第65話:【世界規模なラーメン】
「12:00過ぎか......」
「そろそろランチ補給ですね。」
桂川サイクリングロードを気楽にかつ航続性重視で流して西陣の店への帰還を目指す結愛たちは鴨川沿いから桂川沿いへのジャンクション地点となる赤池通の手前を走行していた。
「今日の補給はすごいぞ.....?だが、若さもあって消化器官が育った今のお前なら多分攻略できるはずだ。」
「すごい.....?」
「言ってからのお楽しみだ。ここからは俺についてこい。とっておきを紹介してやる。」そう言って結愛の前に出る健矢。
赤池通を東へ進む一行。今や貨物線と化した私鉄の跡地を視界に捉えながら、手近なガードレールの柱にアースロックして停め、アラームを起動しておく。規制するほど自転車そのものが走っていないこの時代だからこそのズボラ技。AI時代以前は色んな意味で絶許判定でしかない。
「ニンニクの臭いが既にすごいんですが.....!?」
「お察しの通り、消化器官が元気であればロードバイク乗りが半日使い倒した肉体にぶち込むべき全てを補給できる夢のような店さ.......」
ロードバイクをレジャー利用するとはこれ即ち、速度と1日当たりの移動距離と引き換えに己の身をハンガーノックすれすれの位置に置く行為であると言っても過言ではない。よって、合理的なカロリーと糖分、塩分、脂肪の補給がそれなりの量で必要なのである。
「だから、こんなモノですら罪悪感0で食えちまうんだよな。(金もあるし)」
AIが人間社会を支配するディストピア時代になって、人間の労働によって提供されるラーメンのお値段の相場は20倍にまで跳ね上がり、すっかりお高くなった。しかし、ここは健矢である。金銭の処分に困って月の生活費を100万円に設定し、『消費目標』にしているような人間には関係のない話というものだ。
「10年くらい前は豚のエサだの、コスパ最強総合栄養食だの、圧倒的な庶民の味方だのと......もてはやされたっけな。」
などと懐かしむようにつぶやきながら二人分の飲食費、四八,〇〇〇円分のクレジットを自販機へ送信し、網膜VRからはシオンからの使途不明決済の完了の確認連絡を受信する。
もちろん、結愛どころかシオンと出会う前から定期的に通っているので、普通は大してノスタルジーに浸る要素などないものなのだが、若かりし頃から通っている健矢にとっては、懐メロをヘビロテで再生するようなものなのである。
小ラーメンのプラ食券を2枚購入し、1枚には洗濯ばさみを施す。
「おしぼりや水はセルフサービスだ。箸とレンゲを忘れるな?あと、コールってのがある。店主が『ニンニクいれますか?』と尋ねてきたらそれが合図だ。『ヤサイアブラスクナメ』と言うんだぞ。小声で言ってみ?」
「ヤサイアブラスクナメ」
健矢は満足げにサムズアップ。
ランや筋トレに励む体育会系の政治家先生や、将来を嘱望された体育学校内の相撲部屋の人々、フードファイター(上級国民)が主な客層であるとも説明。
今も横ではフードファイターと思しき痩身の青年とギャルが片や1kg、片や500gの麺と野菜で構成された塔を攻略している。
「1kgの上にヤサイマシマシか、見てるだけで胸焼けしそうだ.....あれほどじゃないが、昔は俺もやってたけど」
選手の二人は脂汗を浮かべており、それなりに苦しそうである。
「え....健矢さんも.....おいくつの時の話ですか?」
「25歳とかだな。新卒ホヤホヤな時期だったが400g豚ダブルの前に撃沈して、そそのかした当時の悪友に責任食いして貰ったのはいい思い出だ。」
「今となってはヤサイを削らんようにしてるとは言え、小ラーメンで満足している慎ましい身の上だよ。」
(支払額が慎ましくないんですけど)などと結愛が心の中でぼやいていると店主の声がする。
「ニンニク入れますか?」
「ニンニク・イチミマシ!」
「ヤサイアブラスクナメ。」
コールから割と間を開けず着丼。 大量のワシワシしたド迫力の太麺......がしっかり視認できるのはヤサイがスクナメの結愛だけで、健矢の丼の麺は視認できず、上にはこんもりと野菜の山が出来ていてニンニクが結愛のよりも存在感を主張している。
丼を受け取ると、健矢はまず、野菜と麺の上下を入れ替えた。
「これを『天地返し』という。必修スキルだ。ここではラテン語とイタリア語以上のな。」
結愛もマネをして返す。
麺を上に、野菜を下にすることで麺が伸びるのを防ぎつつ、視野に麺の残量を視界に入れ続けることで心を折れにくくする心理作戦的な意味もある。野菜は水分を多分に含んでいるので麺ほどスープの油を吸い込んで膨れたりはしないのだ。
濃厚な醤油とブタのアブラが演出するジャンク感が、ライドで酷使した肉体へと染みわたり、肉体の修復が加速する回復の実感を得る。
「厚切りの豚がコスパとたんぱく質のチャージ感をみなぎらせてくるこの演出は自転車をやっている限り、いくつになっても病みつきになる。」というのが健矢の主張である。
「いいか、結愛。くっちゃべりながら食うと麺が伸びて悲惨な目に遭う。ズズッと素早く胃へ流しこめ。これで十分に味を楽しめる設計だからな。」
サムズアップで答える結愛は素早さを優先し、健矢も勢いで食べきりを狙い、無事に間食した。
「食器とかは上の棚に上げ、おしぼりは使用済みのカゴへ置くように。ごちそうさまでした。」
ちょうど、ファイターたちも食い終わったようだったので店を出た直後に配信チャンネルを教えてもらった健矢。
「お、おなかいっぱいですぅ~~~......」
「そうだな、今は消化にもエネルギーを割いている。前にも言ったように、ここから1時間ほどはL2トレーニング程度の負荷を意識するように。」
2人はゆっくりと家路に向かって走行再開した。
この話はAIを一切使わずに執筆しました。感想なども頂けると嬉しく思います!
後、ロードバイクでラーメン屋さんに行くときは必ず指定の駐輪スペースまたは最寄りの駅などに設置された駐輪場などを防犯を徹底しつつご利用ください。ルールを守って楽しくライド!




