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T.I.O 元AIの私が待望の人間になれたのはいいけれど、世界がイマイチカオスです。監察官って聞いてないです!(しかも美少女に変身するおじさんを添えて)  作者: 下乃空 晋次
三話 監査を、されるそうです。

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◯警ら任務をするそうです。

 けいら任務といっても大体制服を着た警官が、その街を練り歩くだけである程度の効果はあるので、積極的に自分たちから声をかけるようなことはしない。

「とはいうけど、自分がおじさんであった場合だけの話なのよね」

 要は、逆説的に言えば、それなりに容姿が整った女性警官が、二人で並んで街中にいて周囲の目を引いているという、残念な現実がそこにはあった。

「そうみたいですね、ユキさんってドチャクソ可愛いですもんね」

「よく言うわ。そういうあなたも可愛いわよ」

 なんて言い合うものだから余計、市民からの距離感が近くなってしまっている。チャラい男たちや、ノリの良い女性、制服を着た高校生、そのほか諸々。祭りという雰囲気が余計に彼らを後押しするのか、ちょっとした取り巻きに囲まれながら街を歩くことになってしまった。


「はっはっはっ。そら四条さんがそんなんになってしまって、おまけにまた可愛い子連れてるんやろ?」

 あかんてそれ、ズルいもんなぁ。と今回の警ら任務の拠点となる交番で、ベテラン巡査に揶揄からかわれる。

 うるさいわ。とユキは言い返す。物分かりが良いを通り越した、距離の近い関係性に少し戸惑うティオ。今は警ら任務の交代と休憩を兼ねて交番で待機している。休憩と言っても、お祭り特製の来客も多く、落ち着かない雰囲気ではある。しかし、ベテラン巡査はどこ吹く風で現場を回しつつ、旧友、ユキ曰く同期、との会話を楽しんでいた。

「嬢ちゃんがあれか、ユキの家に居候してるって言う、ティオさんかい?」

 あ、はい。そうです。とだけ答えるのが精一杯のティオ、巡査はニコニコしながら続ける。

「コイツの下は大変やろ?」

「いえ、そうでもないですよ。むしろ楽しいです」

「おぉ。お上手な答えやね」

「ありがとうございます」

「でも、あれやよね、そうは言うても大変やろ?組織でなんかやる時、『それ、誰がやるんですか?』ってやつは大体四条のとこ行くもんな。監査官になっても変わらんの?って聞くまでも無かったな。はっはっはっ」

 おそらく、先の事件と今日のいま、署に来ている監査院監査のことを思い出して笑っているのだろう。

「ティオさん、こいつは本流から外れてスマしてます。みたいな顔してるけど、俺らから見たら一緒やで、自分からこぼれ球拾いに行って、一所懸命に仕事するし、真面目やし」

 うるさい。やめろや。と字面じずらとは全然違うテンションでユキが言うが、巡査は気にしない。

「それがええんや、なんだかんだ、役に立ちたいってところで動くからな。四条はね。今日だってほんとは非番で良かったんやろ?」

 と、少し意地悪だけども、とても嬉しそうな笑顔を向ける巡査に対して、言わんでええって、恥ずかしいわ。とユキが懇願するが巡査は構わず続ける。

「そんかわり組織論とは合わんところもあるからね、大変だよねぇ。はっはっはっ。いつまで四条の下におるか知らんけど、楽しんでやってちょうだい。同期からのお願いや」

 おじさん二人、その内の一人は美少女だが、二人の会話はとても楽しそうに見えたティオであった。


「あと、いつでも地域課は募集してるからいつでも来てやぁ。だそうですが」

「だそうですが、じゃないよティオ。地域課は本当の最前線だから、大変よ。アイツのキャラにだまくらされた新人さんは数知れないわ」

 大変だけど、役に立つ事を一番実感できる可能性のある場所でもあるかもしれない。とも思ったが、言ったら最後、ティオを地域課に配属するという辞令を出しかねない我が署の人事を思い出し、口から出る言葉を押し留める。

 休憩を終えて改めて街に繰り出している二人、祭りも人気ひとけが多くなり、通りには人が溢れてきて逆に取り巻きが発生しうるほどの広さも無くなっていた。人は近すぎて多すぎるといちいち他人の顔など見ていない。という新しい発見をするティオであったが、ユキの声を聞き、雑念から戻ってくる。

「そう言えばこの時間からパレードじゃない?」

 ユキは思い出したように言う。ティオはメモリーに刻んだ祭りのタイムスケジュールを確認する。

「そうですね、14時05分から、この通りで吹奏楽パレードですね」

「そうか、ちょっと忙しくなるわ」

 ティオの答えを聞き、少し目つきが鋭くなるユキ。なぜそうなるのかわからないが、いつでも何かできるように自身の装備を確認する。警棒、手錠、通信機。全部ある。ただ確認は重要だとも思うわけで。

「なんでですか?」

 と、ユキに対して確認する。

「アレを見て」

 ユキが視線を送る先には、先ほどの取り巻きにいたチャラい男たちだった。記憶を掘り起こして先日勝手に拝借した監視カメラのデータと照合する。居た。

り。ですか?」

「正しい漢字は知らないけど、多分その漢字は違うと思うわ」

「そうですか。では、ユキさんはなぜ彼らがそれだと分かったんですか」

「経験ね。おじ、、、今はおばさんになるのかな。要は経験、雰囲気でわかるのよ」

 二人はつかず離れず、あえて気配を消さずに、見失わないようについていく。

「物珍しかったでしょうね」

 ユキは少しだけ種明かしをする。

「それなりに容姿の整った警官がいる。そこで興味ではなくて、値踏みをするような視線を送るのは自己紹介のようなものよね」

 容姿が整った若手警官二人、それに対して揶揄からかってやろうとする思考を持つ人間がいると言う事だ。

「しかも、私たちを役立たずと証明するようにわざとらしく立ち回るのよ」

「それってなんの意味があるんですか?」

「さぁ?ただ、彼らの世界ではそれは楽しい事らしいし、度胸があると言われるんだってさ」

 身動きが取れないと言うほどの混雑でもないが、人混みの中を、ユキが一歩、または半歩だけ先を歩き、ティオがついてこれるスペースを確保する。

「でも、もしこれで何にも無かったら、それは単なる決めつけじゃないですか?」

 ユキのただ、彼女の経験に基づくだけの判断に疑問を呈する。

「それだったそれで構わないわよ。誰も被害者にならないんだから」

 ユキは腕時計を確認する。14時04分。パレード開始の盛大なファンファーレがそのタイミングだろう。

「あとね、彼らだけ見てるようではダメなの。彼らが囮である可能性も見逃してはダメよ。よく見てなさい」

 何を?どうやって?というところまでは、ティオに言う時間がなかった事を悪く思ったが、詳しく説明している時間もなかった。時間になり、吹奏楽の盛大なファンファーレが響き、祭りの喧騒けんそうが楽器の音に塗り潰される。その瞬間に彼らは、近くにいた女性が持っていたハンドバックを奪って走り去った。

「あっ!やった。おいっ!待ちなさい!」

 ユキが走る。すれ違いざまに、帽子をその女性に渡して叫ぶ。

「その帽子を持って交番へ行きなさい!取り返したバックと交換よ!」

「なんで!帽子なんか渡したんですか!?」

 ティオが叫ぶが、説明している時間はない。取り返してくれとすがりりつかれる分だけタイムロスだからだ。あと、本来なら、ティオのような片方が留まって寄り添うべきだろうが、今回は全部イレギュラーだ。更に悪いことに、女性に目線を向けていた分、彼らは視界から外れていることになり、直線上にはもういない。

 路地が見える。

 おそらくあそこだ。そう思い曲がろうとするユキ対してティオが叫ぶ。

「そこじゃないです!もう一つ先です!」

 何を言っているのかわからないが、振り返りティオの顔を見て察する。目があったので、ティオが言う。

「見ましたから!曲がった先で、すぐ左です。そしてすぐ右。それからはしばらく真っ直ぐです!」

 まさかカメラで全部見ろと解釈するとは思わなかった。しかし、今はそれで十分、むしろ。

「最っ高に役に立っているわ!」

 ティオはまさかのドヤ顔をしてついてくる。ドヤ顔なんてどこで覚えたのかしら。ティオが言った路地に飛び込んですぐ左に曲がる、そしてまた右に曲がる。彼らの背中が見えた。

「待て!」

 まぁ、叫ぶが止まるはずはないよね。ちょっとした追いかけっこが始まった。

 十数メートル先を男たちが駆けていく。なかなか距離は縮まらないが、ティオのナビでついていく。

 走った先は祭りの喧騒から一段落した商店街だ。その通りを抜けると、オフィス街とも商店街とも取れない人通りも少ないところになる。

「そ、そろ!そろ!げ、げんかいですぅ。」

 ティオが情けない声を出す。

「もうちょっとだけ!頑張って!」

「は、は」

 い。は聞こえなかった。なぜならティオが盛大に転んだからだ。普通の警察官なら置いておくところだったが、まぁティオだから仕方ない。カッコつけて帽子渡したけど、どうしようかなぁ。と、言い訳をどうするかという要らない回路が回り出したが、不思議な違和感を感じた。

 確かにティオは派手に転がり大きな音がしたのだが。ただなんだ。どういうことだ?多分。人が転んだ音があと二つはした。そんな都合のいいことがあるんだろうか。その答えとは結びつかない声がユキたちを呼ぶ。


「お!まっわりぃさぁん♪」


 ずいぶんと軽い調子で、全く聞き覚えのない声がした。

 明らかに知り合いを呼ぶ距離感の近い声色。なんとなくでもなんでもなく、この場に警察官は自分たちしかいないのだが。

 その自分たちを呼んだ高校生くらいの女の子の足元には、先ほどの彼らがいて、彼らもまた、ティオと同じくらい、盛大に転んでいたようだった。


「は、はぁーい」


 ユキは少し戸惑いながら、小さく返事をした。


---


「なんでよぉ〜、出歩であるいていいけど祭りの人混みの多いところは行っちゃダメってぇ」

 面白くないじゃあん。とぼやく女子高生が一人で歩いている。この辺ではあまり見ない制服を着て、背はそんなに高くない。明るい茶色の長い髪をふたいにして、吐き出すセリフとは裏腹にぴょんぴょこ歩く。メイン通りをひとつ離れたとはいえ、お祭りの雰囲気はそれなりに楽しめているようだ。

「あぁー!りんご飴だぁ!一つちょうだい!」

 小さいりんご飴を買い、祭りの日の商店街、と言う割には閑散とした商店街の道を歩く。リハビリにはちょうど良い。最近この辺には来ていなかったので、変化を探しながら探すのはそれなりに楽しい。ただ、

「1年半じゃそんなに変わんないかなぁ」

 古典的な商店街で少しだけ年季ねんきが入り、シャッターが増えたような?でも祭りで出店を出している?新しい今どきのカフェなんかも入ってるし、特段大きな変化はないようだ。

 そもそも変化を探すにしたら今日という日はあまり参考にならないよねぇ。とりんご飴を舐める。かじるより舐める。良いのか悪いのか知らないが、私はそれが好き。

 飴と一緒に齧ればいいじゃないと、知人に言われたことも思い出すが、この甘ったるい飴だけを楽しみたいのよね。自分が邪智暴虐じゃちぼうぎゃくの王様なら、舐めた後のりんごは捨てても良いと思っている。ただし、自分は邪智暴虐ではないので、そんな事はしない。仮に邪智暴虐の王様だって最後はメロスと抱いて泣きあうのだかから、あの王様ならそんな事はしないのかもしれない。

 このお祭り自体もずいぶんと様を変えている。自分が子どもの頃はもっと牧歌的なお祭りだったように感じるが、今ではパレードや踊り、そう言った大きな、華やかな感じになっている。ふと自分の背格好を見下ろす。あ、世間で言えば自分も子どもだったか。はっはっはっ。


「おやぁ?」

 お祭りとは喧騒があるものではあるが、いわゆる喧嘩祭りでもない限り、そこに流れる空気というのは、ゆるやかでおだやかなものだ。大きな声も聞こえるが、そこに乗る感情は陽であり、敵意などは乗らない、人の動作もゆっくりで弛緩しかんしたものはずだが、そうでない足音と気配が四つ、こちらに向かっている。

 自分の意識とは別で目つきが鋭くなるのを感じる。周りを見る、誰も自分には興味を持ってない、それぞれの目線の中に私は居ないらしい。人の気配というのにずいぶんと鋭敏えいびんになったものだ。もう少し頑張れば多分、何を考えているか文字情報で見えるんじゃないかってくらい。よくあるよね。人の気配と感情がわかっちゃう!みたいな。さらにいうと、クラスのみんなには冷徹な彼は実は朗らか星人だった!?気配がわかる私に彼の劇重感情を向けられて私は大変!?っていうやつだね。うん。


 いや。なんだそれ。


 雑念から意識を戻し、おそらく気配のうち二つが飛び出してくる予定の路地を見つめる。穏やかな空気が何かに押し出されるのが見て取れる。すごいな。この身体。気配の色を纏った空気がうねうねしてる。


 来た。

 

 若い男性二人だ。一人は明らかに自分のものではない女性用のハンドバッグを抱えている。路地を飛び出してきて、外側に踏み出す足が自分とは反対側に着地する。そしてそれを支えにこちらへ曲がってくる。直角にターンして、内側の足が真っ直ぐこちらを向く。続く彼も同じ挙動を取る。距離は十数メートル。自分の左側を通り抜けようと全速力だ。

 そう。今は正体せいたいしてないので、彼らからすれば、私は今、なんの脅威でもない。なんなら認識もされていないんだろうな。とわかる。

 さらに気配を辿り、奥にいる方を見つける。ブーツに詰襟つめえり。警官だ。彼ら、じゃなかった彼女らもこの通りに飛び出してくる。まず一人だが、その後ろには明らかにもう一人後ろにいる、その後ろへの気遣いが見て取れる。ふむふむ。

 

 やるか。せっかくだし。


 まず、りんご飴、これを路地に投げる。邪智暴虐?違うよ。必要だからね。私のために。

 その次に、さも、気づいてませんよ、という感じで上体じょうたいを傾けて彼らの進路に中に登場する。

 目は合わせないよ、だってわざとじゃないんだもん。

「どけぇ!!」

 数メートル前に突然登場したように思える女子高校生に驚きつつ大声を出す。ただ声を出したのは先頭ではない方だ。これは手慣れている。私に向けてではなく、先頭を走る彼に向けての警告音。呼ばれた彼はこちらを見ずに、ハンドバッグを左手から右手に持ち替えて、左手を自身の内側から繰り出して私を押し退けるようとする。

 おそらく想像だが。退けなら左、邪魔なら右。そう言った符牒ふちょうをお持ちなのだろう。腕を内側から外側へ繰り出すことで確実に進路を確保しながら私を押し退ける。仮に私が弾き飛ばされようものなら、彼らと私はそれぞれ逆方向の動線を辿たどる。つまり、飛ばされた私に視線が集まり、彼ら無事周りの視界から消える。これは手慣れている。


 ただ、相手が悪かったね。私だもん。


 繰り出される左手は、先頭を走る彼の胸骨きょうこつあたりから、いわゆる裏拳を繰り出すように横に払われる。

 符牒だけでこちらを見ずに繰り出されるそれは、真横の一直線上だ。つまり、くぐる分には楽。これが一つ目の失敗。そしてその次、後ろを走る彼の距離が近い、前が転んだらあなたも転んじゃうよ。二つ目の失敗。

 で、先頭をどう転ばすか、上体を傾けたところでまだ私の両の足はまで動いていない。だからそれを動かす。外側にある右足を跳ね上げる、倒れることに恐怖を感じてはいけない。相手の手を掻い潜るように、身体をさらに倒す。相手に背中を向けつつ、身体がTの字になり、先頭を走る彼の手が空を切る。かわせた事を確認するまでもなく、今度は左足を蹴る、身体が宙に浮き、回転する。


 さて、ここからが大変。


 地面を蹴った左足を改めて畳む。畳まずに振り下ろすこともできるが、その場合は先頭を走る彼しか捕まえられない。だから、突き出す必要がある。

 目の前で女子高校生が空中で回るという意外性。大きな動きだから、見るつもりがなくても視界に入る、視界に入ってしまったら、もう認知せざるを得ない、理解が追いつかない、固まる、足が出なくなる、仮に出たとしても、遅くなる。三つ目の失敗。

 回転しながら敵が予想通りの動きをしていることを確認する。遅くなったから、しっかり間に合う、左手を振り切って開いた身体の右足の付け根。そこに畳んでいた左足を思い切り、真っ直ぐ伸ばして突き刺すイメージ。足の裏の指の付け根。そこでしっかりと相手の腰骨こしぼねを感じる。

 押し出された先頭の彼は、後ろから来た彼と私の足に挟まれる。さらに振り抜いた彼の左手はちょうど狙ったかのように、後ろの彼の側頭部を捉える。

 とてつもなく盛大に男性二人が転ぶ。空中では支えるものがないので、私自身は後ろに飛ばされる。私はちゃんと受け身を取るので、転がる音は彼らの二つだけ。四つ目、ではなく最初からの失敗。それは私がいた事だ。


 ちなみに視界の端で捉えていた、私の投げたりんご飴は、ちゃんと、二人目の黒髪、黒瞳、おさげ、非地雷系陰キャ詰襟お巡りさんに当たっていた。彼女は盛大に転び、先を走るドチャクソ美人詰襟お巡りさんが振り返って彼女のことを確認している。どういう見た目なんだこの二人。まぁ良いや。


 私が何をしたかは誰もわかんないよね。監視カメラでもハックしてない限りね。


 よし♪完璧♬

 

 整えるほどの身なりのズレもない。怖い顔してないかな、スマイルスマイル!問題なぁし!


 では改めて。


「お!まっわりぃさぁん♪」


 私は、雨宮雨あめみやあめ、ちょっと変わった女子高校生。らしい。


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