Depths13~死神と首無し騎士-Thanatos-~
箱舟へ奇襲を掛ける為、空を駆ける一角鯨
その一角鯨に逆に奇襲を仕掛ける者が・・・
首無し騎士はその奇襲を仕掛ける者を迎撃する為、出撃する。
箱舟、ドッグ。
茶髪の青年が黒い「布切れ」に包まれた機体から降りてくる。
頭部は鋭く、人間で言う口の辺りに「牙を見せて笑っているようなペイント」を施している黒い機兵だ。
コックピットは箱舟の主要者達が使っている「ヘルメット」が無く、普通の操縦桿だ。
それに乗っていた青年は黒い外套に鎖のような首飾りを揺らし、ポケットからタバコを取り出す。
「・・・イェンスか。」
「今戻ってきたぜ、艦長さんよ。」
タバコの煙を吐き出し、機体の不気味な笑みと同じような笑みを浮かべる「イェンス」と呼ばれた青年。
艦長は不快そうな顔をしてから、溜息を吐く。
「いい加減君はその格好をやめたらどうだ?機兵の布切れもそうだ。」
「・・・あぁ?「自由」にやりたいようにやらせろ。それが俺との契約だろ?」
「・・・ティエに嫌われるぞ。」
「そいつは困ったな、おい!そこら辺の奴等!俺の機兵から布切れ取っ払っておけ!」
すぐ様布切れを外すほかの兵士達。
その布切れの中から出てきたのは「全身が黒く、背中に巨大な薙刀のような武器を背負い、腰部辺りからブースターが2機取り付けられた機兵」
「辺りの偵察はどうだった?」
「・・・そうだな、「妙なエンジン音」が聞こえた。それだけかな。沢山の死の音、それだ。」
「・・・まだ死神気取りか。」
「おいおい?今からカルドの戦ってる辺りで検索者をぶっ壊して場所を教えちまってもいいんだぜ。」
「・・・だからティエに・・・」
「・・・・・・それは困るって、冗談だ。」
そんなやり取りをしていると、一人の兵士が走り寄ってくる。
表情は焦っているようだった。
「艦長!!此方に向かって急接近を行う戦闘機群が!!」
「イェンス、君はやはり死神のようだ。」
「・・・だろ?」
「どっちに「天秤は傾く」と思う?」
「・・・さぁな?」
「尚一番後ろの一機は大きく、箱舟より一回り小さいタイプの空中母艦かと!」
壁に寄りかかり、考える艦長。
それを見てどこかへ行くイェンス。
嫌な予感がしたのだろう。
「噂の「クジラ」か・・・やはりEEnを逃しはしないか。」
「数時間後にはこのままでは完全に包囲されます!!」
「・・・排熱まで後少しだという所を・・・!」
壁を殴り、唇を噛む。
一旦軍帽を被りなおし、冷静さを取り戻す艦長。
「・・・そうだな。ティエを呼んで来い。」
「・・・居るけど?」
「・・・ティエ、君に任務を出そう。」
「なになに!?また粉々にしていいの!?」
純粋で、幼い笑顔だが、その言動は残酷そのものだ。
深く頷く艦長。
すぐに機兵に乗ろうとするティエの肩を叩きとめる。
「その前に、もう1つだ。」
「えー・・・」
「・・・イェンスを呼んで来てくれ。」
「ん・・・分かった。」
言われたとおり、イェンスを引っ張って来るティエ。
満更でもない表情のイェンスがゆっくりと歩いてくる。
「で、どうした艦長。」
「・・・君に任務だ。」
「おいおい、冗談はよせ、さっき行って来たばかりだろ?」
「・・・冗談ではない。とても重要な、君にしか出来ない事だ。」
「嫌だね。俺は休む。」
「・・・そういう事かー、そっかそっか・・・」
うんうん、と頷くティエ。
艦長に目を移すと、艦長は溜息を吐きながら、頷き返す。
すると、ティエはイェンスの足元へとしがみ付く。
「イェンス兄さんお仕事しようよー」
「・・・兄さっ・・・ククク・・・クク・・・そうだな!」
「お仕事してる兄さんカッコイイと思うなー!」
「そうか、カッコいいか・・・」
「という訳で、艦長、兄さんにお仕事あげてね」
周囲一帯が溜息を吐いた後、艦長は切り出す。
表情はとても呆れている。
ティエはイェンスに撫でられながら、足元にしがみ付いていた。
「・・・試作型カタパルト、それは知っているね?君も。」
「あー・・・あの箱舟左右に取り付けられた空中強襲装置だっけか?」
「その通り、あれを使って、君の死神としての仕事だ。君が見つけたあの「死に損ない」共を葬ってやれ。」
「飛んで上から叩き落せ、ってか?」
「ああ、君の機体の背部の緊急ブースターを使い、あの巨大な船を落としたら戻ってきてくれ。」
「おいおい、冗談じゃねえぞ!?第一「臨時動力」でカタパルトを使って相当な距離を飛べるのかよ!?」
「君が思っているより、カタパルトは凄いぞ。EEnや電力を使わず、弾丸と同じ様に、機兵を撃ち出すからな。・・・それとも、飛ぶのが怖いのかね?」
「・・・あ?・・・やってやろうじゃねえか。」
煽り文句に反応し、機体に乗り、リフトで移動するイェンス。
イェンスが去った後、周囲がまた溜息だ。
「・・・ありがとう、ティエ。君が彼を呼ばなければ彼は来ないからな・・・」
「・・・そうだねー、ろりこん?っていうんだっけ、ああいうの」
「その通り・・・だな。それに、厨ニ病という物も煩っている。非常に面倒なタイプだ。」
「・・・しかし、彼の戦闘力はかなりの物、ですよね。」
無言で頷く艦長、動いて上がっていくリフトを見ながら、左腕で敬礼をする。
「ああ、彼の操縦技術と機兵「死神」は一機で小隊を潰すレベルだ。ティエやアズラと同等、だ」
「へー・・・イェンスさんって凄いんだ。」
「一応イギリス軍に所属していた頃は「彼と組めば死ぬ事はまず無い」などと呼ばれていたらしい。」
「それにあの機兵はフルチューンですからね。」
工兵がデータをタブレットに映し、それを手渡す。
ベースはオラトリオだが、ほぼ全て改造し、原型など無い。
鋭く尖った指先、コウモリの翼のような肩部。
コックピット辺りも鋭く尖り、対光線兵器用の装甲が試験的に使われている。
脚部には大量のブースター、移動速度はかなりのものだ。
武器のデータは薙刀と大鎌を一体化させ、状況によって変形させる事が出来る武器「デスサイス」
腕部には衝撃発生間接をコピーしたような機構が搭載されていた。
「でさー・・・私は何すればいいのかな・・・」
「そうだな、まだ出撃はしなくていい。あくまで、「保険」を頼む。乗って待機していてくれ。」
一角鯨、船首部。
強襲部隊は映像通信で会話をしていた。
「大幅に改良されたデュラハン、早く試してみたいものだ。」
「・・・ニール、お前のデュラハンにはパイルバンカーを2つ搭載させてもらった。それと脚部の強化。それは分かるな?」
「・・・両腕の杭打ち機の爆薬は「アレ」だろう?その為の脚部だな。」
「ああ、それに特殊だ。」
「・・・アレ?」
疑問符を頭に浮かべる忠司。
「超強力な爆薬、とでも君には伝えよう。」
「いつもの槍はあるんですよね?」
「ああ、勿論だ。図体は幾分かデカくなってしまったが、格闘戦なら負ける気がしない改造だ。」
デュラハンは大幅に改修されていた。
ただでさえ巨体であったオラトリオ型の胴体にさらに装甲を盛る。
他の機兵の部分であった所にも装甲、さらに両腕にはパイルバンカーだ。
強襲用、とはとても思えない武装編成ではあるが、壁にはなるだろう。
「俺の群雲はどうなってるんです?」
「忠司、お前の群雲は限りなく「零を組み込む前の宗近に近い」性能にまで引き上げた。」
「・・・と、言うと?」
「格装甲の強化、突撃銃を両手で扱えるまでの反動制御能力。そして「衝撃発生間接」の強化。」
「確かに今まで両手にライフルを持つとかなり反動でブレてましたね・・・」
通常の機兵で両手にライフルを構える事など殆ど無い。
何故ならそのライフルも「対機兵」で作られていて、反動がとんでもない事になっているから。
狙ったところに撃つ為、真っ直ぐに腕を突き出して撃てば腕に負担が掛かり、さらに精度が悪くなる。
「間接の強化、って事はこの刀はその為、ですか?」
「そうだ、あの薄緑との演習で行ったEEnの刃を作り出す事が出来る様、様々な改造を施し、中距離・近距離戦闘に特化させた。」
「ほう、耐反動型・・・という訳か・・・っ!?」
会話をしている最中、船体が上下に揺れる。
風も無く、揺れるはずなど無いのだが、揺れる。
「何だ!?」
「・・・一回一回、間隔を空けて揺れている・・・!?准尉!」
「ちょっと面倒な事に・・・いいえ、かなり面倒な事が起きてます。」
「何が起きている!」
ニールは声を挙げ、シャイナへと問いかける。
「本来ならば甲板である部分、船の上部に何かが・・・!」
「上に出る術はありませんか?」
「リフトを使えば出れますが、落下すれば機兵ごとお陀仏です。」
「振り下とす事は出来ませんか?准尉。振り落としてしまえば終わりだ。」
「よく考えてください、ユウ少佐?・・・この一角鯨には機兵を3機、さらにEEn、パイルバンカーの爆薬、様々な物が入っています」
ムリな動きをし、機兵が倒れる、または船体が傾く、などという事が起きれば危険だ。
爆発物だけではなく、発火物、様々な危険物を積んでいる。
作戦遂行どころではなくなってしまう。
「・・・上部にカメラは?」
「今映しま・・・機兵!?」
黒い機兵が大鎌を振り下ろし、一角鯨を落とそうと何度も刃を叩きつけていた。
箱舟陣営の死神だ。
一度目の大きな揺れはカタパルトで跳んだ後の着地。
そしてその後の間隔的な揺れは鎌を叩きつけられている揺れ。
「・・・俺が出よう。この首無し騎士の力を試したくて仕方が無くてな。」
「ちょっ・・・ニールさん!?そのパイルバンカー・・・」
「大丈夫だ、少し特殊な仕組みもある。暴発はさせん。それにこの上で爆発もさせないさ。」
「・・・リフトを上げる前にまず、全耐熱シャッターを閉めます。熱波の危険がありますから。」
シャイナがボタンを押し、船内のドア各部にシャッターを下ろす。
外部からの熱波を人間が直接浴びればどうなるか分かった事ではない。
全てのドアにシャッターが下りた後、ニールのデュラハンが立っていた鉄板が上へと上がる。
天井が上へと開き、船体上部へと出るデュラハン。
機兵を壁へと拘束していた拘束具が外れる。
「ハァッ!!!」
拘束が外れた瞬間だった。
デュラハンは両腕のパイルバンカーを突き出し、タナトスへと突きつける。
しかし、タナトスは手でそれを掴む。
乗っていたイェンスはニールへと映像無線を繋ぐ。
「久しぶりだなァ・・・ニール隊長さんよォ!!」
「ぐっ・・・」
鎌の刃を上へと上げ、薙刀の形状へと変化させて、柄で殴って距離を置く。
更に追撃を加えるが如く、脚部のブースターから火を噴き、鋭い指先で装甲を引き裂こうとする。
「悪いが、その程度の攻撃は効かんぞ?「イェンス・ティーロ」一等兵。」
「ならコイツでどうだよォ!」
後ろへと下がると、ブースターを再度点火し、薙刀で突く。
同時にニールのデュラハンも腰から槍を抜き、槍のブースターを点火させ、衝突する。
「EEnの刃だと・・・?」
「ククク、これが俺の力だ・・・砕けろ!」
ニールの片手に持っていた槍にヒビが入ったのを確認する。
そして、横へと薙刀を振る。
木っ端微塵に砕ける槍の先端、まだ1本残っているとはいえ、効かない事が分かれば、使えない。
「・・・ふぅむ。」
「いつまでその冷静な顔が保つかなァ!」
「悪いが君の動きが良くなるまで、だ。」
「あぁ?」
「ふん!」
左腕のパイルバンカーを強引に撃ちつける。
爆発、とまではいかないが、煙が上がる。
・・・しかし、「当たった感覚」が無い。
「俺の機体が尖ってる理由は分かるか?」
「・・・なるほど、「直撃を避ける為」か。」
胴体が平らならばその分、攻撃を受ける面が多い。
だが、尖っていればどうだろうか。
中途半端な攻撃であれば、横へずれ、最悪の場合脇辺りをすり抜け、攻撃を外す。
「ご名答!」
斬撃を受けるデュラハン。
表面の装甲が少し、削ぎ落とされ、灰色の内部装甲が見えている。
この様にすり抜けた場合、至近距離ならばカウンターは避けられない。
「落っこちろよ!」
「その程度・・・っ。」
蹴りを入れ、船体の端近くまで突き飛ばす。
何とか、機体の重量で耐えるが、すぐ前まで鎌へと薙刀を変形させ、目の前まで迫ってきているタナトス。
「そんな物が、効くかァ!」
「何だ!?」
両手の掌から青い壁を作り出し、鎌を防ぐ。
そして壁が消えた後、蹴り返し、逆に船首辺りまで突き飛ばす。
「EEnシールドユニット。相手のEEn武装の変換周波に同調させ、一度だけ、相殺する。」
「ならもう使えねーんだろ!?じゃあ意味が無・・・」
「一度使えれば十分だ。」
「何を言ってんだテメェは!!」
すり抜ける、デュラハン。
背後にはタナトスだ。
すれ違ったのだ。
そのすれ違い様に右腕に鎌を受けたが・・・
「・・・どこまでも愚かだったな。「死神」。」
「・・・は・・・?俺は・・・右腕を叩き斬った・・・はずだ。」
EEnの斬撃痕を中心に、右腕の装甲が砕け散る。
その中から現れたのは「改造前のデュラハンの腕」。
ニールは右腕を思い切り前へと突き出し、パイルバンカーを投げ捨てる。
「・・・バランスが偏るな。だが・・・今ので君の負けは確定したぞ、死神。」
「俺が・・・負ける・・・?俺が死ぬ・・・?」
「そうだ。「イギリス軍機兵特殊強襲隊の死神」。イェンス・ティーロ。」
「・・・オイオイ・・・死神を前に・・・何言ってんだテメェはよォ!!」
鎌を無茶苦茶に振り回し、デュラハンの首を落とす。
だがデュラハンの首は完全に囮だ。
斬り落とした事を確認すると更に脚部へと攻撃を仕掛ける。
脚部の装甲も剥げ、元のデュラハンの装甲が見える。
「死ね!テメェは・・・テメェだけはぶっ殺す!!この俺が直々になァ!」
「相変わらず気性の荒い男だ。」
無茶苦茶な斬撃の中、左腕のパイルバンカーを、タナトスの脚部へと突き刺す。
そして、弾装部を一回転させ、引き金を引く準備をする。
「・・・いいか?今君の機体には、「陽子式徹甲弾」が取り付けられている。」
「・・・テメェ・・・いつやりやがった。」
「さっき君の後ろに立っただろう?あの時、右腕のパイルバンカーの8つのシリンダーに入っていた8つ、全てを撃ち出した。」
右腕に取り付けられていたのはパイルバンカーではない。
火薬で爆発を起こさず、ただ単に杭を打ちつけるだけの「打撃武装」。
正しくは、遠隔爆発式徹甲榴弾射出機だ。
それを瞬間的に撃ち込み、動きを制限していた。
「・・・両手にはイギリス軍正式採用機「ターロス」と同じ、「小型電磁砲」が付いている。さぁ、どう動く。」
「ククク・・・クハハハハハ!バッカだなぁ、アンタ!」
「・・・ふむ?」
「俺に爆弾を打ち込んだだろ?・・・じゃあ、ここで電磁砲を撃ってみろ、この船はどうなる?」
「恐らく、粉微塵では済まんだろうな。」
その通り。
小さくとも、「陽子」を利用した弾頭8発だ。
木っ端微塵どころか塵も残らないだろう。
「それによォ?こんなに動くのにッ!刺さってる訳がねえだろうが!」
「・・・ほう?」
鎌の柄を掴み、へし折る。
「・・・なっ・・・なんで・・・折れるんだ・・・!?」
「乱暴に扱いすぎだ。武器は丁寧に扱え。俺はいつも口癖のように軍に居た時に言っていたはずだが・・・」
「忘れたな!そんな事!」
「その程度の打撃・・・ッ!?」
右腕から放たれるストレート。
それを受け止めようとしたが、何かに弾き飛ばされ、落下し掛ける。
槍をすぐ様抜き、ブースターに点火したお陰で助かったが、槍を1本残していなければ落下していただろう。
「まさか・・・今の武装・・・!?」
「あぁ。テメー等「新日本軍(JAP)」のお友達が使ってる・・・「衝撃発生間接」と同じ、いや・・・俺が作ったんだ、それ以上の武器だ。」
「どこでその技術を・・・」
「俺が裏切った時を思い出してみろ。それが何時ごろか・・・」
「・・・しかし、君は・・・強襲部隊では」
「強襲部隊が強襲しか出来ないと思うんじゃねえ、機兵の整備・改造くらい誰でも出来る。あばよ・・・隊長。」
目の前まで歩いて近づき、右腕を引く。
その瞬間。
頭部を思い切り槍が貫く。
これでカメラを1基破壊した。
すぐに引き抜き、次は脚部のブースター。
そして柄で殴り、少し距離を置くと、パイルバンカーを思い切り、後ろへと引く。
「チィッ!?前が見えねえ!?」
「死神気取り、いや、神気取りか。人間は神にはなれん。だから、死ぬだろう。」
「ふざけんな!死神が・・・死神が殺されるはずねえだろうがよォ!!!!」
衝撃発生間接の右ストレートと、パイルバンカーの衝突。
完全に勝ちを確信し、口元を笑わせるイェンスだったが、その瞬間だった。
パイルバンカーにより、右腕を弾かれ、胴体を貫かれる。
「がはっ・・・」
コックピットに突き刺さる先端。
強い衝撃によって吐血するイェンス。
腹部を押さえながら、笑みを浮かべる。
「・・・ク・・・ククク・・・死ぬ?死ぬのか?俺は・・・いや死なねえさ・・・テメェ等を殺すまで・・・」
「そうか。ならば・・・」
「おっと待て、このまま炸裂させたらどうなる・・・?俺の機体が爆発するんだろ?」
「戦場では、2手、3手先を見て動け。」
「なっ・・・!?ふざける・・・なよ・・・!」
貫いた状態で、左腕を思い切り横へと降るデュラハン。
遠心力によって、一角鯨の後部へと振り落とされるタナトス。
必死の抵抗でブースターを起動させ、宙に浮く。
「死ぬならテメェ等も・・・一緒だ!!」
「悪いが、死ぬ気は無いんでな。」
ブースターを点火させた槍をタナトスへと投げつける。
当然、下へとどんどん落ちていくタナトス。
「・・・人間は神を気取ったり、神になろうとしてはいけない。神に成り代わろうとした瞬間、奴等と同じだ。」
そう一言告げると、リフトへと乗り、再度一角鯨のドッグへと戻る。
段々と落下していくタナトス。
海へと落ちる事は既に分かっていた。
「・・・ククク・・・終わり・・・か・・・あぁ・・・ティエ・・・ダサい死に様だろ・・・?」
宙で大爆発を起こすタナトス。
槍の先端が弾頭へと触れたようで、連鎖爆発を起こす。
巨大な煙を上げたまま、海の中へと落ちていく。
煙のせいで何も見えない、が。
機体が残っているか、イェンスが生きているか、それは、完全に分かりきっていた。
爆発に直に巻き込まれたのだ。確実に、海の藻屑だろう。
「任務完了だ。徹甲弾発射杭打機を廃棄、EEnシールドを使用、槍を全廃棄だ。」
「使いすぎじゃないかしら・・・」
「不測の事態だった、仕方なかろう。」
真顔で話すニール。
冷や汗をかきながら、使用した武装をメモしていくシャイナ。
そして溜息を吐く、かつての部下を殺した事に対しての、自責。
「・・・どこかで道を誤っていなければ、彼はすばらしい兵士であっただろう・・・」
「どうかしたのですか、少尉。」
「・・・殺しに愉しみを覚えてしまった男とはいえ、かつての部下を殺めてしまった、自責だ。」
「かつての部下?」
「・・・そう。「イェンス・ティーロ」という男だ。元イギリス軍、俺の下で動いていた部隊の一員だった。とても強く、常に勝ちを考えていた、俺と同じような考えの男だ。」
イェンス・ティーロ。「英国の死神」と呼ばれ、畏れられていた男。
その呼ばれ方からか、いつしか「自分が死神である」という錯覚を抱き始めた。
その錯覚に酔い、目に映る全てを殺し続けた。「死を告げる」はずの死神自らが「手を下す」という事態。
ある日部隊内でも畏れる者が現れた。そして彼を「死神」として崇める者達も同時に。
崇める者達は「彼と組めば死ぬ事はない」「任務成功率は100%」と考える。
畏れる者は「早いところ討たねば我等が危ない」「軍から追放するべきだ」などと考え始めた。
ある日の任務だった、彼と崇める者達が任務を終えた時、彼は「崇める者達」を殺し尽くした。「贄」として。
彼は、軍を裏切り、「箱舟」へと着いた。
そして今、「箱舟」へと着いた彼を、元上司であったニールが殺した。
これがイェンス・ティーロの軍役であり、最期だ。
「・・・人は神にはなれない、皆、それだけは覚えておいてくれ。」
「分かっています。・・・なれると思い込んでしまえば「ノルニル(奴等)」と同じですよね。」
「フン・・・俺のように天才になる事は出来る。だが、俺でも神にはなれん。」
「・・・増してや、殺しの限りを尽くして死神になろう、などと考える事はするな。連合少将として、俺から君達への、命令だ。」
映像通信していた全員が敬礼をすると、ニールは頷く。
全員が敬礼を崩すと、ユウが口を開く。
「・・・いいか?俺達の任務はただ一つだ、箱舟を消す。いいな?」
「当然です。」
「たとえそれが囮であれ、ヤツを残しておく事はこの世の「再生」ではなく「破滅」だ。あと一発でも撃たせれば、終わりだ。」
その通りだ。
一撃で周辺をクレーターレベルまで破壊する砲台。
そんなものを持たせ続けていると、地球は月のようにクレーターだらけになる。
更に熱波砲だとするならば、海は枯れ、大地は焼け、人は消える事になるだろう。
仮にそうなったとしても、ノルニルに居る者だけが生きる世界になってしまう。
あの「空中都市」がどうなっているかは誰も知らないが。
「・・・そろそろ作戦開始よ、発射準備をするから耐反動体勢を取りなさい!」
「「「了解」」」




