第2話 なぁ? あんた王子なんだって? 俺は狼なんだよ
この村の名前をローゴスと言う事をジョド村長から教わった。
この村には10数名しか村人がいない事と。
「普通の奴等は1人もいない」
それがジョド村長の発言内容だった気がする。
「まぁ、お前も八本の角がある時点で普通ではないがな」
それはごもっともだと思いつつも。
最初の1週間は料理と剣術の修行、さらには武術、または掃除。
武術と剣術は父親からいくらか教わっていたので苦ではなかったが。
毎日素振りをやらせられている身としてはたまったものではない。
「はぁはぁはぁ」
肩で息をする。
「なんで、この剣滅茶苦茶おもてーんだよ」
石よりも重たい。鋼よりも鉄よりも重たい。
持つだけで足が地面にめり込む。
これをジョド村長は人差し指と中指だけで持ち上げたのだ。
そんな時だった。
苔むした。人の体の2倍程もあるであろう岩の上にいつの間にか人の気配がした。
そこに座っていたのは、何かの動物の毛皮の衣服に包まれた少年だった。
そいつはこちらを獣のような眼でじっと見つめていた。
「なぁ? あんた王子なんだって? 俺は狼なんだよ」
「そうか、俺は王子だそうだ。そして君は狼なんだな」
「いやいやいや、そこはちげーだろって突っ込めよ」
「だが、現に、俺は八本の角を持っている訳だ。この世界には狼になれる少年もいてもおかしくないだろ?」
「達観してるねーそうかもな、まぁ、いつか見せてやるよ、ちと俺としては滅茶苦茶うれしーぜ、最初から疑ってくるような間抜けじゃなった事がな」
そう言って彼はその場で全身を毛皮で覆いつくし。
しまいには四足歩行で遥か遠いい先にある岩まで跳躍して見せた。
「おい、いつか見せてくれるんじゃなかったのか」
どうやら彼は自分が言っていた内容を忘れてすぐに狼化してしまったようだ。
遠いい先で彼は叫んだ。
「俺の名前はドーマス・クリギント、第二の世界から来た。よろしくな」
どうやら異世界の民らしい。
ロイフルはまぁ、そういう事もあるだろうという認識で、また素振りを始めたのであった。
ドーマス・クリギントの額には狼化するとどうやら六本の角が生えるようだ。
どこか自分自身と似ているのかもしれない。
少しだけロイフルは楽しくなって来た。
「飯の時間じゃー」
こうして、ジョド村長への料理講座が始まるのであった。
★★★
「この飯はな、第三の世界である国が開発したインスタントラーメンと呼ぶ。いいかお湯だけで完成できる最高傑作なのだよ」
「は、はい、見た事がありませんね、この袋はなんの素材ですか?」
「プラスチックじゃ」
「それはなんですか?」
「まぁ、そこは重要ではない、捨てると色々面倒が起こるから、絶対に地下倉庫から出さないようにしろ、プラスチックは埋めて処理する」
「ハイ、気を付けます」
「さてじゃ、3分後に完成する。この時計はな、第三の世界で発明されたものでな、腕に嵌めれば完成じゃ、お前にも1個だけプレゼントしちゃろう」
「ありがとうございます」
「まぁ、聞け、電池で動くんじゃ」
「電池ってなんですか?」
「電池はな貴重でな、また第三の世界に渡って回収してくるのもめんどうじゃから、大事に使え」
「説明になってませんが」
「ほれ、3分じゃ、麺が伸びるぞい、さて、どうじゃうめーじゃろ」
「はい、かなり旨いですね」
「この味をしかと覚えておくように」
にかっと入れ歯だらけの歯を見せる。
その日、ロイフルはインスタントラーメンを茹でるという料理方法を獲得したのであった。
そうしてジョド村長との勉強会が始まる訳だが。
「まずは、この世界が第一の世界であることは認識しちょるな?」
「はい、母上から教わっています。八個あるそうですね、僕は、いえ俺は八個の世界の王となる必要があるのでしょう?」
「そうじゃ、第二の世界がドーマスがいた獣の世界じゃ」
「はい」
「第三の世界は文明じゃな、人間が支配しておる。わしらと同じと見ないほうが良いな、なんじゃろうな、肉体的には弱く、魔法も使えない、だが知恵だけが凄くて、色々な発明をしちょる。軍事力で言えば、空飛ぶ機械の飛行機を作ってしまったりしてな、スイッチ一つで国を亡ぼせるレベルじゃ」
「スイッチ一つですか、それは恐ろしいですね」
「第三の世界では問題が発生しておって、そっから侵略される心配はないとだけは伝えておく」
「はぁ、どんな問題なんですか?」
「それはのう、星が星を食らうんじゃ、地球食いと呼ばれている。後は自分の目で見て覚えたほうが良い」
「そうしたいですけど、そんなことは可能なのですか」
「お前の役目はなんだ? ロイフル」
「八個の世界を統一する事です」
「よかろう、さて、今日はこの辺じゃな、ちょいと仮面の子供の様子を見てこい」
「そんな子供いるんですか?」
「まぁ、いるな、隣の浮いている家にいる。そこに入ると良いじゃろう」
「そうします」
夜中。
四方を崖に囲まれているせいなのか、一層暗闇がひどい。
真上にある深青のお月様が光の元となっているようだ。
その光を辿って。
虫がさえずり合っている中。
ロイフルは浮いている家に辿り着いた。
そこに入る為に、浮いている小さな岩を辿りながら。ドアノブを開いた。
そこには無数の仮面を付けた少年が立っていた。
この家は異次元なのか、無限に広がっている。
光に包まれており、永遠と吸い込まれそうだった。
「ようこそ、初めまして、我が王ロイフルよ」
まるで演劇でもするかのように清々しい声で囁いてきた。
それも無数にいる仮面をつけた少年たちが真っ直ぐにこちらを見ている。
「1人なんだろ? 他は分身でしょ、生命を感じない」
「ほほう、どうやら魔法の才能にも秀でているようですな、ワタクシの名前はピエロト・ダザック。父親の名前をピロルム・ダザック、母親の名前をミュン・ダザック」
「ピロルムの息子だったんだね」
「はい、ワタクシは生れた時に母上と共に第四の世界、光の世界に旅立ちましたから。この家の中は光の世界と繋がっているのですよ」
「へぇ、じゃあ、俺は今、光りの世界に入っているのかな」
「いえ、違います。仮面をつけないと入る事は出来ません、あなたはただの入口に立っているだけであり、入っている訳ではないのです」
「なるほどね、なんとなく理解したよ」
「さて、ロイフル殿下、私は最後の1個の光りの仮面を探す必要があります。ただ光の世界にはなさそうです。あなたの運命の先に1500個目の光の仮面があるのかもしれません。どうにかして、それを見つける手助けをしてほしい。その為なら、ワタクシはあなたの力となりましょう」
「それは頼もしいが、そんなひょろひょろでどうやって戦うんだい」
「いえ、ワタクシは器用さだけは凄いですから、曲芸なら任せてください。それが道化の役割です」
「分ったよ、ジョド村長から様子を見てこいと言われたから見に来たけど合えて嬉しい」
「こちらもです」
それが。道化のピエロト・ダザックとの出会いであった。
ピエロトの家から出ると、光が溢れんばかりになって、ドアを閉めると光が消えた。
「あら、ピエロトに友達かしら」
そこには赤毛の少女が立っていた。
彼女の周囲には無数の動物がいた。
犬、猫、熊、猪、馬、栗鼠、鳥。
まるで主のように従っている。
「初めまして、私はビーストマスターのチャニーよ」
「キミも別な世界なのか?」
「いや、私はこの世界出身よ、ただ魔女の系譜ってだけね」
「そうか、キミも母上みたいな力を」
「あなたの母上が魔女の系譜であろうと、魔女には幾多の魔女がいるから何とも言えないわね」
「そうか、そう言う事にしておいてくれ」
「ピエロト、愛しのチャニーが来たわよ」
そう言って、堂々とチャニーはドアを開いてピエロトの部屋へと入っていった。
ロイフルは頭をぽりぽりと掻いた。
チャニーは赤毛であり水色のワンピースを身に着けた。
見るからに14歳程度の年下くらいの少女だった。
ピエロトと同じくらいなのだろうか。
そうして、ロイフルの日課は終わり。
常闇の中へと意識が吸い込まれていった。




