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ジジのクリシェな冒険  作者: 万里小路 信房
第三章

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第33話(全36話) アルチュールのシンジケートによる国づくり

 魔王の支配から解放されたアクィル州。かつては魔王城と恐れられたウナルベクサ城がそびえるこの地は、王都ポロフレのあるスコルピウス州から見て西北西に位置している。西はウの国と、北はキグヌス大公領のセルフィヌス州、そしてアイ城のあるサギッタ州と接していた。北東にはイの国の占領下にあるリラ州が横たわり、南にはケンタウルス州、南東には西セルペンス州が広がる。西セルペンス州を抜ければ、オフィウクス州を経て、王都のあるスコルピウス州へと辿り着く。


 魔王が君臨していたころ、アクィル州の大部分から人々は姿を消し、州境に辛うじて襲撃を免れた集落がわずかに残るばかりだった。それが、勇者アルチュール一行により解放された。しかし彼らは王都に凱旋しなかった。


 ブリュノがその『同時代史』に記すところによれば、アルチュール率いるシンジケートは魔王討伐後、魔王城において自立を宣言した。彼らの主張は、混乱にあえぐ王国を救うために、というものであった。


 アルチュールたちが魔王を倒したという報せは、瞬く間に王国全土を駆け巡った。王国は未曽有の混乱の渦中にあったものの、魔王討伐の成功は、多くの人々の安堵と希望をもたらした。彼らは勇者と称えられ、王国各地で祝祭が催された。

 しかし、その一方で、彼ら一行が旧魔王城に兵を集め、王都へ攻め込もうという噂に対して、人々の反応は千差万別でだった。新たな軍事勢力の出現に恐怖するもの、新しい魔王に変わっただけさとうそぶくもの、混乱した王国に新しい秩序をもたらす英雄だと、根拠のない希望を見出すもの……。


 アルチュールは王国の混乱の根源は、王を廃したキグヌス大公にあると断じた。大公を除かなくてはならないと。それはカミーユが王国各地に放ったものたちが巧妙に広めた流言だった。さらにカミーユの手のものは、農民に土地を無償で与え、五年間税を取らないという、アルチュール名義の布告を王国全土に宣伝した。

 旧魔王城で自立しようとしている勇者たちの不穏な動きに、人々は当初、不安と恐怖を感じていた。

 だが、勇者一行の司教が、自ら農民たちと共に荒れ果てた土地を耕しているという話が伝わるにつれ、人々の警戒心は薄れていった。やがて旧魔王城へ人々が押し寄せ始める。


 アルチュールの元に集まる兵たちには、腕に覚えのあるものたちが多かった。魔王討伐の勇者を慕って集まってきたものたちもいれば、王国全土が戦乱に向かいつつある中で、嗅覚の鋭いものたちがアルチュールに賭けるためにやってきたものたちもいた。


 アルチュールたちが占拠している旧魔王城周辺の、西部地方の領主たちは彼らの動きを注視しているが、目立った動きを見せてはいない。ただアルチュールが兵を集め、一行の中の剣士が集めた兵を訓練して、大公軍の襲来を待ち受けているという話が飛び交うだけだった。


「剣士はアルチュールで、あたしはキャプテンなんだけどな」

 ジュヌヴィエーブは噂を聞いて、そんなことをつぶやいていた。




 魔王を倒して早々、あたしたちは今後の方針について話し合った。

「僕は、この荒れた土地を人々が安心して暮らせる場所にしたいと思う」

 アルチュールが真剣なまなざしでそう言うと、ベルナールがまだ幼さの残る顔で重々しくうなずいて、言葉を継いだ。

「ここはかつてアクィル地方のウナルベクサ城と言って、豊かな土地だったんだ。今は荒れているけど、どうにかなると思う。何年かかるかわからないけどな」

 彼の言うとおりだった。魔王城に来るまでの道中、視界に広がるのは荒涼たる風景ばかり。人の気配の途絶えた集落の跡、耕作の放棄された農地、その外側で、わずかな農地にしがみつくように暮らしている人々……。魔王城に積まれた膨大な食料は、おそらく周辺に存在していた村々から根こそぎ奪い取られたものだろう。魔王の略奪部隊はかなり遠くまで送られたと聞いている。


「人が必要だな」

 カミーユが静かに言った。なんだかんだと言って、あたしたちの中で一番実務能力の高いのはカミーユだ。アルチュールは理想家だし、ベルナールは知識はあるけど実行力がともなわない。レティシアは自分の関心のある事柄にしか動こうとしない。今、なにをしなくちゃいけないかを、誰よりも理解しているのは彼だった。

「王都が我々に討伐軍を送ってくるまで、およそ半年。その猶予期間に、この荒野に大公軍を迎え撃つ体制を築き上げなくてはならない」

 カミーユが、よどみない口調で場を取り仕切る。

「王都から「友人たち」を呼ぶよ。いろいろ役立つだろう」

 どんな「友人」なんだか。

「魔王討伐の成功を大々的に宣伝しなくちゃな」




「じゃ、私は周辺の村々を回ってくるわ」

 それまで黙ってみんなの議論に耳を傾けていたレティシアが言った。荒れた農地、誰も住んでいない住居跡を見て、一番心を痛めていたのは彼女だった。司教である彼女は、冒険に出る前は修道院で農耕を含む労働をしながら集団生活をしていたそうだ。だからだろうか、農業には人一倍深い関心を持っていた。

「そうだな。ついでに復興の計画を考えてきてほしい。それから、魔王を倒したってことも広めといてくれよ」

 カミーユがレティシアに言った。あたしは城にいてもやることがなさそうなんで、レティシアについていくことにした。

「あたし、レティシアの護衛につくよ。じゃ、行ってきます」

 あたしはレティシアの手を引いて、ひんやりとした謁見の間をあとにした。


 旧魔王城周辺、アクィル州の中心部には人の気配は全くしなかった。風が乾いた土を巻き上げて、あたり一面に荒涼とした匂いを運んでくる。このあたりのまともな地図なんてないから、レティシアは羊皮紙に自分で地図を書きこみながら進んでいく。時々馬から降りて、指先で土の感触を確かめ、舐めたりなんかしている。

 どれほど馬を走らせただろうか。ようやく州境の近くで、堀と土塁に囲まれた集落を見つけた。物見櫓の見張りがあたしたちを見つけたのだろう、土塁の中からざわめきが聞こえてくる。警戒の空気があたしの肌を刺すようだった。あたしたちが集落の門前に立つと、

「何者だ!」

 と、警戒に満ちた誰何の怒鳴り声が響いた。張りつめた緊張が感じられる。

「私たちは勇者アイ城主アルチュール卿の一行の者だ。勇者が魔王を倒したことを伝えまわっている。ここの代表の方にお会いしたい」

 レティシアが、よく通る澄んだ声で答えた。度胸がすわってんな、と思う。レティシアの言葉を聞いて、また集落の中がざわつき始めた。門の前に槍を持ったのが二人。門の上に弓を持ったのが二人。多少経験があるのかもしれないが、素人だ。なんて観察をしている間に、きしむ音を立てて門がゆっくりと開いた。


 あたしたちは村長の家に案内され、魔王退治の話をし、周辺の集落の様子について尋ねた。やがて、この村からの伝令を受けた周辺の集落の者たちが続々と集まってくる。彼らの前で、また同じ魔王退治の話をした。

 近隣の集落の代表者が集まったところで、あたしは今後のことを確認した。魔王の支配していた土地は、今後勇者が統治すること、適切な税を納めれば、集落の事情には干渉しないこと、そして集落の復興には援助を惜しまないこと……。なかには「おまえたちは魔王よりマシなのか」と、疑うような視線を投げかけるものもいないではなかったが、そこはそれ、レティシアの澄んだ泉のような声が、そんな疑いを溶かしていった。


 実際、レティシアの人気は驚くほどだった。村長宅での話し合いのあと、あたしたちは村で一つだけの、質素な小さな教会へ向かった。建物の周りを大勢の人が取り囲むなか、レティシアは静かに祈りを捧げた。そして、彼女がそこにいた老司祭に優しい声で

「よく頑張りましたね」

 と語りかけた時、その老司祭は、まるで積年の重荷が下ろされたかのように、感激にむせび泣きながら、二十代半ばの女性司教の前にひざまつき、絞り出すような声で、

「聖女さま」

 と言ったのだ。確かに彼女は教会のヒエラルキーの中では相当エライのだ。けど、老司祭が膝をついたのは、それだけの理由ではない。この光景を目撃した周囲の人たちも次々と膝をつき、祈るように手を合わせた。それはさざ波のように広がり、瞬く間に村全体を厳かな空気で包み込んだ。その場にいた人たちは、奇跡の瞬間に立ち会った気持ちだったんだと思う。


 その後、あたしたちを引き留める手を振り払って村を出た。あたしたちを? いや彼女、彼らが引き留めたがっていたのは聖女さまだけだ。

「相変わらず、外面が良いんだな」

 あたしが言うと、レティシアはくるりと振り返り、

「なにかおっしゃって?」

 と、とぼけた顔で問い返してきた。

「いえ、何も申しておりません」

 二人で顔を見合わせて笑いながら、馬を走らせた。今日のあたしはまるでレティシアの従者みたいだった。村の人たちもそう思っているいことだろう。




 その後、ウの国との国境付近でオディール卿とめぐり会うことになった。

 彼女はウの国の聖堂騎士。確か四周目でアンナの客として顔を合わせたことがある。今の彼女は、もちろんあたしのことを知らない。


 オディール卿以下五騎が、あたしたちの騎馬姿を見つけて近づいてきた。あたしたちは、彼女たちの蹄の立てる音を聞きながら立ち止まっている。レティシアが司教だと気づくと、彼女たちは馬から降り、丁寧なあいさつをした。魔王軍の様子を監視しているのだと言った。

「ところで、司教さまはこのような場所で、いったい何をなさっておられるのです?」

 そう尋ねられたので、あたしはまず魔王討伐の成功を伝え、持っていた証拠となるようなゴテゴテと装飾のついたダガーを見せた。オディール卿とその同輩たちの顔に驚愕の色が浮かんだのがわかった。彼らの視線はダガーからレティシアに移り、信じられないようなものを見るかのように、彼女を見つめている。

「その……、、アルチュール卿とご一緒に、司教さまが魔王を退治してくださったと?」

 レティシアを見る彼らの目が、さっきとは全然違う。それは敬意と畏敬の念に満ちた、勇者を見る眼差しだった。

 次いで、ワの国の現状と、旧魔王城であるウナルベクサ城において自立することを告げた。聖堂騎士は難しい顔をした。

「それにつきましては、私個人が申し上げることはなにもございません。王宮に報告し、しかる後に、しかるべき対応を決めさせていただきたく存じます」

 固い人だ。融通が利かず、職務に忠実。

「あたしたちはこの土地を平和にしたいだけです。ウの国との間に無用な争いが起きないよう、協力できればと思います」

 別れ際に、あたしはそう付け加えた。その数日後、魔王討伐のお祝いとして、羊と家禽が届けられた。




 あたしたちが魔王を倒して城から出てみると、すでにオフィウクス公はキグヌス大公によって暗殺されていた。

 大公を担ぎ上げている連中は、大公に匹敵する大貴族、アラ公やオフィウクス公を排除すれば自分たちの権力基盤が強化されると考えていたかもしれない。でもそれはあまりにも楽天的な希望にすぎなかった。前宰相オフィウクス公が消えても、王国の貴族たちは大公を支持したりはしなかった。貴族たちはもはや他人を信じてはいなかった。

 オフィウクス公の死を聞かされても、カミーユは眉一つ動かさなかった。父であるシャウラ伯を殺した仇だというのに……。彼は復讐よりも、もっと先を見据えているようだった。

 そのころ、オフィウクス公の領地、オフィウクス州の中心地、ラスアルハゲは、すでにイの国の軍勢に包囲されていた。城を守るのは、前オフィウクス公の息子、まだ若い新オフィウクス公だ。ここが陥落すれば、王都まではすぐ。王国存亡の危機がそこまで迫っているというのに、王都では相変わらず、権力争いという危険な火遊びを続けている。


「人が必要だな」

 カミーユは前とおんなじことを言っている。城の大きなテーブルのある部屋に、アルチュール、ベルナール、レティシア、カミーユ、そしてあたしが集まっている。今後の方針を決めるためだ。

「この城には金も食料も豊富にある。だが、人が足りない」

 ベルナールが冷静に言う。ウナルベクサ城の周辺は無人の荒野と化している。もともとは肥沃な土地だし、以前の周回ではわずかな時間で豊かな土地に戻った。でも今は誰もいない。住民を増やさないと、なにも始まらない。


 魔王討伐後まもなく、ベルナールは魔法で、首飾り諸国全域の魔法使いに魔王討伐の成功と、あたしたちの主張を伝えた。混乱するワの国を立て直すために、君側の奸を除くために兵を挙げたと。

 魔法使いってのは戦闘の火力支援だけじゃなく、こうやって瞬時に広範囲に情報を伝えることができるのが、本当に便利だなって思う。


 レティシアは王都の大司教に手紙を書いた。あたしはその大司教に、以前会ったことがある。当時のポロフレ大司教の秘書で、アンナの愛人の一人だった。クーデターの混乱の中、彼が大司教になり奮闘しているって噂だ。その手紙をカミーユの従者のモルガンが王都に届けてくれるんだって。カミーユも友人に連絡するそうだ。あたしもついでに王都のエルフコミュニティに手紙を書いた。あたしはあんまり同族で固まり合うのは好きじゃなくて、距離を置いている。三周目の騎兵総監のときには無理やり理事を押し付けられたくらいだ。でも、何かの役に立つだろうぐらいの気持ちで書いた。


 宣伝の効果か、少しずつ人が集まってきた。レティシアとあたしがケンタウルス州や西セルペンス州まで足を伸ばすと入植希望者がぽつぽつと集まってくる。領主たちは見て向ぬふりをしてくれている。

 領主たちの多くは魔王退治自体は喜んだもののあたしたちの自立に対しては胡散臭げな目を向けている。ただ積極的に事を構えたくないだけで、あたしたちの行動を黙認しているというのが実情だ。


 そんな中で、ただ一人、ヴァランタン卿だけが、あたしたちに積極的に協力を申し出てくれた。ケンタウルス州の騎士で、人望が厚い。彼の領地もまた魔王の支配で荒廃していた。キグヌス大公の政権に期待を抱けずにいた彼は、アルチュールに希望を見出していたようだった。

 あたしたちが魔王討伐前に西部地域で活動している時、彼には色々とお世話になった。隠れ里を作るときも不思議そうな顔をしながらも手伝ってくれた。同輩の騎士たちにも声をかけて、あたしたちに協力するように言ってくれた。


 魔王城に入っている間、あたしたちの従者たちは卿の居館に預かってもらっていた。あたしとレティシアが州内をめぐっているあいだに、アルチュールとカミーユがみんなを迎えに行き、その時に卿も同行して、ウナルベクサ城に来ていた。

 あたしは従者たちと再会を喜び合った。いつもクールなイヴェットが珍しく涙目になっていたのが印象的だった。ヴァランタン卿はアルチュールの自立の決断を心から歓迎し、臣従の誓いを捧げようとした。でも、アルチュールはそんなことを、と断り、カミーユもまだ早いですとなだめていた。まだ早いってなんだよ。


 魔王の支配によって人々が姿を消したアクィル州は、その代わりに自然が豊かになった。森に入れば鳥や鹿や猪がそこら中にいる。魔王の支配を脱し、人が集まり始めたと言っても、本格的な牧畜が始まるのはまだまだ先だから、肉は森のジビエと家禽で補っている。

 野菜類はレティシアと彼女の従者のクレマンスが、家庭菜園というには少々本格的な菜園を作ってくれた。人が集まってくると、手伝いを頼み、収穫物を分け合っている。

 魔王城には穀物と加工肉が大量に蓄えてあったけど、人間はそれだけじゃ生きていけないからね。


 ベルナールと弟子のシルヴァンは相変わらずカビくさい図書室と魔王の物置に入り浸りで、食事の時しか顔を見せない。

 あたしたちの食事は、最初はイヴェットが一人で作ってくれていた。その後ウナルベクサに人が集まってくると、メイドを雇って彼女を手伝ってもらうようになった。彼女たちのおかげで、城は多少、人の住むような場所になってきた。最初の二か月は寝台もなかったのだから、生活レベルは飛躍的に向上したと言える。そうなると、そろそろ腕のいい料理人が欲しくなってくる。




 王都のキグヌス大公はあたしたちの行動を反乱と認定し、ついに討伐軍を送ってくるらしい。

 多くの人はすぐに鎮圧されると思っていることだろう。だってあたしたちは素人だし。


 アルチュールとあたしは集まってきた腕っぷしの強そうなものたちで小編成の戦闘部隊を組織した。アルチュールが歩兵を、あたしが騎兵を指揮することになった。

 騎兵隊に回されてきた兵の中に見知った顔を見つけた。エルワンだ。以前、イの国に攻め込んだ時の撤退戦で世話になったやつだ。何周目だったかな? 今回のループでは初対面だ。変に馴れ馴れしくしないようにしないと……。

「なんすか。俺の顔になんかついてるんすか?」

 エルワンが、あたしを試すような挑発的な口調で言ってきた。誰だっけと、考えてる目つきが気に入らなかったらしい。

 あたしは取り澄ました顔で間合いを詰めた。そして、なんのためらいもなく、彼の頬をいきなり殴りつけた。相手に反応する隙を一切与えなかった。エルワンの身体が宙を舞い、かなりの距離を飛んでいった。周りのものが見惚れるようにしてエルワンが飛んでいくのを見つめている。地面に落ちた。

「口の効きかたに気をつけろ、エルワン。それとおまえを軍曹に任じる。さっさと起きて部隊をまとめろ!」

 周りはあたしとエルワンを交互に見つめている。彼は呆然とした顔で立ち上がり、膝のほこりを払った。その目にはどこか納得した色があった。

「了解しました、姐御。これから部隊をまとめます」

 だから姐御はよせって。エルワンは後で、なぜあたしが自分の名を知っていたのか奇妙に思うかもしれないなと考えながら、軽騎兵の戦い方の訓練を始めた。


 一方、カミーユはまた王国各地から友人を呼んできていた。今回のお友達はいつもにも増して人相が悪い。彼はあたしたちを集めて言った。

「ここも人が集まってきて、騒動ももちあがっている。いずれはアルチュールの歩兵隊から人を割いてもらって、警邏隊を作らなくちゃいけないが、差し当たってはスカウトギルドを組織して、治安の維持に当たりたい。みんなの意見は?」

 アルチュールはカミーユに任せると言い、ベルナールは無言。あたしはアルチュールと同意見。レティシアはいつもの「どっちでもいい」だった。


 その後、町場で騒ぎを起こしているものを鮮やかに取り押さえる「お友達」を見た。急に人が集まってきたところだから、いろんな人たちがいて、いろんな騒ぎが起きる。アルチュールは楽天家だから、人が増えてうれしいとしか思っていないだろうが、人が増えると騒ぎも増える。そこに秩序をもたらすためには、カミーユのお友達みたいなのが必要なんだろうなと感じた。


 レティシアが関心を寄せているのは別のことだった。彼女はこの地に教会を建てた。ほんの小さなもので、彼女自身が司祭になり、かつて魔王の支配下にあったこの地に祝福を与えている。彼女は周辺の集落をめぐり、ある時は祝福を与え、ある時は具体的な農業指導を行っている。地図を書きながら、用水路の計画まで立てている。イ今は荒れ果てた土地だけど、彼女には豊かになったこの地の未来の姿が、はっきりと見えているようだった。

 彼女と一緒に開墾地をめぐると子どもたちがどこからともなく集まってくる。子どもたちは元気だ。彼らの賑やかな声が、荒れた大地に響きわたる。彼らの親たちも希望に満ちた眼差しであたしたちを見ている。少なくともここでは、飢える心配だけはない。彼らの笑顔と、未来の希望を守るためにも、この地は守り抜かないといけない。あたしはそう決意を新たにした。




 ブリュノの『同時代史』は魔王の討伐からキグヌス大公軍との衝突までの期間を、およそ半年と記している。この短い期間にアルチュール一行、後にアルチュールのシンジケートとして広く知られるようになる彼らの集団は、信じがたいほどの速さでその形を整えていったと伝えられている。

 彼らはかろうじて残されていた集落を復興し、土地を求めるものたちを受け入れ、荒れ果てた大地に再び人の営みを取り戻していった。そして来るべき戦いに備え、兵を集め、訓練を施し、急速に一個の地方権力を築き上げた。


 ある物語作家は、このわずか半年で無人の荒野に「大都市を作りあげた」とまで記している。それは確かに大都市というには誇張が過ぎるかもしれない。だが、この記述が示すのは、アルチュールのシンジケートが、いかに人々の間に大きな期待と、ほとんど根拠のない希望を抱かせていたかという事実である。彼らは、混沌と混迷の極みにあった王国において、多くの人々が渇望していた「新しい秩序」の象徴となっていたのだ。


 しかし、その一方で貴族たちの大半は、いまだに彼らに協力しようとはしなかった。目の前で芽吹きつつある変化の兆しに気付かず、ただいたずらに刻を費やすばかりであった。

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