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琴子は紅子の隣に寝転がりながら言った。
「まさか、もうすでに結婚しているとは…
好きな人と言っていたのにさ」
「あはは。ごめんね。
学校では詳しくは言えないから」
今日、琴子は紅子の家に泊まりに来ていた。
紅子の家ということは、夫の裕一もいる家ということになる。
時刻は午後九時近い。
裕一はまだ学校から帰って来ていない。
だからこの家には二人しかいないのだが。
「それでも、私には言って欲しかったな」
と琴子はぶつぶつと文句を言った。
紅子の秘密を誰かに話たりはしないのに。
「うん。いつ言うのか、迷ってた。
本当はもっと早く言えれば良かったんだけど」
紅子は苦笑して告げる。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
裕一が帰ってきたのだろう。
「一緒にお迎えいこうか?」
紅子が楽しそうに琴子に言った。
琴子は笑って頷いた。
玄関の鍵を開け、裕一を家に迎え入れる。
ただいま、と裕一は言って紅子の隣にいる琴子に気付いた。
「…なんでいるの?」
呆然と言う裕一に紅子は笑って答えた。
「おかえりなさい。全部話したの。
琴子には知っていてもらいたかったから。
今日は泊まってもらうんだ」
そうか、と言うと裕一は玄関に上がった。
紅子の頭をぽんぽんと叩く。
裕一から鞄を受け取った紅子は、嬉しそうに目を細めた。
「お風呂にする?
ご飯先に食べる?
それとも、あ、た、し?」
紅子が笑ってそう言うと裕一は一瞬固まって、風呂、と言った。
「いいな~楽しそうで」
琴子は二人を見て、羨ましそうに言った。
「楽しいよ。だって家にいる時は学校とは違うからね。
いちゃいちゃ出来るし」
紅子は本当に楽しそうだ。
やっぱり、好きな人と一緒にいるからなのだろう。
琴子は考えた。
自分の未来を。
このままでいいのだろうか?
紅子を見ているとそう思ってしまう。
私はそれでいいのだろうか?
琴子は紅子から視線をそらした。
琴子の家は花道の家元だ。
「どうした?琴子」
琴子に声をかけたのは、琴子の許婚の章一郎だ。
章一郎は二十歳の大学生だ。
章一郎とは幼馴染みたいなもので、小さい頃からよく遊んでもらった。
そうして今は、琴子の家から大学に通っている。
大きくなったら章一郎と結婚して家を継ぐ。
それは当たり前のことだった。
でも高校に入学して、紅子と知り合って、最近紅子の私生活を知った。
そのことで自分の将来に疑問を抱くようになった。
「…章一郎さんは好きな人いないの?」
突然の琴子の質問に、章一郎は驚いたようだ。
何か悪いものでも食べた?と言って章一郎は眉をひそめている。
「友達の彼氏を紹介してもらったの。(正確には旦那だが)
とても楽しそうで、大好きなのが伝わってきた」
「…そうしたら自分はどうなのか考えてしまった、と?」
琴子は頷いて章一郎を見上げた。
「正直、幼い頃からこの婚約は決まっていたから疑問に思ったことはなかったよ。
琴子と結婚して、この家を継ぐ。
それが決められた未来だからね」
「でも、いままで誰かを好きになったりするでしょう?
そうしたら、どうするの?」
好きになることなどないよ、と章一郎は肩をすくめる。
「ずっとこの家を継ぐために教育されてきた。
それを無駄にすることなどするはずがないだろう?
それとも琴子にはそんなことをしてでも一緒になりたい男がいるのかい?」
琴子は何だか章一郎の言い方にカチンときてしまった。
だから思わず言ってしまったのだった。
ええ、いるわ!と。




