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次の日なんだか暑くて起きると、顔も体も真っ赤にしているアズラ王太子殿下に抱きしめられていた。
「アズラ様、おはようございます」
「へ? あ、ルチル、起きたの? おは、おはよう」
朝から吃っちゃってる。
もしかして、昨日の夜を反芻してたのかな?
「あの、あのさ、ルチル。僕、昨日止めてほしいって、その、言ったよね?」
「はい、言ってましたね」
「どどどうして止めてくれなかったの?」
「どうしてって、嫌じゃなかったからですよ」
「そ、それは嬉しいけど、ででもね、でもさ」
アズラ王太子殿下に痛いほど抱きしめられた。
痣になるー! って思うほど痛い。
もしかして、悶えてるの?
やだ、可愛い。痛いけど。
「暴走しちゃって、ごめんね」
「あれぐらい大丈夫ですよ」
今暴走してる力を弱めてくれたらありがたい。
痛い。
それに、昨日の夜は暴走ってほどのこともなかったのに。
初心な奴よのぅ。
「アズラ様、チャロやカーネが起こしに来る前に服を着たいのですが」
「あ、あ、うん。そそそうだね。ふふふく着よう」
一旦落ち着いたと思ったのに無理だったか。
これはまた数日、目を合わせてくれないかもね。
服を着た時に、チャロとカーネが起こしに来た。
オニキス伯爵令息も一緒に入ってきて、アズラ王太子殿下を見てニヤニヤしている。
「殿下ー、楽しい夜だったんですかー?」
「なななななにもない!!」
「へー、そーですかー」
「へへへんな想像するな!」
「はいはい。分かってますよー。でも、首にキスマーク付いてますよ。それ隠せる服、着た方がいいですよ」
「へ? キスマーク?」
くっ! バラしたな!
アズラ様は全く気づいていなかったのに!
あたしが後からバラして、反応を楽しもうと思ってたのに!
両手で首を隠したアズラ王太子殿下が、真っ赤な顔で見てくる。
「ルルルルチル、その、つつつつけたの?」
「はい。つけたかったので」
「ななななんでくくくびに」
「アズラ様は私のモノって、みんなに言いたくなりまして」
「ぼぼくはルチルのモノだけど、見えるとこにつけちゃダメだよ」
ふむふむ。アズラ様は私のモノでいいと。
見えないところになら、つけてもいいと。
「分かりました。今度からは見えないところにします」
「ちちちがっ! そそそういう意味じゃ」
「殿下、早く用意しないと、アヴェートワ前公爵の訓練遅れますよ」
え? 今も、まだやってたの?
秋休みの間はお休みかと思ってた。
アズラ様、首隠せる服を着てください。
まだ死んでほしくありません。
オニキス伯爵令息も強制参加だそうで、ルチルの部屋の前をギッチギチに近衛騎士に守らせてから、2人は訓練場に走っていった。
オニキス伯爵令息は護衛騎士だが友人でもあるので、訓練後は一緒に昼食を取り、「訓練辛い」と溢すオニキス伯爵令息を労った。
昼食後は、執務と勉強があるというアズラ王太子殿下とは別れ、オニキス伯爵令息に応接室に案内される。
ミルクは、足元でジャンプしているような駆け足でついてくる。
「シトリン嬢とアンバー嬢が来るって」
「どうして応接室ですか?」
「できるだけ外部に部屋の場所を教えたくない、っていう殿下の考え」
「それは……2人を信用してないと……」
「そういう意味じゃないよ。元々王族の居住地には特別な何かがないと入れないしね。それに近々、部屋の場所を変えるってさ」
「何かあったんですか?」
「ないない。ルチル嬢が王宮に住みはじめたら、はじめから殿下は1年毎に部屋の場所を変える予定だったらしい。それが少し早まっただけだって言ってたよ。ルチル嬢を守るための思案はいくつもあるんだって」
あたしを守るため、忙しいのにアズラ様は色々考えてくれているのか。
何か恩返し……って、コーヒー豆見つからないなぁ。
コーヒー豆があれば色々できるのに。
「オニキス様、つかぬことをおうかがいしますが」
「ん? 昨日の夜のことは知らないよ」
「ではなくて」
「やっぱりルチル嬢は慌てないんだ。面白くないの。で、なに?」
「小豆みたいな形をした、黒くて硬い食べ物知りませんか?」
「んー、知らない。探してるの?」
「はい。でも、中々見つからなくて……」
「カカオを取引しているから、従兄弟にはアヴェートワ公爵が聞いてそうだもんね。だから、俺に伝手はない。ごめんね。ちなみに、それで何ができるの?」
顔も瞳も輝いている。
ティラミスができるけど、基本……
「飲み物です」
「また飲み物ー。新しいスイーツ希望!」
「ルイボスティーのようなお茶ではなく、スイーツのための飲み物ですよ。チョコレートに合うんです」
「そうなの? だったら、ぜひ見つかってほしいな」




