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T.I.O 元AIの私が待望の人間になれたのはいいけれど、世界がイマイチカオスです。監察官って聞いてないです!(しかも美少女に変身するおじさんを添えて)  作者: 下乃空 晋次
一話 潜入捜査をするようです。

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◯秘密のお姉ちゃんファイル

 元AIの私が待望の人間になれたのはいいけれど、世界がイマイチカオスです。監察官って聞いてないです。

 しかも美少女に変身するおじさんを添えて、だなんて。何度も思い返してもよくわからない。そもそも思い返すってなんだろう。


 まぁ良いか。


 夕方六時の定時前、夕陽が差し込む廊下を歩きながら、そう思う私ことティオは、とある警察署の技術部が開発した書類分析AIを実体化させたら面白いんじゃないかという、伊達と酔狂で作られた新型のアンドロイド。


 と言うことになっています。


 私はある日突然人間として警察署内に現れた。らしい。その辺の記憶は曖昧だけど。

 自分も、現場にいた人も、なぜ私がそこに立っていたかよくわからないので、もうそう言う設定にして過ごすことになってしまいました。


 彼女の出現は警察署の中の出来事だったので、世間にはバレていない。もちろんちゃんとこの身体の身元確認もされました。不明でした。逆に言えばオリジナルです。物理法則を無視している様な気がしますが、世界のエラーという事にしています。


 出現からそうこうしているうちに私の出現の現場に居合わせていた、目の前を歩く女性らしき人物のもとで一緒に活動することになってしまいました。

 その女性らしき人物、ユキさんはこの繁華街を管轄する警察署で監察官をしています。監査官とは身内の不正を暴いたり未然に防ぐことが目的です。つまり警察官の中の警察官ということです。

 

 ただ、私の出現に関する騒動の初っ端で、

「おまえも美少女だから」

 という鶴の一言で私の上司になり、私生活の面倒も見てもらっています。優しい人なのだと思います。


 ユキさんは、本来はおじさんですが、私の出現した際の事故で、不定期に女性になってしまうようです。ある程度はコントロールできるようですが、その容姿は、銀色の髪を後頭部でまとめて、若干のつり目に黒い瞳、支給品の詰襟がまるで特注品のようにハマっている。

 つまり端的に言うとドチャクソ可愛いです。ズルい。


 前を歩くユキの、夕陽が差し込んでキラキラしながらたなびく銀髪を眺めて、ティオは自分の容姿を見下ろして少しだけ嫉妬する。

 建前上は監察官かんさつかんという官職かんしょくである癖に、着ている服はグレーのパーカーにミニスカートとニーソックス。黒髪おさげに黒縁メガネ、性癖特盛、可愛い非地雷系陰キャ女子大学生のような見た目になっている。


 定時前にわざわざ出向く相手先に思考を移して、少しだけ嫌な気持ちになる。

「次は、エリさんですね、今日も機嫌悪いんでしょうか」

 不思議なことに実体化してから、感情と発声は不思議なくらい一致している。これは緊張と不安。字面では理解するが、身体が感じる認識はよくわからない。そんなズレがむず痒い。


 ん?むず痒いってなんだ?

 そんな雑念に対応するために、自身のプログラムのリソースを割きながら、ティオは改めてエリについて整理する。


 エリ。エマの双子の妹であり、我々監察官とは別でエマを追い続けている、彼女が所属する麻薬取締課は裏も表も上からも下からも情報が入ってくる。彼女はあえてそこを志願し、危険な任務をこなしている。彼女は大柄で鍛えあげているが女性らしい身体つき。青い髪のロングヘアー。前髪はかきあげた感じ。グレーの瞳で、ユキとは異なる切れ長で、少し威圧感のある目つき。

 そこまで思い出していると、ティオの脳内リソースに空きが出来たを見計らった様に

ユキがようやく返答する。

「言うてなぁ、最近はサヤカと組んで、ずいぶん丸くなったって言うしな」

 大袈裟に素振りしながらユキは自分で、平手打ちバチーンと一発。などと効果音を言っている。

 サヤカさんは、ここ最近でエリとコンビを組む小柄でピンク色の髪をした女性だと、ティオはメモリーからひっぱり出す。実はさっき会って来た。

「ところでユキさん、いつもより口数が多いですが、エリさんのこと嫌いですか?」

 自分のメモリーをガサガサ漁るなかで、ふとした疑問を投げかける。

「ギクーゥ、とか言うんやったら面白いとは思うけどな。なんでそう思たん?」

 振り返りはするが歩みは止めずユキが尋ねる。ティオが唇に手を当てて話し続ける。

「いつもより1.3倍他の人に愛想振ってますよね、身体の振り向きが5度きつく、手の振りが1往復半多いですから、歯を見せる笑みも0,025秒長いです」

 よく出来ました。と言わんばかりの笑みを浮かべ、関西弁のイントネーションで話す。

「よう見てる、良い観察眼やね。花丸あげよう。」

 ティオは言葉の意味とイントネーションからユキの意図を読み、顔を赤らめる、そう、人になってわかることが増えて嬉しい。いわゆる照れ隠しというもので、その自分の嬉しさを隠す様に話を続ける。

「で、今日は男性の姿ではなく、そっち方面で攻めてみるんですね、相手の見てくれなんて一番気にしない人ですよね」

 照れ隠しで少し早口になった気がする。その理由はわからない。

「せや、だから気にしない、この格好で行くんやわ」

 ユキは肩すくめる、嫌いだとは思うのに、その割にユキの歩く歩幅は変わらない、要はそこに躊躇はないのだ。ただそのちゅーちょというのはティオにはまだわからない感情の概念であった。

「どちらにせよ、おっしゃる通り利き手の右から一発は間違いないですよね」

 ティオも素振りをしてみる、AI時代に何回か見たことのあるエリの平手打ちを再現する。脳内で描く動線と自分の動作との乖離にげんなりする。実体化してからこれが一番の課題だ。

「受けたら芯に響くちゅうか痛いねんほんま、せやから、こんな可愛い子殴るってるねんって社会的に○したろって」

 ユキは整った顔で、ケタケタ笑いつつ絵に描いたような悪い顔をするが、ずいぶんと綺麗な見た目なので、悪さという意味では大した迫力は出ていない。

 あのー、と一言おいてティオが話す。ユキは悪い顔したまま振り返る。

「ユキさんの中身はおじさんなので、社会的にどうこうという話は達成されないのではないでしょうか」

 足は止めないが、ユキの笑みは消えて眉毛が上がる。

「それもそうやな」

 それだけ言って前を向く。そもそもユキは別に、エリのことを嫌いとは言ってないし、歩幅も変わらない。更にはよそ行き用の女性言葉すら使っていない。つまり、嫌いとは真逆に近い感情でいることに、まだこのポンコツ元AIは気づいてはいないのだった。

「いわゆる顔合わせってやつよ」

 ユキは誰にいうでもなく、絶対ティオには聞こえないように小さく呟いた。その直後、凛とした声が監察官二人を刺す。

「へーーー、でも中身がおじさんだから、そんなの誰も気にしないんじゃない?」

 ヒールを響かせ、歩いてくる女性、大柄でメリハリのある体つき、真っ青なロングストレートの髪、前髪はかきあげた感じで、灰色の瞳と鋭い切れ長の目つき。ともすれば高圧的な印象を持つ彼女、メモリーと寸分違わない姿。エリだった。

 目的地に着く前に廊下で出会ってしまった、正確にいえば見つかってしまったというべきか。

 ティオは人型になってから会うのは初めてだが、これが肌感か、エリは寂しさを纏っている。感情っていうのは気配というものでわかるのか。文字情報だけ、0か1かの次元ではない“理解”の仕方に、身体が震えることを覚える。

 一瞥、それだけして自分の横を素通りし、最後一歩だけ歩幅が15センチ広い、あ、これが踏み込みかな。


 ティオがそんなことを思った直後、エリは大袈裟に振りかぶり、空気を割く様に平手打ちをかます。彼女の右手がユキの左頬の辺りを捉えるが、頬に当たったにしては鈍い音、なぜかほっとしている自分がいた。

「考えなおしたんやけど、殴られる理由はあらへんからな今回は」

 ユキは右手を顔の前で交差させて、エリの平手打ちを受け止めていた。

「そうね、別に今までずっとなんの積み上げもないんだもの、流石に理不尽ってわけよね」

 右手を離し、顔にかかった髪を後ろに流しながら言う、そして振り返り、ティオを見つける。興味も何も示さない顔で、ただティオからは目線を外さずにユキに問う。

「誰?この子?アンタまたなんか変なことしたの?」

 ティオはここぞとばかりに挨拶をする。

「ティオって言います、書類分析AIから生まれました!よろしくお願いします!」

 一拍の間と静寂が通り抜ける。

「ふーん、訳わかんないのには慣れたけどさ」

 と、今度は上から下まで観察する。顔色はさっきより警戒の色は薄くなった。

「で、いつもべらべらうるさい端末はもうやめたの?」

 手ぶらのユキを見てエリは言う。

「あ、あの、私です」

「あぁ、あなたが持ってるのね、で今日は何の用事?」

 (そら慣れとは言ってもねぇ、びっくりするやろなぁ。)

 とユキは内心ニヤついてしまう。

「だから、あの、私が、その端末です。正確にはでした、というのでしょうか。」

 恐る恐る、しかしはっきりとティオは言う。

「はぁ?」

 怪訝、顔ってこんなにも感情を出すのか、カメラの処理のノイズ集合体とは明らかに違う情報の入力。

 (あぁ、情報入力の新しい形。たまらない。いけないいけない。)

 ティオも内心ニヤついてしまう。

「そうなんよ、何かいろいろあって私が面倒みてる。」

 ユキが追い討ちをかける。

「は?」

 威圧、顔って(以下略

 ティオは意を決して二人の間に入り、ワタワタと改めて建前上の自身の経緯を説明する。

 説明を聞きながら、エリがどんどんげんなりしていくのをユキは少し同情しながら眺めていた。


「はぁぁぁぁぁぁぁ」

 吐息、エリは真っ昼間の警察署の廊下のど真ん中で彼女は絶望の淵にいるようだ。

「意味わかんない」

 年相応の女性の声だ。

「え?何で?何でなの?何これ?」

 意外にあっさりと絶望の淵から帰還したエリは無遠慮にペタペタとティオを触る。ティオは黙って受け入れている。結構大胆なところまで触っている。麻薬を隠しているわけでないのが彼女の職責か性癖か。

「あぁー、そう言うことね。わかったわかった」

 エリは、フンと息を吐いてからユキをじっと見つめてから言葉を続ける。

「顔見せ?」

 ユキは黙って眉毛を上げる。意外でもあり当然とも取れる表情。

「そういうこと。よろしくしたって」

 あ、そう。と言ってエリはティオの顔の真ん前に自身の顔を持ってくる。少し距離が近い。

「エリよ。お世話になることはないと思うけど、よろしくね」

 彼女はそう言ってティオの頭をガシガシ撫でた後、颯爽と歩いて行った。


---

 

 エリとサヤカと知り合ってから数日経った。いま監察官居室にはティオとエリ、そしてサヤカがいる。

「秘密のお姉ちゃんファイル…?」

 ティオが10cm幅ドッチファイルに書かれた文字を読み上げる。どう読み上げて良いのかわからない。これが戸惑いというものか。

 なんだかわからないが、エマに似た人間が反社会組織、黒鳥会こくちょうかいで違法薬物を仕入れているという情報が入ってきた。エリのお目付け役で、メディックで、カウンセラーあるサヤカがエリを引っ張って連れてきた。エリの情報整理が下手すぎるのと、ティオの性能を確認するしてみようという話であったが、サヤカの表情からそれが建前だと言うことだけは、人になって日が浅いティオでもよくわかった。

「それがあと三冊あるから、大好きお姉ちゃんファイル、今度こそ見つけるお姉ちゃんファイル、あとなんだっけ?エリさん?」

 サヤカが笑顔で、エリの黒歴史をブッ刺している。連れて来たはずなのになんでこんな顔しているのか、それは多分笑顔に中に隠した怒りのようなものだろうか。

 ちなみに、ユキは席を外している。というかエリが追い出した、その感覚もまだティオにはわからない。

 この目の前にある分厚いドッチファイルを観察する。真新しい外側と、綴じられている紙の劣化具合に大きな差違がある。たぶんファイリングはサヤカがしたんだろう、おもちゃの整理ができない子ども叱るような、優しさ由来の怒りを感じる。それを理解するとゾクゾクする。

「やめて、声に出して読まないで…」

 机に突っ伏し、恥ずかしさで煙をあげているエリを尻目に、ティオはページを捲る。無造作に綴じられただけの情報源、ここから情報を取捨選択し、取り込んで分析する。仮想データとして現実の文字情報をデータに叩き込む、これが結局一番面倒。

「全部入れますか」

 と、ティオがつぶやく、エリがガバッと起き上がる

「ぜ…全部?」

 まだ恥ずかしさで顔が真っ赤だった、怒りではないが口がわなわなしている。ティオはファイルを閉じて、エリをまっすぐ見る。

「情報が無造作かつ大量なので一回全部取り込んで、それから整理します。情報の取捨選択を今する方が大変なので」

 決意に満ち、いままさに情報を摂取しようとするティオに対してサヤカが宥める。

「あ、あのー、全部はやめた方がいいかなぁって」

 なんでしょうか?ティオが応じる。なぜかサヤカも顔が赤くなっている。なぜ、さっきは怒っていたのに今は羞恥を感じているのだろうか。指をツンツンしながら恥ずかしそうに言う。

「まだ、あと五冊はあるの、しかもそのファイルもそうだけど、半分くらい」

 構わない。元AIを舐めないでいただきたい。

「何冊でも構いませんよ、データ容量には自信があります!」

 胸を張って答える、おさげと胸にある物体が揺れる。人間とは面倒くさい。


 エリはもう半泣きになっている。うぅっ、と呻いている。ほんとにユキが居なくてよかった。自分が連れて来たことを少し後悔しながら、しどろもどろでサヤカが続ける。

「そのー、半分くらいポエムなの、エリさんの…、だから、全部はその…やめてあげて欲しぃなぁって…」

 意味がわからない。四の五も言わずデータを取り込んでしまった方が話が早いと確信する。

「大丈夫ですよ、全部入れてから、不要ってラベル貼りますから!」

 あー、エリさんごめんなさい。サヤカはそう観念して。あ、はぁ、と、息を漏らす。

「じゃあやりますよ!全部持ってきてください!“ぜんは急げ”ってやつですよね」

 ドッチファイルを改めてドンと置き、一枚一枚を丁寧だが素早くめくり、自分の目から情報を取り込んでいく。文字、質感、インクの濃さ、貼り付けた写真全てを0と1に分解してメモリーに取り込む。並行して要不要のラベルを貼りたいが、基礎データが足りないので慎重にやる。

「ティオちゃん、そのイントネーションならお膳だよ。多分ほんとは善だと思うよ」

 サヤカの小さな呟きは、ティオのページを捲る音にかき消される。エリはといえば、もう完全に撃沈している。机に突っ伏して小さく震えている。

 最終ページを引きちぎらん勢いで捲り、なんの恨みがあるのかわからないが、ドッチファイルの裏表紙を叩きつけるように閉じてティオは顔上げる。頬とおでこがほんのり赤い。

「もう終わりました!出来そうです!残り五冊もいただけますか!?」

 わんこそばのおかわりじゃないんだからさ。と思う元から人間二人の呆れと戸惑いに気づくわけもなく、鼻息荒くおかわりを所望する可愛い非地雷系陰キャ女子大生風少女がそこにいた。


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