第五話 配属先 研修編④
# 第五話 配属先 研修編④
研修最終日。
会議室には今までにない緊張感が漂っていた。
一週間続いた研修も今日で終わり。
そして今日は配属先発表の日だった。
神谷悠真(心の声):いよいよか……。
高橋陸:楽しみすぎて昨日寝れなかったぜ!
一ノ瀬美月:私は逆。怖くて寝れなかった。
神谷悠真:同じようなもんだろ。
高橋陸:全然違う!
俺は期待。
美月は不安。
一ノ瀬美月:うるさい。
少し笑いが起きる。
だが全員落ち着かない。
これから働く場所が決まるのだ。
当然だった。
やがて白石が教室へ入ってきた。
いつも通りの表情。
だが手には一枚の紙が握られていた。
神谷悠真(心の声):あれか。
白石恒一:おはようございます。
全員:おはようございます。
白石恒一:研修お疲れ様でした。
今日で皆さんは研修生ではなくなります。
来週から現場です。
空気が変わる。
白石恒一:ということで。
配属先を発表します。
一気に静かになる。
紙をめくる音だけが響いた。
白石恒一:一ノ瀬美月。
一ノ瀬美月:はい。
白石恒一:横浜支店。
店舗買取課。
一ノ瀬美月:えっ。
白石恒一:何だその反応。
一ノ瀬美月:いえ!
頑張ります!
少し安心したような表情だった。
白石恒一:高橋陸。
高橋陸:はい!
白石恒一:東京支店。
高橋陸:おっ!
白石恒一:出張買取課。
高橋陸:よっしゃ!!
思わず立ち上がる。
教室に笑いが起きる。
白石恒一:まだ終わってない。
座れ。
高橋陸:すみません!
だが顔は完全に笑っていた。
高橋陸:東京支店か……!
マジか……!
神谷悠真(心の声):東京支店。鷹野さんのいる支店。
正直、少し羨ましかった。
高橋陸:神谷。
神谷悠真:ん?
高橋陸:俺、絶対鷹野さん超えるわ!
神谷悠真:まだ会ってもないだろ。
高橋陸:だからこそだろ。
全国一位の隣で働けるんだぞ。
こんなチャンスねぇよ。
白石恒一:静かにしろ。
高橋陸:はーい。
再び笑いが起きる。
そして。
白石は次の名前を読み上げた。
白石恒一:神谷悠真。
神谷悠真:はい。
白石恒一:千葉支店。
神谷悠真:……え?
思わず声が漏れた。
高橋陸:千葉?
一ノ瀬美月:意外。
神谷悠真(心の声):千葉支店?東京じゃない?
白石恒一:出張買取課。
神谷悠真:はい……。
返事はした。
だが頭の中は整理できていなかった。
東京支店。
鷹野誠司。
全国一位。
入社式からずっと憧れていた。
正直、どこかで期待していた。
もし配属されるなら東京だと。
白石恒一:何か質問あるか?
神谷悠真:いえ。ありません。
そう答えた。
だが心の中には小さな引っ掛かりが残った。
なぜ千葉なんだろう。
白石恒一:ちなみに配属先によって仕事のやり方は違う。
高橋陸:どう違うんですか?
白石恒一:大きく分けると二つ。
店舗買取と出張買取だ。
一ノ瀬美月:店舗は分かります。
お店に来たお客様を接客するんですよね?
白石恒一:その通り。
来店されたお客様の品物を査定して買い取る。
待ちの営業だな。
高橋陸:じゃあ出張は?
白石恒一:お客様の家へ行く。
その場で査定する。
その場で買い取る。
神谷悠真:家に行くんですか。
白石恒一:そう。
だから見えるものが全然違う。
高橋陸:どういうことです?
白石恒一:店舗に来るお客様は売りたい物を持ってくる。
だが出張は違う。
お客様の生活そのものが見える。
家族。思い出。
片付けられない理由。売りたい理由。
そういうものまで見える。
会議室が静かになる。
神谷悠真(心の声):生活そのものが見える。
なんだか想像がつかなかった。
白石恒一:だから難しい。
だから面白い。
そして一番人を見る仕事でもある。
その言葉に、神谷は入社式の日を思い出した。
『物を見る前に人を見ろ』
社長の言葉。
そして。
『お客様の話を聞いただけです』
鷹野の言葉。
どこか繋がっている気がした。
発表は続き。
やがて全員の配属先が決まった。
研修終了後。
同期たちは名残惜しそうに話していた。
高橋陸:俺、東京支店で全国一位目指すから!
一ノ瀬美月:まだ言ってる。
高橋陸:本気だからな。
鷹野さんいるんだぞ。
絶対何か吸収できるだろ。
神谷悠真:頑張れよ。
高橋陸:お前もな。
千葉でも負けんなよ。
神谷悠真:分かってる。
そう言ったものの。
心の中ではまだ引っ掛かっていた。
なぜ千葉だったのか。
その時。
教室の後方で腕を組んでいた黒田龍二がこちらを見ていた。
だが何も言わない。
ただ静かに。
神谷を見ていた。
神谷悠真(心の声):……?
一瞬だけ目が合う。
しかし黒田は何事もなかったように視線を外した。
その意味を。
神谷が知るのはずっと先の話だった。
数日後。
神谷悠真は千葉支店へ向かう。
まだ知らなかった。
そこで出会う先輩。
そこで見る現実。
そして。
自分が思い描いていた買取の世界との違いを。
もっと綺麗な世界だと思っていた。
人を見て。
価値を見つけて。
信頼を積み重ねる。
そんな仕事だと。
だが、俺の最初の配属先は。
千葉支店 出張買取課。
そして教育係は――
佐伯隼人だった。




