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VRドームの家畜になり損ねた30代独身カフェマスター、心拍数188の限界突破ドライブが全世界に生配信され、愛車のペダリングデータだけで国家予算級のおちんぎんを稼いでしまう  作者: 蒼波8
第6章:19歳の冬、そして外へ

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閑話③:【KENYAチャンネル・動画編集チームの狂気】

山崎健矢という天然記念物が、自動物流コンテナの暗がりに揺られてミラノ・マルペンサ空港へ向かっていたその頃。大西洋を挟んだシリコンバレーの極秘地下スタジオでは、別の意味で「限界」を迎えた人間たちが、不健康な熱気に身を焦がしていた。


「おい、ターゲットがミラノの倉庫街に侵入したぞ! ドローン接続よし、生体ログの同期プロトコル、オールグリーン!」


大型モニターの前で叫んだのは、かつてハリウッドの超大作SFを何本も手掛けながらも、「リアルな流血表現にこだわりすぎて干された」という曰く付きの狂気の演出家、マックスだった。


このスタジオに集められたのは、巨大テック企業の若き天才・DJの個人的な人脈によって構成された外部動画編集チームだ。腕前は文字通り世界最高峰。


ただし、全員が都市管理AIから「情緒不安定、カプセル収容不適合」の烙印を押された、人格破綻者の一歩手前――平たく言えば、『似た者同士』のイカれたクリエイター集団だった。


「……ちっ、面白くねえな」


三画面のコンソールを高速で叩いていたメイン編集者『ギャング上がりのハンス』が、吐き捨てるようにタバコ(電子ですらない、違法な本物の葉タバコ)の煙を吹き出した。

網膜に共有された健矢のテストペダリング動画を見つめる彼の目は、不満に濁っている。


「機材のセッティングも、筋肉の付き方も最高だ。だが、この数字は何だ? 『心拍数:118』? 冗談だろ。これから煉獄(ブルベ)の一、二〇〇キロに挑もうって男が、行政の定めた家畜用リミットを守ってスピンしてる。狂気が足りない。もっとこう、臓物を吐き出すような躍動(バイブレーション)を画面にさせられないわけ?」


「同感だね」


隣でサラウンドヘッドフォンを首にかけた、自由すぎる音響プロデューサーのレオナルドが、つまらなそうに爪を噛む。


「これじゃあ、どんなに僕が極上の重低音をブレンドしても、ただの『健康的なサイクリング動画』になっちゃうよ。全地球のカプセルで腐ってる連中が求めてるのはさ、自分たちが捨て去った『圧倒的な生の暴走』なんだ。こんな予定調和の安全運転、僕たちのオモチャ(上級国民)にふさわしくない」


彼らにとって、生身でアナログな生活を貫く山崎健矢は、特権階級の象徴(上級国民)であり、自分たちのクリエイティビティを満たすための最高の高級玩具だった。その玩具が、一般市民と同じ「心拍数一二〇上限」の枷を嵌められていることが、何よりも無粋で我慢ならなかったのだ。


「なら、話は早い」


スタジオの奥、冷え切ったデスクの影から、ノートPCを開いたDJが静かに声を上げた。その瞳には、彼らと同様の、いや、彼ら以上の歪んだ歓喜の光が宿っている。


「彼が自転車に乗っている時だけは――この世界のルールを『青天』にしてあげよう」


「ははっ、マジでやるのかい、ボス?」


「当然だ。僕の職権と超法規的プロトコルを舐めないでほしいな。ライド日に限って、健矢の心拍上限は完全解除する。ミラノの当局には、彼がコンテナで快適に寝ているダミーデータを流し込んでおくさ」


DJの不敵な笑みに、スタジオの空気が一気に跳ね上がった。


演出家がデスクを叩いて笑い、音響がボリュームのフェーダーを最大まで押し上げる。枷の外れた本物の命の輝きを、全世界の退屈な家畜どもに叩きつけてやる。これ以上ない最高の泥泥(ドロドロ)のステージが、彼らの手によって裏から構築されていく。


「よおし、最高のライブSHOWにしてやるぜ! ……ところで、この配信チャンネルの名前、誰が弄ったんだ?」


ハンスがモニターのヘッダーを指差した。そこには、彼らが予定していた『The Last Meat(最後の生身)』という退廃的なタイトルではなく、どこか抜けた、しかし妙に親しみやすいフォントでこう書かれていた。


【KENYAチャンネル】


「ああ、それ僕っす」


部屋の隅でエナジードリンクの缶を潰した、日本留学経験のある日系人アシスタントが片手を挙げた。


「向こうの古いネット動画風(YouTubeスタイル)にするなら、これくらい割り切ったネーミングの方が、逆に『リアルな生身感』が出て絶対にバズると思ったんすよね。ケンヤチャンネル。響きも最高じゃないっすか?」


狂気のクリエイターたちは一瞬だけ顔を見合わせ――次の瞬間には、全員が下品な笑い声をあげて承認のサインを出した。


「いいじゃねえか、KENYAチャンネル! シンプルで、無骨で、最高に悪趣味だ!」


健矢の本人のあずかり知らぬところで、世界で最も危険な動画編集チームのボルテージは最高潮に達していた。


イタリアの漆黒の闇の中、スタートラインへ向かう純白のPINARELLI F50。その姿を、狂気に狂った彼らのカメラドローンが、今か今かと牙を剥いて待ち構えていた。

「上級(国民)とは・・・?」(哲学)


さて、今回の「舞台裏」回はいかがでしたか?

イカれたメンバーが増えてさらにアメリカも盛り上がってきましたね!


DJが青天操作をしていた場面のさらに別視点では

このようなイカれた集団の喧騒があった(笑)


彼らもどんどん活躍するので閑話もぜひお楽しみに!


明日から第8章へ。Don`t miss it!

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