Depths12~戦場へ赴く戦士達への諧謔曲(メヌエット)-Whale Song-~
熱波を放った箱舟のEEn反応を確認した中央支部。
帰ってきた忠司達と中央の仲間達は、急遽作戦に組み込まれる
動力が大半恐らく落ちているであろう、「箱舟への強襲」を。
着実に行われる準備、「凶悪な遺産」、「それぞれの思惑」。
そんな中、箱舟でも「一つの憂い」が存在していた・・・。
中央支部基地、レーダールーム。
基地内全てのレーダーを管理するこの部屋で、巨大な反応が感知される。
「莫大なEEn反応有り!」
「発生源はどこだ!?ノルニルか!?」
「いえ・・・アフリカ?」
「何だと!?シャイナ准将は帰ってきているはずだ!呼んで来・・・」
「・・・アフリカ、ねぇ。」
大声で叫ぶ新日本軍の兵士の後ろから軍靴を響かせ、歩いてくるシャイナ・シュミット准将。
表情は固く、そのモニターに表示された反応を見て溜息を吐く。
「・・・大陸丸々一つ包み込むEEn・・・有り得ないわね。」
爆心地はアフリカ大陸の真ん中。そこから円形に赤いEEn反応が、大陸を包み込んでいる。
そして日本や他国へと少し、微透明色のEEn反応が出ている。
「アフリカに「アレ」は存在していたかしら?」
「・・・アレ、ですか?」
「"礎"よ。これだけ大規模なEEnを発生させるには、礎の暴走か、ノルニルの落下、これくらいしか有り得な・・・」
「・・・フン、何時も何時も頭のお堅い准将だ。」
結論を出そうとしたシャイナの元へと、ユウが歩き、タブレットを見せる。
外で計測を行ったらしく、EEnの波長、と思われるグラフが映し出されていた。
「これが何を意味するか分かるか?」
「・・・一本の線・・・つまり・・・複合されていないEEn。」
「そうです、准将。ノルニルはどういった形成か、貴方なら分かるはずだ。」
「浮力に使用するEEn、自動砲台供給電力EEn、そして周囲に張る熱波バリア用EEn。あとは内部を動かす為の・・・」
「そこまででいい、挙げすぎてもキリが無い。」
そうだ、ノルニルが落ちれば、様々なEEnが地上へと降り注ぐ事になる。
単純な、一種類の変換されたEEnならばタブレットに映っているように、一本の線で済む。
だが、多重にEEnが発生していた、とすると一本ではなく二本以上の線が出るはず。
ノルニルが落ちたとすれば後者しか可能性は存在しない。
「じゃあ、何が起きたというのよ?」
「・・・爆発?」
「私に聞かないで。」
普段なら有り得ないユウの反応にシャイナは戸惑いながらも諭す。
ユウはメガネを外し、目に腕を当て、考え続ける。
「・・・あの大陸に居た軍隊は?」
「米軍ね。」
「・・・米・・・EEn・・・いや、奴等はEEnの研究を行えるほどの施設は持っていない・・・」
「ブツの影響じゃろう?」
軍靴とは別に、何かの音を立てながら平内銀輔が現れる。
恐らく忠司やリアが見たら驚くであろう状態の銀輔だ。
両腕を部分機械化し、日本刀を杖に歩いていた。
「平内少佐。」
「・・・埠頭にあった「あの機会」その同系統であろう?准将殿、そしてユウ少佐。」
「・・・箱舟のエンジン・・・まさか!?」
声を荒げ、ユウはタブレットの画面をすばやく切り替える。
そして「発注されていた箱舟のパーツ」の一覧を見る。
「EEnエンジン 埠頭小島支部」
「船体 本部」
「砲台 ドイツ」
「特攻用カタパルト アフリカ試験基地」
4番目の項目だ。
「まさか・・・試験基地が爆発・・・」
「いや、その可能性は無い、老いぼれ。」
「何だと?若造?」
「喧嘩しない!」
煽る少佐同士を止め、話を聞こうとするシャイナ
少佐二人は火花を散らしていた。
「・・・で、だ。試験基地はEEnの試験はしていたが、数年前に停止した。」
「・・・「カタパルト」を箱舟のパーツを盗んだ集団に渡さない様、何者かが破壊した・・・?」
「破壊だけじゃあ、このレベルのEEnは発生しません。」
「すみません、ユウ少・・・さ?」
レーダー室に入ってきた忠司。
銀輔の姿を見て驚きのあまり言葉を失う。
「おお、軍鶏の坊主、確か石田忠司一等兵、だったな。」
「どうも、平内少佐!無事・・・とはとても・・・」
「いや、生きているなら無事だ、ハッハッハ・・・それより、此方の若造に用があるんじゃろう?」
「そうだった!」
メガネを掛けなおすユウ。
「言ってみろ」と言わんばかりの表情で忠司を見る。
「・・・「EEn砲台」とか、可能性は?」
「・・・やはりお前はお前のようだな・・・忠司一等兵・・・」
「でも、EEnの変化性質を思い出してください。」
「・・・万能素子・・・まさか、核か・・・!?」
再度グラフを表示させる。
線の色は赤。放射腺ならばオレンジ色になっているはずだ。
「・・・ハズレのようかね?若造。」
「・・・遠からず、近からず。忠司」
「はい?」
「・・・いいヒントだ。礼を言う。」
ユウは箱舟パーツの発注書をまた開く。
そして「砲台」の項目を見て、確信する。
「これを改造できる人間・・・居るな。・・・EEnの変換、高温の熱波・・・だがそれでは箱舟自体の動力を落とす事になる・・・?」
「ちょっと待てい!」
「どうした老いぼれ。」
「・・・動力を落とす、と言ったな?」
「ああ。」
「今が好機ではないか?アフリカ大陸に索敵を仕掛け、賊共を一掃する、好機だろう?」
「・・・ではあるな。」
「少佐以上各員!10分後に至急会議室に集まりなさい!!」
シャイナが放送機器を扱い、そう大声を張り上げる。
攻撃を仕掛ける為の会議だ。
「・・・さて、10分の間で直せるかどうか、だ。忠司。」
「は、はい!」
「俺を手伝え。」
「了解!」
ユウの後ろを付いていき、ドッグへと向かう。
その二人の後姿を見て、シャイナは笑みを浮かべる。
「・・・珍しいタイプの子、ですよね、平内少佐。」
「ああ、あの気難しい若造に心を開かせるとは。」
「・・・多分、失った友人の面影を感じているんでしょう。」
「・・・失った友人・・・とは?何方なんですかそれは。」
「・・・詳しくは言えませんが、「例の謀判事件」に大きく関与している人物です」
ドッグ、戦闘に使用した群雲・デュラハン・シュヴァルツの三機の整備を行う。
溶けた外部装甲を取り替えたり、武装を搭載したり、とても忙しい。
勿論ユウは時間オーバーで会議には参加しないそうだ。
「・・・熱波・・・?」
「・・・少佐、まさか!」
「・・・有り得るな、この熱波を大陸規模に強化すれば・・・」
戦で消耗した機兵の装甲は「溶けていた」。
つまり高熱を浴びたのである。
そして今回の巨大なEEn反応、これもまた、熱波である。
「だが、どうやって・・・?」
「改造を出来る「技術者」が砲塔の改造を、あの機兵と同じ様な仕様へと改造した、とか・・・」
「あの砲塔を改造・・・待てよ、その推測が本当ならばあの「影」にも結論が出る。」
「・・・箱舟・・・」
無言で頷くユウ。
その通りなのだ、忠司の推測通り、箱舟が通った跡、それが影。
「影が通った後に機兵が降りてくる」というのはハッチを開けて降りてきた機兵だ。
「・・・だけど、あの規模の大きさの戦艦なら、すぐ見つけられますよね」
「・・・光学迷彩だ。それも超弩級戦艦に合わせた規模の。箱舟はそれを標準積載している」
「つまり見えない、って事ですか」
「そうだ、迂闊に踏み込めば奴等に包囲される・・・が、打開策が一つだけある。」
「・・・それは?」
「付いて来い」
ユウに言われるがまま、後ろを付いていく。
ドッグで唯一、機兵が置かれていない場所、そこに立つと、ユウは制御パネルを弄り始める。
数分後、立っていた床がエレベーターのように下へと沈んでいった。
「こんな所が・・・」
「ある兵器の出撃格納庫だ。それを使えば恐らく・・・」
会話の途中、ガタン、という音と共に、最下層へと辿り着く。
地下4階くらいだろう。そこには「長い間放置されていたであろう機兵」が佇んでいた。
その機兵には装甲が取り付けられておらず、「骨格」のみがむき出しになっていた。
腕には見たことのある機構。
とても見慣れているが、むき出しになった状態は初めて見る「衝撃発生間接機構」
「俺の恩人が作った、機兵。骨格だけだが、コイツならばどんな武装でも扱える。」
「・・・どんな・・・武装でも・・・」
さらにその奥に存在する、古ぼけたシャッターを開ける。
そこに収納されていたのは「大型の杭打ち機」だろうか?
しかし、パイルバンカーではない。先端に取り付けられているのは9本の刀型兵装
もはや大型の爪だ。大きさは正宗や群雲の胴体ほどの大きさ、普通の機兵では扱う事が出来ないだろう。
その爪のような刀達に加え、丁度グリップの部分より前に存在するのは、束ねられた機銃、ガトリングガンだ。
それが3つ、セレクターを変えれば同時に回転するらしい。
ただ不思議な事に、そのガトリングガンには弾倉が存在しない。
「・・・何なんですか、これは。」
「元は2つの武装だった物を1つに纏めた「化け物」だ。」
「それ、答えになってません。」
「・・・そうだな。・・・一つは「九剣白面」
「・・・そのままですね、前半」
「それはどうでもいい。刀と機械の繋ぎ目に、大量の「衝撃発生間接」を仕込んでいる。さらに試験的に積み込まれたEEn、濃縮技術、それにより射出、打ち込んだ時、真価を発揮する。」
異質、と言わんばかりの風貌と火力。
濃縮されたEEnを直撃させられれば貫通どころでは済まないだろう。
その大きさは「対弩級戦艦・対要塞」とも思えるほど。
「・・・そしてこの機銃群、これは「酒呑火砲」。此方も試験的に積まれているEEn変換技術によって焼夷弾を速射する兵器だ。」
「・・・これを過去の大戦で・・・?」
黙って目を伏せ、頷くユウ。
どうやら本当らしい。
このような武装を使い、戦争を行ってきたという事は。
酒呑火砲はもはや「戦争用」という言葉を具現したような武器だ。
瞬時に焼夷弾を放ち、無差別に都市、自然を破壊し尽くす。そんな想像が安易に出来てしまう。
逆に九剣白面は対機兵・要塞用としか思えない武器だ。
小さな標的は焼き討ち、機兵や要塞、戦艦などの大きな標的は斬り刻む。
だが、問題はこの武装の扱い方だ。
流石に片手で扱うには重過ぎる。
重量過多で振り回した拍子に機兵の腕が飛んでいきそうだ。
「この武装、どう使うんですか?」
「昔は片手で振り回していたらしいが、一度上へ運び、2つに分ける。」
「上に運ぶ、って言っても・・・こんな重そうな物・・・」
「あれに乗れ。」
指差したのは、骨格だけの機兵。
一応コックピットハッチはあるが、とても薄いガラスだ。
カメラなどは無く、肉眼での操縦になる。
「あ、あの、安全性とかは・・・」
「とても危・・・・・・・・・一応、安全だ。」
「何か言いかけませんでした?」
「いいから乗って両手で持ってリフトに乗せろ。」
焦りながらユウは指示をする。
恐怖しながらも、忠司は骨格だけの機兵に乗り、操縦桿から起動させる。
「こんなボロいの動くのかなぁ・・・うわっ!?」
正宗や群雲の要領で立ち上がろうとしたが、思っていたよりも早く立ち上がる。
操縦に遅延が全く無い。
「・・・よいしょ・・・っと」
武器を持ち上げ、リフトの上へと乗せる。
「忠司、その機兵ごとリフトの上へ乗れ。」
「重量オーバーとかは?」
「しない。元よりこのリフトはコイツの出撃用に作られたからな。」
機兵ごと歩き出し、リフトでしゃがみ、ハッチを開けて外へと出る。
来た時と同じ時間の長さで上へとリフトは昇っていく。
ドッグに到着すると、明るい中でその骨格だけの機兵がよく見えた。
その骨格は、銀色に輝いていた。
「この機兵、いや骨格は「零」、実戦で数回扱われたが、あまりの性能の異常さ故、凍結された機体だ。」
「・・・異常さ?」
「ああ、あれだけの武装を片腕で動かし、尚且つ軽く条約違反を起こしている機兵だからな。」
「条約違反って・・・それじゃあ今も使えないんじゃ・・・」
「お前は条約を、機兵の存在・動力、それを全て知っている上で戦争をして来たのか?」
「えっ?」
「まず「EEn変化による旧大戦で扱われた「遺産」の再現は許されていない」。つまり陽子やそこ等の再現は完全に黒だ。」
「核・・・ですか」
無言で頷くユウ。
そして話を続ける。
「機兵、いや、お前が乗っていた正宗の衝撃発生間接による火力の向上化、それは何を使用して打ち抜いていたか、それは知っているか?」
「俺達一等兵には教えてもらえませんでした。「上層部の機密」だとか」
「・・・そうだろうな、衝撃波は陽子加速によって行われている。」
「それじゃあ条約違反じゃ・・・」
「そうだ。それにイタリアのオラトリオ、あの機体は「陽子炉」だ。EEnではなく、純粋な陽子エネルギーを利用し、動いている。」
「違反だらけじゃないですか・・・」
「いいか?戦争にルールなんてものは通用しない。仮に在ったとしても守るやつなんて居ないだろう?」
そう告げると、溜息を吐きながら大型武装を二つに分ける。
「・・・「誰かがやっているから大丈夫。」、とかそんな非行を働くガキと同じ考えじゃない。「防衛本能」やら「勝利への渇望」それで動いている。」
「それでも・・・」
「ルールなど、あるようで無いものだ。世界共通全ての人間が同じ言語を話せるか?」
全くその通りだ。
英語が事実上「全ての国で通じる」などと言われていたが全ての人間が話せる訳ではない。
「一部」「半数」「そもそも使用しない国」、幾つもある。
「ルールを奴等の頭に覚えさせたいならば、さっさと完成させるぞ。俺達が統べれば、ルールを通す事だって出来る。違うか?」
「そう・・・ですね。勝って争いを根絶すれば、きっと・・・」
「・・・信じるぞ。まずは目の前で介入しては荒らしまわっている箱舟を沈めるためにコイツを完成させよう。」
会議室では上層部での話し合いが続いていた。
「どう作戦を進めるか。」それだけの為に。
「のう、シャイナ准将」
「何ですか、平内少佐」
「・・・水上歩行用兵装「水蜘蛛」を使うのはどうだね?」
「・・・あれは2機分しかありません。流石に水上包囲網を引くのに2機では・・・」
「何を言っている?砲塔が動かない戦艦、牙と爪を抜かれた獅子を恐れる必要があるか?」
得意気に無精髭を弄りながら話す銀輔。
策があるのだろうか。
「では、何をするのですか?」
「何、簡単な話だ。箱舟周囲を我等で囲ってしまえばいい。そして狙撃兵二人を水蜘蛛に乗せる。」
「・・・装甲を貫通できるほどの狙撃銃は存在しません。」
「・・・頭が固いですな、准将殿」
頭を軽く指差し、小馬鹿にする。
少し怒りを見せながらも、「言ってみなさい」という表情でシャイナは待つ。
「鯨を用いての強襲作戦ですぞ、上から3機を用意し、空挺、襲い掛かる。」
「ふむ・・・悪くないな。」
ニールが突然、口を開く。
「だが強襲してどうする?箱舟を破壊できるほどの武器は存在しない。」
「可能性があるものが無くは無いわね。」
タブレット端末を片手に、シャイナがそれを突きつける。
そこに映されていたのは「一角鯨の船首」。
鋭く尖った船首は、ニールの使っているデュラハンの肩に搭載されている「刺突式ミサイル」と同じ性質のようだ。
射出し、突き刺されば爆発を起こす。その兵器を巨大化させたものが、一角鯨には積載されていた。
「数センチでも突き刺されば雷管が降りて爆発を起こすわ。これで外郭を剥がしましょう。」
「・・・人道に反する戦い方をするというのかね、准将。」
「仕方が有りません、平内少佐。我々は子供の喧嘩をしている訳ではないのです。」
「外郭を剥がした後、その内部へと3機で入り、荒らしつくす、という訳だな。」
「その通りです。一角の貫通、爆発力で外郭どころか箱舟を破壊できる可能性も有ります。」
「・・・ふむ?」
「一角は発射されてから着弾後、数センチ、先端部が突き刺されば起爆します。その爆発力はウラン・水素などと同等、それ以上。」
過去の兵器ではあるが、危険な元素を使用した兵器の名前を次々と挙げていくシャイナ。
その挙げられた兵器全てと同等、もしくはそれ以上の力を持つ爆弾。
それを一発だけ搭載している一角鯨。
「一発だけ」。それを除けば作戦は大分楽になるだろう。
「各員、作戦を再度確認します。まず一角鯨のミサイルにて外郭を剥がした後、そこへと一角鯨から3機で襲撃。箱舟を叩きます。それに乗じ、各部隊は通常空挺を行います」
「・・・重要な狙撃は誰がやる?」
腕を組んだまま、そう問いかけるニール。
表情はとても強張っている。
「・・・水蜘蛛を使い狙撃する、という事は相当な機体・反動操作能力が必要とされる。」
水蜘蛛。前の大戦で使われたという水上歩行用兵装だ。
脚部に小型艦船を改造した「ぞうり」のような物を装備し、その艦船に搭載されていたスクリュー、エンジンを使い、水上を「滑る」。
安定性など「無いも同然」だ。
機兵用とはいえ、流石に小さすぎる。
「倉敷大河上等兵、霧島怜奈一等兵に任せましょう。」
「・・・ほう?若造に任せるのか?」
「倉敷上等兵は元から狙撃を得意としています。霧島一等兵は狙撃は出来ずとも、その観測手を。」
「観測手ならば別の人間でも良いのではないか?」
「彼女の戦闘履歴を見た限りでは、敵との交戦距離を把握する能力に長けているように見えます。」
以前の迫撃砲での支援履歴を開き、銀輔とニールへと見せる。
着弾誤差約1m。対機兵であれば1cm程度の誤差だ。
「ふむ、これならば良い結果が期待できるだろう。」
「では各員、部下への指示、機体整備を!40分後、状況を開始!」
作戦会議後、一角鯨前。
既に忠司の群雲と、ニールのデュラハンを収容し、あと一機を待つ。
シャイナとニール、そして忠司が作戦を確認していた。
「・・・そんな・・・」
「悪いけれど、「相手に被害を与える」、これは戦争のやり方として、基本中の基本よ」
「それでも、相手は機兵に乗ってなかったり、戦争を嫌がっている人も・・・」
「忠司、君は戦争は好きか?」
「嫌いです。」
「・・・ならば何故戦地に赴く?何故機兵に乗る?」
「国を・・・守りたいから・・・」
俯き、自分の発言を思い返す。
そんな忠司の肩をニールが軽く叩く。
「人間というのは衝突し、失い、理解、収束する。今、君は理解が出来た。ならば相手が理解をする番だ。」
「貴方も戦歴は短いだろうけれど、仲間の死には直面しているでしょう?・・・失わなければ、得られない物もあるのよ。」
「・・・それが、理解・・・」
「そう、俺はよく考える。「真の平和というのは「多大な犠牲を出し全域を征服し、統治する」事ではなく、「両者犠牲が出て、争いの愚かさを知り、両者が理解し合う事」ではないか、と。」
隣のシャイナも頷き、忠司の頭を撫でる。
「私やニール少将のようになれば、きっと分かるわよ。嫌でも歳を取って、経験をして・・・まぁその頃にはきっと、平和なんでしょうけど。」
「・・・シャイナ准将、それを貴方が言うか。いつも歳を言えば・・・ぐっ・・・」
シャイナの回し蹴りがニールのわき腹へと命中する。
屈強な肉体のニールが腹を押さえながら、膝をついている。
「女性に年齢の話題を振るのは・・・」
「・・・あ、貴方が振ったのだろう・・・」
「と、とにかく!作戦を無事遂行し、箱舟の奴等に目にもの見せてやって理解させてやりましょう!」
「は、はい!」
同時刻、監視塔。
霧島怜治と三浦飛鳥が滑走路を見ながら、煙草を吸っていた。
「・・・支給品とはいえ、まぁ・・・悪くねーよなぁ、これ。」
「最期の一服、って所か。」
「やめろよ霧島伍長。縁起が悪ィ。俺は死にたくねーよ。」
「・・・ははは、違ェ無ェ。」
苦笑をする二人。
1本、また1本と煙草が減っていく。
「俺は最近思うんだよ、霧島伍長。「皇」は正しいのか?って」
肩を組み、耳元で小声で囁く。
「皇」。この新日本軍だけではなく、今の新日本、連合、全てを束ねている人物だ。
最近では姿を見なくなった、という噂をよく聞く。
「・・・癪だがアンタと同意見だ、幾らなんでも犠牲が高すぎる。本部の奴等はアメ公とガチンコやらされてんだろ?」
「らしいな、俺は「それが皇の意見なのか」ってのが気になるんだわ。で、俺は思うわけだ。「上層部なら「ノルニルに逃げる」事が出来る。」ってな。」
「・・・ノルニル・・・に逃げる?」
「ああ、ノルニル(あいつら)は国の上層部であればホイホイ入れてくれるらしい。どうやって入ってるかは不明だけどな。」
不落、そして接触不能、そんな要塞に入る方法があるのだろうか?
その疑問と、「皇」の行方を考える二人。
だったが・・・考える事をやめ、最後の1本の煙草を吸うと同時に、立ち上がり、怜治が口を開く。
「ま、俺たちはやるしかねーだろ?」
「だよな。皇の命令ではなく、俺たちの上司のやり方で。」
「一発箱舟陣営に花火をくれてやろうじゃねえか!」
「ああ!」
同時刻、射撃演習場。
薄緑と群雲が並び、射撃演習をしている。
尤も群雲は観測用スコープを使い、着弾位置を指示している。
武装も完全に支援型へと変更し、背部にはサブマシンガンをマウントしている。
「右1m。」
「はい!」
「・・・うん、上出来!」
「でも作戦時はもっと重い反動の銃を使うんですよね・・・」
「確か・・・「対機兵高貫通ライフル」・・・だったかな?を使うんじゃない?」
群雲で指を差す。
そこにはその「対機兵高貫通ライフル」が置かれていた。
ボルトアクション式、弾数は6発、持ち込む予備マガジンは2本。
かなりの重さで、その程度しか持ち歩けないらしい。
「一撃の火力に重点を置いた狙撃銃・・・」
「大河君、左10m。的から大幅にズレてるよ。」
「わわわ!すみません!緊張しちゃって・・・」
見事に正面の的ではなく、左側の的を削っていた。
操縦者だけではなく、機兵の手も震えている。
「私達はやるだけやる。それでいいじゃん。」
「そう・・・ですね。」
「地上の掃滅は忠司や兄さん、リアちゃんがやってくれる。だから安心して、落ち着いて。」
「・・・はい!」
また、同時刻ではあるが、アフリカ、着弾点。
空を検索者が舞いながら、カメラで廃墟を映している。
その中をカルドの乗ったファフニールが闊歩する。
走る事も無く、ゆっくり、ゆっくりと。
検索者はファフニールなど気にせず、周囲のEEnを測っているようだ。
勿論、カルドも検索者など気にしていない。
(・・・俺達のやっていることは正しいのか・・・?強引に介入し、感状と敵兵を殺し・・・漁夫の利で世界を得ようとする・・・)
落ちている検索者の残骸を見つける。
「回収するように」と言われていたが、箱舟のほうへと軽く蹴る。
そして、歩き続ける。
本来の「カタパルトの回収」を忘れているような足取りで。
(俺は・・・逃げていたのかもしれない。怖かったのかもしれない。この機械に「最適化された」と思い込んで、逃げて・・・)
カルドは自分の行ってきた、戦いを思い出す。
ドイツ軍に所属していた頃。純粋に軍に従い、戦い続けてきた頃。
ある日、上官に声を掛けられ、箱舟へと寝返る事を提案された時。
そして箱舟の一員として各地の戦場へと介入し、敵兵を殺し続け、無心になっていた事。
結局、「戦い」と「自分」とは何なのか、それを考えながら、歩いている今。
ふと頭に過ぎる、守りたかった物。
「たった一人の家族」
居場所を守る為に軍人になったこと。
しかし今は違う。守っていた居場所と妹を忘れ、疑問だらけの戦いに身を投げている。
相手の居場所を奪い、居場所を得る。そのやり方への疑問を抱き始める。
(今更、引き返せる訳も無い。か・・・リア・・・ユウ・・・ヴェル・・・シャイナ上官)
過去関わってきた人間の顔と名前を思い出す。
唯一の家族、リア。
親友であったユウとヴェル。
自分とリアを守る術を与えてくれたシャイナ。
今では裏切り、捨ててきた全てだ。
(・・・アズラ、明、ティエ・・・俺は・・・俺達はどうすればいいと思う?俺には・・・分からないんだ)
今の陣営の仲間達の顔を思い出す。
その場でファフニールは腰を下ろす。
人間のような姿勢で、膝を抱え、座り。
(これ以上の争いは無意味・・・じゃないか?俺達は運命神達に玩ばれ、この「地球という卓上」で運命神達の「チェスの駒」にされているんじゃないか?)
「カルド、どうだ?カタパルトは見つかったかね?」
「っ・・・まだ、探しております。」
ゆっくりと立ち上がり、突然の艦長からの無線に答える。
「検索者はどうだね?」
「約5機が飛んでいます。熱波のEEn反応を見ているようです。」
「・・・そうか、残骸は?」
「・・・・・・ありません。たった今確認した限り、残骸は無く、飛んでいる5機の内を鹵獲・・・」
「するんじゃないぞ、まだ目を付けられる訳にはいかないからな。」
「了解。任務に戻ります。」
無線を切ると、また、歩き始める。
勿論、残骸が無い、などというのは大嘘だ。
先ほど蹴ったのが検索者の残骸だ。
(俺は・・・)
中央支部、作戦決行時刻
既に怜治や怜奈は準備が出来て、戦闘機への積載が終了している。
だがモノケロスは未だに発進しない。
何故なら「1機がまだ来ない」から。
「・・・来ませんね。誰なんですか?」
「・・・ユウだ。」
「えぇっ!?」
普段機兵を操縦しないような人間が乗る、という反応に驚き、後ろに倒れる。
すると、その倒れた忠司を、巨大な手が支える。
銀色の掌。それを伝って見ていくと、群雲・・・ではない。。
白と赤に塗られた群雲のように見えるが、よく見れば中央へ初めて来た時に見た「宗近」だ。
右手には「九剣白面」を装備し、まるで腕のようになっている。
他に群雲と変わっているのは腰に長銃と軍刀を装備している事。
「待たせたな。」
「・・・ユウ、少佐・・・!?」
「・・・見ろ忠司、これが零を骨格に作り上げた、俺の・・・いや、俺達連合の「宗近」だ!」
宗近を収容すると、飛び降り、発進時刻待ちの間、会話をする。
ニール、忠司、ユウ。三人は並び、各々の機兵を見る。
「あれ、ユウ少佐、酒呑火砲は?」
「・・・癪だが怜治伍長へ渡した。」
「大丈夫かな・・・」
「・・・ヤツに「祭」を任せる。大荒れになる「祭」を、だ。俺がやれば恐らく・・・」
「箱舟の中へと撃ちこみ、無駄どころではない被害を与えてしまう、だな?」
俯き、うなずくユウ。
珍しい表情だ。
「あの武器は箱に閉じ込められた人間へ向けるものじゃ、ない。機兵の大群を無力化するものだ。」
「・・・強がるんだな、ユウ。」
「・・・そうでもなければ、機兵に乗ろうなどと考えるものか。」
ニールに肩を叩かれ、背筋を伸ばす。
何かを懐かしそうに、ユウは眺める。
「・・・忠司、ヴェル・・・俺・・・か。」
「その名で呼ばれるのは懐かしいな。」
「・・・フ、フン・・・。で、どうだ。忠司。宗近は。」
「凄い・・・すごいけれど、紅白の色で目立ったり・・・」
「バカめ、純血の日本人であるのに紅白がどういった色か、分かるだろう?」
紅白。
日本に昔から伝わる「祝い事」に使われる色だ。
もしくは対抗するものを表す2色。
だが、その2色は旗や結び、餅などで大体隣り合わせか合わさっている事が多い。
「・・・この機体の完成は俺達にとっての「祝い」であり、そして、赤と白、「今まで敵対してきた陣営達」との理解への対話を目指す。その志だ」
「・・・ふっ・・・」
「ぷぷ・・・」
「な、何がおかしいんだ!」
「だ、だって!ユウ少佐がそういう事を言うとは、ねえ!ニールさん!」
「その通りだ・・・ははは!変わったな!」
顔を赤面させながら、ユウはさっさとハッチへと入ってしまう。
そして大声を挙げる。
「貴様等!さっさと乗れ!武器・作戦の確認は大丈夫だろうな!?」
「はいはーい。」
「万端だ。」
声を荒げるユウに対し、ニールと忠司は歩きながらハッチへと入る。
一角鯨は低いエンジン音を響かせる。
(・・・「一つの陣営との戦い」を終わらせる為の「戦い」・・・躊躇ってなんていられない。これを終わらせれば、また、一歩近づくんだ!)
(・・・機兵のコックピット、久しぶりだな。さぁ「ルールの無い戦いに終止符を打つ」だけじゃない。「戦いのルール」も「戦い」も俺が、俺たちが消し去る「第一歩の戦い」だ。)
(何時に無く、快い出撃だ。頼むぞ、二人共。)
翼を広げ、降着装置の車輪で滑走路を走る一角鯨。
軋むような音が響き渡る。
まるでその音は「クジラの鳴声」のようだった。




