表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
値札の向こう側 ―新人古物買取査定員 神谷悠真の記録―  作者: 神谷 悠真


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/11

第五話 配属先 研修編④

# 第五話 配属先 研修編④


研修最終日。

会議室には今までにない緊張感が漂っていた。

一週間続いた研修も今日で終わり。

そして今日は配属先発表の日だった。


神谷悠真(心の声):いよいよか……。

高橋陸:楽しみすぎて昨日寝れなかったぜ!


一ノ瀬美月:私は逆。怖くて寝れなかった。

神谷悠真:同じようなもんだろ。


高橋陸:全然違う!

    俺は期待。

    美月は不安。


一ノ瀬美月:うるさい。


少し笑いが起きる。

だが全員落ち着かない。

これから働く場所が決まるのだ。


当然だった。


やがて白石が教室へ入ってきた。

いつも通りの表情。

だが手には一枚の紙が握られていた。


神谷悠真(心の声):あれか。


白石恒一:おはようございます。

全員:おはようございます。


白石恒一:研修お疲れ様でした。

     今日で皆さんは研修生ではなくなります。

     来週から現場です。


空気が変わる。


白石恒一:ということで。

     配属先を発表します。


一気に静かになる。

紙をめくる音だけが響いた。


白石恒一:一ノ瀬美月。

一ノ瀬美月:はい。


白石恒一:横浜支店。

     店舗買取課。


一ノ瀬美月:えっ。

白石恒一:何だその反応。


一ノ瀬美月:いえ!

     頑張ります!


少し安心したような表情だった。


白石恒一:高橋陸。

高橋陸:はい!


白石恒一:東京支店。

高橋陸:おっ!


白石恒一:出張買取課。

高橋陸:よっしゃ!!


思わず立ち上がる。

教室に笑いが起きる。


白石恒一:まだ終わってない。

     座れ。


高橋陸:すみません!


だが顔は完全に笑っていた。


高橋陸:東京支店か……!

    マジか……!


神谷悠真(心の声):東京支店。鷹野さんのいる支店。


正直、少し羨ましかった。


高橋陸:神谷。

神谷悠真:ん?


高橋陸:俺、絶対鷹野さん超えるわ!

神谷悠真:まだ会ってもないだろ。

高橋陸:だからこそだろ。

    全国一位の隣で働けるんだぞ。

    こんなチャンスねぇよ。


白石恒一:静かにしろ。

高橋陸:はーい。


再び笑いが起きる。


そして。

白石は次の名前を読み上げた。


白石恒一:神谷悠真。

神谷悠真:はい。


白石恒一:千葉支店。

神谷悠真:……え?


思わず声が漏れた。


高橋陸:千葉?

一ノ瀬美月:意外。


神谷悠真(心の声):千葉支店?東京じゃない?


白石恒一:出張買取課。

神谷悠真:はい……。


返事はした。

だが頭の中は整理できていなかった。


東京支店。

鷹野誠司。

全国一位。


入社式からずっと憧れていた。

正直、どこかで期待していた。


もし配属されるなら東京だと。


白石恒一:何か質問あるか?

神谷悠真:いえ。ありません。


そう答えた。

だが心の中には小さな引っ掛かりが残った。

なぜ千葉なんだろう。


白石恒一:ちなみに配属先によって仕事のやり方は違う。

高橋陸:どう違うんですか?


白石恒一:大きく分けると二つ。

     店舗買取と出張買取だ。


一ノ瀬美月:店舗は分かります。

      お店に来たお客様を接客するんですよね?


白石恒一:その通り。

     来店されたお客様の品物を査定して買い取る。

     待ちの営業だな。


高橋陸:じゃあ出張は?


白石恒一:お客様の家へ行く。

     その場で査定する。

     その場で買い取る。


神谷悠真:家に行くんですか。

白石恒一:そう。

     だから見えるものが全然違う。


高橋陸:どういうことです?

白石恒一:店舗に来るお客様は売りたい物を持ってくる。

     だが出張は違う。

     お客様の生活そのものが見える。

     家族。思い出。

     片付けられない理由。売りたい理由。

     そういうものまで見える。


会議室が静かになる。


神谷悠真(心の声):生活そのものが見える。


なんだか想像がつかなかった。


白石恒一:だから難しい。

     だから面白い。

     そして一番人を見る仕事でもある。


その言葉に、神谷は入社式の日を思い出した。


『物を見る前に人を見ろ』


社長の言葉。

そして。


『お客様の話を聞いただけです』


鷹野の言葉。

どこか繋がっている気がした。


発表は続き。

やがて全員の配属先が決まった。


研修終了後。

同期たちは名残惜しそうに話していた。


高橋陸:俺、東京支店で全国一位目指すから!

一ノ瀬美月:まだ言ってる。


高橋陸:本気だからな。

    鷹野さんいるんだぞ。

    絶対何か吸収できるだろ。


神谷悠真:頑張れよ。

高橋陸:お前もな。

    千葉でも負けんなよ。


神谷悠真:分かってる。


そう言ったものの。

心の中ではまだ引っ掛かっていた。


なぜ千葉だったのか。

その時。


教室の後方で腕を組んでいた黒田龍二がこちらを見ていた。

だが何も言わない。


ただ静かに。

神谷を見ていた。


神谷悠真(心の声):……?


一瞬だけ目が合う。

しかし黒田は何事もなかったように視線を外した。


その意味を。

神谷が知るのはずっと先の話だった。


数日後。

神谷悠真は千葉支店へ向かう。


まだ知らなかった。

そこで出会う先輩。


そこで見る現実。

そして。


自分が思い描いていた買取の世界との違いを。

もっと綺麗な世界だと思っていた。


人を見て。

価値を見つけて。

信頼を積み重ねる。


そんな仕事だと。


だが、俺の最初の配属先は。


千葉支店 出張買取課。

そして教育係は――


佐伯隼人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ