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売り言葉に買い言葉とはよく言ったものだ。
琴子はさっき章一郎に言った言葉を後悔していた。
琴子だって分かっている。
未来は決まっているのだと。
幼い頃からそう言われてきたのだから、そうなるのだと納得していたはずだ。
でも、紅子を見て羨ましくなった。
私もあんな恋がしてみたいと思った。
そうして好きな人と結婚したい。
どうしてそう思ってはいけないのだろうか?
どうして章一郎はそう思わないのだろうか?
章一郎のことは嫌いではない。
むしろ好きなのだろう。
いつも一緒にいることが当たり前なため、あまりよく分からない。
一人で悶々と考えていても仕方ない。
こういうときは誰かに相談するに限るのだ。
琴子は紅子に連絡を取った。
相談したいことがある、と。
「うわ~お嬢様だったのね、琴子は」
琴子の家を訪れた紅子は驚きの声を上げた。
「花道をやっているからね。家が古いのよ」
そう説明して自分の部屋へと案内する。
この古い家は嫌いじゃない。
花道も嫌いじゃない。
家を継ぐことを疑問に思ったこともなかった。
「で、何を悩んでいるの?」
琴子の部屋に入った紅子はさっそく聞いてきた。
「…私も紅子みたいな恋がしたいの」
紅子は頷いて、話の先を促した。
「この家を継ぐために許婚と結婚することが少し不満になったの」
琴子は先ほどの章一郎との会話を話した。
「…何も問題はないように見えるけど?」
紅子は首をかしげて琴子を見た。
「どうして?
私は紅子みたいな恋がしたいの!
そうして好きな人と結婚したいのよ!?
それなのにどこに問題がないの?」
「だって、琴子はすでに恋をしているじゃない」
そう言って紅子は笑った。
「琴子は章一郎さんのことが好きで好きでたまらないんじゃない?」
「何故?どうしてそう思うの?」
「琴子が怒っているのは、琴子と結婚することが義務だと言った
章一郎さんの言葉に対してだと思うの。
違う?嫌いな人とは一緒にいることは出来ないわ」
自信ありげな紅子の言葉。
確かに、章一郎の言葉にムカついた。
章一郎はいつもそうだ。
大人な考え方をするのだ。
だから琴子は敵わない。
ずっと見てきた人だった。
ずっと一緒にいる人だった。
だから近すぎて分からなかった。
琴子はやっと自分の想いを自覚した。
「…紅子、どうしよう。
私、章一郎さんに好きな人いるって言っちゃった」
あ~、と琴子は唸って頭を抱えた。




