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VRドームの家畜になり損ねた30代独身カフェマスター、心拍数188の限界突破ドライブが全世界に生配信され、愛車のペダリングデータだけで国家予算級のおちんぎんを稼いでしまう  作者: 蒼波8
第5章:ドームへの遠き泥臭き巡礼

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第18話:【「じゃない方」の悲哀と深夜の京阪国道】

九回表の猛攻を凌ぎきり、勝利の歓喜に沸くドームを後にした時には、夜の帳が完全に下りていた。中嶋の大将は大阪梅田の馴染みの赤提灯へと消え、健矢とシオンは再び二台の自転車を駆って、京都への帰路についていた。


復路に選んだのは、夜間に入って交通量の激減した国道1号線――通称「京阪国道」だ。


昼間の喧騒が嘘のように静まり返った深夜の幹線道路を、純白のPINARELLI F50と、応援グッズをこれでもかと積み込んだ深緑のARARA TEDが並走する。街灯の光が、交互に二台のフレームを照らし出しては後ろへと流れていく。


ドームでの興奮の余韻が冷め、アルコールが抜けていくにつれて、健矢の心には勝利の喜びとは別の、ある特有の切なさが染み出してきていた。


「ハァ……ハァ……ッ」


健矢はフロントブラケットを緩やかに握り、リミッター限界手前の心拍数118を維持しながら、ペダルを滑らかに回した。そのすぐ隣には、総重量20キロ近いTEDを、まるで精密機械のクランクのように寸分の狂いもなく回し続けるシオンの姿がある。ユニフォームの裾が、夜風にパタパタと小気味よくはためいていた。


「マスター」


シオンが前方を凝視したまま、淡々と声をかけてきた。


「本日のドーム内におけるマスターのバイタルデータ、および脳内物質のサンプリング結果の解析を完了しました。未だにいくつかの演算バグ(ノイズ)が残留しています。なぜあなたは、あのような非効率的かつ勝率の低い集団に対して、命のリスクを冒してまで熱狂できるのですか」


健矢は苦笑し、夜の国道の先を見つめながらボソッと呟いた。


「効率とか勝率とか、そんなもんで選んでたら人生クソつまんねーだろ。……なぁ、シオン。関西で『野球が好きだ』って言うとさ、大抵の奴はこう聞いてくるんだよ。『やっぱり虎の方ですか?』ってな」

「シェアおよび認知度から推測するに、極めて一般的な質問です」


「そうだよ。一般的だ、って嫌ってくらいに理解してるからこそ.....そう聞かれるとな……ちょっと悲しいんだよ」


健矢は少しだけ自嘲気味に息を吐いた。


「世間の大半が右を向くからって、自分も右を向く必要なんてない。誰もが強いもの、派手なものに群がる中でさ、地味だけど、泥臭くて、たまに奇跡みたいな一発カマしてくれる『じゃない方』の球団を頑なに愛し続ける。そういう不器用なこだわりが、俺にとっては....生身の人間である証拠みたいなもんなんだ」


網膜VRの端で、シオンの処理ログが静かに明滅する。


「『じゃない方』の選択……。それは、行政AIが提供する『最適化された幸福』を拒絶し、あえて不自由な3本ローラーを回し続けるあなたの行動原理と、完全に同調(シンクロ)していますね」


「まあな。お前らAIには、この『負け犬の美学』みたいなのは一生理解できないだろうけどな」


「理解ではなく、データとしての記録です」


シオンはWレバーをカチリと引き、ギヤを一段重くした。


「山崎健矢は、圧倒的多数の正論よりも、自己の依って立つマイノリティの熱狂を優先する。……この特異なバイタル傾向を、最重要ログとして隔離保存します」


その直後だった。


シオンの乗る重厚なクロモリランドナーの方から、昼間には聞かれなかった「ギィイン……」という、ドロイドの関節ユニットが限界近くまで駆動する特有の金属音が響いた。


スタジアムで数万人の人間の「狂気」を学習したシオンの演算回路が、健矢の言葉トリガーにして、ある種の暴走(オーバードライブ)を引き起こしていた。


「マスター、追従プロトコルを『最高効率』から『最大戦闘力』へ移行します。これより当機が先行し、マスターの風除け(アシスト)を務めます」


「ぅおい、シオン!? 何する気だ!」


無表情のまま、シオンがペダルを激しく踏み込んだ。


太いツーリングタイヤが「ゴオオオオオオッ!!」と深夜の国道171号線のアスファルトを文字通り引きちぎるような爆音を立てる。荷物を満載した深緑の鉄馬が、あり得ない加速で健矢のF50の前に躍り出た。

網膜VRが『警告:前方車両の速度急上昇』と真っ赤に染まる。


「嘘だろ……おぃ...ランドナーであの加速速度だと!?」


健矢の目の前で、ネイビーのユニフォームを翻しながら夜の闇を切り裂いていくシオンの「青い影」――それは管理システムの枠を完全に踏み外した、荒ぶる狂犬の覚醒の瞬間だった。

健矢は思わずニヤリと笑みを作った。


心拍数は一瞬で119に達し、網膜のアラートが狂ったように鳴り響く。だが、サイクリストの血は完全に沸騰していた。


「上等だ、クソAI……! 『じゃない方』の底力、見せてやんよォ!」


深夜の国道1号線、静寂に包まれた京都への道すがら、二台の歪な鉄馬は互いの火花を散らしながら、夜の奥底へと突き進んでいった。

※注意:飲酒運転は犯罪です。絶対にやめましょう!本作では演出上の都合で、同行者がシオンだから許されています


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① スピンオフ『おりほー』絶賛連載中!

全人類がVRカプセルでメジャーな球団を見るディストピア社会。

網膜VRの超マイナーチャンネルで、シオンと健矢の「たった2人(うち1体AI)」で繰り広げられる、悲しくも熱い猛牛党あるある&観戦コメディ!


「マスター、手拍子のテンポが非効率的です」

「うるせえ! ここはチャンテなんだよ!!」


本編では見られない、シオンに振り回される健矢のドタバタな日常をお楽しみください!

→https://ncode.syosetu.com/n8592mp/


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② 限定SS(ショートストーリー)『あの名門が逝く頃に』公開中!

本編では語られなかった、愛車や機材にまつわる濃密なサイドストーリー!


サイクリストの情熱と、ディストピアの静かな哀愁が詰まった特別編です。

本文末尾や活動報告/近況ノートにて公開中!ぜひ併せてお楽しみください。


→https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3690987/

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引き続き、生身でペダルを回し続ける健矢たちの物語を応援よろしくお願いいたします!

面白かったら、ぜひブックマークや評価(★・ポイント)をいただけると執筆の大きな励みになります!


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