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VRドームの家畜になり損ねた30代独身カフェマスター、心拍数188の限界突破ドライブが全世界に生配信され、愛車のペダリングデータだけで国家予算級のおちんぎんを稼いでしまう  作者: 蒼波8
第13章「距離を延ばす」

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第13章閑話②:【元サイクリスト視聴者の評価】

西陣のカフェで繰り広げられた、ロードバイクとダイエットにまつわる赤裸々なトーク。その模様は「結愛ちゃんねる」を通じて、AIが人類の95%超を管理・収容する巨大ドームの網網またはクレードル(ネットワーク)へとリアルタイムで配信されていた。


配信のコメント欄は、開始直後から凄まじい勢いで流れていく。


『シオンさんGJ!』


『もっと言ってやれw』


『鬼師匠・健矢のスパルタ価値観にすっかり染まりつつある結愛たんから立ち上る狂気が最高です』


『元ポッチャリダーのワイ、低みの見物』


コメント欄に群がっているのは、かつて「さくらであい館」が閉鎖される際に愛泣く泣く愛車を処分した人々のような、旧時代の元サイクリストたちだった。


彼らはドームの安全管理された生活区画にいながらも、公道を駆け抜ける結愛と健矢の姿にかつての自分たちを重ね、今日も今日とて画面に釘付けになっていた。


『現実の自分のリアル肉体どうなってるか知らんけど、ドーム内アバターはちゃっかりイケメン設定にしてるからセーフ!』


『俺もw』


『もう「ブヒヒwサーセンwww」の暴飲暴食ライフは卒業だ!……管理AIに厳格管理されてるから(笑)』


『自己管理能力が行方不明じゃねぇかw』


『元ポッチャリダー(ナカーマ)が集まってるって聞いて飛んできましたよっと』


『知らなかったのか?イタリアじゃ太鼓腹こそが人生を楽しんだ男の勲章なんだぜ!……ってイタリアンバイクに乗るたびに自分に言い訳してたわ』


かつて自転車を趣味にしながらも、その実態は「走ること」よりも「食べること」がメインになっていたかつての猛者たちが、ネットの海で盛大なセルフ暴露大会を繰り広げる。


コメント欄の盛り上がりはさらに加速し、かつての「食生活の黒歴史」に関する証言が次々と飛び出していく。


『健矢の言う通りだわ……ライドの日とかマジで関係なく、普段から脂っこい食いもんボカスカ食ってたわw』


『値引きシールの貼られた350円のカツ丼は、俺にとっての勝利の味だった……(遠い目)』


『週末に50km走ったご褒美とか称して、パンケーキの山を貪る言い訳にしてた豚女が通りますよっとw ブヒヒw』


『カロリー消費? 知るか! 今日の俺にはコーラと唐揚げの補給が必要なんだ!って毎週末やってたわ』


画面の向こうで繰り広げられる、あまりにも人間臭く、そして不摂生を極めた元サイクリストたちの叫び。 そんなコメント欄の無法地帯と化した空間に、ピキリと電子的なエフェクトを伴って、冷徹な公式アナウンスが割り込んだ。


『——運営(シオン)よりお報せいたします』


コメント欄のスピードが、ほんのわずかに緩む。


『ドーム歴1年以上の皆様の肉体は、厳正なAI管理システムにより現在のカロリー収支および代謝バランスが最適化されております。現在、皆様の肉体が肥満状態ではないことをシステムとして保証いたしますのでご安心ください。AIの管理に抜かりはありません』


あまりにも容赦のない正論と、ドームの支配体制の優位性を突きつけるシオンの公式コメントに、視聴者たちは一瞬静まり返った後、盛大に爆笑の絵文字を飛ばした。


『なお、肥満ではありませんが、顔面偏差値の修正はありません、我々のようなAIによりプライバシーは保護されてます。アバターの顔こそが今の皆さんの顔そのものなのでご安心ください。』


『シオンたん、そこは夢を見させてくれよwww』


『AI管理の絶対的安心感と絶望感のセットやめろwww』


『現実の顔面は維持されててもよぉ……!』


その盛り上がりに乗じるように、年季の入った古参ユーザーがひょっこりとコメントを投下する。


『――けどよ、肉体が健康に保たれてようが何だろうが、今のドームの中からじゃあんな風に風を切って自転車に乗れるわけじゃないからな……!(古参の涙)』


そのコメントに多数の「いいね」がつき、古参ユーザーはさらに「結愛ちゃんねる」の初期、結愛が初めて、ガタガタ震えながらローラー台に跨がった懐かしい動画リンクをチャット欄に貼り付けた。


管理AIたちの冷徹なデータツッコミと、人間の業が渦巻くネットの反応。 ディストピアの片隅で細々と配信されるそのチャンネルは、今日もドームの住人たちにとって、失われた「生の感触」を思い出すための唯一無二のエンターテインメントとして、熱く、明るく機能し続けるのだった。

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