表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

144/373

67

誰も遊びに来られない日は、刺繍花やコースターを作って時間を潰している。


黙って見ていたオニキス伯爵令息も暇だったようで、「お小遣いが欲しいから手伝わせてほしい」とのことで作り方を教えた。

くみ紐の時に不器用じゃないとは思っていたけど、実はアズラ様よりも器用だったとは。


「どうしてくみ紐は適当だったんですか?」


「適当にはしてないよ。ただ早く作り終えて、教えてほしいとか、手伝ってほしいとか言われたくなかっただけ」


オニキス様って時々、全てが嫌いなんじゃないかって思わせてくる。


「それにしても、早い上に上手ですね」


「まぁ、刺繍もできるからじゃない」


「できるんですか!? すごいですね」


「好きな子が昔やんちゃだったんだ。よくスカート破いててさ。それで、その子が怒られないように裁縫も刺繍も覚えたんだ」


思い出して微笑むオニキス伯爵令息の顔は、幸せそうにも悲しそうにも辛そうにも見えた。

ただ、とても大切な思い出なんだろうということは分かった。


「本当に好きなんですね」


「ものすっごく好きだよ。小さい時からずっとね。純愛だって言ったでしょ」


「そうでした。そのうち会わせてくださいね。オニキス様の恥ずかしい話を、いっぱい教えてもらわないといけませんから」


「……うん、そのうち会ってやって」


泣きそうに笑うオニキス伯爵令息に、ルチルは涙しそうになりながら明るい声を出した。


「私が会うってことは、オニキス様もその時会えるってことですから一石二鳥ですね」


「そうだね」


「会いたいはずなのに、すぐに会いに行こうとは言わないのね」と思いながら、アヴェートワ領に行ったら何をしたいかの話をして空気を変えた。


踏み込んでいいのか、踏み込んではいけないのか分からない。

聞いてほしいのか、聞いてほしくないのか分からない。


人の幸せは人の数ほどあると分かっているけど、もし辛そうにされたら? 酷い恋だったら? そんな恋は止めて、他の子を好きになれって言いたくなったら?


その人を想って言った言葉が、その人を傷つけるかもしれない。


恋や愛や情なんてものは、頭と心が別々に動いたりもする。

理解したくないことや、分かっていても止められないこともある。

人間関係ほど難しいものはない。


だからこそ、大切にしているだろう恋を聞くことができない。


幸せになってほしいと思う。

協力できることは協力したいと思っている。

でも、それが傷つけることになってほしくない。


幸せだと笑ってくれたら、惚気を聞くことができるのに。





秋休み後半のアヴェートワ領への旅行は、夏休みと同じく楽しくて大成功だった。


どこに行くのも祖父と父と弟が一緒で、祖父はルチルの横から離れることはなかった。


シトリン公爵令嬢とフロー公爵令息の距離も、また少し縮まっている気がして嬉しかった。

街での買い物では、イチャついているようにも見えた。


冬期にあるダンスパーティーのドレスのデザインは、アヴェートワ領への旅行前には3人共決めることができた。


アズラ王太子殿下はルチルのデザインに合わせて作るからと、なんと王宮のデザイナーを巻き込み作ってくれることになった。


大変なこともあったし、結婚を前に王宮に住むことになってしまったが、振り返れば、周りからの愛情を再確認できた多幸な秋休みだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ