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冬期が始まり、学園祭の準備が始まった。


学園祭といっても、文化祭のようにクラス毎の出し物があるわけではない。


学園祭は、各選択科目のお披露目で、個人発表会みたいなものだ。

剣術はトーナメント戦による模擬試合、音楽はホールでの発表会、美術と裁縫は展示会となる。


夏期の期間同様、魔法関連以外の授業はHRとなり、学園祭の準備に変わる。


ルチルとシトリン公爵令嬢は、裁縫の授業を選択している。

学園祭の展示品は、ルチルが刺繍を施したクッション、シトリン公爵令嬢がハンカチサイズの刺繍絵画だった。


2人は、学園祭の準備を教室でしている。

裁縫の授業の教室に行けば先生がいるから分からないところは教えてもらえるが、その分人が溢れかえっているのだ。

静かに作業したい2人は、裁縫の授業の教室に行く気になれなかった。


「どうして下手なのに刺繍絵画?」


「うるさいわね!」


「そこ、それでいいの?」


「だから、うるさいわよ! 剣の稽古しに行きなさいよ!」


不器用なシトリン公爵令嬢を怒らせているのは、オニキス伯爵令息。


「アズラ様も剣の稽古……いえ、なんでもありませんわ」


こわっ!

お祖母様の淑女教育の怒りの微笑み、無言の圧力を思い出したわ。


「ルチル嬢を1人にさせられないんだから、稽古に行けないでしょ」


ですよね。

さっきのアズラ様からも「何を言い出すの?」という声が聞こえた気がしたよ。


「だったら、静かに他のことしなさいよ」


「その危なっかしい手つきが気になって、他のことに手をつけられないの」


「え? それは、シトリン様のことが気になるということですか?」


ごめんなさい……

だから、2人して睨んでこないで……


「ルチル嬢って、周りをよく見ているようで見られてないよね」


「ひど」


見ていると思うけどなぁ。

あたし、精神年齢はもうすぐ3桁いくよ。

でも、本の知識以外は知らないことが多いからなぁ。

そういう意味かな。


「もっと勉学励みますわ」


「そういう意味じゃない。恋愛関係ズレてるって意味」


ズレてないよ。

みんなより経験豊富だからね。

前世、ドロ沼化した友達を支えたこともあるんだからね。

いやー、あの四角関係は殺人事件に発展するかもと恐怖だったよ。


「殿下も大変だよね」


「僕は大変だと思ったことないよ」


泣くまで弄られているのに大変じゃないのか。

もっと弄っていいのか。

有益な情報をありがとう。


「大変といえば、そのクッションの刺繍間に合うの? 来月から3人共、1ヶ月も休学するんでしょ?」


「今月中に仕上げておこうと思ってますわ。仕上がらなくても、向こうでの空き時間に刺そうと思っていますし」


ルチルとアズラ王太子殿下とオニキス伯爵令息は、11月になると北の国境の領地ルドドルーに、祖父と父、そしてアヴェートワ騎士団と一緒に行くことになっている。


表向きは、アヴェートワ騎士団とルドドルー騎士団の合同演習。

実のところは、魔物退治。


ルチルたちが一緒に行く理由は、アズラ王太子殿下に魔物退治の指揮を執らせるため。

神殿を鎮定するまでに、民衆の心を可能な限り王家に向けさせたいという考えからだ。


「アズラ様だけでいいのでは?」とルチルは思ったが、ルチルとアズラ王太子殿下が離れている時に誘拐されてしまうと、追いかけることができないからということだった。


「ルチル様がいないなんて、本当に困るわ」


今も髪の毛をしているのは、あたしだもんね。

練習はしているけど上手くならないんだよねぇ。

シトリン様、不器用だから。


「アンバー様に頼んでいきますから大丈夫ですよ」


というか、既に頼んでいる。


「一緒に行きます」と詰め寄られたけど、アンバー公爵令嬢には残り少ない学生生活を満喫してほしいので、丁重にお断りをした。

最終的には折れてくれたが、「難解問題を解く方が楽だ」と思うほど、説得するのに時間がかかった。


「そういえば、今年は誕生日パーティーをしないのですか? 父が『ナギュー公爵家から注文が来ない』と言ってましたが」


仲良くなったので新作スイーツを作ろうと考えていたのに、父から注文がないと言われて驚いたのだ。


「秋休みにあんなことがあったでしょ。だから、気をつけるために今年は見送ったのよ。誕生日パーティー中に襲撃されたら困るからって」


「でも、ナギュー公爵は宰相ですから、色々ご存知なのでは?」


「そうね。知っていると思うわ。でも、お父様もお母様も、私が真相を知っていることは知らないし、世間では私の代わりにルチル様が襲われたことになっているのよ。そんな中でパーティーなんて常識なさすぎでしょ」


ああ、今年に入って何度思ったことか……

シトリン様、成長しましたね。

感動で泣きそう。


「では、ささやかですが、学園でお祝いしましょう。シトリン様のために新作スイーツ作りますわ」


「新作スイーツより、可愛い小物とか化粧品がいいわ」


「うわっ! 絶対新作スイーツ!」


「私の誕生日よ!」


可愛い小物かぁ。

何がいいのかな?


リバーに夏休みに頼んだアレは、まだ完成していないのかな?

でも、アレは先に王妃殿下にだよねぇ。

それに、エンジェ様にいいかもって思って作ってもらっているものだからなぁ。


コスモスを刺繍したシュシュでも作ろうかな。

お団子にシュシュって可愛いし。


「制服に合うだろう新しい髪留めを作りますね」


「嬉しいわ!」


「えー、新作スイーツー……」


「オニキスの誕生日に作ってもらえばいいじゃない」


「俺の誕生日は、とっくに終わってんの」


「いつですか?」


「6月24日」


「え? アヴェートワ領で遊んでた時?」


「そうだね」


「え? え? よかったのですか?」


「なにが?」


「だってか一一


「ルチル、そろそろ片付けないと」


「もう昼食の時間なのね」


今、遮られた?

家族はよかったの? 彼女は? って、聞いてはいけないこと?


でも、そのことを言うかどうかなんてアズラ様に分かるわけないし。

気のせいかな?


オニキス伯爵令息が「少ししか刺せてないけど間に合うの?」と、またシトリン公爵令嬢を揶揄っている様子を、片付けながら横目で見ていた。


11月までにルチルは、先にシトリン公爵令嬢のシュシュを完成させ、クッションを半分まで完成させた。


シトリン公爵令嬢の誕生日は10月後半なので、ルドドルー領に行く前に学園の大食堂でお祝いをした。

カフェには置いていないスイーツも用意し、シュシュはその場で髪につけてくれるほど喜んでもらえた。






明日からルドドルー領編が始まります。

みんな頑張りますので、応援よろしくお願いします。


いいねやブックマーク登録、誤字報告、感想ありがとうございます。

読んでくださっている皆様がいるから、楽しく書いています。

本当にありがとうございます。


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