龍よ!」
勢いに乗ってこのまま押し切ろうと次々と攻撃を叩き込むリアと炎龍皇なのだった。




