【影の訓練場2】
ごめんなさい!更新予約一日ずれてました(´;ω;`)
遅れてごめんなさい・・・
【第三章:静寂を裂く足音/影の訓練場】
ネザリア城・第四層・影訓練区画――
「全員、列を整えろ。五列横隊、標準距離維持」
グレンの指示が響くと、兵たちは即座に動いた。
王国式の訓練で培った“型”は確かに残っており、整列・動作ともに乱れは少ない。
「腕の振り、確認しろ。脚の運びは三拍。魔力感応、構え……」
だが、その中に――微かな“温度差”があった。
(……緊張が緩んでいるな)
グレンの目が、列の端にいる二人の兵を捉える。
ひとりは動作が雑になり、もうひとりは模擬武器の手入れを“形だけ”で済ませている。
転移の緊張が解けたせいか、それともこの城の静けさが“敵地”としての実感を薄れさせているのか。
「……」
グレンは何も言わず、ただ見ていた。
まだ“見せ場”ではない。だが、その温度差は確かに気になっていた。
少し離れた柱の影――
じゅぴは肘に頬を預けながら、まどろむような視線で訓練の様子を眺めていた。
(ふ〜ん、全体的には統率も取れてるし、隊長の声も通ってる。
でも、こういう“表面だけ揃えた精度”って、実戦じゃポロポロ崩れるんだよねぇ……)
彼女の視線が、例の“手を抜いている二人”に静かに向く。
(あのへんの子たち……ちょっと“ぬるい”っすね)
じゅぴの口元が、ほんのわずかに吊り上がる。
(さて……隊長さんは、どこまで見えてるかな?)
「抜刀、間合い五歩、肉体制限なし。――模擬戦、開始」
グレンの号令で、対人演習が始まる。
兵たちは声を上げ、剣を交差させ、魔力の基本展開を確認しながら動いた。
だがその中に――やはり、明確な“温度差”があった。
演習に臨む者と、形だけ合わせる者。
声に張りがある者と、疲れたフリをする者。
それを、グレンは静かに見ていた。
(この場所で、“いつもの訓練”が通用すると考えている――それ自体が、油断だ)
そして――
(“あいつ”は、この場を見て、どう判断する……)
ちら、と視線をじゅぴに送ると、ちょうど彼女もこちらを見ていた。
にこり、と笑う。
だがその笑みの奥では――すでに“試験の採点”が始まっていた。
こうして、王国式の基礎訓練は進行する。
だがその中に、確かに存在する“緩み”と“油断”が――
やがて、じゅぴの手で“整え直される”時が来ることになる。
王国式の基礎訓練が、最後の模擬戦をもって終了した。
兵たちの額には汗。だが、その多くは“やりきった”というより――
“なんとかこなした”といった表情をしていた。
その空気を断ち切るように――
「は〜い、みんな、お疲れさまっす〜♡」
じゅぴの甘ったるい声が、場に響いた。
兵たちが顔を向けると、彼女は軽やかに歩み寄ってくる。
相変わらず、笑っていた。楽しそうにすら見える。
「いや〜、ちゃんと見させてもらったっすよ。
“王国式の基本”、なるほどなるほど〜って感じっす♡」
にこにこと、指を軽く立てながら。
「で、総評。まず“隊長”は百点っす。声も通るし、統率も完璧。
“隊”としての形も綺麗。ちゃんと“鍛えられてる”ってのは分かるっす」
そこまで言って、じゅぴの笑みが――少し、鋭くなった。
「ただし。中身の一部が――腐ってるっす♡」
空気が変わる。
「たとえば、そこの《第三列左から二番目》と、
《模擬戦の時に刃を出さなかった子》、あと《あくびしてたの、見えてたっすよ?》」
名指し。しかも正確。
兵たちの背筋が一斉に伸びる。
「ふふっ、こっちは“全部見てる”っすからね〜?」
「楽なとこだけ合わせて、見られてないと思って気抜いた人。
一人でも“そういうの”がいるとね、こっちはまとめて“処理”することになるっす」
笑顔で、じゅぴはくるりとターンする。
「だから、次――」
声が止まった。
そのまま、じゅぴはピタリと止まり、振り返ることなく言い放った。
「次に手を抜いたら、その場で殺すっすよ」
甘い声に、殺気が混じる。
その瞬間、部屋の温度が一段下がったような錯覚すら走った。
じゅぴは振り返り、再び笑顔に戻る。
「でもまぁ、今日は“初日”だしね〜? 許すっす♡」
「……じゃ、次は“うちらのやり方”いってみよっか♡」
魔導柱のひとつに、じゅぴが手をかざす。
瞬間――
訓練区画の床が沈み込み、漆黒の魔方陣が静かに起動した。
「“影の導線走行”と“殺意感知実演”っす。
このネザリアでは、“殺されないこと”が最低条件なんで♡」
にっこり笑ったじゅぴの背で――
巨大な“影の手”が、音もなく、天井から降りてきていた。
次なる訓練。
それは、兵たちにとって、“異界の秩序”への本格的な第一歩だった。




