第2話 トラブルメーカーは自覚しろ
5話まで毎日午前6時に投稿します。
第1章、全10話の予定です。
短い間ですが、お付き合いください。
第2話は、主人公の師匠のカラカルの話しです。
苦労人です。
呼吸を整え柔らかく剣を構える。
緊張してはいけない。
緊張は身体を巡る魔力を滞らせる。
巡る廻る早く速く魔力を廻らせる。
身体の隅々、服や剣先まで魔力が満ち、王都にしては広い中庭に意識が広がる。
馬鹿らしい、俺はもう40にもなるというのに、いまだに剣の修行だ。
まだ剣にこだわっている。
弟子のアーザムが悪い。
気を抜くと俺に一本入れてくるアーザムが悪い。
ただの商店主が鍛えてなにがしたいんだ?
背後から走ってくる気配に振り向く。
「カラカル、アーザム様が書斎でお呼びです。急いでください。最優先です。」
アルゼルか、アーザムの幼馴染み兼部下だ。
落ち着いて見えるが、中身はまだまだまだ15歳のガキだ。
振り返るともう伝えたから責任は果たしたとばかりに家に帰っていく。
アーザムが俺を呼ぶということは娼館か?
真っ昼間から珍しいな。
汗を拭きながら書斎に向かう。
「奴隷商? なんで?」
「奴隷が欲しいんだ」
「アーザム様、あんまりいいもんじゃないですよ。不健康だからすぐ死ぬし」
「どういうことだ?」
娼館に行くんじゃないのかよ、娼館に出資してるアーザムと行けば手数料が取られないから娼婦代だけで安く済むのによ。
アーザムが奴隷についてなにも知らないから説明してやる。
「なあ、男がいる。どうしたら手早く金になる?」
「軍に入れて仕度金をぶんどる」
「じゃ、女なら?」
「娼館に入れて仕度金をぶんどる」
「子供なら?」
「丁稚とか養子に出して紹介料を取る」
「そのどこにも行けなかった奴が奴隷になる」
「残りカスじゃねぇか!」
「だからカス言ってるんだろ!」
理由を聞くと冒険者にして英雄を育てる?
意味がわからん。
「念のためだ、紹介して欲しい」
「そんな知り合いいませんよ」
「役立たねえな」
「黙れガキ」
お互いの手が得物に伸びる。
書斎を壊す手前で、知り合いに当たってみるということで手打ちになった。
師匠としては弟子にできないとは言えないものだ。
知り合いにアーザムの金を握らせ、なんとか渡りをつけた。
なんでこんなことにも金払いがいいんだよ。
後日、体裁を整え店に行く。
商家の坊ちゃんが通らない臭く汚い道を通り、店構えというより牢屋の入り口を抜けると、陰気な顔の奴隷商とカスみたいな奴隷達がいた。
汚い通りではまだ浮かれていたアーザムも、さすがに浮かない顔を隠せない。
商人としての礼儀だろうか奴隷を見渡す。
ところがアーザムの視線がなにもない部屋の隅で止まる。
「あの隅の子供を見せてくれ」
そこに人はいない!
とっさにアーザム様を護るため魔力を全身に巡らせ身体を強化し活性化する!
アーザムが指し示した先には小さな子供がいた。
さっきまでそこにいなかった。
この部屋にもいなかった。
俺が奴隷ごときの気配を見逃すはずがない。
まるで雲から現れた月のように突然存在が顕わになったのだ。
「ええとああ、そいつですね、お待ちください」
奴隷商が首をかしげながら子供の首輪を掴むとアーザムの元に引きずって行く。
こんなモノをアーザム様に近づけてはいけない。
飛び掛かろうとしたが身動きが取れない。
蔦が絡み枝葉に覆われ、まるで森に押し潰されてるようだ。
「カラカルどうした。ぼーっとするなんて珍しいな」
「あの子供は?」
「買ったよ、いいの全然なかったし、手ぶらで帰るのは負けた気がするから、しかたがなく買った」
アーザムの足元には子供がうずくまっている。
10歳ぐらいか?
奴隷だから栄養不足なだけでもっと上か?
何の変哲もない子供だ。
「カラカル、子供連れてきてね。くっさいからあとはよろしく。隷属の首輪って凄いなのな。登録した声と魔力で身体の動きを止めるって言うのは想像がつくけど、禁止事項をやると首輪が絞まるってどういう仕組みだ? パブロフの犬みたいな条件づけかな?」
釈然としないまま、ただの子供を背負い、アーザムの話を聞き流しながら帰路についた。
カラカルはこんな感じで苦労していきます。
残業手当が出るタイプのブラックです。
次回、第3話 ケレス
主人公のアーザムが語り手です。
11月4日午前6時に投稿します。
どんな子供なんでしょうか?




