第35話(全36話) 統一戦争
「あれが魔王を倒した勇者様か……」
占領した都市の城門をくぐるたびに、人々のささやきがあたしの耳に届く。人々は畏敬と困惑の視線をアルチュールにそそぐ。それは都市にたてこもっていた領主の軍とは明らかに異なる、複雑な感情の表れだった。占領軍であるあたしたちに対する明確な敵意はない。まぁ、反感を持たれないようなことをレティシアとカミーユがやってくれている。
イの国の首都を陥とし、王国を降伏させたあとも、アルチュールとあたしはイの国の宮廷の命令に逆らう反抗勢力の鎮圧に奔走していた。
要塞や都市の攻略ではベルナールが活躍した。彼は魔王の秘匿されていた技術の解明に夢中になっていて、まるで新しい玩具を与えられた子どものようになっている。けど、あたしたちが困難に直面すると、どこからともなくやってくる。
「スターライトシャワーは流星を地上に落とす遺失魔法だ。これで塔と城壁を破壊する」
この魔法で攻城戦の常識は一変した。ベルナールのおかげで城攻めは熱したナイフでバターを切るように容易になった。いまやアルチュールの軍の前では城壁は意味をなさない。この一連の戦闘では籠城戦はほとんど発生せず、敵軍のほとんどを野戦で一蹴した。たとえ都市にたてこもられても、ベルナールの強力な魔法で城壁は瞬時に崩れ去り、すぐに制圧できたから、市民の被害は軽微ですんだ。
一方でカミーユは二か国にわたる支配領域を管理するために、あちこち行ったり来たりしている。今はイの国の王都アムキルクルで勇者府を主宰している。
「広がった領域を統合する経済を作らないと……」
とか言ってる。なんでも占領しただけではダメらしい。道を作ったり、河川を改修したりして人とモノの流れを作っていかないといけないそうだ。これは魔王城に秘匿されていた文献から学んだんだって。あたしにはよくわかんない。
そしてレティシアはウナルベクサにいる。わずか数年のうちに、かつて魔王城のそびえたっていた荒涼な不毛地帯は、彼女の力で豊かな穀倉地帯に変わった。ベルナールに言わせると、元々豊かな土地だったそうだ。混乱の終息、農民の誘致、大規模な水路の建設……。レティシアの卓越した農業指導によって、かつての荒野は豊穣の地に生まれ変わった。アルチュールやあたしが戦場に出ていられるのは、この地の潤沢な資源があるからだった。彼女の存在はあたしたちの戦いを陰で支えている。
アルチュールとあたしがイの国の反抗勢力を鎮圧し、カミーユとオロール女王がイの国の王都アムキルクルで戦後処理をしているころ、南方のチの国から、国王一行がアムキルクルにやってきた。
チの国は女神さまの首飾り諸国の南東に位置する。北はイの国と広大な湖、東は異邦と繋がる海、南は険しい山岳地帯、そして西はケの国に接している。商業的に豊かな土地だけど、軍事的に弱体で、長らくイの国に半ば従属してきた歴史がある。そのイの国の脅威が消え、新たにその地の支配者となったアルチュールに敬意を示し、その意図を探るために、国王自らがわざわざやってきた。
チの国との交渉の準備はカミーユがやったけど、いろいろと難しいことがあった。最大の問題はアルチュールの称号のことだった。彼はワの国の王位についたオロール女王からアクィル大公の称号をもらっている。でも、彼は実質的にはワの国、イの国両国の支配者だ。オロール女王より上位にいる。爵位は下位にありながらも、事実上の地位は上位にいるという矛盾がカミーユを悩ませている。アルチュールはそんなことはどうでもいいと言い、その無頓着な態度がさらにカミーユの胃を痛めつける。この複雑な状況から生まれたのが、勇者府という奇妙な組織だ。カミーユはウナルベクサ以来、国王をも従わせる勇者という地位、フィクションを創り出し、この矛盾を覆い隠そうと腐心し続けている。
勇者府で行われたアルチュールとチの国の王との会談は和やかなものだった。同盟を組み、お互い助け合おうという誓いの言葉が交わされた。
会談のあと、盛大な歓迎の宴が催された。四百人ほど招待した。責任者はギョーム。そう、ポロフレで再会した彼だ。今は勇者府付総料理長となっている。ルセットの主役はあたしとジェラール将軍が森で取ってきたイノシシのロースト。アルチュールが見事な剣技で切り分ける様子を、チの国のリオネル王は感嘆の眼差しで見つめていた。あたしの秘書のブリュノが宴でギョームの料理を上品だが、しかしむさぼるようにして食べていた。前も、ギョームの料理が大好きだったよね。
あたしは軍馬を調達するため、イの国にいるアルチュールやカミーユたちと別れて、ワの国の王都ポロフレに来ていた。ポロフレに着くとオリビエ卿が出迎えてくれ、王宮内の五部屋があてがわれた。
「あーあ、落ち着かないなぁ。カリーヌ、お茶入れてくんない?」
あたしは拍車のついたブーツを脱ぎながら、連れてきた侍女に声をかけた。靴底には旅の泥がこびりついている。
「あと、王宮の女官に床を泥で汚してごめんなさいって謝っておいて」
オリビエ卿も気が利かないな。こんな汚れた旅装のあたしたちを、こんな立派な部屋に案内しなくてもいいのに。
あたしがポロフレでやることは、馬を集めるだけじゃなかった。
アンナのことだ。カミーユも彼女を探しているけど、あいつの情報網では見つかりっこない。あいつは外国と修道院ばかり探している。女に幻想を抱き過ぎているんだ。女には主体性がなく、男に守られる存在、自分が助けてあげなくてはならない存在だと思いこんでいる。でもアンナはそんなか弱い存在じゃない。彼女はたくましく自分で生き抜いている。彼女も君を探しているんだよ。
あたしがポロフレに到着した日の夕暮れ、あたしの歓迎パーティがあった。おエライさんとの挨拶交換を一通り終え、会場を見渡すとアンナはすぐに見つかった。相変わらず腕のいいクリティザンヌだ。なかなかいい男をつかまている。男が席をはずした隙をついて、あたしはさりげなく近づき、声をかけた。
「こんばんわ、ルイーズ嬢」
アンナはまるで幽霊でも見たかのように、おびえた表情であたしを見た。こんな動揺した表情は今まで見たことがなかったな。こんな表情を見たかったわけじゃないのに。
「おひと違いではありませんか。ジュヌヴィエーブさま」
しかし、彼女の表情は一瞬でいつものすました仮面に戻った。
「話がある。あとであたしの部屋に来て欲しい」
それだけ告げると彼女の連れが戻ってきた。あたしがアンナと話をしているのが不思議そうだった。
「こんばんわ。卿も乗馬を嗜まれるとお聞きました。今度拝見したいものです。それにしてもずいぶん綺麗なお嬢さんをお連れですね。このお嬢さん、将棋が得意だそうで、お手合わせを願うことになりました。今晩お借りしてもよろしいでしょうか?」
有無を言わせない勢いで一気に言って、あたしはその場をあとにした。男は突然のことにただ呆然としていた。
その夜、アンナがカリーヌの案内であたしの部屋までやってきた。少し震えているようだった。あたしも気が利かないな。これじゃオリビエ卿を責められない。
「どうぞ、お座りください」
あたしは椅子をすすめ、できる限り優しく話しかけた。
「あたしは君の素性を知っているんだ」
彼女は黙ってうつむいている。微動だにしなかった。
「近いうちににレサト伯の名誉を回復させる。シャウラ伯もだ」
その言葉を聞くと、彼女は顔をあげた。その瞳には戸惑いの色が浮かんでいた。
「なぜ、そのような話を私にされるのです?」
彼女は震える声であたしに尋ねた。
「君の素性は知っている。レサト伯は君のお父上だろう? ルイーズ」
彼女は何も言わず、静かにあたしを見つめる。その瞳はあたしの意図を推し量っているようだった。
「どうして私に、そんなことをしてくれるのです?」
彼女が尋ねた。その声はさっきより幾分か落ち着いているようだった。
「君のお父上に世話になったからだよ。もう一つの理由は、友人のためだ」
一つ目は彼女を納得させるためのウソだ。でも二つ目はあたしの真実の心だった。彼女はひとまず納得してくれたようだ。顔に安堵の表情が浮かんでいる。
「君が人を探しているのも知っている。シャウラ伯のご子息、リシャールだろう?」
またしてもアンナは驚いている。けど、今回は前のような恐ろし気な驚きじゃなかった。あたしは最初から、こういうふうに驚かせたかった。
「彼は今、アルチュールのシンジケートの一員だ。カミーユと名乗っている。聞いたことはあるだろう?」
あたしがそう言うと、アンナは、
「はい」
とうなずき、薄々そうではないかと思っていたと語った。
その夜は遅くまで語り合い、アンナはあたしの部屋に泊まった。翌日彼女はあたしの部屋に引っ越ししてきた。
あたしはアンナに不誠実なことをした。わざと誤解を誘うような言い方をしたんだ。あたしが「友人のため」って言ったの、貴方はきっと「友人のカミーユのため」って誤解したんだろうけど、あたしの友人はアンナ、貴方のことよ。今度は幸せになってね。
アンナの引っ越しのことは、オリビエ卿に同居人が増えると連絡しておいた。で引っ越しの最中、卿が様子をのぞきに来た。アンナに軽く会釈をする。社交の場で何度か顔を合わせたことがあるんだろう。卿はクリティザンヌを引っ張り込むなんて、なんて物好きな、なんて顔であたしを見ている。
「オリビエ卿、紹介するよ。こちらレサト伯令嬢のルイーズ。今日から一緒に暮らすことになった」
あたしがそう言うと、卿はこれ以上ないというような驚愕の表情で、ルイーズを振り返った。いつもの冷静な彼からは考えられないほどの狼狽ぶりだった。ルイーズは優雅に頭を下げた。
「本当にルイーズなのか」
卿はルイーズの顔を食い入るように見つめ、二、三の質問を投げかけた。驚きながらも納得したようだった。
「まったく気付かなかった……」
卿がつぶやくように言う。
「女王殿下と私が必死になって探した。カミーユだって探していたはずだ。それなのに見つからなかった。なぜジジさまが見つけることができたんです?」
卿は感嘆した声で尋ねてきた。あたしはそれには答えず、
「彼女は長い間、チの国で亡命生活を送っていた。そういうことにするからよろしく。女王にもそう伝えておいて。あと、カミーユにどう伝えたらいいかは二人で相談して」
「承知いたしました」
卿はそう言うと飛び出すように部屋を出て行った。
すぐにルイーズは女王の元へ呼ばれていった。
アルチュールに従属を誓ったイの国の貴族たちの領地は、ほとんど手つかずのまま残された。王家の直轄地と重要な城を接収するなどして戦後処理がひと段落すると、シンジケートの中核はワの国の王都ポロフレに移動してきた。ワの国とイの国の両方に目を配るためにはウナルベクサは西に寄りすぎている。そういう判断でカミーユはポロフレに居つくつもりのようだ。アルチュールとカミーユは邸宅を構えたが、あたしは王宮で居候生活をしている。
ポロフレであたしは北壁でのジョギングを再開した。早朝の澄んだ空気の中、風を感じながら走り、帰りに市場に寄る。もうオリビエ卿の笛の音はない。姉のリュシルの無念は晴らされたと感じたのだろう。ワの国から大貴族は一掃された。姉の愛したオロール王女はいまや女王だ。それに女王はシンジケートの重鎮だから、才能を持て余して宮廷内で陰謀にふけるという心配もない。オリビエ卿にとっては心穏やかな日々が訪れたのかもしれない。
ポロフレでの平穏な日常を満喫していたある日、あたしはエレオノール嬢のサロンに顔を出してみた。目当てはアントワーヌ卿だ。あたしも部隊を率いる身だから、彼のような有能な幕僚が欲しいと思っていたのだ。今回、彼女のサロンに行くのは初めてだったから、手を回して招待状を手に入れた。
で、行ってみるといつもいるはずのアントワーヌ卿の姿が見えない。そのことをエレオノール嬢に聞いてみると、
「アントワーヌ卿は、ワの国のジェラール将軍に懇請されて、将軍の幕僚になられましたの。いつもお手紙をいただいてますわ」
なんてノロケ話を聞かされてしまった。前回はあたしがジェラール将軍に紹介してやったのに、今回は先を越されてしまった……。
午後のひととき、あたしは王宮で女王と二人、コーヒーを飲んでた。チの国を通ってワの国にやってきたコーヒーは、ポロフレ市内でいくつもカフェができるほど人気を集めている。女王殿下もお気に入りだ。あたしたちのテーブルの側にはオリビエ卿が恭しくひかえている。あたしは一緒に座ってコーヒー飲んだらって誘ったけど、卿は丁重に断った。
「ねぇ、オロール」
あたしは女王に問いかけた。公の場では女王さま、ジュヌヴィエーブ将軍とかだけど、二人のときはオロール、ジジと呼び合っている。
「貴方は結婚しないの?」
あたしの問いに、オロールは少し驚いたようだった。
「急になに言い出すの?」
オロールがあたしに尋ね返す。
「アルチュールなんてどう?」
あたしの言葉を聞くとオロールはくすくすと笑い出した。
「なんの冗談よ、それ」
「でも、立場的に後継ぎが必要なんでしょう?」
「結婚なんて考えていないわ」
即答だった。ふと、彼女の視線がオリビエ卿の方へ流れたのを、あたしは見逃さなかった。
「後継ぎが必要なら、カミーユとルイーズの間の子をもらうわ。あなたの子でもいいわよ」
カミーユとルイーズの結婚は、オロールの頭の中では決定事項らしい。それでこの話は終わった。あたしと誰の子だよ。
ポロフレでのつかの間の平穏は、ある日突然、打ち破られた。アの国がウの国に侵攻したとの情報が飛び込んできたのだ。続報によると、たちまちのうちに王都が陥落、老王と摂政王太子は戦死、ウの国の大半がアの国に占領されたのだという。
ウの国が攻撃されたと聞いて、すぐにアルチュールはあたしに、軍を率いてウナルベクサに向かうように命じた。ウの国の詳しい状況を知ったのは、ウナルベクサに着いてからだった。
ウの国が占領され、あたしがアの国の動向を注視していたころ、思ってもみなかった客人があった。
「お久しぶりです、ジュヌヴィエーブさま」
オディール卿だった。ウの国の女性聖堂騎士だ。魔王討伐後、あたしたちがこの地で勢力を築いているときに世話になった。彼女の顔には、これまで見たことのない疲労と、深い決意が刻まれていた。マントの隙間からのぞく鎧は、かつては白銀に輝いていたのに、
今はあちこちがへこみ、ほこりにまみれ、死線を何度も潜り抜けてきたことを雄弁に語っていた。
「久しぶり、オディール卿。君の国は本当に大変なことになったね。無事でよかった。今日はどうしたの?」
あたしの問いに、彼女は思いつめた目で、切実な声で訴えかけてきた。
「他に頼るところがなく、こちらにやってまいりました。お願いがあります。どうかこのマエル王子を保護してください」
彼女の背中に隠れるようにして、まだ幼い男の子が立っていた。トールマンだと十歳ぐらいかな。聡明そうな顔立ちだ。どことなくウの国の摂政王太子に似ている。王子はおびえた様子であたしを見上げていた。オディール卿はボロボロになった旅装で、王子をかばうように立っている。
「わかった。王子さまを守っての脱出、大変だったね。食事して、汗を流して、今日はゆっくり寝なよ。そのあとのことは明日、ゆっくり相談しよう。イヴェット、用意して」
あたしの言葉に、オディールはこらえきれず涙を流し、深々と頭を下げた。その姿にあたしは胸が締め付けられるようだった。
イヴェットに案内されて二人が姿を消す。あたしはすぐにブリュノに口述筆記させ、アルチュールへウの国のマエル王子が亡命してきたことを伝える手紙を書いた。カミーユはこれでアの国を攻める口実ができたと喜ぶんだろうな、とあたしは少しばかり冷めた目で考えた。彼は今じゃシンジケートの影響力の拡大ばかり考えているようだ。
使者にはポロフレの酒場の歌い手に執心している若手の将校を指名した。人生はなにがあるかわからないから、若いうちに楽しんでおけよ。
アルチュールの、というかカミーユの対応は早かった。ポロフレで軍議が開かれるというのであたしも参加することになった。ジェラール将軍の先鋒、アルチュールの本隊、そしてチの国の援軍、さらにあたしの部隊がアの国に占領されたウの国領域へ進撃することが決まった。
あたしはマエル王子とオディール卿を預かっているし、最前線のウナルベクサにいるのだから、当然あたしが先陣だと思っていたのに、王子を護衛して後方にいろ、だって。
編制を決めた軍議のあと、チの国のリオネル王に呼び止められた。
「ジュヌヴィエーブ卿、お話が……」
リオネル王はいつも穏やかな話し方をする。
「いかがなされました? 殿下」
「お尋ねしたいことがございます。ベルナール卿には、その、親しくしておられる女性はおられますか?」
予想外の質問に、あたしは思わず首を傾げた。
「そういうの、いないと思いますよ」
「それならば、私の娘と縁組など、可能性はあると思われますか?」
リオネル王には七人の子どもがいる。女男女女男女男だ。上の二人はすでに結婚している。王はシンジケートの古参と婚姻関係を結ぶことで王国の安泰をはかりたいんだろう。カミーユにはもうルイーズがいるしな。あれ?
「ベルナールはムリだと思いますよ。そういうのに関心ないですから」
あたしの返答に、王は残念そうな顔をした。
「そうですか」
「でも、どうしてベルナールなんですか? アルチュールも独り身ですよ?」
あたしがそう指摘すると、王さまは唖然とした表情を見せ、すぐに噴き出すように笑い出した。
「ご冗談を」
王さまは変な顔をして笑いながら去って行った。いったいなんだったんだ、今のやり取りは?
出陣したときは、あたしは貧乏くじを引かされたと思っていた。アの国は軍を引き、あっという間にウの国の東部地域を回復した。
ウの国中部の平原が決戦の舞台だった。あたしの部隊が戦場に到着する前に、すでに戦端が開かれていた。最初はこっちの方が優勢だったらしい。ジェラール将軍が着実に歩兵を押し上げる。
しかし突如現れたアの国のケンタウロス部隊があたしたちの軍の、両翼の騎士隊を粉砕した。包囲される危機が生まれる。
伝令からケンタウロスが現れたと聞いて、あたしは嫌な予感がした。サージェントのエルワンに騎兵だけを選抜させて、戦場へ先行することにした。マエル王子とオディール卿も連れていく。
戦場ではアルチュールの本隊も戦闘に参加していたが、ケンタウロスの弓射にいいようにあしらわれている。歩兵では彼らの素早い動きには対抗できない。あたしはアトゥル=アトゥルの準備を命じた。騎上で扱いやすいように、槍にニカワで軽く接着してある。
「敵前百メートルで一射、その後抜剣して突撃、いいね」
了解の印にみんなが右手をあげる。よし。あたしは弓を引き絞り、天空へ鏑矢を放った。戦場に甲高い音が響く。騒がしい戦場に一瞬の静寂が訪れた。矢を追うように頭をあげているものもいた。
「あたしにつづけ!」
あたしは弓をかまえ、馬を走らす。部下たちは右手にアトゥル=アトゥルと槍を、左手に手綱を握ってあとに続く。目標は本隊に攻め寄せるケンタウロス部隊。百メートル。あたしはまた鏑矢を、今度は水平に放った。一人のケンタウロスの胸甲に当たり、衝撃で倒れる。それを合図に、槍の雨が降り注ぐ。敵は突如として現れたあたしたちに驚き、恐慌に陥った。
「突撃!」
あたしもエストックをかまえ、突撃する。ケンタウロスは逃げるのも早い。追撃する。しかし逃走するケンタウロスの一騎が真後ろに矢を放ってきた。鮮やかな青緑色のやつだった。危険だ。あたしは追撃を止め、部隊を手元に戻した。ケンタウロスの大半は戦場から離脱したが、恐慌はアの国本隊に伝染しつつある。その中でオディール卿が叫んだ。
「マエル王子が、王位を請求するために戻ってきたぞ!」
それが決め手になったみたい。アの国に編入されていたウの国の将士たちが一斉に武器を捨てた。アの国の軍は潰走に近い状態で引いていった。こちらにもそれを追撃する余裕はなかった。
ポロフレでヴァランタン卿がシンジケートに加わっていた。
「私など……」
と固辞していたが、西部地域の騎士たちをまとめ、アルチュールに最初に協力してくれた騎士だから、アルチュールは彼をとても大切にしていた。実の兄のように慕っていたようでもある。みんなでの食事のとき、王公に囲まれて居心地悪そうにしていたのが、ちょっと気の毒だった。
そのヴァランタン卿が、この会戦で戦死した。重騎士隊を率いて、アルチュールの本陣近くで待機していたが、ケンタウロス部隊の猛攻で友軍劣勢の中、アルチュールを守るために無謀な突撃を敢行して命を落とした。彼と彼の騎士隊が命を賭して時間を稼いでくれたおかげで、あたしの部隊が間に合った。彼がいなければアルチュールは死んでいたかもしれない。彼には感謝してもし足りない。
アルチュールにも深い感謝の気持ちがあったから、子どものいない彼の弟を取り立てて近習とした。
この会戦で、戦場を保持したのはこちら側だったけど、損害はこちらの方が多かったと思う。レティシアがウナルベクサから迅速に人員や物資を送りこんでくれたおかげで、なんとかウの国東部地域を確保し、ウの国を再興させることができた。でも、マエル王子の宮廷にのこのことやってきたウの国のおエラいさんたちは、王都で即位式をあげないと、王にはなれませんと、ワガママを言うのだった。
会戦後、人と馬の調達のため、ポロフレに行く。現在のシンジケートの中心地はワの国の王都ポロフレになっている。ウナルベクサはシンジケートの西部の重要拠点といった位置づけだ。
王都では先の会戦はわが軍の大勝利ということになっていて、お芝居にもなっていた。カミーユの工作だ。彼は時おり芝居の台本も書いている。今回のも彼の台本のようだ。脚本リシャールと彼のペンネームが美しいポスターに書いてあった。
あたしは人気の劇場に人目を忍んで見に行った。舞台の上では、王都で一番人気のある美人女優のアイリーンが付け耳をつけて、あたしの役をやっていた。
ふと桟敷席を見渡すと、見慣れた顔をあった。部下だった元将校だ。馬好きの優秀な奴だったけど、戦場で怪我をして退役を余儀なくされた。今は馬の調達を手伝ってもらっている。暗くてよく見えなかったけど、隣に綺麗なドレスを着た女性がいた。席には椿が飾られていた。
「ジジさまのお知り合いの方で、執事をお探しの方はおられませんか」
居候している宮廷内のソファで寝ころんでいると、従者のイヴェットが話しかけてきた。屋敷を構えると維持管理などメンドウごとが多い。それに比べて宮廷内での暮らしは規則がうるさいけど、気楽でいい。
使用人もイヴェットとカリーヌがいれば事足りる。あと男手が欲しいなと思うけど、宮廷内の誰かに頼めばいいとという甘えから、切迫感がないままイヴェットに人探しを頼んでいる。
この日、彼女は使用人紹介所に行って来たそうだ。そこで執事の仕事を探している青年と出会ったらしい。ある大貴族の所で第二執事やってたけど、仕事を失ったそうだ。
「なんて名前?」
執事を探してる知り合いの心当たりなんかなかった。あたしにそんな相談事を持ちかけてくるものなんかいない。だから、なんの気なしに尋ねてみた。
「エドウィン、と申しておりました」
その名を聞いてあたしは飛び上がった。確かに数センチ浮いていたと思う。エドウィン! 彼とは前の周回で一緒に働いたこともある。とても優秀な執事だ。彼に任せておけば家政のことなど、なにも心配することはない。こんなところで彼に会えるとは。
「あたしが雇う。すぐ連れてきて。ああ、それと執事のためには屋敷がいるな。カミーユの所に行ってモルガンに適当な屋敷が売りに出てないか聞いてきて」
あたしは矢継ぎ早に指示を出した。
ポロフレのアルチュールの屋敷で、あたしたちは丸いテーブルを囲んでギョームの料理を堪能している。テーブルにはアルチュール、ベルナール、レティシア、カミーユ、オロール女王、ジェラール将軍、リオネル王、オディール卿、そしてあたし、さらにギョーム。この十名が現在のアルチュールのシンジケートのメンバーだ。
丸いテーブルだからどこが上位ということもない。いつも適当に座る。ただ、ギョームだけは別だった。調理室に近い席が彼の定位置だ。みんな忙しいから、なかなかみんなで集まることってないんだよね。
今日の料理にブラン・マンジェという料理が出た。前に食べた時は鶏のブイヨンをゼラチンで固めたものだったけど、今日のは牛だった。そういえば、前の周回で「カフェ「ウの国」」で食べた時はアーモンドの味のするデザートだったような気がするけど、違う料理だったかな。
周回を重ねると記憶が混濁する。忘れたくないことでも忘れてしまう。なにを忘れたか、それすらわからないのがつらい。ギョームの美味しい料理を食べながら、あたしは感傷的な気分に浸っていた。
食後、度数の高いお酒を舐めながら、アの国をどうするかの話になった。
「アの国にケンタウロス部隊がある限り、どうにもなりませんな」
ジェラール将軍は手厳しい。人馬一体の、弓術に優れた部隊の恐ろしさを、彼が身をもって経験した。その言葉には彼にしか出せない重みがあった。
「こちらの騎兵で対抗するのはいかがですか? 現にジュヌヴィエーブ卿の部隊が彼らを駆逐したのでしょう?」
ワの国のオロール女王が質問する。
「トールマンは弓が壊滅的に下手だから、ケンタウロスには対抗できません。あたしが追い払うことができたのは相手が油断していたからです」
あたしが答える。正面から戦ってケンタウロスに勝てるわけがないのだ。弓の技術だけならエルフの方が上かもしれないが、乗馬の上手いエルフなどそうはいない。騎上戦闘はそんなに簡単なものじゃない。あたしがそれなりに馬に乗って戦えるのは、周回を重ね、異世界まで行って馬に乗っきた経験の量が、他と隔絶しているからにすぎない。
「ケンタウロスは、それほどアの国と仲がいいわけでもないと聞くぞ」
ベルナールが唐突に話に加わった。みんなの視線が彼に集まる。
「彼らはアの国から穀物や布帛を輸入している。彼らは相手が弱体なら略奪もするらしいが、現在の所、アの国の方が強大で、彼らの家畜を育てる牧草地もアの国の農民によって侵食されているという。ケンタウロスとアの国を分断することは可能なんじゃないか」
「さすがはベルナールだ」
アルチュールが感心してうなずく。
「一考の価値はあるな」
カミーユも乗り気だ。
「交渉するとして、誰を行かせますか?」
オロール女王がみんなに尋ねる。シンジケートの外交交渉は主に女王の役目なんだけど、さすがに女王さまに荒野を行かせるわけにいかないよな。当人も自分で行く気はないようだ。
「あたしが行くよ」
あたしがそう言うと、アルチュールが即座に反対した。彼の顔に不安の色が浮かんでいる。
「危険だ。別の方法を考えよう」
彼の発言をさえぎるように、あたしは微笑みながら言った。
「大丈夫だよ。心配して待ってて」
結局、ベルナールの提案を、あたしが実行することになった。
旅に出る前に、どうしても片付けておかなくてはならない問題があった。アンナのことだ。
オロール女王とオリビエ卿とあたしで相談して、女王の居室でコーヒーを飲みましょう、という口実でカミーユをおびき出し、そこで会わせることにした。
女王とカミーユとオリビエ卿がテーブルを囲み、コーヒーを飲んで落ち着いたころ、会話が途切れたのを合図に、女王が穏やかな声で告げた。
「私たちが長らく探し求めていたルイーズを、ジジが見つけてくれました」
その言葉とともに、あたしはルイーズを連れて部屋に踏み入れた。ルイーズは控えめにあたしの後ろに立っている。カミーユの目が扉の側のあたしたちに釘付けとなった。
「本当にルイーズなのか」
彼は信じられないという疑いの目つきで、彼女を凝視する。きっと彼も何度かアンナを見かけたことがあるのだろう。でもやがて目つきが変わっていった。彼にはもうわかったはずだ。
「はい」
ルイーズは恥ずかし気に目を伏せながら、はっきりとそう答えた。
「女王殿下がご確認遊ばされた。カミーユ、間違いなくルイーズだ」
オリビエ卿が宣告するように告げると、カミーユは椅子から立ち上がり、ルイーズに向かってゆっくりと歩み寄っていった。
「ルイーズ、会いたかった……」
そう言って、彼は彼女を強く抱き締めた。一瞬、困惑した様子のルイーズだったけど、彼女もすぐにカミーユの背に腕を回した。互いの存在を確かめ合うように、二人は強く抱き合ったまま、微動だにしなかった。
女王は静かに涙を流し、オリビエ卿もまたハンケチで目元をぬぐった。四人とも感動の再会に涙を流している。その光景をを眺めながら、あたしは一人場違いな感じもした。けど、カミーユの腕の中で恥ずかしそうに、でも心から嬉しそうに泣きながら微笑むルイーズの顔を見たら、そんな些細なことはどうでもよくなった。前の周回では叶わなかった友人の幸せがここにある。周回を重ねることも、悪いことばかりじゃないかもと、少しだけそう思った。
その後、五人で今後のことを話し合った。ルイーズはアンナという偽名でクリティザンヌをしていたことも包み隠さず話した。カミーユは、そのことをまったく気にする様子もなく、ただ彼女の身を案じるばかりだった。ルイーズの過去は彼が改竄することになった。
彼女はあたしの新しい屋敷で一緒に暮らしている。その日からカミーユはあたしの屋敷に入り浸るようになった。こっちは旅の準備で忙しいってのに。
すぐにレサト伯の名誉回復がされた。カミーユは忘れていたんだか、気にしていなかったのか、いままで放置されていた彼の父シャウラ伯の名誉も回復された。カミーユは公式にシャウラ伯の子を名乗るようになる。で、現シャウラ伯と故レサト伯の令嬢との婚約が発表された。カミーユに似合わない性急さで事が進められていく。ルイーズは心の底から幸せそうだった。
サージェントのエルワンから、馬の調達を請け負ってもらっている元将校の恋人が、ポロフレで女性用の服屋をやっていると聞いて寄ってみた。
「自分らには用のないとこなんで、姐御が代表して金を落としてきてくださいよ」
とエルワンは言ってた。
侍女のカリーヌを連れて、王都の賑やかな一角にあるその店を訪れた。店構えは控えめだったが洗練された雰囲気が感じられた。お忍びの貴婦人がちょっとかわった服を仕立てに寄ってみた、みたいな設定で店の扉を開けた。
そこにいたのはナナだった。
前の周回で同僚のクリティザンヌだったひと。手先が器用で、あたしたちに素晴らしい帽子を作ってくれていた。ブリュノと恋に落ち、クリティザンヌを辞めることも考えていた彼女が、今回は自分の店を構えている。彼女は服屋をやりたいって言ってたっけ。夢がかなって良かったね、ナナ。
「馬に乗れるような服を作りたいんだけど」
そう切り出すと、彼女は目を輝かせた。
「私も乗馬が好きなんですよ」
とか言ってる。パートナーの影響だな。彼女は付き合っている相手の影響を受けやすい。ブリュノのときなんかは詩の朗読をよく聞かされていた。思い出すとおかしくなった。
「長い旅行に出るつもりだから、活動的なのがいいな。あとはお任せするよ」
採寸するナナに声をかけた。服が完成するまで、旅の準備をして過ごした。
ウの国の東部から北方に向かい、アの国の北辺を回り込んで西へ向かい、ケンタウロスの夏の営地に入った。点々とフェルト製のテントが張られている。その周りにはのんびりと草を食むヒツジやヤギたち。あたしたちは族長のテントの一つに居候することになった。
族長にはヴィルジニーという名前の若い娘がいた。彼女は青緑色の衣服を好んで着ていた。先の会戦で真後ろに矢を放ち、あたしを殺しかけたのが彼女だった。
「馬上で真後ろに弓を放つなんて、すごい腕前だね」
あたしが感心して言うと、彼女は涼しい顔で恐ろしいことをのたまわった。
「でも、当たらなければ意味ないです」
そんなことを話して、笑い合っていたらいつの間にか打ち解けていた。
彼女とは互いに弓術を教え合った。エルフとケンタウロスは種族として生まれながらにして、弓の腕に優れている。けどその技法はまるで違うことを学んだ。また彼女から鷹狩を教えてもらった。イヌワシを訓練してウサギやキツネ、子ジカまでつかまえる狩りの手法だ。彼女が大切にしていたイヌワシをもらった。
同盟締結のための外交交渉とか言いながら、あたしはただ、この異邦で友達を作り、馬乳酒を飲んで遊んでいただけのような気がする。細かいことはブリュノがやってくれてたのだと思う、たぶん。
アルチュールのことを話してたら、ヴィルジニーのお父さんの族長さん、彼のことがとても気に入ったみたいで、ケンタウロスの部族全体をまとめ上げて、あたしたちに協力することを約束してくれた。アの国にはかなりの憤懣があるようだった。
あと、会戦で戦った騎兵の将軍をほめていた。あんな下手くそなトールマンの騎兵を指揮して、我々を打ち破るなんて、あんな将軍の元で戦いたいとかなんとか。あたしですって言うとウソっぽいから黙っていた。
同盟を結び、いよいよポロフレに帰るという日、族長が娘のヴィルジニーを連れてってくれって言いだした。アルチュール大王さまと縁続きになれば、我らの同盟は永続するだろうって。
ちょっと待ってよ。この状況、もし断れば同盟は破談っていうこと?
「ジュヌヴィエーブ卿、貴方のことは我々も調べました。騎兵指揮の手腕、見事なものです。貴方のお気持ちも存じております。心配することはありません。我らの文化は一夫多妻制です。娘は第一夫人でなくともよいのです」
族長が朗らかに笑いながらそう言った。なにを言ってるんだ、このひと?
あたしは、すでに旅装を整えて現れたヴィルジニーに尋ねる。
「ヴィルジニーもそれでいいの?」
彼女もまた、屈託のない笑顔で答える。
「私もアルチュール大王さまに興味があるわ。貴方が好きなひとなら、きっと私も好きになれると思う。それにジジ、あたしが大王さまの妻になればずっと一緒にいられるじゃない?」
二人ともなにを言ってるんだ? ケンタウロスの文化はよくわからん。あたしが困惑して周囲を見渡すと、イヴェットもブリュノも笑っていた。
結局、あたしはヴィルジニーを連れてポロフレに向かうことになった。道中、ずっとヴィルジニーとおしゃべりしていた。彼女の瞳は好奇心に満ちている。これから始まる新しい生活に心を弾ませているのが、あたしにはわかった。
あたしが、自分の花嫁を連れて帰ったと知ったときの、アルチュールの顔ったらなかった。
ポロフレの屋敷に戻り、執事のエドウィンに、明日勇者府に帰還の挨拶にうかがうと使者を送らせると、まもなく馬を飛ばしてアルチュールがやってきた。護衛の騎士を振り払うようなスピードだったって。
「ジジ、無事でよかった……」
息を切らしたアルチュールが玄関ホールで出迎えたあたしに言う。
「ああ、アルチュール、ただいま」
あたしが素っ気なく答える。明日行くって伝えたのに。彼はしばらくしてヴィルジニーの存在に気付いたようだった。
「ジジ、こちらの女性は?」
「彼女はヴィルジニー。君の花嫁さ」
アルチュールは声にならない叫び声をあげたみたいだった。あたしは
「疲れたから寝る」
と言って、エドウィンにアルチュールを追い出させた。ヴィルジニーのお世話をカリーヌに任せて、久しぶりに自分の寝台でぐっすりと寝た。
翌朝、朝食のときにルイーズがやってきた。あたしがいない間にカミーユと結婚して屋敷を出て行ったんだって。早すぎるよ、カミーユ。あたしもルイーズの結婚式に出たかったな。
朝食後、勇者府に行き、無事帰りました。同盟交渉は成功しましたと報告した。アルチュールは苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。
その後食堂に集まり、いつもの丸いテーブルで、シンジケートのメンバーに同盟の条件、アルチュールとヴィルジニーの婚姻の件について話した。カミーユは腹を抱えて笑い転げている。こいつはルイーズと結婚してから人間味を取り戻しつつあるようだ。
オロール女王は
「あらあら、まあまあ」
とか言ってる。
聖堂騎士のオディール卿は、
「ジジはそれでよろしいのですか?」
とあたしに聞いてくる。
ウナルベクサ大司教のレティシアは
「ジジがいいって言うのならいいんじゃない」
と言ってるし、ジェラール将軍は
「これは素晴らしい、外交上の成功ですね」
って言ってる。誰もアルチュールの意見なんか聞いていない。
「ジェラール将軍の言うとおりだ。これは目覚ましい成功だ。ジジ、よくやってくれた」
ようやく笑いを抑え込んだカミーユが言う。
「カミーユまでなに言ってんだよ」
アルチュールがカミーユに抗議の視線を向けた。
「いやいや、アルチュールも身を固めるときが来たってことだよ。めでたいじゃないか」
カミーユがアルチュールをなだめるように言う。チラチラとあたしを見る目つきが気に入らない。
結局、ヴィルジニーはアルチュールの屋敷に一緒に住むことになった。当分の間、顔なじみのイヴェットに彼女の世話を頼むことにした。
シンジケートのメンバーで、その日に参加していなかったチの国のリオネル王のことをベルナールに聞いた。王は病に臥せっているらしい。ベルナールは結婚話は断ったけど、王さまの相談をよく受けているそうだ。
リオネル王は、死後王国を七人の子どもに分割する遺言書を書いたということだ。チの国が大きいままだとシンジケートに叛意を疑われ、やがて滅ぼされるのではないかという疑念を抱いていた。アルチュールはそんなことはしないと思うけど、その後のことはわからない。カミーユならやりかねないと思う。王国を分け、シンジケートの脅威と思われないよう、先手を打ったのだ。
ベルナールからその話を聞いた数週間後、リオネル王は静かに息を引き取った。王国は遺言通り、それぞれ二州ほどの領地を持つ七つの大公国に分割され、大公たちは名誉称号として王子、王女を名乗ることが許された。
ケンタウロスの所から戻ってきたあと、ナナのお店に行って身分を明かした。おかげで仕事がうまくいったと感謝を伝えた。それ以来定期的にあたしの屋敷に来てもらって服を作ってもらっている。彼女の作る服はどれも仕上げがよく、活動的で、あたしの好みをよく理解してくれていた。
その日はヴィルジニーの服を作るために屋敷に彼女を呼んで寸法を測ってもらっていた。そこへブリュノが書類の束を抱えてやってきた。二人がお互いの存在に気付き、視線が交差する。その瞬間、あたしは思わず息をのんだ。。前の周回でこの二人は深く、狂おしいほどに愛し合っていたのをあたしは知っている。クリティザンヌのナナが廃業を考えるほどに、そして彼と彼の家族のために別れる決意をしたことも。あのときと同じように、運命の歯車が回り始めるのではないかと、あたしは二人の間になにが起きるのかを息を止めて見守った。
でも、二人の間に起きたのは、軽い会釈だけだった。
今、ナナは支援者を見つけて、自分の店を持っている。ブリュノもあたしの将軍府の首席書記官として自分の仕事にそれなりのやりがいを感じているのだろう。二人はそれぞれの道を歩んでいる。あのときとはなにもかもが違う。二人を取り巻く環境も、彼らが歩む道も、すべてが変わっていた。かつてあれほどまでに深く愛し合った二人だというのに、互いに相手を気にかける様子もなく、それぞれの日常へ戻っていく……。
二人を見て世の中に必然なんてないんだと思い知らされた。ちょっとした行動の違いで生み出される偶然の出会いが、人生を、いや世界そのものを変えてしまうのだと。
二人の姿から、そんな真理をかいま見たような気がした。
『同時内史』によると、雪解けのぬかるみが乾き、春風が吹き抜けて新緑が萌え始めるころ、攻撃が再開された。
旧ウの国の領域は、若きマエル王子の宮廷と、勇者府のカミーユの周到な政治工作によって、大半が味方に付き、アの国の勢力はウの国から完全に駆逐された。
マエル王子は王都を奪還し、その大聖堂において戴冠式を挙げた。戦役継続中の慌ただしい時期ででもあり、その儀式は万全とは言えなかったが、盛大に執り行われた。民衆の歓呼の声は、疲弊し王国に新たな希望の光を灯すものだった。
戴冠式を終えた勇者の軍勢は、そのままアの国の領域に侵攻する。ウの国の塩鉱ドワーフの協力を得て、国境の築かれた要塞群は、戦わずに無力化され、勇者軍はアの国の中核領域へと深く分け入った。そして湖に面するレプス州アルネブがこの戦役の雌雄を決する決戦の舞台となった。
決戦に先立ち、湖に接する沼沢地帯に、チの国のダック自治領のスクルプトル大公グレゴワールの率いる部隊が陣地を築いた。攻城戦に使われる大型の兵器が次々と運びこまれ、容易に踏み込むことのできない湿地帯が勇者軍の堅固な左翼を形成する。
中央では、百戦錬磨のジェラール将軍が、横隊で並ぶ本隊の指揮を執っていた。故リオネル王の怪力の三女、セシル王女もここに陣を敷き、愛用のハルバードを地面に突き立て、敵陣を見据えている。
そして右翼にはジュヌヴィエーブ将軍の精鋭騎兵と誇り高きケンタウロスの混成部隊が配置されている。前回はアの国方の恐ろしい敵であったケンタウロスは、ジュヌヴィエーブ将軍の活躍によって、今回は心強い友軍となった。
勇者アルチュールの座す本陣には、ヴィルジニー率いる近衛ケンタウロス部隊が控えている。彼女の部隊は、戦線のほつれを修繕し、決定的な局面に投入されるべく控置されていた。
戦闘が始まる。左翼では、ダック部隊が沼地の地の利を最大限に活かし、攻城兵器を操作して、巨石を放り、バリスタで太矢を撃って敵軍を混乱させた。時おり沼地から奇襲をしかけ、敵の神経をすり減らしていく。
右翼ではジュヌヴィエーブ将軍の騎兵が敵騎兵を拘束している間に、ケンタウロス部隊が大きく迂回し、その背後から攻撃した。無数の矢が降り注ぎ、敵部隊は瞬く間に壊滅した。その後、騎兵とケンタウロスは連合して、敵本隊の背後を衝くべく機動する。そのタイミングを見計らって、ジェラール将軍は中央の歩兵を前進させる。
包囲が完成する前に、アの国の戦線は崩壊し、潰走がはじまった。
ジュヌヴィエーブ将軍の騎兵、ケンタウロス部隊、そしてヴィルジニー率いる近衛ケンタウロス部隊が追撃に移る。彼らは戦果の拡大を目指し、退却する敵軍に容赦なく襲いかかり、反撃を粉砕し、アの国の戦力を完全に壊滅させた。そして、この決定的な勝利の中で、ヴィルジニーはアの国の国王を捕えた。
旧アの国は勇者府の占領下に置かれることになった。アの国の貴族たちは、その領地を半減されたものの、多くは存続を許された。アの国の国王も二州の領有が認められ、王号の保持も許されるという、寛大な処置がとられた。
アの国への遠征の帰路、ウナルベクサでアルチュールの皇帝即位が宣言された。皇帝というのは王さまの上位の称号として新しく作ったものだ。ベルナールとブリュノが、古い書物からそれらしいものを引っ張ってきて、でっちあげたものらしい。王の中の王、至高王ぐらいの意味なんだって。これで勇者府なんていう奇妙なものは必要なくなった。で、皇帝の支配する領域が帝国。女神さまの首飾り諸国六カ国のうち、アの国、ウの国、ワの国、イの国、チの国の五カ国がすでにアルチュールの支配下にあり、残るはケの国のみ。そのケの国からも、王太子のジェローム王子が祝賀の使節としてやってきた。トールマンだけじゃなく、ケンタウロスもエルフもドワーフも、その他首飾り諸国に住まう様々な種族の代表が、旧魔王城、ウナルベクサに集まった。
ベルナールは、この光景を目の当たりにして、
「ようやく混沌と秩序の天秤が均衡してきたな」
とか言ってる。要するに彼なりに喜んでるって事だろう。
アルチュールが皇帝となったのを期に、シンジケートやその他の勲功のあったひとたちにいろんな称号やら領地が与えられたけど、メンドウなんで省略。皇帝即位に伴う祝賀会には千人ほどの招待客がいて、宮廷料理長のギョームが腕を振るっていた。ルセット作成のとき、
「ねぇ、ギョーム。あたしトマトとエシャロットのソースのかかったヒラメとか、ジャガイモにバターをのせてオーブンで焼いたのを食べたいな」
ってあたしがお願いしたら、
「トマト? ジャガイモ? ジジさま、それは毒がございます。そのようなもの、召し上がってはいけません」
と顔をしかめて反対された。以前の周回ほど変化は激しくない。トマトやジャガイモもが毒だと思われている時代がまだ続いている。アルチュールの事業は秩序勢力の増大に大いに貢献しているようだ。あたし、生きてるうちにまたポムアンナを食べることができるかな?
祝賀会は単なる饗宴じゃなかった。それは新しい帝国の外交の場でもあった。帝国内の諸地域や諸種族、そしてケの国の要人たちと、オロール女王、カミーユがいろいろな話し合いをしている。女王は巧みな話術と優雅な振る舞いで人々を魅了し、カミーユは冷静な判断力で実務的な交渉を進めている。ルイーズは女王の傍らでその手伝いをしていた。カミーユと結婚した彼女は、今や大公夫人だ。
ウナルベクサでアルチュールが皇帝に即位すると、ここがそのまま帝都となった。
かつての魔王城のあったウナルベクサが帝都に定まると建設ラッシュがはじまった。まず皇帝アルチュールの宮殿。そして諸国の王たちの宮殿。さらには帝国の貴顕たちの邸宅が次々と建てはじめられ、帝都は喧噪に満ちていた。
帝都には首飾り諸国全土からひとが集まってくる。貴族たちの絢爛な屋敷だけじゃなく、市民の生活もまた、確実に豊かになってきた。市場ではポロフレでも見かけなかった食材が並んでいる。帝国全土から集められた見たことのないチーズをそろえている店もできた。都市自体が活気に満ちている。
帝国宰相となったカミーユの宰相府も忙しそう。旧来のそれぞれの文化や慣習を尊重したり、帝国全土に統一的な布告を出したりと、大変気をつかう仕事だそうだ。そのことはルイーズから聞いている。
みんな忙しくなっても、シンジケートのメンバーはときどき集まってギョームの料理を堪能しながら情報交換をしている。現在のメンバーはアルチュール、ベルナール、レティシア、カミーユ、オロール女王、ジェラール将軍、オディール卿、マエル王、ヴィルジニー、セシル王女、グレゴワール大公、ジェローム王太子、ギョーム、そしてあたしだ。
チの国の故リオネル王の三女のセシル王女は、王の死後、王国が七つに分割されて生まれた大公国の一つの当主だ。でも彼女は領地の経営を兄弟姉妹に任せ、旧チの国を代表して皇帝の宮廷に出仕している。
セシル王女はベルナールの嫁候補だった。もっともそう思っていたのは故王だけだったけど。彼女はあたしを慕ってくれているし、父王の信頼していたベルナールの所にも通っている。力が強く、ハルバードの使い手で、トールマンにしては弓もうまい。穏やかなリオネル王の子どもたちの中では異質な存在だ。もしかしてベルナールとの縁談は、変わり者同士を結び付けよう、という親心だったのかも。
ダック自治領のスクルプトル大公グレゴワールはこの間のアの国との会戦で大きな勲功をあげた、湿地戦のエキスパートだ。宮殿に来るときはルイーズが通訳を務めてくれる。
ケの国のジェローム王太子は帝国に属していない唯一の独立国の次期国王で、半ば人質みたいにウナルベクサに送りこまれてきた。でもアルチュールが彼のことを気に入り、帝国での重要な仕事も任されている。
ギョームの料理を囲んでの、今日の議題は結婚式の話だった。
えっ? 誰の?
あたしとアルチュールだって?
えー、聞いてないよ。だってアルチュールにはヴィルジニーがいるじゃん。
でも、ヴィルジニーを含め、誰もあたしの抗議なんか聞いちゃいなかった。
アルチュールが指環を取り出す。
指環が目に入った瞬間、時間が止まったように感じた。
「結婚してくれないか、ジジ」
アルチュールの声がいやに遠くから聞こえてくる。彼がなんて言ってるのか、よく理解できない。
アルチュールに対しては冷静になれないけど、一方で冷静に視界に入るものを観察している自分がいる。カミーユが下卑たニヤニヤ笑いをしている。レティシアが優しく見守ってくれている。
前回がああいう結末だったから、今回、彼とこうなることは諦めていたけど……。でも、これは必然なのかな。
涙でにじむ視界のなか、あたしは震える声で、
「はい」
と答えて、そっと左手を差し出した。
それからのことはあまり覚えていない。
ドレスはウナルベクサに店を出したナナに真紅のものをお願いした。
純白のアルチュールと真紅のあたし。たくさんの絵に描かれ、お芝居にもなり、あたしもそれを見たけど、どうにも現実感がない。結婚式はウナルベクサ大司教のレティシアが執り行った。その後の祝宴は一カ月続いたということだけど、ただ幸せだったことしか覚えていない。あたしが東皇后、ヴィルジニーが西皇后と呼ばれることになった。
帝国の支配のもと、首飾り諸国にようやく平和が訪れ、繁栄の兆しがあちらこちらで芽吹きはじめたころ、誰も予想していなかった知らせが帝都ウナルベクサに届いた。ケの国が反乱を起こしたというのだ。ウナルベクサにいるジェローム王太子の弟が実の父である国王を殺し、帝国に宣戦を布告したという知らせだった。
なにが不満なんだろう? アルチュールに従っていれば平和に豊かに暮らしが約束されているのに。
カミーユに聞いたら、大陸が平和になって流通が整備されると、地域の有力者たちが力をつけて、昔からの貴族たちの権威が落ちていくんだって。うちらはその地域の有力者に従士って身分をあたえて、政権運営や軍事活動に参加させたんだけど、ケの国は彼らを旧来のやり方で押さえつけようとしてうまくいっていない。さらに安価で良質な帝国産品がケの国に流入して、特権を持つギルドの影響力が低下している。あれやこれやで社会不満が高まり、その不満を外に向けるために宣戦布告したんだって。自滅の道じゃん、それ。
ジェラール将軍が中心になってケの国遠征の戦略が練られた。あたしも行くつもりだったけど、カミーユに
「東皇后陛下は私とともに帝都で吉報をお待ちください」
って一切の反論を許さない毅然とした口調で言われた。西皇后のヴィルジニーはアルチュールと一緒に行くのにずるいよ。
やがて帝国軍が出立した。皇帝アルチュールが親率し、オディール卿、マエル王、ジェラール将軍、ヴィルジニー西皇后、セシル王女、スクルプトル大公、そしてジェローム王太子が付き従う。
マエル王は、アルチュールの所に来たときは、まだほんの子どもだった。オディールに甘え、またオディールも普段の、聖堂騎士としての凛々しい姿からは考えられないくらい過保護に甘やかし続けていた。アルチュールは子ども好きだけど、可愛がり方を知らない。十歳ほどの子どもに木刀を持たせて打ち込んで来い、なんてやってた。魔王を倒した勇者に無邪気に打ち込んでいく十歳児なんていないっつーの。で、あたしはオディールの目を盗んでマエルを連れ出して、乗馬や剣の修業と称して、さんざん遊んでやった。そのたびにオディールからは、
「王子さまに怪我させないでください」
といつも叱られていた。マエルはあたしのこと、怖い叔母さんぐらいに思ってるんじゃないかな。でも身を守るくらいの剣術と乗馬は仕込んだと思う。そんなマエルも今では、ウの国の部隊を率いる立派な指揮官になっている。
帝国軍遠征中、あたしは退屈な日常を送っていた。皇后になってからはそう頻繁に外出することもできない。頻繁に? そう時々は女官長のイヴェットに見つからないようにこっそりとウナルベクサ市内に出かけている。カリーヌが、
「イヴェットさまに見つかったら叱られてしまいますよ」
なんて言いながらついて来てくれる。
ジョギングは宮殿の中でしている。走っているあたしを皇后付侍従長のエドウィンがいつも奇妙なものを見る目で眺めている。
そんなある日、カミーユとルイーズの間に子どもが生まれた。男の子だった。
「かわいいね。ルイーズに似てよかったね」
あたしは抱き上げた赤ん坊の小さな顔を覗き込みながら言った。
「陛下、ありがとうございます」
「昔のようにジジって呼んでよ」
「はい」
返事をする声も朗らかだ。順調な出産だったらしい。
「名前は決まっているの?」
あたしは尋ねた。
「いいえ、まだです」
「じゃ、あたしがつけていい?」
「えっ」
「アルチュールなんて、どう?」
側で聞いていたカミーユが慌てて口をはさむ。
「ジジさま、それはあまりにも恐れ多いことです」
「いいのよ。アルチュールは子ども好きだし。それに彼とも話し合っていたことなの。ねぇ、彼の名前継いであげて」
ルイーズはあたしの思っていることをわかってくれたみたいだった。あたしに微笑みかける。
「わかりました。お名前いただきます」
「おい、ちょっとルイーズ……」
こういうことは女同士の方が通じるみたいだった。カミーユはひたすら恐縮するばかりだった。
アルチュールが留守の間、ギョームを自由に使えると思っていたけど、そんなことはなかった。彼はあたしが食べたいと言った料理を出す気などまるでない。
「ジジさま、食材がなにを食べるべきなのかを教えてくれるのです。尻の穴に指を突っ込んで確認したところ、今日はホロホロ鳥が食べごろです」
と言って皿を出してくる。まぁ、なにを食べても美味しいから、さして不満はないのだけれど。
その日、一緒にテーブルを囲んでいるのはアの国の王だ。あたしたちと戦った父である先代の王を最近亡くしたばかりだ。彼はウナルベクサで育ったようなもので、アの国の王都ウナイチャシクルよりも帝都ウナルベクサの方を故郷のように感じているのだろう。
「父はウナイチャシクルにいたときは、いつも気が立っていました。緊張し続けていたのです」
彼は半ば人質なんだけど、マエルと同じように宮廷内で育った子どもだ。あたしを若い叔母さんぐらいに思っていて、気安く心の内を話してくれる。
「国を支配していたころは、いつ配下の貴族たちに寝首をかかれるかわからない。彼らを従わせておくためには強くなければならないと。私にも厳しい父でした」
大皿から料理を取り分けながら話を続ける。彼の声には抑えきれない寂しさがにじんでいた。
「皇帝陛下に降伏したのは、父にとって結果的には良かったのだと思います。晩年のウナルベクサでの父は、穏やかでした。家族にも優しくなりました。少し退屈そうでしたけど、でも心からの平穏を感じていたのだと思います」
そう言って目に涙を浮かべたアの国の王に、あたしは席を立って近づき、そっと肩を抱いて慰めた。
ケの国への遠征は、驚く早さで終結した。ジェローム王太子の従軍は、新王を見限るに十分な理由を貴族たちに与え、大半が新王を見捨てたのである。
湿地に囲まれた難攻不落の要塞は、スクルプトル大公の手によって瞬く間に陥落した。
さらにアの国方面からの山越えとい奇策は、双方の流血を最小限に抑えることに成功した。
ケの国の王都から逃亡した新王は、わずかな手勢で逃げ惑うも、最終的には部下の裏切りにあい、その命を落とした。王太子は無惨な首だけの弟と、悲劇的な対面を果たすことになった。
ケの国は、新王を殺害した裏切者と、前王殺しの首謀者数名の領地を没収されたほかは、そのまま王太子に与えられ、皇帝アルチュールの手によって王冠が授けられた。
ここに、女神さまの首飾り諸国はめて一人の支配者、すなわちアルチュール皇帝の元に統一された。彼によって長きにわたる混沌の時代に終止符が打たれ、その後の帝国が迎える空前の繁栄の礎が築かれたのである。




