第18話(全36話) 三周目の始まり、ウヌクアルハイ城防衛戦
アルチュールが王女様に向かって「魔王退治の報告にあがりました」と言っている。
それにこたえて、王女様が「では、王宮で直接申し上げてください」と言った。
王都ポロフレの西門で儀式が行われている。
あたしは強いめまいに襲われ、自分がどこにいるのか、わからないでいた。
確か、殺された宰相アルチュールの首に会いにゆき、そこで宮廷魔術師ベルナールに会ったはず……。
あれ、ここはどこだ?
隣には薄汚れたスーツアーマーを身に着け、純白のマントに真紅のマフラーをつけた剣士アルチュールがいる。首と胴は確かにつながっている。
相変わらずのくたびれた灰緑色のローブをまとった魔導士のベルナール。
板金の鎧を、質素なカフェオレ色のマントで隠した司教レティシア。
よく手入れているが、土ぼこりでところどころ白くなっている、漆黒のレザーアーマーを身にまとったスカウトのカミーユ。
赤い鎧に赤いスカートを巻き、銀色のガントレットを身に着けたあたし。
そして目の前には亜麻色の髪のオロール王女がいる。
そこでようやく状況を理解した。あたしはまた刻をさかのぼったのだ。ここは魔王を倒し、王都に帰還したとき。前の世界線でアルチュールは、このあと王国の宰相となり、目の前の王女様との結婚を目前にして、悲劇的な死を迎えたんだ。
ベルナールの魔法で、あたしは過去に戻った。今度こそアルチュールを不幸な運命から救い出さなければ。それがあたしの使命なんだ。
クリシェな言葉の応酬のあとで、王女様はあたしたち一人一人の手を握った。その後、あたしたちは王女様の案内で王宮へ向かう。沿道は人で埋め尽くされていた。前にも見た光景だ。誰もがこれですべてが良くなると信じているんだろう。
ベルナールの方を見ると、彼はいつものように難しい顔をしていた。
王宮ではアルチュールが、王様に魔王の討伐を報告する。王様はアルチュールの肩を抱き、涙を流しながら「ありがとう、ありがとう」と繰り返している。この光景も以前見たものと変わらない。今回もまたあたしとベルナール、それに宰相オフィウクス公を除いた全員が、感動でむせび泣いていた。
謁見のあとの饗宴も以前と同じだった。オリビエ卿の用意してくれた真っ赤なドレスを着て、ご令嬢方に武勇伝を話したりした。これは前より上手にできたような気がする。
深夜をかなりすぎて、王宮の中に用意された部屋に戻った。従者のイヴェットに手伝ってもらってドレスを脱ぎ、そのまま寝台に潜り込んだ。
アルチュールが反逆者の汚名を着させられて殺される世界線を変えなくちゃ。またカミーユが何かを企んでいたんだ。今回はアルチュールの側にいて、カミーユの行動を監視する。今度こそアルチュールには幸せになってもらう。
そんなことを考えていたら、一睡もせずに朝になってしまった。
魔王討伐祝賀饗宴からしばらくして、あたしたちは叙爵された。
アルチュールは旧魔王城とその郡を与えられて、ウナルベクサ伯となった。ウナルベクサ伯領はほとんど人が住んでいないから、しばらくは国庫から補填がなされるそうだ。
あたしたちは王宮の控えの間に集められ、一人ずつ謁見の間に呼び出され、王様の言葉を宰相から伝えられ、控えの間に戻ってきて、任命状をもらう。まとめてでいいじゃないかと思うが、個別に執り行うのが、身分の高さを表す格式ってやつらしい。まったくメンドくさい。こういう堅苦しいのが嫌で前回は逃げ出したのを思い出した。
レティシアは、教会から修道院を一つ貰った。農地付きのいい物件らしい。彼女は心から喜んでいた。
彼女以外は報酬を王様からもらう。カミーユは名誉を回復し、シャウラ伯領を再び与えられた。勇者様の一人が、前宰相シャウラ伯の遺児だなんて、王国中が驚いていた。オフィウクス公に復讐するために戻ってきたんだという噂も流れた。近いうちに王宮内で公を殺すつもりだ、なんて血なまぐさい期待をしている連中もいる。人間っていうのは残酷だよね。
ベルナールは王領地の中にある塔をもらった。で、長らく空席だった宮廷魔術師の役職に就いた。
あたしは王領リブラ州のブラキウム城をもらった。いろいろとメンドくさいことが始まる。
一通りのことは前回、アルチュールの所で経験している。まずはブラキウム城に向かう。ブラキウム城は領主の館を少し大きくしたような城だ。周りに堀をめぐらし、土を盛って区画した単郭の城。城に着くとあたしの家臣になる在地の騎士のなかから、年長者を城代ということにして、いろいろと状況を聞く。土地の様子、人間関係、スタッフの状況、収税状況。城主領の収税を代々担当する者がいたので、そこに引き続きお願いした。基本的にはなにも変えないつもり、大きな問題がなければね。
新しく家臣となった騎士たちを領内の森に集め、狩りを行った。乗馬の腕、弓射の腕を見せつけてやった。騎士たちはあたしの腕前に目を見張っていた。
王領地の領主ってことは、王の騎士隊の一員でもある。戦争がなくても年に一度、順番で騎士たちを率いて王宮の守衛に出向かなくてはいけない。
それと王都に屋敷を手に入れた。領地と王都との二重生活だ。使用人は従者だったイヴェットに、執事兼メイド長兼従者を命じた。というか丸投げした。彼女が城と屋敷のメイドを集めてくれた。料理長にはギョームを、と探してみたけど、残念ながら見つからなかった。
アルチュールは基本的にウナルベクサにいる。あたしがウナルベクサに遊びに行くこともあるし、彼が王都に用のある時はあたしの屋敷に泊まる。レティシアもベルナールも王都に用事のある時はあたしのところに来る。あたしの家はみんなのたまり場みたいになっている。
今日はどっかの誰かの侍従就任パーティだっていうことで、ここしばらく忙しかった。アルチュールもそれに合わせて王都にやってきた。けど、あたしも彼もそんな華やかなところに来ていく服なんて持ってなかったから、オリビエ卿に紹介してもらった仕立て屋に来てもらって、採寸からなにからやってもらった。アクセサリーは、宝箱から出てきたのがたくさんあるけど、どれも古臭いものばかり。仕方なく王都で金銀細工をやってる評判のエルフの職人に頼んでいくつか作ってもらった。ああ、それからうんざりするような立ち居振る舞いの特訓もあった。いやだ、いやだこんな生活。
侍従というのは王様の秘書兼顧問役で、たいへん名誉な役職なんだそうだ。そういえば前回もアルチュールは招待されてたような気がする。普段着ることのない優美な衣装に身を包み、あたしたちは新侍従の邸宅に向かった。
ホールでは、八〇人ほどの男女が思い思いの飲み物を手に立ち話をしていた。あたしたちが入っていくと、アルチュールはすぐにご婦人がたに囲まれた。男性陣もアルチュールの話を聞きたそうに、その周りを取り囲んでいる。
アルチュールは本当にどこへ行っても人目を引く。あの華やかさは、生まれ持った天性のものだろう。どんな場所にいても、彼はすぐに人気者になってしまう。最初は魔王退治の勇者の顔を見てやろう、と興味本位で人が集まってくるのだが、すぐに彼の飾らない人柄にひきつけられてしまうのだ。今、彼を取り巻いている老若のご婦人たちの視線は、勇者に対する憧れや好奇心から、すぐに熱烈な心酔に変わっていくんじゃないかな。アルチュールとあたしは主催者の、どっかの誰かにお祝いの挨拶をして別れた。
あたしは昔綺麗だったご婦人から、これから綺麗になるご婦人までもれなく優しさを振りまいているアルチュールを置いて、さりげなく屋敷を探って、防衛計画を練る遊びに興じていたときにカミーユを見つけた。奴は名誉を回復し、シャウラ伯となった。カミーユは偽名だったが、今もその名を使っている。偽名を使っていた時代を誇らしくも感じているようだ。
彼は一人じゃなかった。綺麗な髪、整った顔立ち、流行のデザインだが、少々場違いにも見える黒でまとめたドレスを着た女性を連れている。偵察がてら少しからかってやろうと近づいた。
「ご機嫌麗しゅうございます、シャウラ伯」
カミーユがこちらに振り向く。
「本日もとってもご立派にお見えですわ。そちらの美しいご婦人は、どちら様でいらっしゃいますの?」
あたしは仮面のような笑顔で、スカートの端をつまんで、礼儀正しく話しかけた。
見たか、あたしの特訓の成果を。剣術の初歩を学んでいた時以来の厳しさで、訓練を重ねたのだ。
カミーユは、一瞬ビクっとしたようだった。同行の女性は何かを察したのだろう、「お飲み物を取ってまいります」と言って、あたしたちを二人にした。悪いことをしたかな。
「脅かすなよ、ジジ。心臓が止まるかと思った」
「綺麗な方ですね。恋人ですか?」
「彼女はアンナ。恋人じゃない。クリティザンヌ(高級娼婦)だ」
「?」
「ここにいる女性はみんなが貴族という訳じゃない。俺みたいな適当なパートナーがいない人間が金を払って、連れまわしているクリティザンヌも結構いるんだ。彼女たちの中には貴族だったり、元貴族だったりがいるらしいけどね。彼女たちは情報通だから重宝している」
「ふーん」
「おい、ジジ、素が出ているぞ」
しまった。
「興味深いお話、ありがとうございます。たいへん楽しく聞かせていただきましたわ。それでは、ごきげんよう」
そう言って、あたしはカミーユに背を向けた。そのとき、あたしとカミーユの話が終わるのを気配を消して待っていたアンナと、ふと目が合った。軽く会釈すると、彼女もまた、ごく控えめに頭を下げた。よく訓練されている。控えめな仕草というのはこういうのを言うのだろう。勉強になった。でも解らないのは彼女の眼だ。嫉妬のような眼だった。少なくとも金で買われた女の眼じゃなかった。
ある日、あるご婦人とあるサロンに出かけた。
あたしは王都で色々なサロンに顔を出している。今夜はある貴族の夫人をエスコートしてエレオノール嬢のサロンに行った。
夕食後の時間、王都では様々な場所でサロンが開かれている。サロンというのは詩人やら文学者やら科学者やら魔法使いやら聖職者やらがお話して、いろんな議論をするところ? ただ集まって話をしたり、しなかったりするところ? 雰囲気を楽しむところ? 人が集まって知的な雰囲気に浸れるところ? 要は人が集まって、それっぽい雰囲気を楽しみながら夜食をつまんだりする空間だ。
主催者ごとにいろんな性格があって、開放的な所も閉鎖的な所もある。常連がいたりもする。上流階級のカフェみたいなところかな。サロン、カフェの両方に出てるのもいる。意外な人と会うこともできて、サロンに出席することは、これはこれで貴族の重要な仕事の一つなんだ。サロンではカミーユとアンナのカップルともよく顔を合わせる。
今夜あたしが行った、エレオノール嬢のサロンではアントワーヌ卿が軍隊の話をしていた。彼が言うには軍事にも科学の眼が必要なんだって。
エレオノール嬢は貴族じゃない。ある貴族女性のサロンの手伝いをしていたのが独立して、自分のサロンを持った。彼女は特に美人という訳じゃない。それなのに彼女のサロンは人気だ。彼女のサロンでは様々な話題が提供されている。今回のような軍隊の話なんてキワモノでも座を持たせることができるなんて、かなりの腕前なんだろう。
「現状の軍隊は騎士たちの寄せ集めにすぎません。騎士たちは自分が功績を上げるために、それぞれが勝手に動き回ります。これでは勝てるはずの戦いも勝利を逃してしまいます」
アントワーヌ卿が熱弁を振るう中、あたしは話を半分聞き流しながら暖炉の上に置かれた鹿肉のパテに手を伸ばした。うまい。
「騎士が率いる部隊を一度解体し、旗は旗、槍は槍、騎兵は騎兵と兵科ごとに再編成し、然るべき指揮系統のもとで運用する方が、はるかに効率的なのです」
この味、知ってる。ギョームだ。こんなところで再会できるとは。ますます腕をあげているようだ。
「それらの部隊に役割を与えるのです。槍の部隊には戦線の維持、騎兵には偵察と突撃というように」
あとでエレオノール嬢に頼んで、ぜひギョームを紹介してもらおう。
「これらの部隊を平時にも王都に確保しておけば、王権の強化にもつながります」
アントワーヌ卿の話が終わると、あたしの連れのご婦人は卿に話しかけていた。「まぁ、貴重なお話、ありがとうございます」だって、心にもないことを。わかったのかよ、この話。
アントワーヌ卿の意見は面白かったけど、騎士というのは、手柄を立てて領地を増やすために戦場に行くんだ。そのための手勢なんだから簡単に手放すわけがない。よっぽどの状況、よっぽどの指導者がいなければ騎士の部隊を解体できるわけがない。
そんなことを考えながら、あたしは久しぶりのギョームの味を堪能した。
魔王がいなくなっても人々の暮らしが劇的に変わる訳ではなかった。魔王討伐の熱狂的な興奮が冷め、希望が失望に変わると、人々の不満は政治に向かうようになる。宰相オフィウクス公は自分に向かう人々の不満の矛先を変えるため、東の隣国、イの国への侵攻を計画した。名目は不当に奪われた四州の奪還だった。
あたしもアルチュールもカミーユも、領地から兵を率いて従軍することになった。
遠征軍はオフィウクス公の領地から国境を越え、かつての王国領土のセルペンス州、コロナ・ポレアリス州を抵抗らしい抵抗を受けることなく「回復」していった。もっともアルチュールの部隊も、あたしの部隊も戦闘らしい戦闘をしていない。将軍にとって英雄の部隊など扱いにくいだけなんだろう。実戦に役立つかどうかもわからないし……。
イの国の態勢が整ってないし、城は簡単に落ちてゆくし、あたしたちには出番がないしで行軍、野営、行軍、野営で冒険の延長みたいなことを続けていた。あたしは暇を持て余し、馬で周辺を散策し、レティシアの真似をして地図を描いたりして時間を潰していた。あたしが時間を潰す方法を考えているうちに事態が急変した。
遠征軍はコロナ・ポレアリス州の敵城を包囲していた。アルチュールの部隊は明確な命令がないまま従軍している。あたしは部隊を率いて本隊から離れた草原を散策していた。丘の上からイの国ボオーテス州方面から、大軍がやってくるのが見えた。
「姐御、あれはジェラール将軍の旗ですぜ」
従軍経験のあるサージェントのエルワンが言った。時代がかった言葉遣いをする奴だ。
「ジェラール? 誰、それ?」あたしは聞き返した。どっかで聞いたような名前だ。
「イの国では名の知られた将軍です。しかしどうも性格に難があって、上の方に疎まれていたとか。それがこっちにきたというのはちょっとヤバイかもしれませんぜ、姐御」
「わかった。アルチュールに報告に戻る。あと姐御はやめろ」
「了解」
アルチュールに知らせると、彼はすぐに将軍の天幕に向かった。報告を受けた将軍は城の包囲を中止し、迎撃の態勢を整えた。聞くところによると偵察は出していなかったらしい。侵攻以来、連戦連勝で、軍全体が油断していた。
主力の対決は一瞬で勝負がついた。ジェラール将軍の采配にこちらは手も足も出なかった。遠征軍は抵抗する間もなく瓦解した。あたしたちには武器を構える暇さえなかった。
イの国の将軍ジェラールの攻撃を受けて遠征軍は潰滅、こっちの将軍は生死不明の状況下、アルチュールとあたしは独自の活動を開始した。あたしは以前アントワーヌ卿が語っていた軍制改革を実行に移すことにした。
まず、手始めに部隊の再編を行った。 あたしの部隊からは騎乗兵以外の歩兵をアルチュールに預け、代わりにアルチュールの兵の中から騎乗可能な者たちを強引に引き抜いた。アルチュールの乗馬も取り上げて必要な者に与えた。生粋の騎士、領地をもらって新たに任命した騎士、金で雇った騎兵、身分も出自も異なる騎馬兵を、有無を言わせずあたしの指揮下にまとめた。当然不満の声は上がったが、この非常時だ。アルチュールの威厳とあたしの腕力で反論を封じ込めた。アルチュールはあたしのやりたいようにやらせてくれた。
遠征軍は追撃を受けている。組織は崩壊し、みなが勝手にワの国の国境を目指していた。潰走する軍隊を追撃するのはたやすい。当然、追撃軍も統制を失い、小部隊に別れてゆく。そこを狙う。
あたしたちが偵察に出て敵の動きを探りつつ陽動をかける。その隙にアルチュールたちが後退し、街道の要所を確保する。そこでアルチュール隊が追撃部隊を待ち構え、迎え撃つ。アルチュール自身が徒歩で先頭に立ち、槍を構えて敵を食い止め、そこにあたしたちの騎兵が斜め後方から突撃をかける。
何度かそんなことを繰り返し、敗残兵を吸収し、有無を言わせず馬と人を指揮下に入れた。
そんななか、逃げたと思っていたカミーユが戻ってきた。
「アルチュール、よくご無事で。ウヌクアルハイ城を確保しました。ひとまず城に入ってください」
彼は敗残兵をまとめ、序盤で占領したセルペンス州のウヌクアルハイ城を確保していた。あたしたちも城に入ることにした。ウヌクアルハイ城に入ったアルチュールは熱狂的な歓声を迎えられた。アルチュールの撤退戦のおかげで、命拾いした者が大勢いた。
ウヌクアルハイ城はセルペンス州の北端にある要衝で、コロナ・ポレアリス州との州境に近く両州を繋ぐ地にある。重要な土地ではあるが、ワの国とイの国の国境線はより南方にひかれていたため、軍事的な価値は低く、半ば放棄されていた。今回の遠征においても簡単に占領することができた。そんな忘れかけられていた、あたしのブラキウム城より一回り大きい程度のこの城がこの遠征の終盤で注目を浴びるようになったんだ。
城内には負傷者があふれかえっていた。ここから王国領オフィウクス州まではまだ遠い。ここが落とされれば彼らの命はないだろう。また、ワの国の侵攻に協力した住民たちも逃げ込んでいた。ここが落とされればどんな報復が待っているかわからない。この城は落とされるわけにはいかないのだ。
アルチュールがウヌクアルハイ城に入ると直ちに城内の主だった者たちが集められ、作戦会議が開かれた。満場一致で指揮官にアルチュールが選出され、この城を死守することが決められた。その後戦える者たちを槍兵、弓兵、騎兵など兵科別に再編成すること決まった。あたしは引き続き騎兵隊を率い、城外で敵を攪乱することになった。王国からの救援は望めない。ここにある兵力だけで、イの国の攻撃を退けなくてはならない。城の中では会議のほか、食事と簡単に湯あみするぐらいの時間しか取れなかった。あたしは城が包囲される前に騎兵隊率いて城外に出て、その後敵部隊後方への襲撃を繰り返した。
「最初のマッパーは誰だったかな?」
あたしは独り言を言った。のちにはレティシアがパーティの専属マッパーになった。地図作製はレティシアの趣味みたいなものになった。今回の遠征では、暇つぶしにレティシアの真似事をして地図を作ってみたが。意外にもそれがアルチュールの役に立った。
「まるで、山賊みたいですね、姐御」
くつわを並べている騎士が言った。
「そうだな。無事生きて帰れたらみんなで山賊稼業でも始めようか。あと姐御はやめろ」
「了解」
彼は笑いながら去って行った。育ちのいい騎士にもあたしの部隊の口の悪さが写ったみたいだ。彼らの自慢の美麗な鎧は重いだけだからと城に置いてきた。今は最低限の胸甲と兜だけを身に着け、泥まみれになりながら戦い続けている。
ウヌクアルハイ城はアルチュールが指揮をとって防衛戦を戦っている。援軍がないなか、よく士気をもたせている。確か前回はベルナールが活躍したようだが、今回は参加していない。あたしたちだけでどうにかしないと……。
アルチュールが籠城し、あたしが騎兵隊を率いて敵の背後を撹乱する。なかなかうまくいっていたが、これは時間稼ぎに過ぎない。ジェラール将軍も対策をとり、襲撃も簡単にはいかなくなってきた。補給部隊を襲うも、運んでいくだけの時間がない。火をつけるだけで去って行く。あたしたちは逃げ足だけが早くなっていった。
そんな状況下、好機は向こうからやってきた。ジェラール将軍が更迭されたのだ。信じられなかった。これだけ戦果をあげているのに……。
理由はすぐにわかった。あちらの宮廷内に彼を支える支援者がいないから、縁故的な人事の犠牲となったのだ。かわいそうに。同情を禁じ得ない。
おそらく、ジェラールは功績をあげすぎた。最後の勝利は目前だ。有力者の若者に箔をつけてやろう、という「高度な政治的判断」とかいう奴だろう。
代わりに来た将軍が、アルチュールが築き上げた防御線に無理な攻城戦を仕掛ける。アルチュールは敵の総攻撃を凌ぎきった。イの国は兵力と士気を消耗させた。
「突撃!」
「了解、姐御」
その敵本陣にあたしの騎兵隊が背後から奇襲をかけ、敵軍首脳部を捕虜にして、この防衛戦は終結した。
読んでくださっている方々、ありがとうございます。
ポイントをくれた方、執筆の励みになります。感謝します。
今回でちょうど半分が過ぎました。
キリの悪いことに今回から三周目が始まります。
これからの展開にご期待ください。




