27話 ライゼルの最期
「では、幾つか質問させて頂きますね」
表面上は穏やかに問いかけるリア。ライゼルは恐怖で震えていたが、そんな彼の様子には微塵も頓着していなかった。
「龍石のこと、何処でお知りになったのでしょう? あれは王族にのみ伝わる物ですの。あなた如きが知って良いものではありませんわ」
微笑みすら浮かべて問いかけるリアの瞳は、とても怜悧で無感情だった。
「し、知るか! 答える義理はない!!」
その返答にリアの瞳が細まる。
「ココノハちゃん。左腕、切り落として良いですわよ」
「はーい」
ココノハは躊躇無く剣を振り下ろしてライゼルの左肘から下が切断された。
「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁああッ!!!!」
腕が切断された激痛に絶叫を上げながら身悶える。そんなライゼルにリアは再び同じ質問を繰り返した。
「もう一度お聞き致します。龍石のこと、何処でお知りになったのでしょうか?」
「言う! 言うから早く血を止めてくれぇ!!」
リアは治癒魔術をかけて出血だけは止める。はぁはぁと荒い息を吐くライゼルを見下ろして答えを待つ。
「……三百年前、この国を乗っ取った者が貴重な書物を隠し持っていたのだ。それを彼等の遺族が俺に協力してくれる際に譲り受けた。材料の龍の骨は龍人で代用出来た……金剛石は金を掻き集めて購入した。それだけだ」
「では奴隷を買っていたというのは、その龍人の骨を用意する為なんですの?」
「そうだ。……と言っても使ったのはあの殺人鬼の玩具として散々弄ばれて無惨な死体と成り果ててからだが」
「……そうですの。では次ですわ、あの殺人鬼とは何処で出会ったんですの? 正直に申しますと、アレは人の下に付いて動くような輩ではありませんわ」
「奴は何に使うのかは知らんが大金を欲していた。俺は凄腕だと言う話を聞いたから雇っただけだ。頭のネジが足りていないとんだ殺人狂だったがな」
「あなたとあの殺人鬼はあまり関わりがないのですね。……わたくしから聞きたいことはこれくらいでしょうか。シィナ、聞きたいことがあるのではなくて?」
リアとライゼルのやり取りを見守っていたシィナに声をかける。シィナは一つ頷き、ライゼルへと視線を向けた。
「どうしてあんたはこんなことをしたの? 今の立場が気に食わなかったのかしら?」
「それもある。が、本命は別だ。……俺はな、お前が欲しかったんだ。姫と結ばれるのにたかが一役人では立場が釣り合わないだろう? だから俺は国を欲した! お前を、振り向かせる為に!」
左腕と両足を失ったライゼルは、床に倒れ込んだままシィナに向かって叫ぶ。
シィナはライゼルの言葉を受け止めて……
「あたしは、あんたのこと興味無かったわ」
真っ向から叩き伏せたのだった。
その言葉にライゼルは大声を上げて爆笑する。
「ハハハハハハハハハハ!!!! やはりお前はあの男にしか目がいっていなかったのか!!! フハハハハハハ!!!!!」
笑ってはいるが、ライゼルの眼からは涙が流れ出てきていた。自身が惚れた女に一切の興味も持たれず、その女を手に入れる為にこんな騒ぎを起こして己の手足を失ったのだ。あまりにも情けなくて、悲しくて、馬鹿らしくなったのだろう。
ライゼルはひとしきり笑い続けたあと、笑い過ぎて痙攣した腹部が落ち着くのを待ってから言葉を発した。
「姫、頼みがある」
「なによ」
「俺を、君の槍で殺してくれないか」
「……あんたはこのままでも死ぬと思うけど、どうしてそれをあたしに頼むの?」
「人生の最期だ……片想いだったとしても、惚れた女に殺されて見送られるならば……。あぁ、きっと安らかに眠れる筈だから」
シィナを見つめるライゼルの瞳は先程までとは打って変わってひたすらに穏やかだった。
「……」
その言葉に何を思ったのか、無言で槍を構えるシィナ。慈しむような優しげな声色でライゼルに最期の言葉をかける。
「何か、言い残したいことはあるかしら」
「では一つだけ……。俺はずっとお前を愛していたぞ、サウズーシィナ……」
「そう……。それがあなたの最期の言葉なのね」
シィナの問い掛けに頷くライゼル。最早言葉は不要とばかりに口を開くことはなかった。
「あなたの望み通り、あたしが殺して看取ってあげる。……迷わず逝きなさいライゼル」
心臓を一突き。シィナの槍は狙い過たずライゼルの心臓を貫いた。
「あ、り……がと……う……………………」
心臓を貫かれたライゼルは、すぐに息を引き取った。死に顔は驚くほどに穏やかでどこか満ち足りた表情をしていたのだった。
「……あんたのこと、覚えておいてあげる。光栄に思いなさいよ」
そう言ってシィナはライゼルの身体から槍を引き抜いた。
「良かったんですか? 殺しちゃって」
「どうせ長くなかったんだから、良いんじゃないの。まったく、騒ぎを起こすだけ起こして自分は満ち足りた表情で死ぬって何よ」
「聞きたいことは聞けましたから、わたくしは問題無いと思いますわ。……さて、こちらは片付きましたけれど、ホシミ様は大丈夫でしょうか」
「さあ、どうかしら。あの人のことだから心配要らないと思うけどね。取り敢えずライゼルを討ち取ったことを伝えてライゼル派の抵抗を止めるのが先じゃない? その後で手が要りそうならお手伝いしましょ」
「幸い殆どが謁見の間に集まっているみたいですし、このまま行きましょうか。シィナさんのお父様の無事も確かめないといけませんしね」
「それもそうね。さ、行きましょう」
そして三人は謁見の間に向けて駆け出す。
誰一人ライゼルに振り返ることなく、階段を登っていくのだった。




