↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジジのクリシェな冒険  作者: 万里小路 信房
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/36

第11話(全36話) カミーユの主張

 みんな、ボロボロだった。

 魔王は討ち果たした。誰も彼も、持てる力を全て出し尽くした。あたしなんか途中から記憶が途切れている。身体が勝手に動いて、それがみんなの動きと呼応するように、どうにかこうにか勝利を掴んだ。そんな状況だったから、魔王を倒したという充実感は、正直なところあまりなかった。

 みんな言葉が少なかった。決戦の場となった謁見の間から奥の間へと向かう。すでにスカウトのカミーユが、鍵の解錠を試みている。間もなく、重い扉が開いた。中は、図書室のようだった。魔導士のベルナールが、待ちかねたように、積み上げられた巻物を手当たり次第に漁り始めた。今では失われた魔法を探しているんだろう。

 さらに奥の間へ進み、扉を開けると、黄金の輝きが、魔法の光を浴びて、あたしたちの目に飛び込んできた。宝物庫だ。魔王が集めた財宝が、山と積まれている。ようやく魔王を倒したのだという実感がわいてきた。司教のレティシアが宝物の山に駆け寄った。決して物欲に囚われた聖職者、というわけではない。彼女が属する教団の祭具も略奪の対象となっていた。それらを回収することも彼女の使命の一つなのだ。魔王の手下どもにとっては貴金属の板を張り付け宝石を嵌め込んだ豪華な箱に過ぎないが、彼女たちにとってはその箱の中身、昔のエライ人の骨の方が遥かに重要なんだって。


 しばらく、図書室と宝物庫を物色した後で、レティシアが言った。

「さて、帰ろうか」

 どうせ、全てを持ち帰ることは不可能だ。仮に持ち帰ったとしても、それを置いとく場所もない。ベルナールに、いつものように魔法で封印を施してもらい、引き上げようと、各々が準備を始めた時、

「少し、待ってくれ」と、カミーユが静かに言った。

 さっきからカミーユは宝探しには一切参加せずに他の部屋を一人で調べていた。色々な物を見つけてきたらしい。

 カミーユの言葉を聞き、みんなが彼の方を振り返った。

「このまま、引き返すつもりか」

 カミーユが言葉を続ける。一体何を言い出すんだろう? 剣士のアルチュールは腕を組み、静かにカミーユを見つめている。カミーユもまたアルチュールの方を向いて口を開いた。

「アルチュール、魔王の遺産を活用すれば貴方の抱く理想を実現することが十分に可能です」

 部屋全体が水を打ったように静まり返った。確かに金も、食料も、武器も、ここには豊富にある。魔王が死んでもこの城に施された呪術の結界はいまだに機能している。ここで独立することは決して不可能じゃない。アルチュールの横顔を、あたしはそっと窺い見た。ヤバイ。この底深い静けさはまさに思案に暮れている時の静けさだ。

 ああ、そうか、ここだ。

 あたしはようやく気付いた。ここで、アルチュールは重大な選択を誤り、その結果王都で首をさらされることになったんだ。あたしがなんとかしないと……。


「魔王の力で世の中を変えられる」カミーユは、みんなに向かって力強く言った。「魔王がいるから人々が苦しむんじゃない。人々が苦しむ世の中だから、魔王が生まれるんだ」

 カミーユは、アルチュールだけを見ているのではない。レティシアにも、ベルナールにも、そしてあたしにも、言葉を投げかけている。いつもはアルチュールにばかり見ていたのに。しかし今日は違うようだ。

「王国建国のころから、世の中は変わってしまった。騎士たちが馬上で国を築き、領地を得た頃、人々は貧しく、領主たちは様々な手立てで、人々の暮らしを支えた。その代償として貢納があり、領主たちはそれをもって主君に仕えた。領主と領民は、いわば互いに契約を結んでいた」

「けれど、時代は移ろい、領民たちも力を蓄え、日々の暮らしは領主がいなくても成り立つようになった。領主の役目は、飢饉や災害といった、いざという時だけになった」

 レティシアが、小さく頷きながら聞いている。彼女はアイ城主領にある修道院によく出入りしていた。その修道院は地域の農業の中心を担っている。そこで似たような話を聞いているのかもしれない。

「村落の中で力を持ち始めた者たちがいる。領主の中にはその力を疎む者もいる。村落は彼らによって新しい形に変えられようとしている」そう言って、カミーユは言葉を切り、レティシアを見た。

「多くの村で新しい教会が領民の寄進によって次々と建てられている。そうだろう、レティシア」

 レティシアは、静かに頷いた。確かに、「不幸の燭台」の探索の時にも村の新しい有力者の姿を見た。領主は支配する側、領民は支配される側、と単純に割り切れるものではないらしい。

「領主たちはそうした村落の新しい指導者たちを快く思っていないが、一方で彼らに任せておけば面倒がないと日々の農作業から手を引いてしまった。かつては領民を動員して道や水路を整え、自ら農場を巡回し、領民と共に収穫を祝っていた領主たちはいつしか領民と隔たりを持つようになった」

 ベルナールは、カミーユの演説を、退屈そうに聞いている。この男は、世の中の事など、まるで関心がない。魔術の研究以外には、何も興味を示さない。ベルナールの話を遮るほどの興味も湧かないのだろう。ひたすら、退屈に耐えているだけのように見える。

「かつての領主たちは、危機に際しては領民と共に苦しんだ。外敵が攻めてくれば領民を館に匿い、配下の騎士を率いて敵を撃退した。凶作で食糧が不足すれば、倉を開け、領民を飢えから救った。だが、今はどうだ? 確かに、魔王城に至るまでの道中で領民を守ろうとする領主たちもいた。しかし、それは例外だ。飢饉の時に手を拱き、領民が餓死するのを黙って見ている。今の領主たちは、危機に対応できていない」

 アルチュールは、難しい顔をして腕を組み考え込んでいる。実際、アイ城主領でも領主がヴァンパイアになろうとも何とかやり過ごせていたようだが、アルチュールが領主になってから不作の年にそれまでの冒険で蓄えた金で他の地域から食料を買い付け、領民に分け与えたことがあった。それはあたしたちがたまたま余裕があったからできたことで、食料を分け与える余裕のない領主も多いんだろう。

「そのような社会の変化に目を向けようともせず、ひたすら王都での権力争い、勢力拡大に血道を上げているのが宰相オフィウクス公だ」

 ああ、そうだ、あの評判の悪い宰相、オフィウクス公と呼ばれていた。

「魔王の勢力を増大させたのはオフィウクスの失政だ」


「俺の父は、かつて王国宰相だったシャウラ伯だ」

 カミーユは、痛ましいほどの表情で、そう言った。

「父は、オフィウクスらの手によって命を奪われ、幼い俺は、乳母に連れられて、身を隠さざるを得なかった。成長してからは、素性を隠し、ひたすら復讐の機会を窺っていた……」

 確かに、聞いた覚えがある。今の王国宰相は、先代の宰相を反逆者と断じ、その一族を根絶やしにしたという。その生き残りが、宰相の目をかいくぐり、今まで生き延びていたというのか。

「これが、証拠の品だ」

 そう言って、カミーユは懐から短剣を取り出してみんなに見せた。紋章が刻まれている。ベルナールとレティシアがそれを確認すると、間違いなくシャウラ伯家のものだという。

「父は、首飾り諸国北部四か国の協調に尽力し、魔王出現後には、共同で軍を派遣した。その頃は、国境での争いはなかった。さらに、魔王の影響がこれ以上広がらないよう、食糧が豊富な地域から不足している地域へと移送するなど、村落の安定に力を注いだ。王都を中心とした街道の整備も行っていた」

 カミーユは、言葉を続ける。王都の人々が口にする、「昔は良かった」という言葉は、決して単なるクリシェってわけでもなかったんだ。

「結局、父が行っていたのは、王に権力を集中させることだったんだ。王の下に人々が結束し、困難に立ち向かうということだ。しかし、これに大貴族たちが反発した。王に権力が集中することは自分たちの権益を脅かすものだと恐れた。彼らは父が反乱を企てているという、謂われのない罪を着せてその支持者と共に一族を処刑した」

 彼の目に涙が浮かんでいるのが分かった。

「その後、大貴族の代表として、オフィウクスが宰相の座についた。奴は何をした? 対魔王の協調路線を放棄し、挙句の果てには隣国からの侵攻を招いたじゃないか。王領で食糧不足が起こっても、宰相は有効な対策を講じず、領民が逃げ出し、耕作放棄地が増えていく一方じゃないか。農村がこれほどまでに不安定だからこそ、魔王の影響力が益々増大していったんじゃないか」

「大貴族たちは結局のところ自分たちのことしか考えていない。オフィウクスを排除しなければ、いつか第二第三の魔王が現れる。魔王は自然に発生する災害などではない。人が作り出すものなんだ」

 そこまで言うと、カミーユは言葉を止め、周囲を見回した。みんな、静かに彼の言葉に耳を傾け、深く考え込んでいるようだった。


 カミーユは言葉を重ねた。

「この城には、魔王が秘匿していた魔法と魔法の物品がある。周辺地域から略奪した物資もある。魔王の支配下にあった魔物たちもいる。これらを使って、王都に攻め込むのだ。宰相に反感を持つ領主たちもいる。各地の村々には政治的な力を求めている有力者たちがいる。アルチュール、貴方が宰相を討つための軍を率いれば道中で合流する者たちが現れるだろう」

 あたしは、果たしてそんなに上手くいくのだろうか、と内心疑問に思った。そもそも魔物を使うこと自体に反対だ。ベルナールの話によれば魔王が両手にこれでもかと嵌めていた指輪は魔物を支配下に置くための魔法の物品、アーティファクトなのだという。あたしは、そんなもの破壊すべきだと思う。

「宰相さえ排除すれば、この国は変わる」カミーユの演説は、まだ続いていた。

「大貴族が権力を握っているからこそ、この国は間違った方向へ進んでいるのだ。王国の広大な土地を支配している大貴族たちが結託しているから、農村は疲弊し、物資の流通は滞り、経済は停滞している。魔王の存在は、混乱の原因ではない、結果なのだ。この状況が続く限り、第二第三の魔王が現れるだろう。それを食い止めるためにも、今、この魔王の軍勢を率いて王都へ向かい、宰相を排除することが必要なんだ」


 あたしたちは、これまでの冒険で様々な場所を訪れた。確かに、魔王が直接関わっていないような場所でも、様々な問題が山積していた。魔物の被害に遭っているお婆さんにに、「何故、魔物がいるような場所に住んでいるのですか?」と、バカなフリして聞いてみたら「悪い領主ではないから」って言ってた。それはつまり、悪い領主は魔物よりも恐ろしい、ということだよね。あたしたちは、そのような国にいて、今、それを変えるかもしれない力を手にしている……。

「宰相の陣営は、利害によって結びついているだけだ。軍勢が王都に向かっているという知らせを聞いただけで、内部から崩壊するだろう。心配はいらない。王都が戦場と化すことはない」

「宰相を排除した後には、世直しを行おう。王に権力を集中させ、大貴族の領地を解体し、村の有力者たちの協力を得て新たな土地を開拓し、流通を改善し、豊かな国を築くんだ」

 言っていることは理解できる。しかし、その前段階の暴力的な手段がどうしても引っ掛かる。あたしは王国のことなんかよりもアルチュールの方が大切だ。カミーユは、いつもの冷静さを失っているように感じられる。彼の言葉に乗ってしまえば、またアルチュールの首が王都でさらされるような気がしてならなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。