↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
96/96

第66話:【新世界のコンビニと補給】

淀川サイクリングロードでのメタルクワガタへの対応を知り、京都市内へと帰還し、ガッツリと補給を済ませた2台の白いカーボンのPINARELLIと初々しいアルミのチェレステ。


国道24号をゆったりとしたペースで北上し、久々の市街地へと足を踏み入れたところで、先頭でペース管理をしていた山崎健矢がスピードを緩めた。


「よし、そろそろピットインするぞ。長時間走行後にメシで補給したとはいえ固形物がエネルギーになるには時間がかかる。こういうタイミングでコンビニに寄って、ジュースやコーラを飲むのはすごく大切なんだ」


「えっ……でも健矢さん、さっき墨染付近でマシマシ系な補給食を食べたばかりなのに?」


不思議そうに首を傾げる結愛(ゆあ)に、健矢はペダルを止めながら教え諭すように語りかけた。


「糖質ってのはな、自転車を走らせている俺らにとって、車でいうガソリンやら電力も同然なんだよ。


補給を怠って体がスカスカになると『ハンガーノック』を起こして動けなくなるのは当然として、そこまでいかなくても出力がガタ落ちして走りを楽しめなくなったり、走った後の回復能力が著しく低下するリスクがあるんだ。前にも言ったようにな」


さらに、夏場などの過酷な季節には熱中症対策としてアイスなどの冷たい糖分を身体にぶち込む必要性も出てくる。


「何より今の地球は、あちこちに増設されたAI用の巨大なデータセンター群から絶え間なく膨大な熱放射が行われているだろ。おかげで氷河期なんて永遠に来そうにないレベルで年中暖かくなってるからな。体温調整と水分・糖分補給の管理は昔以上にシビアなんだよ」


健矢は十条河原町の交差点を少し北に上がった当たりに見えてきた小ぢんまりとした建物を指さした。 旧時代にはどこにでもあったコンビニの跡地。現在はAI管理のもと、最低限の生活物資が整然と配給・格納されている小規模物資集積所である。


「昔のコンビニってのはな、中に店員さんが立っていて、客は現金を出したり、スマホをレジに翳して支払ったりしていたもんだ。だが今は、欲しい商品を手に取って、シオンやイズミに決済データを送るだけで完了する。便利になったもんだが……ちょっと味気ない気もするけどな」


時代の変化をどこか懐かしむように語る健矢の横で、結愛も興味深そうに集積所の自動ドアを見つめていた。


自転車を集積所の脇にある駐輪用スペース付近の膝の高さほどあるU字構造物へと滑り込ませる。


「ツーロック、絶対に忘れんなよー」


「はーい! ダイヤル式とワイヤーロック、しっかり掛けます!」


結愛は健矢の教えを守り、愛車『MIRANO7(ミラノセブン)』の前後輪とフレームを確実に二重施錠した。どれほどAIによる監視網が行き届いた世界であっても、貴重な自転車を守るための防犯意識に妥協は許されない。


「よし、行こうか」


二人が「FM十条河原町(物資集積所)」の自動ドアをくぐると、店内はひんやりとした無菌室のような空気に包まれていた。


かつてのコンビニのような煌々としたPOPや雑誌コーナーは廃されたものの、透明な保冷用シェルターの中には色鮮やかなパックドリンクやゼリー飲料、高カロリーな補給用スイーツが整然と並べられている。


「んー、この後は西陣までもうちょっと走るだけだしな。腹そのものは十分に膨れてるから、さっぱりしたフルーツオレでも飲もうかな。……結愛はどうする?」


そう言って保冷棚から240mlペットボトルのフルーツオレを手にする健矢。 結愛は目移りしながら棚を眺め、疲れた筋肉が欲している甘味を真剣な表情で吟味し始めた。


「私は……冷たいクエン酸入りのスポーツドリンクと、この果肉たっぷりのゼリーにします! 後味がさっぱりしてて美味しそう!」


『結愛ちゃん、ナイスチョイスです! ゼリーの果糖とクエン酸は、本日酷使した大腿四頭筋の疲労物質除去を劇的に促進してくれますよ♪』


イズミが嬉しそうにアナウンスを入れ、シオンが集積所の店舗管理端末へ通信を飛ばして一瞬で決済を完了させる。もちろん、健矢の買い物もシオンがスマートに決済を完了させている。


冷えたペットボトル飲料とゼリーを手にした二人は、ガラス張りの店外に出て、愛車を眺めながら静かに喉を潤した。 冷たい甘みが、50kmの道のりを駆け抜けてきた身体の隅々にまでじんわりと染み渡っていく。


「ふはぁ〜……! 走った後の冷たいジュースって、なんでこんなに美味しいんでしょうね……!」


「だろ? この一口の美味さを味わうために走ってるようなもんだ」


西陣のブックカフェ『アルカディア』を目指す最後の数キロメートルを前に、師匠と弟子は昼下がりの穏やかな風に吹かれながら、極上の補給タイムを噛みしめ、筋肉へエネルギーがいきわたる感覚を楽しむのだった。


「真夏なら安くて低脂質が売りのバリバリ君がいいぞ。梨味も定番のソーダ味もハズレがなくていいんだよなー」


「おいしそうですねー」


後は真っすぐ家路に就くのみである。

真夏のライド途中で補給するソーダ味、或いは梨味のあの安価なアイスは極上のご褒美です!まさにお値段以上。26年10月いっぱいをもって本作は一度休載いたします。


詳細→(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/3112094/blogkey/3733889/)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。