SGS426 宝珠を没収せよ
「もう一つ、重要なことをガルバに命じるつもりです。それは……」
オレの説明を聞いて、ラモル神とサーラ神は顔を強ばらせた。
ガルバに命じる重要なこととは何か。それはフォレス神一族が保有している復帰の宝珠をガルバに命じて強制的に没収させることだ。
“滅びの仕掛け”が動き始めて1か月半。魔族による攻撃は一段と激しくなり、人族側のソウルオーブは急速に数を減らしている。ソウルオーブが失われていくことで住民たちの不安は増大し、街の治安も悪化の一途をたどっている。
“滅びの仕掛け”を止めるためには“復帰の仕掛け”を発動させなければならない。そのためには復帰の宝珠が6個必要であり、そのうちの1個はフォレス神が保有する復帰の宝珠である。本来であれば外交折衝で復帰の宝珠をクドル共同体へ貸与してくれるよう交渉することになるが、今の状況ではそれは困難だ。なぜならフォレス神はバーサット帝国側に与しているから、復帰の宝珠を貸与してくれる可能性はほとんど無いからだ。そこでガルバを利用することになるわけだ。
この件をラモル神とサーラ神に説明するかどうかオレは迷っていたが、正直に話すことにした。もしも何も知らせないままガルバを利用して、後でそれをラモル神たちが知ったらどうなるだろうか。彼らはオレのことを信用しなくなるだろう。この先もラモル神とサーラ神とは良好な関係を維持したいし、それがフォレスラン王国との関係改善にもつながっていくはずだ。
「ケイさん、あなたが滅びの仕掛けを止めるために復帰の宝珠を必要としていることは分かります。しかし、我が国が保有している復帰の宝珠をケイさんへお譲りすることはできません。それをすると、我が国の立場が危うくなりますから」
「ええと、少し勘違いをされているようですが、わたしは貴国が保有する復帰の宝珠を譲ってほしいとは言っていませんよ。ガルバに命じて強制的に没収させると言ったのです。ですから、貴国は復帰の宝珠をガルバに奪われたという、いわば被害者の立場です。ガルバがそれをわたしに渡したとしても、そんなことは貴国は知らないことですし、わたしがガルバに暗示を掛けてそれを命じたことも貴国は知らないことです。貴国はそういう立場を貫いた方が賢明だと思いますよ」
「なるほど。ケイさんへ宝珠をお譲りすると言ったのは当方の言い間違いでした。でも、ガルバが強制的に我が国から復帰の宝珠を没収したとなれば、いずれそれはバーサット帝国の知るところとなるでしょう。帝国はガルバへ復帰の宝珠を差し出すよう求めるはずですが、ガルバがそれを持っておらず、クドル共同体が復帰の宝珠を集めていると知れば、やはり我が国の立場は危うくなります。当然、ガルバは罷免されるか罪に問われるでしょう」
「そうですね……。おふたりが心配されていることはよく分かりました。それではこうしましょう。ガルバが復帰の宝珠を貴国から没収した後、ガルバがそれをどうするかをお見せします。それを見れば今よりはもう少し安心してもらえると思いますから」
言葉だけではラモル神たちの不安は取り除けそうにない。二人とも相変わらず固い表情のままだ。
オレは溜息を吐きたくなるのを堪えながら言葉を続けた。
「ああ、それと……。今回の騒動についてですが、ガルバと配下の魔闘士たちへは実際に起きた事実とは少し違う記憶を植え付けます」
「それは、どのような?」
オレはそれを説明した。こんな筋立てだ。
ガルバたちはケイを捕らえようとした。ところが、ケイには「妨げの宝珠」によるワープ妨害が効かなかった。その原因は分からない。ケイはワープで逃れて、その直後に二人の使徒を連れて戻ってきた。ケイたちはワープで突然に現れて、戦いを仕掛けてきた。シンイチは不意を突かれて、ケイに倒されてしまった。ガルバと魔闘士たちも不意を突かれた。魔闘士たちは一人が殺され、残りの者は全員が眠りの魔法を掛けられて、戦闘不能な状態にまで追い込まれてしまった。ここまでは事実だが、ここから先が違う。
ガルバだけは子供を人質に取っていて、魔闘士たちの眠りを解除するようケイに要求した。ケイはガルバの要求を受け入れ、魔闘士たちを目覚めさせた。ガルバと魔闘士たちはケイの隙を見つけて、子供たちを人質に取って反撃を開始した。ケイは人質が傷つくことを恐れたのか使徒たちと一緒に飛行魔法で逃げていった。その際にケイはシンイチの体を持ち去った。「妨げの宝珠」も奪われてしまった。今回の作戦が失敗したのはケイに対して「妨げの宝珠」が効かなかったことが原因である。
オレの説明にラモル神たちも口裏を合わせると言ってくれた。
その後も少し話をして、ラモル神とサーラ神は部屋を出ていった。暗示や尋問に立ち会うのを遠慮してくれたのだろう。
オレはすぐに暗示魔法をガルバに掛けて、ガルバに新たな記憶を植え付けた。その記憶とはさっきラモル神たちに説明した内容だが、それに加えてもう一つ重要な記憶を付け加えた。それは、ガルバとオレが二人っきりで密かに話し合いを行って、オレから重大な秘密を打ち明けられたという記憶だ。その秘密とはオレがガルバのために用意した例の作り話である。ケイという神族の女性は地母神様が密かに用意した切り札であり、バーサット帝国の皇帝もケイが自分の真の味方であることを知っているという内容であった。
ガルバはスンナリとその話を信じた。ガルバが子供を人質に取って魔闘士たちの眠りを解除するようオレに要求してきたときに、実はその秘密の話し合いをしたことにしている。
ガルバに対して暗示を掛けて偽りの記憶を植え付けた後、ガルバを尋問した。部下の魔闘士たちに対しても一人ずつ暗示を掛けて処置をした。
フォレス神一族から復帰の宝珠を没収する件についてもガルバへ暗示をしっかりと掛けておいた。
「では、ガルバ。フォレス神一族から復帰の宝珠を没収しなさい」
オレが命じると、ガルバはオレが暗示を掛けたとおりに動き始めた。その言動には何のためらいもない。
オレは隣の部屋に移動した。隣の部屋には誰もいない。オレは椅子に腰掛けて、静かに成り行きを見守ることにした。魔視と魔聴の魔法を使えば、壁で隔てられていても隣の部屋の様子を見聞きできるのだ。
ガルバは部屋に自分の部下を招き入れて、神族の誰でもいいから呼び出すよう命じた。少し待っているとラモル神が現れた。
ガルバはラモル神に対して一族が保有している復帰の宝珠を没収するから直ちに持参するよう強い口調で要請した。ほとんど命令に近い口調だ。
ラモル神は事前にオレから復帰の宝珠を没収することを聞いているから素直に従った。姿が消えたからワープで拠点へ転移して、保管してある復帰の宝珠を取りに行ったのだろう。
半時間ほど経って、フォレス神が慌てた様子で部屋に入ってきた。その後にダリア神が続き、少し遅れてラモル神とサーラ神も現れた。
「これは、これは。一族の皆様がまたお集まりとは、このガルバが先ほどラモル神様にお願いした件ですかな?」
問いかけられて、フォレス神はガルバに掴みかかりそうな勢いで口を開いた。
「おお、まさにその件でガルバ殿へお尋ねしたいことがあってな、一族全員でここへ参ったのだ。ここにいるラモルから聞いたのだが、我が一族が保有しておる復帰の宝珠をガルバ殿が没収すると申されたとか。それはラモルの聞き間違いであろうな?」
「いいえ、聞き間違いや勘違いではありませんぞ。お分かりと思いますが、復帰の宝珠はバーサット帝国の戦略の妨げとなる物です。貴国がその宝珠の保有を続けるということは、我が帝国に刃を向けておるに等しいことなのです。と言うことで、ラモル神様には復帰の宝珠を没収するので直ちに持参してほしいと申し上げたわけです。お分かりいただけましたかな?」
「無理なことを申されても困る。ガルバ殿、この宝珠は我が一族の宝なのだ」
「お渡しいただけぬと申されるので? 失礼ながらフォレス神様は我が帝国の戦略に異を唱えるおつもりですかな?」
「そのようなこと、するはずがない!」
「まだお分かりではないようですなぁ。貴国は我が帝国の味方となったのですよ。皇帝はそれをとても喜んでおられます。しかし、フォレス神様がそのような邪悪な宝珠を後生大事に一族の宝として保有し続けるというのは、我が帝国に対して叛意を抱いていると、皇帝はお考えになるかもしれません。いや、おそらくそうなります。そうなれば、どのような災厄が貴国に降りかかることになるか。想像するのも恐ろしいことですなぁ」
その後も言葉の応酬が続いたが、結局、フォレス神が折れた。
フォレス神は持参してきた復帰の宝珠をガルバに渡しながら意気消沈した様子で尋ねた。
「ガルバ殿、教えてほしいのだが……。帝国はこの宝珠を没収して、どうするつもりなのだ?」
「なあに、難しいことはいたしません」
ガルバはそう言いながら近くにあった書記官用の机に歩み寄った。引き出しを開けて何かを取り出した。ハンマーだ。
「こうするだけです」
ガルバは手に持ったハンマーを振り上げて、机に置いた復帰の宝珠に叩きつけた。「バキッ!」という破砕音と「アアアッ!」というフォレス神たちの悲鳴が重なった。
※ 現在のケイの魔力〈1452〉。
※ 現在のユウの魔力〈1452〉。
※ 現在のコタローの魔力〈1452〉。




