◯護衛任務をするそうです。
「メモリにある護衛というものはこういうものではないと記録されています」
頭に安っぽいアニメキャラのお面、右手に綿飴、左手にりんご飴、首から何だかわからないご当地キャラのプラスチック容器に入ったポップコーンと、お祭り満喫非地雷系陰キャパーカーのティオがぼやく。
「私服でやってもらうし、年上の友達感覚でお願いしたいねぇ」
中村の指示だった。護衛とはなんのか。護衛とは。なんなのか。
「今どきかっこええ騎士様なんか流行らんからなぁ」
二人は雨が通う高校の前に立って雨を待っている。そうであっても自分の格好はおかしいと思う。
「あの時間からテストとかどういうことかと思ったらこの通信制高校だったのね」
目の前にある高校を見上げてユキがいう。周りはもうすっかり暗くなり、終業のチャイムがなってから様々な年齢や格好の生徒が出てくる。
「大学生以上を学生、中高生を生徒、小学生を児童と言うんですよ」
ティオが豆知識を披露する。豆なのだろうか。確かに高校も学生と言う場合もあるが、なんというかそれは間違いでもないが許容されるものだろう。
「じゃあ70歳でもこの高校なら生徒さんかい?」
「通う学校によるので、そうなりますね」
なるほど、豆知識じゃないな。誰が居ても不思議じゃないということに気づいたかな。制服の着用も自由だから我々も今の見た目なら、ここの生徒と間違えられるかもしれない。それは逆に雨を狙う集団もフラフラ入って行っても気づかれないだろうなぁ。
「ティオ」
「ふぁい、なんでしょう」
りんご飴を齧ったばかりでモゴモゴしながらティオは答える。先の発言は狙って言ったのかと思ったが、そうでもなさそうだ。ただまぁ無意識でも正解を引き出せるならそれは。
「成長したねぇ」
顔に疑問符を浮かべながら、首を傾げるティオであった。
「明日は午前中だっけ?明日は何食べる?」
その答えを聞く前に、雨が二人を見つけて走ってくるのでその答えはお預けとなった。
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「ほんとにさぁ、ねぇ?なんなの?女の子侍らせて、ちゃかりお祭りを満喫しちゃってさぁ」
おじさんなら犯罪じゃないの?とか言いながらエリは、ソファにだらしなく座り、何だかわからないご当地キャラのプラスチック容器からポップコーンをつまんで食べている。エリが独占しているポップコーンの他に、机には、お祭りの雰囲気でも、と言って雨が持っていくようにせがんだベビーカステラ、大福、りんごではなく葡萄を飴で包んだ葡萄飴などが並べてある。
「大変だったからね。みんな副長だって思ってたら、監察官《道明寺》の方だったのよ」
「せやったか、すまんな」
ユキはそのソファの後ろに座り、三人を労う。エリは相変わらずの言い方だが焦りはないし、反対のソファに座っているサヤカもナツメもお菓子を見繕って食べようとしている。大変だと言う割には雰囲気は少し緩い。やはりお菓子効果か。
「でもその感じだと、まぁなんとかなりそうなんか?」
ユキは素直に応じてから続ける。
「まぁね。言い合ったっていうけど犯人とやり合う時なんかよりは全然だものね」
ナツメはベビーカステラにしたようだ。
「そういう感覚のズレもわかって欲しいっていう狙いなんでしょうか」
サヤカは大福にしたようだ。
「そんな高尚?いや逆?の狙いならやる意味ないと思うわよ」
エリはポップコーンは離さないようだ。
「で、彼は?」
ユキは改めてナツメに訊ねる。ナツメはベビーカステラを飲み込んでから答える。
「すぐに出動がかかっちゃって、ちゃんと話せてないです」
「うーん、まぁそうか。そんな感じか、明日なんとしても感触だけ聞きたいな。それで明日の予定って、予定通り、講評で終わり?追加資料は?」
「予定通り、午前中監査院だけで打合せ、午後講評。追加資料なし。です」
「あれ?講評前の最終打合せは?」
監査院監査の講評は監査の総括であるので、その講評前に最終的な認識の違い、いわゆる事実誤認がないかどうかの打合せが組まれる。言い換えればここが最終の修正のタイミング。のはずだが、それがない。確認することがないということなのか、監査院の監察官同士でまだ決まり切ってないからか。どちらなのかわからない。
「じゃあ午前中の打合せで、全て決まるってところやな」
「そうなりますね、物品管理ならまだしも、新人の配置制度そのものだと我が署だけの話では終わりませんから」
話はこの地域全体に波及する話になる。それだけの失態を犯したという烙印も貼られる。ただし、それはどうなるか、今まったくわからない。
「どうしようもあらへんな。でも、追加資料の要求もない。とすると、今日はもうする事もないというか、できることがあらへんな。だから、お開きやでええかな」
二日続けての深夜入りということもあり、ティオ以外がはぁーいと少し気の抜けた返事をする。ティオは今日もこの打合せで出番がないことを悟り、自身の机で珈琲に尋常ならざる甜菜糖を投入して混ぜている。ただ、昨日とは違い拗ねてるようでもなさそうだ。
「係長は明日は?」
緊張感の溶けたナツメはエリの隣に座り、ポップコーンを横取りする。エリは抵抗せずに容器を差し出す。
「ティオと二人で雨の護衛や。それも明日まで。明日以降?知らん」
「またなんか騒ぎ起こすんじゃないでしょうね?」
エリはだらしないかっこそのままに、ソファ背もたれ越しに首をのけぞってユキを逆さまに覗く。
「自分らで騒ぎ起こすわけやないんやから、悪いけど騒ぎを起こす相手に言ってくれる?」
それもそうね、と、エリはニカっと笑って答える。
ティオは甜菜糖の溶け残りのザラザラを舌で感じながら、雨がユキにせがんだ景色を思い出す。昨日の今日でなぜそこまでわかるのか疑問だった。
「エリお姉ちゃんは絶対ポップコーン。塩バターだよ。キャラメルじゃないよ!」
「ナツメお姉ちゃんはベビーカステラかなぁ。たい焼きは尻尾から食べるタイプっぽいしぃ」
「サヤカさんはねぇ。わかんない!大福か葡萄飴とかで良いじゃない?たぶん」
「忙しくて少し気が張ってるかもしれないから絶対持っていってね!良いね!ありがとー♪」
当たっていますねぇ。何か人を見るコツでもあるのでしょうか。それはまた教えて貰えたら嬉しいですね。
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「き、昨日のテストは惨敗でしたけど!きょ、今日は!頑張ります!」
と、気合いを入れて正門を後にする雨。相変わらずの美少女と非地雷系陰キャのコンビが見送る。他の生徒は基本的に他人に興味がないのか、誰も何もリアクションをしない。
雨自身が勉学から離れてたとはいうわけにもいかず、この身体になってから復習に時間を割いたかと言われたら、全くの嘘になる。ただ今日はたぶん、そう。得意科目が並んでいるはずと信じていく。
靴を履き替え、階段を登る。教室は二階。踊り場でターン。ふと思い出す。
あっ、時間割…そういやそんなのあったね。でも受けてないのは理系科目だから、公式使ってばばばっとなんとかこうガァーッとしてバキってやればできるはず。
歴史も、もしゃっと思い出してバタバタぁってすればよかったんだけど、もしゃっとがこう、うまく出なくてねぇ。昨日の失敗は国語だよ国語、筆者の気持ちをじゃないんだよねぇあれ、たぶん筆者ってこう思ってますよね?みなさんわかりますか?っていう、そう。出題者の気持ちになるんだよ。
階段を登り切り、曲がる。見える目的の教室の標識は3ーA。Bじゃない。惜しい。
だってそれが問題になって答えになるんだから。ねぇ。知らないけど。たぶんそう。でも、昨日は筆者の気持ちになっちゃったなぁ。点数取れるだろうか。
空いた引き戸をくぐる。入学式、始業式、終業式、卒業式くらいでしか顔を合わせない同級生がいる。誰が誰だかわかんない。だって一年半いなかったことになってるからね、いわゆる転入生なのよ私。あれ?ヒロインじゃない?私。きゃー。
いや。まぁ待てとりあえず試験だ試験。うん。席につき筆記用具をひと通り出す。もちろんズボラな私はちゃんと昨日からのメンテナンスをしてないから、筆記用具たちは昨日の試験終了後と寸分違わずの格好でそこにいる。
そろそろタブレットと電子ペンで試験受けさせてくれないのかな。そうすれば余計な手間とか減るのになぁ。通信ハックする強者とかいるか。うーん。
唐突にチャイムがなる。
あや?もう試験開始かい?さぁて。やりますか!大人のお姉ちゃんの実力見せてやるわよ?
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「メモリにある護衛というものはこういうものではないと記録されています!!」
ヒィヒィ言いながら走るティオと、真顔で走るユキ。
「友達ができたのー⭐︎じゃないんだよねぇ。サクッと誘拐されて、ほんまにもう」
エリならば、間違いなく馬鹿じゃないの。って言う。絶対。呆れ顔で言ってからすごく心配した顔になって、たぶん誰よりも一番前で走る。ユキと一緒で、こっちにかまけてる暇なんてないから多分指示はすごい雑。そんなイマジナリーな情景が浮かんでくる。
こちらの意思とは無関係に情景は暴走する。ナツメならもう少し優しい言い方をするか、一緒に走れなんて言わないだろう。優しさの種類って色々あるんだなぁとか。訳の分からないこと妄想している。
「なんか妄想できるくらいならもっと走れって!ほら!」
慌てると途端に不機嫌になるユキの罵声が飛ぶ。このおじさん、意外に予想外には強くない。おじさんだから百戦錬磨というわけでもなそうだ。たぶんでもこれから修正する。たぶんそれが強み。
「あっちですぅ。あそこ曲がったところまではぁ、見えましたぁ」
走るスタミナと監視カメラをハックするエネルギー、その二つで一気に体力を奪われる。さっき変な妄想をしたことを後悔する。
「でもぉ、そこから先はもうわかりませんん、カメラとかが、も、もうないのでぇ」
ヒィヒィ言いながら走るティオが叫ぶ。二度と昨日みたいに転ぶものかという執念の走りを見せているが、速度は平均である。
「もうほんまに、こんなんやったら教室まで迎えに行けばよかったわほんま」
後悔先に立たず、よくあることわざで、立たないくせに後悔というのは、いつまでも纏わりついてくる。
気づいたのが自分たちでないというもまた、その後悔を陰鬱なものにする。
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終業のチャイムが鳴って、少しして、雨からメッセージが来た。
「やったー⭐︎友達できたよー!」
そうですか、よかったですね。で、いつ戻ってくるのだろうか。と思っていたが待てども暮らせども帰ってこない。どうした?というメッセージを送るが既読にならない。
「これはちょっと、良くないかもしれんなぁ」
そう思った時、ユキの電話に着信があった。中村からだ。酷くぶっきらぼうな言い方だった。
「あのねぇ。雨の携帯の位置情報が学校裏手で止まってるんだけども。君らは一体何してるんだい?」
血の気が引いた。
「まぁ頑張ってくれたまえ、じゃあね」
そう言って電話が切れる。
「ティオ!」
ビクッと震えるティオ。
「やられたわ!ちくしょう、とりあえず裏口や!」
ユキは叫び走る。
「この学校カメラないです!」
「古臭い学校や当たり前や!急げほら!裏口やって!」
中の構造がわからないので、敷地面積の狭い通通信制高校の外周を全力で走る。裏口に辿りつき、画面が割れた電話を拾う。おそらく雨のだろう。
「あぁ、あぁ!」
ティオが騒ぐ。指差す方向に監視カメラがある、それから見たのだろう。
「どないした!」
「ぐったりした雨さんが担がれて車に乗せられてます!」
「白昼堂々と学校内でやるか普通!」
くっそ、と言いつつ警察無線を取り、誘拐事件発生の報を発する。
「ヤァヤァ。連絡ありがとう。まぁ、お祭り期間中で良かったネェ」
その声に反応したのは中村だ。予想だにしていなかったが、無線越しの掠れた声で、やっと点と点が繋がる。
「あぁ!お前かやっぱり!」
「そうだヨォ、どんだけ鈍いんだ四条君は、今はお祭りに監査院監査、人手が足りないだろうと思ってね」
「知り合いなのですか?」
ヒィヒィ言いながらティオが聞く。中村と言われればわかるがこの無線の声は明らかに男性だ。
「知り合いじゃ、大っ嫌いな公安のな!」
ユキが感情を露わにする。
「心外だネェ、同じ美少女変身おじさんの仲良しじゃないかぁ」
同じ?美少女?変身おじさん?ティオはこの世界のイマイチなカオスさに辟易する。
「そんなんどうでもええわ!ケイト!雨はどこや!?」
ユキの大声でティオに意識は戻り、つれないねぇ、と言ってからケイトと呼ばれた中村が説明する。
「今は大通り全部車両通行止めだから、まだ近くにいるよ、車で乗って視界から消えてこっちが遠くまで行ったら出てくる、大したことない古典的なコソ泥と一緒だよ」
一呼吸おいて中村が続ける。
「それ以上はわからない。タイムリミットは規制解除をする2時間後かね。まぁ頑張って」
「近く言ったってもう少しあるやろ!」
ユキが怒鳴りつけるが、中村の声色は変わらない。
「優秀なアシスタントがいるだろう。それしかヒントはあげないよ、じゃあ改めて頑張ってね。四条くん」
ティオのできることまで知ってやがる、相変わらず掴みどころがない野郎だと思いつつ、ポンコツ元AI人間を確認すると案の定、少し調子に乗っていた。
「えへへ、優秀だなんて」
「惚気とる場合か、早よせぇって、いいから」
むー!と抗議の声を上げつつ探っていく。
「結構遠いです…」
「どこや!走るぞ!」
いうや否や、場所も聞かずユキが猛烈に走り出す。えぇー。ティオも急いで追いかける。そして抗議の意思を表明する。
「メモリにある護衛というものはこういうものではないと記録されています!!」




