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第九話

「陸だ! 陸が見えるぞ!」


 かくして数日後、武装商船はスプルース大陸にたどり着いた。潮の流れで港からは少し離れてしまったが、沿岸部の航行は道々にある村で水や食料の補給をしながら進めるため、気が楽だ。ヨラたち船員は久しぶりの新鮮な食料に舌鼓を打ちながら、岸に沿って航行を続け、スプルース大陸の港町へと到着した。


 スプルース大陸の港町はエルシュタット公国のものとは違った趣をしているが、船着場や市場の活況はさして変わらない。海鳥が飛んでいるのも、屈強な人夫たちが船の積荷を上げ下ろしているのも同じだ。漆喰にモザイクタイルをふんだんに貼り付けた建物や、人々のまとう服、言語などは違うが、商船の乗組員たちは慣れている。


 武装商船から船着場に下りた航海士のばあさんは、流暢にスプルース大陸の言葉を話した。ヨラにはちんぷんかんぷんだ。


 船員たちが早々に酒場にくり出して大いに飲み食いしている中、ヨラは公衆浴場に行き、一っ風呂浴びてからスプルース大陸の港町をゆっくりと歩いた。


 意外と看板の絵や、身振り手振りで意思の疎通ができるものである。エルシュタット公国からやってくる船員も多いのか、セルリア大陸の言葉をカタコトで話す者もいたし、エルシュタット公国の言葉を書いた看板もあった。


 海風が吹く街にはあちこちに木組みの風車があり、風が吹くたびに軋んだ音をたててゆっくりと回る。近くを通るとゴリゴリという石臼の動く音が聞こえてくるから、おそらく小麦を挽いているのだろう。


 石畳で舗装された水路には水が流れており、趣こそ違うものの、洗練された街並みである。


 ヨラは一軒の鍛冶屋を見つけると、愛用のナイフの修繕を頼んだ。ところどころ刃こぼれしているし、潮の影響で切れ味が鈍っている。


「研ぐ、刃、薄くなる」


 エルシュタット公国の言葉をカタコトで話す鍛冶屋に、ヨラはうなずいた。


「打ち直して欲しい」


 鍛冶屋がうなずいて、ヨラのナイフの外装を外す。専用の大きなペンチで摘んで刃の部分を火に入れる。伝わったようで何よりだと、ヨラは店の中に置いてある武器を眺めた。


 ナイフ、短剣、長剣、レイピア……さまざまな武器が飾ってある。けれども海の上での戦闘では、まず大砲を撃ち合うことになる。船同士を近づけて相手の船に乗り込む接舷戦もないわけではないが、そうなったときには大抵大砲の撃ち合いで勝敗が決まっている。


 ならばと、短銃やライフル銃の飾ってある棚の前に立つ。値札に書かれた金額は、とてもヨラに手が出せるようなものではない。船長であれば買えるのかもしれないが、一介の下っ端船員が買うには高すぎる。


 鍛冶屋がハンマーを構えて、トンカンと作業する音が聞こえてくる。炉の炎の熱が店内にじわりと広がっている。商品棚をゆっくりと見て回っていたヨラは、ふと、ある武器に目を留めた。手頃なサイズの鎌に、鎖と分銅がついているものだ。


 ──もしも、これが大砲の弾だったら?


 ヨラは鎖鎌のチェーンを見つめて、大砲の弾に鎖でいくつも弾丸が連なっているのを想像する。大砲は着地と共に破裂する。もしもヨラの考えるように飛ぶなら、大砲の攻撃範囲が広くなるかもしれない。


 ヨラは肌身離さず持っている手帳を取り出して、ペンを走らせる。不思議なもので、一つアイデアを思いつくと、次々と湧き出てくる。大砲が着弾時に破裂するのであれば、その中に礫や釘や弾丸、網を詰めておくのもいいかもしれない。思いついたアイデアを書き留めていたヨラは、船長か砲手に相談したくて居てもたってもいられず、手帳をカバンに仕舞い込んだ。


「ごめん、後で取りに来る!」


 店主のうなずきと共にジュウという音がして、店内に湯気の気配が満ちた。打ち直したナイフを水で冷やしているようだった。


 ヨラは急いで武装商船までの道のりを駆け出す。もしかしたら船長も港町にくり出しているかもしれない。街中で顔馴染みの船員にすれ違うたびに「船長か砲手は!?」と勢い込んで尋ねた。船長がスプルース大陸でよく行く酒場の場所を教わって、ヨラは港町を行き来する人の群れをかき分けながらそこに向かった。漆喰に一列のモザイクタイルが埋め込まれている簡素な酒場がある。扉を開けると、船長と砲手が差し向かいで酒を飲んでいた。


「船長!」

「ヨラ、どうした?」

「これ見てください!」


 酒場に飛び込んだ勢いのままにヨラが手帳を広げて見せると、船長は灰色の髪を掻いて覗き込んだ。砲手は口元についたビールの泡を拭ってから、少し遅れて同じように手帳を見る。


「……こりゃあ、鎖弾だな」

「鎖弾?」

「おう。大砲の一つ目に火をつけるのはいいが、こっちの小さいのに着火させるのが難しい。二つ飛ばす分、有効距離は少し短めだな。……こっちはブドウ弾に似てるが……なるほどなぁ」


 既に存在する大砲の弾丸だったことを知って、ヨラの肩ががっくりと落ちる。砲手はガハハと笑い声を上げるとヨラの背中を軽く叩いた。


「いや、でもこっちのアイデアはなかなかいい。なぁに、大砲の弾も調達せんといかん。試しに作らせてみよう」


 木でできた大きなジョッキを構えた砲手の言葉に、ヨラは何度もうなずいた。

【参考資料】

富士総火力演習2026 / Wikipedia

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