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VRドームの家畜になり損ねた30代独身カフェマスター、心拍数188の限界突破ドライブが全世界に生配信され、愛車のペダリングデータだけで国家予算級のおちんぎんを稼いでしまう  作者: 蒼波8
第11章(第2部第1章)【結愛の愛車】

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第47話:【さいこん!】

「痛ぁぁ……っ! 指の皮が持っていかれるかと思いました……っ!」



『サイクルショップGIRO中嶋』の作業ピットで、結愛(ゆあ)は脂汗の浮かぶ額を拭い、真っ赤に腫れ上がった自分の指先を涙目で見つめていた。


地獄の「パンク修理講習」。硬いタイヤビードをタイヤレバーで無理やり押し込み、チューブの穴をヤスってゴムのりを付けて5分待ち、パッチをゴム班で圧着。


その後、チューブを噛ませて破裂させそうになりながらも、彼女は健矢と中嶋の大将のスパルタ指導のもと、自力でチューブの復旧にタイヤの脱着と空気注入を成し遂げたのだった。



「よくやった。まあ、初心者が最初に通る登竜門だ」


工具を片付けながら、中嶋の大将が満足げに頷く。



「うぅ……もう絶対に、途中でパンクなんてさせません! 週に1回の空気圧チェックも、乗る前の点検も絶対怠りませんからぁ!」


硬い決意を固める結愛。これでようやっと地獄の買い出しと講習から解放される——そう思って安堵の息を漏らした瞬間、鬼師匠・山崎健矢がその細い肩をがしっと掴んだ。


「よし。指の感覚が残ってるうちに、次は『サイコン』を選ぶぞ」


「さいこん……? 再婚……!? 健矢さん、私まだ独身ですし、アイドルなんですけど!?」



「サイクルコンピューターだよバカ野郎!」


健矢は即座に結愛の額をデコピンで弾くと、フラフラの彼女を引きずるようにして店内奥のデジモノ・電子ガジェットコーナーへと引っ張っていった。



「えぇーっ!? まだ買うものあるんですか!? 速度や走った距離なんて、スマホの無料アプリで見れば十分じゃないですか……!」


「ダメだ」


健矢は首を横に振った。


「スマホは路上からの微振動でカメラの光学手ブレ補正機構が狂うし、バッテリーの消耗も激しい。何より、前回決めたiSPORT(アイ・スポルト)のライトやリアレーダーと連携させるなら、同じブランドのサイコン(サイクルコンピューター)一択だ。アプリの一括管理が劇的にラクになる」



結愛の視界に、管理AIシオンの無機質な音声が淡々と割り込む。 『データを補足します。安価なエントリーモデルを購入し、機能不足から買い足しや買い替えを繰り返すよりも、最初から必要十分な高機能モデルを1台導入する方が、トータルの出費(出血)を32%削減できます。管理コストの面からも極めて合理的です』



「安物買いの銭失いはするな、ってことだ」



健矢は棚から色鮮やかな液晶画面を配したひとつのパッケージを取り出した。



「お前への答えはこれだ。iSPORTの最新ナビ搭載モデル『BN1100A』で行く」



「ナビ……!? 画面に地図が出るやつですか!?」



「そうだ。知らない道でもフルカラーのマップとナビゲーションが表示されりゃ、迷子になって詰むリスクをゼロにできる。買い足して何個も持つくらいなら、最初からナビ付きのちゃんとしたやつを1個買っておくのが一番傷が浅いし、自信がなくなってストップアンドゴーを小刻みに繰り返して無駄に体力を消耗することもないからな。」



結愛の網膜VRに、管理AIイズミが大興奮でパッション全開のデータを展開した。


『素晴らしいです、結愛ちゃん! このBN1100Aがあれば配信画面にリアルタイムで現在速度や走行ルートをオーバーレイ表示できます! 画面映え1000%アップですよ!』


「おお……! 確かに画面がすごく綺麗でカッコいいです! スマホみたいにタップで動くし……!」


「大将!」


結愛が感心している隙を見逃さず、健矢はレジカウンターの中嶋に向かって声を張り上げた。


「このBN1100Aに加えて、純正の速度センサーと『パワーメーター』もセットで注文だ!」


「パワメ……!? ちょっと待ってください健矢さん! 一番高そうな謎の機械を勝手に足さないでください!」


「うるせぇ、パワーメーター(ワット数計測器)があれば、お前がどれだけサボってるか、どれだけ脚力を削られてるかが数値で一目瞭然になるんだよ!」


「私の脚力を数値化して監視しないでくださーい!」


結愛の抗議を綺麗にスルーし、健矢はクレジット決済を爆速で完了させた。 中嶋の大将が慣れた手つきで『MIRANO 7』のハンドル中央にサイコンマウントを設置。そこにBN1100Aをマウントし、クランクとハブにセンサー類を組み込んでいく。


ピッと電子音が鳴り、色鮮やかな地図と速度、そして『0 W』というパワー値がハンドル周りに浮かび上がった。


「うぅ……メカメカしくてすごいですけど……もう、私のMPも体力も限界です……」


結愛はカウンターに突っ伏し、疲弊しきった声を漏らした。 「これで……これで本当の本当に、今日の買い出しは終わりですよね……? おうちに帰って寝てもいいですよね……?」


晴れやかな達成感を期待して見上げる結愛に対し、健矢は口角をニヤリと上げ、彼女の華奢な手首を指差しした。



「何言ってんだ。お次は心拍数や体調ログを取るための『スマートウォッチ』も選ぶぞ」


「夜まで連れ回す気ーーーーー!?」



絶望で白目を剥く結愛の悲鳴を余所に、夜の『サイクルショップGIRO中嶋』で繰り広げられる鬼教官のガジェット選定ツアーは、まだまだ終わる気配を見せないのだった。

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