第9話 俺の眼の前で殺される事は絶対に許さぬ
「事情は大体理解した。別の場所から飛ばされてこの聖域にやってきたという事だな」
「はい、悪い魔法使いに飛ばされまして」
大体の交渉は眼が見えないルーボックが務めてくれた。
「それにしてもルーボックよ、そなたは見えていないのか? それとも見えているのか?」
「いえ、ほぼ見えていませんよ、うちは空気の流れを感知して動いているだけにしかすぎませんから」
「そうか、身のこなしが武術の達人にしか見えんが」
「あまり気にしないでください、さて、うちたちは、この大陸の果ての事情を知りません、教えてください」
「承知した」
そこからゴムザ・バーレットが色々と教えてくれた。
大陸の果て、場所はエルレイム王国から遥か西に位置する。
そこは人が住めない環境。
モンスターが沢山はびこっており。
この聖域を守っているのが彼等の役目であるそうだ。
ゴムザは元々ザム国出身で、川に流されてこの地に辿り着き、巨漢で強い事からリーダーを任されていたらしい。
「元々、夜の看視者と呼ばれるもの達がずっとこの聖域を守っていたそうだ。この聖域は遥か昔、三老人が1人、終わりの魔法使いの根城だったらしい。詳しくは知らんが」
「そうなんですね、ここが老齢の守衛キリクの城なんですね」
どことなくルーボックは懐かしむように辺りを見回して。
「師匠がね」
と呟いていた。
「師匠?」
「いや、こっちの話さ、さて、こちらのリーダーはこの八本の角を持つロイフルだよ、これからの話し合いは彼としてくれ」
「承知した」
それから、また話し込んだ。
「自分達としては、この大陸の果てのもめごとを治めたくて、正確には統治したいのですが」
「ほう、それは簡単な話ではないぞ」
「大体の事情は説明で聞きましたけど、モンスターだらけで、魔王と呼ばれる人たちが3人程争っているんですよね」
「そうだ」
「じゃあ、全員ぶちのめして頭下げさせて仲直りで良いですか」
「は?」
ゴムザ・バーレットが大きな口をきょとんとさせる。
「それが簡単にできないから困っているのだろう?」
「俺達には簡単かもしれません」
「だがな、俺の眼の前で殺されることは絶対に許さぬ」
「いえ、殺されるつもりはないですよ? それに俺達、1人1人最強ですから」
「それは直に見ているが」
「それよりも、3人の魔王は遥かに強い」
そう呟いたのは、1人の老人だった。
杖を突きながらやってくる。
彼はこちらを真っ直ぐに見て、次にルーボックを見た。
「お主、どことなく、終わりの魔法使いに似ている気が」
「きっと気のせいですよ」
ルーボックがどことなくごまかすようにして。
「わしらに拠点はない、ずっと移動しながら過ごしているが、少年、お主の目、エメラルドグリーン、滅びたエルレイム王国の者か」
「そうです。そこの王子でした」
「そうか、なら、託そうか、わしら200人とゴムザ殿を」
「なぜ、自分達より年の低い少年に託そうと?」
「面白そうだからじゃ、それに、聖域に召喚されたという事はそう言う意味じゃろう」
「そこまでこの屋敷の廃墟が大事なんですね」
「それが、夜の看視者に与えられた最後の任務じゃからな、お主らが現れた事、それが意味しているのかもしれん、この廃墟の終わりの役割」
老人が少し意味深な事を呟きながら。
「さて、飯にしようかのう」
老人がぱんぱんと手を叩くと。
麦とマメの粥が運ばれて来た。
一同は黙々と質素な料理を食べていたのだが。
1羽の鳥が臭いに釣られて舞い降りた。
その瞬間。
「へぇ、その子が言うには、1人の魔王グジャルが1000人のモンスターの軍勢を引き連れて、1人の魔王ガラスに戦いを挑もうとしてるんだって」
「これは、ビーストマスターだったのか」
長老が呟く。
「なに? 私が動物と話せてそんなに可笑しい?」
「いや、魔女の系譜はわしらにとって神そのものじゃ」
「そう? それはありがたいわね」
「四方を囲まれてるよ」
そう叫んで入ってきたのは、精霊のルボックだった。
空を五月蠅く飛翔している。
「あの両腕のない精霊は本当の事を言ってるのか?」
村長が呟くと。
200人の夜の監視者達がぎょろりと剣を抜こうとしていたのだが。
「待ってくれ、どうやらモンスター1000体だけだよ、それに200人守って戦うのは無理だよワタクシたちには」
「だ、だれが護られるつもりが」
「黙れ、そこの少年の言うとおりじゃ、1000体のモンスター相手ではわしらはすぐ死ぬ。とはいえ、いつも通り逃げるわけにもいかぬ、この聖域があるからな、聖域を守って死ぬ、その時が来たようじゃ」
「だが、俺の眼の前では殺させない」
ゴムザがいかめしいつぶやきを上げると。
「ここはワタクシに任せてください」
そう言うと、ピエロトはゆっくりとふわりと浮き上がる。
その光景を見ていた夜の看視者たちは絶句する。
空中に仮面がふわふわと浮き出る。
その数1499枚。
そして、その仮面に肉体が宿る。
1499体の仮面分身達。
彼等はむくりと立ち上がる。
そして大地を蹴り始めた。
「何をする気だ? ピエロト」
「ようはモンスターを倒せばいい。または驚かせて逃がせばいい、それだけでしょ?」
ピエロトの目は遠くを見ている。
それは仮面の奥から見ているのかもしれない。
仮面分身、ピエロトの含めて1499体であった。




