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VRドームの家畜になり損ねた30代独身カフェマスター、心拍数188の限界突破ドライブが全世界に生配信され、愛車のペダリングデータだけで国家予算級のおちんぎんを稼いでしまう  作者: 蒼波8
第8章:カプセルから零れ落ちた人形

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第27話:【リベンジの湾岸線と、網膜越しの小言】

「……おい、シオン。だから言ったろ?イタリアん時の自動コンテナなんかより、こっちの風の方が百倍マシだってな」


健矢は純白のPINARELLI F50のブラケットを握り締め、力強くペダルを踏み込んだ。


視界の右側に広がるのは、鈍い銀色に光る大阪湾の海原だ。国道26号線――通称「ニーロク」のバイパスを南下するにつれ、スマート化されきった無機質な都市のビル群が背後に遠ざかり、遮るもののない爽快な海風が健矢のサイクルジャージを激しく揺らした。


イタリア・一,二〇〇キロメートルのブルベから無事帰国し、西陣のブックカフェ『アルカディア』の地下には、配信収益として振り込まれた数千万円規模の電子金塊が眠っている。名実ともに「超法規的VIP」となった健矢だったが、その胸中にはどうしても拭いきれない不満が燻っていた。


『マスター。無人コンテナでの密航は、当時の状況において最も当局の目を欺く確率が高い最適解でした。それを根に持ち、貴重な休業日を費やして「イタリア帰りの余韻を取り戻す」などという非論理的な理由で大阪湾岸まで走るなど、非効率の極みです』


健矢の網膜VRの奥から、西陣の店に居残っているシオンの慇懃無礼な小言が降ってくる。


「うるせえ。あの時はペラペラの輪行袋一枚で貨物に詰め込まれたんだぞ!空港に着いた余韻もへったくれもなかった。だからこれは、関西国際空港の対岸である泉佐野まで自走で乗り込む、俺なりのリベンジマッチなんだよ!」


『まったく、難儀なプライドですね。……にゃーん』


シオンの冷徹な声の背後から、通信越しに聞き覚えのある愛らしい鳴き声が混じった。西陣のカフェで、完璧に留守番をこなしている黒白のクロの声だ。どうやらシオンの物理端末にブラッシングでもされているらしく、喉をゴロゴロと鳴らす音までかすかに拾っている。


『クロ氏のブラッシングおよび給餌タスクは完璧に遂行中ですのでご安心を。それよりもマスター、イタリア遠征の疲労が完全に抜けきっていない肉体で、先ほどからケイデンスが平均九二を下回っています。大腿四頭筋の微小な乳酸値上昇を検知。これ以上の無駄なトルク出力は、明日の店舗営業におけるドリップの精度に悪影響を及ぼします』


「ハッ、心配すんな。イタリアの激坂に比べりゃ、日本の国道なんてただの平坦(トラック)だよ、平坦(トラック)。」


健矢は不敵に笑い、さらに一段ギヤを重くした。


ペダルを踏み込むたびに、PINARELLI F50の強固なカーボンフレームが微塵のロスもなく推進力へと変換され、アスファルトを滑るように加速していく。海風の塩分を含んだ匂い、タイヤが路面を捉える細かなバイブレーション、そして網膜越しに届く相棒の小言と愛猫の気配。


それらすべてが、自分が「生身の人間」として今ここに存在していることを証明していた。

スマートシティの従順な家畜どもが決して知ることのない、剥き出しの現実の心地よさに身を浸しながら、健矢は泉佐野を目指して青い海沿いの道を一直線に駆け抜けていく。


この先に待ち受ける、ドームの檻から零れ落ちた「異物」との遭遇など、この時の健矢は知る由もなかった。

爽快感たっぷりの海沿いライド回!


京都からは海ってけっこう距離があるので

GW直後に淡路島へ行ったとき以来なんですよね。

また海沿い、走りたいです!(私情1000%)


自転車やバイクで海沿いを流した思い出話等あれば、ぜひお気軽に感想欄へどうぞ!

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