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6.冒険者ギルド

 早朝の鳥のさえずりの中で、私は目を覚ました。


 私は寝室のベッドの上にいた。


 目の前には、ローズ様の安らかな寝顔がある。


 私たちは同じベッドで眠り、ほとんど互いに寄り添い合っていた。


 一本一本のまつ毛まで、はっきりと見ることができた。白い肌が、淡い桃色を帯びている。彼女の吐息、彼女の香気を、私はすべて感じ取ることができた。


 心が極めて穏やかであるのを感じる。


 まるでここが神殿であり、私が祭壇の前に跪いているかのようであった。


 どうか私を庇護し、安寧を与え給え。


 ◇◇◇


 冒険者ギルドに加入するには紹介者が必要である。ハンクさんが再び私たちに手を差し伸べて、紹介者を引き受け、推薦状を書いてくれた。


 こうしてこの日、私とローズ様は登録手続きを行うために、エグモの町の冒険者ギルド支部へと向かった。


 冒険者ギルドはこの町で最も壮大な建築物であり、まるでこの地の政府機関だ。もっとも、「公式の地図に載っていない町」であるエグモには、政府機関など存在しないのだが。


 これで問題はないのだろうかと、私は漠然とした不安を感じた。しかし、それを考えたところで意味のないことだ。私とローズ様は冒険者ギルドへと足を踏み入れた。


「ユーリさんとローズさんですね? 私はエリーナです。こちらへどうぞ」


 ハツラツとした若い女性が、冒険者ギルドを代表して私たちを迎えてくれた。彼女は色彩の鮮やかな制服を纏い、髪は短く、いかにも仕事ができそうな印象を受けた。


 彼女の後について応接室へと向かう間、私は彼女の耳の形が尖っていることに気づいた。そして、常人よりいくらか細身の身体つきであることにも。


 ハーフエルフだ。


 私の知るハーフエルフは、皆、耳を隠すために髪を長く伸ばしていた。


 エグモには、ハーフエルフの耳を引っ張る屑がいないのだろうか。それとも、冒険者ギルドの勢力が、彼女を守るのに十分なほど大きいということなのだろうか。


 ◇◇◇


 応接室に入り、私とローズ様が椅子に腰を下ろすと、エリーナさんは記入するための書類を取り出した。


「名前、年齢。あとは得意なこと。これによって斡旋する依頼が変わってきますから、真面目に書いてください」


 私とローズ様はペンを取り、それぞれの書類に記入していった。


 私は当然、「献身」のスキルを持っていることを書かなかった。ローズ様も、異形の姿を持っていることは書かなかった。


 私たちは腕の立つ剣士と魔法使いのコンビだ。ただ、それだけのことである。


「ユーリというのは、よくある名前ですね。ギルドには何百人ものユーリがいるかもしれません」


 エリーナさんは書類を指差した。名前のさらに上の位置に、もう一つ空欄がある。


「識別しやすくするために、名前の前に何か付け加えてみませんか? 出身地とか、あるいは二つ名などですね」


 騎士団にもユーリという名は複数おり、当時は出身地で区別していた。もしここでも出身地で区別すれば、私の身元が露見する危険性を高めてしまうのではないだろうか。


 私がためらっている間に、ローズ様が手を伸ばし、私の名前の上方に「魔王の騎士」と書き込んだ。


 魔王の騎士・ユーリ。


 事実と言えば事実なのだが、これは一体何の奇妙な二つ名なのだ。私はこのような名で呼ばれたくはない。


 ローズ様はニヤリと楽しそうに笑われた。


 報復として、私はローズ様の書類を引き寄せ、名前の上方に「魔王姫」と書き込んだ。


「えええええーーっ!」


 ローズ様は、驚きと不満の入り混じった声を上げられた。


「魔王や姫ならいざ知らず、魔王姫とはどういう意味じゃ!」


「魔王のように横暴な姫、という意味です」


「おかしいではないか、そんな名で呼ばれるのは嫌じゃぞ!」


「私も同じですよ」


 エリーナさんはコホンと咳払いをした。


「お二人が出身地を使いたくなくて、希望する二つ名もないのなら、好きな地名を適当に選んでも構いませんよ」


「ならば、アッシュブリタじゃ」


 ローズ様は「魔王の騎士」を線で消し、「アッシュブリタ」と書き込んだ。


「古代の地名で、今ではもう使われてはおらぬ。これならば、唯一無二のユーリとなるであろう?」


 アッシュブリタのユーリか。前のものよりは、はるかにましだ。


 ローズ様は自身の書類も書き直した。


 書類の記入を終えてから、エリーナさんは私たちに業務の流れや注意事項などの説明を始めた。


「ギルドの方であなた方の実力とこれまでの実績を評価し、適切な依頼を斡旋します。もし体調が優れないなど、依頼の難易度を下げる必要がある場合は、必ず申し出てください。依頼の失敗は危険なだけでなく、ギルドとあなた方自身の名声を傷つけることにもなりますから……」


 思いがけず、冒険者ギルドはまともな組織であると感じられた。所属する冒険者のことを、非常に親身になって気遣っているのだ。


「初心者は最初、清掃の依頼を受けるのが一般的です。目標をすべて駆除しきらなくても構いません、倒した魔物の数に応じて報酬が計算されます。達成すべき最終目標がないため、途中で撤退しても報酬が受け取れますから、無理をして事故を起こす者がいなくなります。それはまだ自分の実力が分からない初心者にとって、非常に重要なことなんです。


 ユーリさんとローズさんの場合はですね――ユーリさんはこの前ゴーレムを倒したことで、すでに実力を証明していますから、もう少し難易度の高い依頼を渡せます。


 それに、ハンクさんから聞きましたが、装備を整えるためのお金が必要なんですよね? ですから、前払い金が出る依頼が好ましいでしょう。


 お二人はあくまで初心者ですから、最初はベテランと組んで依頼に出るのが最善だと思います。


 こちらにいくつか候補となる依頼を用意しておきました。お二人の資料を見た限り、一番適しているのはこれだと思います」


 エリーナさんは書類の束を私たちに差し出した。私とローズ様はそれを受け取って、読み始めた。


 すると、驚くべき内容が目に入った。


「依頼人が、ゴブリンですか?」


「ゴブリンは、払いがいいんですよ」


 エリーナさんは大真面目な顔をした。


「この依頼、受けます」


 私もまた、大真面目な顔をした。


 ◇◇◇


 準備を整えた後、この日、私たちは一緒にパーティーを組む予定のベテランと待ち合わせるために、酒場へと行った。食事をしながら顔合わせをする予定だ。


 ここは冒険者ギルドの会員が好む酒場であり、店内は武器や魔法の杖を背負った冒険者たちで賑わっていた。皆が交わす雑談も、戦闘や魔物といった冒険に関わる話題で満ちている。


 私とローズ様は先に到着した。


 私は人目を引きたくなかったため、隅の席を選んだ。


 それから五分ほど経った頃、戦斧を背負った大柄な男が酒場に入ってきた。


 彼は入ってくるなり、大声で叫んだ。


「ユーリ! ユーリはいるか?」


 酒場にいた少なくとも五人のユーリが、彼の方へと振り向いた。


 あの男は、私たちと組む予定のベテランなのだろう。彼が探しているのは、私であるはずだ。


 私が声を上げるよりも早く、彼は再び大声で叫んだ。


「『魔王姫の騎士・ユーリ』はいるか?」


 私のアッシュブリタはどこへ行ったのだ?


 ◇◇◇


「目立ちすぎたか? 悪かったな。だってこっちの方が覚えやすいだろ? アッシュパルだか何だかは、どうにも舌が回らなくてよ」


「アッシュブリタです」


「アッシュパルカ」


「……もういいです」


「俺はジャック、こっちは相棒のアレックスだ」


「……よろしく」


 戦斧を背負った男は「颶風(ぐふう)」のジャック。


 彼の相棒のアレックスは弓使いで、ジャックよりかなり小柄だが、その筋肉はジャックに劣らず引き締まっている。ほとんど言葉を発しなかった。話すのはいつもジャックだ。


 二人はどちらもBランクの冒険者だ。冒険者社会においては中堅にあたる。


 ちなみに、まだ一つも依頼を達成していないため、私とローズ様は現在、初心者を代表するFランクだ。


「俺たちのパーティーにはもともと魔法使いがいたんだが、故郷に戻って幼馴染と結婚しちまってな。この依頼には魔法を使える奴が必要だから、臨時で組んだってわけだ。あ、店員さん! こっちに焼き肉四皿とビール四杯! 俺の奢りだ。遠慮なく食えよ。冒険者は肉をつけなきゃ始まらねえからな!」


「ありがとうございます、ジャックさん」


「そう堅苦しくするなよ。冒険者仲間は命を預け合う仲だ、気楽に話そうぜ! 俺はお前のことをユーリと呼ぶから、お前も俺のことをジャックと呼べばいい!」


「分かった、ジャック」


「ローズちゃんは何か食べたいものはあるか?」


「わらわはレモンタルトが食べたいぞ!」


「よし、店員さん! レモンタルトを追加だ!」


 いい人であるように感じられた。私は口いっぱいに焼き肉を詰め込み、咀嚼しながらそう思った。


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