そして、プロローグへ
そもそも、異世界召喚自体が立派な拉致である。
しかし、気づいたからと言って今の恵は無一文な上、魔法なども使えない状態だ。こんな状態で一体、何をどうすれば良いのか解らない。
「ラノベみたいに料理チートとかをするには、まずこの皇宮を出なくちゃいけなくて……だけど今、お金とか持ってなくて。ドレスを売ったりは、そもそも私が買ったのじゃないから駄目だし……」
そこまで呟いたところで、恵はドレスを着ているのが申し訳なくなった。そして先程夕食を食べて、明日までは一人なので召喚されていた時に着ていたセーラー服に着替えた。
鏡に映る『ただの女子高生』な自分を見て、恵は深々とため息をついた。
この世界に来て出来ることは召喚補正と思われる文字の読み書きと、淑女教育で学んだマナーくらいである。そして淑女に必要なマナーは、逆に皇宮を出て平民になるにはあまり役に立たない気がする。
「文字の読み書きは、もしかしたら仕事になるかもだけど……マナーとかを活かすなら、皇宮にいた方が良いんだろうなぁ。実感はないけど、少なくとも浄化は出来ている訳だし」
うがった見方なのかもしれないが、召喚された異世界人に淑女教育のみ施すのは、こうして皇宮から出ることを躊躇させる為かもしれない。いや、一見優しく接してくれるので人によってはそもそもこんなことを考えないかもしれない。威張れた話ではないが、恵は優しい虐待を受け続けていたので、リュカオン達からも似たような気配を感じて気づいたのである。思えば警戒していたのも、その気配故だろう。
とは言え、そんな恵にとっても日本にいた時よりはずっとマシなのだ。リュカオンに恋人がいるので、食事などは今後も避けた方が平和だろうが――嫌味や悪口を言われることはないし、働かされることもない。皇宮から出るのでなければ、のんびり楽しく過ごすことが出来る。
だけど、リュカオン達が見ているのは恵ではなく、異世界から来た『聖女』だ。ここでは誰も、そもそも恵自身を見ようとはしない。
「必要とはされてる……いや、でもそれは聖女だからで……いや、でも聖女じゃ無かったらただの女子高生だし……私なんて、必要じゃないよね……」
呟きと共に、鏡に映っている恵の目からぽろぽろと涙が零れた。
……そんな恵の耳に、不意に聞き覚えの無い声が届く。
「甘ちゃんだなぁ。必要とされたかったら、言葉や態度で示してみろよ?」
「っ!?」
二階の部屋の窓の外から、声がした。
驚いて、涙が引っ込む。そして恵がバルコニーに出ると、黒い服を着た長い黒髪の青年が宙に浮いていた。
……そして、物語は冒頭へと続き。
魔王と名乗る青年と出会ったことで恵と、リュカオン達の日々は一変することになる。




