想像と現実との違い
次の日から、恵は用意されたドレスに着替えて、この国や世界のことについて教わった。
今、恵がいるのはロクス皇国。大陸の中央にある国で、リュカオンはこの国の皇太子なのだと言う。皇国と呼ばれるのは皇帝が治めているのと、女神ディオサが遣わす聖女に仕える教皇――今、恵にこの世界のことについて教えてくれている青年がいるからだそうだ。
「女神が、遣わすって……そもそも、どうして聖女はこの世界に召喚されるんですか?」
「およそ百年に一度、魔族とその王である魔王のいる国からこの世界……エヴラン全体に瘴気が広がり、人を襲う魔物が増えたり疫病が流行るのです。その為、我ら教皇と神官達、あと魔法使い達が秘術を使い、世界を浄化出来る聖女を異世界から招くのです」
教皇と名乗った男・カニスはリュカオンと同じくらいの年で、青い髪を長く伸ばした中性的な美形だった。そんな彼の口から出た、魔族という言葉に恵は緊張した。
今の話だと、聖女であるが浄化する瘴気は、魔王と魔族がいる国から発生するらしい。ならば魔王討伐、あるいは世界を浄化する為に恵が世界を巡るのかと思った。
「あの、それなら私は魔王と戦ったり、世界を浄化しに行ったりするんですか?」
「いいえ?」
「……えっ?」
それ故、恵がロクス皇国から近々、旅立つのかと思って尋ねたが――即座に否定されて、恵は戸惑った。
そして、続けられた言葉で皇国は勿論、皇宮からすら出ることを許されないと知った。
「外は瘴気に満ちていて、魔物も出ますし……皇宮以外は、危険なんですよ」
「でも、だったら尚更、私が行かないと」
「大丈夫です。聖女様がいるだけで、世界は浄化されるのですから」
微笑みながらカニスに言われたが、恵はとても安心出来なかった。
(それだと聖女と言うより、むしろ空気清浄機なのでは?)
そう思ったが、恵の護衛を務める二十代半ばの金髪の男性・クオンまで口を挟んできた。恵の護衛であり、冒険者ギルドの長の息子だという彼は、金髪の凛々しい男前だった。
「聖女が動くと、それを守る為に大勢の人間を動かさないといけないからな。聖女様みたいに優しければ、心配にもなるだろうが……頼むから、大人しく守られてくれ」
「……はい」
クオンの言葉に、恵は頷くしかなかった。自分一人で済まないと言われてしまえば、周りに迷惑をかけられないからと断念するしかなかった。
……好みはともかく、イケメンパラダイスなのは小説や漫画などでよくある話だが、何だか展開がテンプレとは違う気がする恵だった。
召喚時期を二百年から百年に変更しました。




