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VRドームの家畜になり損ねた30代独身カフェマスター、心拍数188の限界突破ドライブが全世界に生配信され、愛車のペダリングデータだけで国家予算級のおちんぎんを稼いでしまう  作者: 蒼波8
第11章(第2部第1章)【結愛の愛車】

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【12章閑話】ゆるいって何だろう?

健矢が結愛に公道の走り方や生き残り方を教えている頃、一人の初老の男が埼玉県春日部市某所のドーム内の居住空間からメタバース空間へアクセスする形でKENYAチャンネルを視聴していた。


『.....俺の場合はゆるポタメインだし、省エネ体質っぽいから。』


イタリアで精神と肉体の限界を削って長距離走行を達成し、今は結愛という元アイドルの教習を行っている狂犬の発言が気になるらしい。


彼の名は中村剛毅(なかむら・ごうき)。昔はカフェライドを趣味にしていた妻子持ちのぽっちゃり系おじさんローディーであった。


お洒落重視で購入した皮サドルが渋い中古のチェレステのクロモリロードを相棒に片道10km圏内のカフェで「俺カコイイ」してたちょっとイタい時代を映像を見ながら懐かしんでいるが......


彼の思い出は既に彼とその家族の初期投資のクレジットへと変換されており、もはや肉体も外出できるような有様ではなく、メタバースの世界でしか生きられなくなっていた。


コメント欄で常連相手に盛り上がるのが一つの楽しみである。娘と嫁は「パパおやじくさーい」と言って出て行ったっきり何年も顔を合わせてないが、達者でやっていればと細やかに祈りながら余生を過ごしている。


『ゆるポタに激坂を含める性癖.....ゆるポタとは?』


『今回は平坦L2じゃないかw』


『L2と割り切って平坦を走る奴のどこがゆるいか言ってみろよ』


『......走行距離と内容だけで計画や発想自体はユルさゼロな件w』


『初心者配慮を考えて自分に言い聞かせてるよな、あれ』


『ゆるポタ詐欺を実際にやらないだけ理性が残っている』


『これ終わった後、夜に山へ向かっている方に100クレジット賭ける。』


剛毅が感じた違和感が他の視聴者によって明文化されていく。この場に一般常識を持ち合わせていないのは健矢一人だけといういつものお約束である。


『結愛Ch(ゆあちゃん)のアーカイブ覗いてみろよ。健矢の本性は鬼やで』


『シオンも鬼すぎて草。俺の管理AIがどれだけまともか身に染みた件w』


『管理AIのありがたみを感じるチャンネル』


『みんな、感謝を忘れたら人間終わりだぞ!』


同意する内容にイイネを押していく。コメントを書かなくても言い値を押すことで満たされていく謎の快感が気持ちいいと剛毅も感じているようだ。


「俺も何か書き込むか。」


『ビアンコおじさんだった俺だが、全くゆるくない件w往復でも50kmちょいも走ればかなり頑張った方。当時の体重85kg。川口とか池袋のカフェまで行った時の俺は本当によく頑張った。』


書き込むとすぐに反応が来る。


『見てるか健矢?こういうのがゆるポタなんだよ。』


『健矢の距離バグの酷さがよくわかる良い例。GJ。』


『俺もピザデブだったが、ぶっちゃけメタバース社会様様過ぎる。メタバースでは俺イケメン!リアルの世界にしがみつけるだけでゆるくないよ』


『それなwww』


『結愛はよく頑張った。健矢とシオンは鬼←結論』


『同意しかなくて腹抱えてワロタw腹筋ブレイカーなぅ!』


常識を守れている自分に安堵し、仲間の存在に心が温まる感覚が剛毅の心を支えているのは間違いのない事実である。


『そういえば、自転車ってちょっと乗れば結構カロリー食うって前に健矢が言ってたよな?ビアンコおじさんはなんでぽっちゃりダーだったん?』


レスも返ってくる。剛毅は真摯にレスをする。


『デブがサ店でコーヒーだけ飲んで帰るとでも?パンケーキのタワーとも格闘していたせいだが何か?』


『知ってるからこそ食い過ぎてしまう!ポッチャリダーの宿命(さだめ)!』


『俺らの腹はブラックホール!無限に増殖する脂肪細胞(ストレージ)!』


『脂肪細胞(ストレージ)wwwww異世界物の収納魔法かよwww』


週1サイクリングで普段から晩飯食った後に夜食でカップ麺食いながらコーラやビールを楽しんでる分がチャラになるほど世の中甘くないのである。たとえ100km走っても。


『俺、元管理栄養士。マジレスすると普段から脂っこいもんばっか食ってたらチャリ乗っててもデブるぞ?』


『うん、知ってた』


『元内科医のワイが通るで!ドーム入りする前に医者の不養生で黒い調味料の漫才コンビのぽっちゃりしてる芸人さんみたいになって糖尿病を発症した。俺は悪ない、労働依存の旧社会が悪いんや!俺は悪くねぇw』


『kwsk』


『俺の勤務先、医者不足が深刻な上に反AI派こじらせたせいで労働時間が長すぎてドカ食いしかメンタルと体力の回復手段がなかったんや。運動する時間?そんなもんあると思うか?』


親切な住人も多分に存在する。活発なコミュニティには人の数だけ背景があり、専門家もそれなりにいるので、エビデンスがしっかり投下されるのだ。


ブラック病院勤務だった元医者の切ない背景までついでに知ることになったりするが。


本人に自覚など皆無であるが、健矢は今日も世界に笑顔の輪を作っている。距離がバグった狂人は今日も京都で、埼玉で、イタリアで、アメリカの狂気じみたクリエイターたちの遊びが合流するこのチャンネルを通して消費されていくのであった。


『健矢のゆるポタはゆるポタじゃない件、結論はこれでおk?』


『異議なし!』

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