【影の訓練場】
【影の訓練場】
ネザリア城・訓練区画――
黒光りする広大な空間には、柱のように立つ魔導装置と、幾何学的に浮かぶ“魔力の影”が静止していた。
その場に、グレン率いる部隊が整列する。
横一列に並んだ兵たちの顔には、緊張が混じっていた。
その前に立つのは――じゅぴ。
「は〜い、おっはようございますっす♡
本日から皆さんに、“ネザリア式の基礎”を教えるっすよ〜」
いつもの軽口で、じゅぴが手を振る。
だが、その雰囲気とは裏腹に――背後に漂う魔力の圧は、確実に彼らを“試していた”。
「本日のテーマは、戦闘反応と魔力制御の初歩っす。
ふつうの軍隊式とは違って、“敵を生かさず、殺し切る”が前提なんで、よろぴく〜♡」
兵たちの中から、ひとりの若い男が小声で呟いた。
「……なんだこの子どもみたいなのが、教官って……」
その言葉は――想像以上に通った。
じゅぴの笑顔が、ピタリと止まる。
足音ひとつ立てず、彼女はその兵の前まで歩いた。
表情は変わらず、微笑んだまま。だが、空気がピキリと張り詰める。
「……今、なんて言ったっすか?」
その瞬間――
「貴様ァッ!!!」
怒号が響いた。
グレンがすでに踏み出していた。
次の瞬間にはその兵の胸倉を掴み、拳を叩き込んでいた。
ズドン――という鈍い音と共に、兵が床に転がる。
「てめぇ……どこを歩いてると思ってる……!」
「この場所は――俺たちの常識じゃ通用しねぇ!
せつな殿の城に足を踏み入れた以上、一つでも侮辱すれば――それは、死だ!!」
部隊全体が凍りつく中、グレンは深く息を吐いた。
「……すまん、じゅぴ殿。こちらの指導不足だ。責任は、すべて俺にある」
直立不動で頭を下げるグレンに――
じゅぴは、しばしの沈黙のあと。
ふっと、口元を緩めた。
「……うん。オッケーっす♡」
「おーおー、ちゃんと“隊長”してるじゃん。
その調子で“影の子”たちもまとめてくれると助かるっす〜」
軽くウィンクしながら、くるりと背を向ける。
「じゃ、訓練、始めるっすよ〜♡
さっき“子ども”って言った人、特別メニューで優しく教えてあげるっすね〜?」
「ひっ……」
兵の顔から血の気が引いていくのを見て、他の隊員たちが無言で姿勢を正した。
そしてそのとき、グレンの中にも、ほんのわずかに実感が芽生える。
(これが――“影に踏み入れる”ということか)
こうして、第七調査隊の“試練”が始まった。
それは軍の訓練ではない。“ネザリアの秩序”を学ぶ、第一歩だった。
ネザリア城・影訓練区画――
緊張が残る空気の中、グレンが場を収めると、
じゅぴはまたいつもの調子で、ふわっと彼のほうへ歩いてきた。
「隊長〜、ありがとっす♡ 今の、完ッ璧だったっすよ〜?」
「……こちらの不始末だ。二度とさせん」
「ふふ、そこも“評価ポイント”っすけどね♡」
冗談のように笑うじゅぴだったが、その瞳はわずかに鋭さを帯びていた。
「で、さっそくなんだけど……一つ、お願いがあるっす」
「なんだ?」
「まずは、“いつも通りの訓練”。
王国でやってた基礎でもなんでもいいっす。軽い準備運動でも射撃でも。
“こっちの素材”、どんな感じか、ちょっと見てみたくって♡」
「……王国式の訓練でいいのか?」
「うんうん。それでいいっす。
“どこが使えて、どこが捨てるとこか”見極めるために、ね」
さらりと恐ろしいことを言いながら、じゅぴは微笑を崩さない。
「でも安心してほしいっすよ? “いきなり壊したり”はしないんで。……多分♡」
グレンはその言葉の意味を測るように、じっとじゅぴを見た。
「……いいだろう。基礎を見せる。隊員たちの“動き”と“統率”をな」
「はぁい♡ じゃあじゅぴはちょっと離れて見てるっす。
“隊長のやり方”、楽しみにしてるっすよ〜?」
そう言って、じゅぴは少し距離を取り、影の柱のそばに腰掛ける。
その目は笑っていたが――
その奥で、静かに“分析の光”が輝いていた。
(さて……どこまでが、隊長の“器”で、
どこからが“王国のガラクタ”か――見せてもらうっすよ)
隊員たちは整列し、静かに指示を待っていた。
グレンは小さく息を吸い、背筋を伸ばす。
「――では、始める」
そして、“影の城”における、最初の訓練が幕を開けた。
先日、はじめて感想をいただいて……めちゃくちゃ嬉しかったです。
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