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 とにかく、仲直りすること。

 紅子から言われたのはその一言だった。

 でも何て言えばいいのだろう?

 好きな人がいるのは嘘でした、と?

 ああ、本当にどうしよう…!

 絶望的な気持ちで章一郎の部屋へと向かう。

 あと一歩が踏み出せない。

 もうすぐ、章一郎の部屋だというのに。

 琴子は立ち止まり動けなくなっていた。


「何をしている?」

 突然後ろから声をかけられ、琴子は驚いて振り返る。

 そこには章一郎が立っていた。

「えっと、あの…!」

 うまく言葉が出ずに俯く。

 そんな琴子にため息をつき、章一郎は部屋を指差す。

「とりあえず、部屋に入れよ。

 こんなところで話なんて出来ないだろう?」

 琴子は頷いて、章一郎の背中を追った。


 琴子は章一郎のベッドに座る。

 章一郎は机に向かい、振り向かずに琴子に声をかける。

「で?どうした?」

 背中になら話せるかもしれない。

「…あのことなんだけど」

「ああ、好きな人がいるって話?

 婚約破棄でもしたいのか?」

 …違う、と琴子は小さな声で言った。

「ん?何?」

 琴子の声が聞こえなかったのか、章一郎は振り返った。

「違うの!あれは嘘なの…!

 破棄したいなんて思ったことない!」

 琴子は唇をかみ締めて俯いた。

 章一郎が机から離れて、琴子の前に来て座り込んだ。

 そっと琴子の頬に触れる。


「泣いているのか?」

「…泣いてない!」

 なんだか悔しくて涙が出てきたけれど、琴子は意地でもそれをごまかしたかった。

 そんな琴子を微笑ましく思い、章一郎は笑った。

「なんで笑うの!?

 私は真剣なのに!

 酷いよ、章一郎さんはいつもそう。

 私のことなんか何とも想っていないくせに、言いたい放題で…!

 私ばっかり想ってバカみたい!」

 次第に何を言っているのか分からなくなってきた。

 それでも言う事を止めることが出来ず、琴子は章一郎を責め続けた。

「…別に、どうでもいいと思っていないさ。

 嫌いじゃない。

 むしろ好きだから、身を引こうかと考えたんじゃないか。

 それなのに、琴子だって俺の気持ちを分かっちゃいない」

 章一郎の言葉に琴子はキョトンとした。

 今、何か重要なことを言わなかったか?


「俺はお前が好きなんだよ?

 分かった?」

 ええええええええ~!

 そうなの?

 全然、知らなかったよ。

 琴子はパニックに陥った。

 目の前にいる章一郎の顔を見ることが出来ない。

「だから、お前と結婚することは嫌じゃない。

 むしろ望んでいる。

 それなのにお前は俺以外に好きな男がいるという。

 どういうことなんだ?」

 章一郎がそっと琴子をベッドに押し倒す。

 ええええええええ~!

 琴子は章一郎を見上げながら硬直した。

「さて、どうすれば分かってもらえる?」

 意地悪そうに笑う章一郎。

「お前が望むように、いちゃいちゃしてみるか?」

 こんな章一郎は見たことがない。

「えっと、あの、章一郎さん?」

「さあ、どうする?」

 二人の恋は始まったばかりだ。


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