表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
値札の向こう側 ―新人古物買取査定員 神谷悠真の記録―  作者: 神谷 悠真


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/11

第四話 値段のない価値 研修編③

#第四話 値段のない価値 研修編③


研修五日目。

会議室には妙な緊張感が漂っていた。


白石恒一:今日はテストだ。


その一言で空気が変わる。


高橋陸:ついに来たな…!

一ノ瀬美月:嫌な予感しかしない。

神谷悠真:普通に嫌なんだけど。


白石は笑いながらホワイトボードに文字を書く。


『模擬査定』


白石恒一:私がお客様役、皆さんが査定員役で実際の接客をやってもらう。


高橋陸:査定できないだろまだ。


白石恒一:できなくていい。今日は金額を当てる試験じゃない。話を聞く試験だ。

     設定は、亡くなった父親の手巻き時計。提示する金額は三万円で。

     売ってもいいなと思える接客だったら合格だ。


神谷悠真(心の声):話を聞く……。


社長の言葉を思い出す。


『物を見る前に人を見なさい』


最初の査定員は高橋だった。


白石恒一:亡くなった父の時計なんです。


高橋陸:拝見します。


時計を受け取り、即座に状態を見る。裏蓋、ベルト、文字盤。


高橋陸:古いですねー。

白石恒一:そうですね。


高橋陸:傷もありますねー。

白石恒一:ありますね。


高橋陸:この状態ですと、査定額は三万円です。

白石恒一:そうですか。


終了。


白石恒一:次。

高橋陸:え?終わり?


白石恒一:終わり。


高橋陸:いや、査定したじゃないですか!

白石恒一:高橋くんは、査定しかしてない。


高橋は不満そうだった。

次は一ノ瀬だった。


白石恒一:亡くなった父の時計なんです。

一ノ瀬美月:お父様のですか。


白石恒一:はい。

一ノ瀬美月:大事にされてたんですね。


白石恒一:え?

一ノ瀬美月:傷が少ないので。


白石恒一:ああ……。

一ノ瀬美月:いつ頃からお持ちだったんですか?


白石恒一:三十年くらいかな。

一ノ瀬美月:そんなに。


白石恒一:定年退職の記念で買ってあげた時計なんです。

一ノ瀬美月:素敵ですね。


教室の空気が変わる。

高橋も黙る。

神谷も聞き入っていた。


白石恒一:これ、売るか迷ってるんです。

一ノ瀬美月:そうですよね。


白石恒一:でも家族は処分しろって。

一ノ瀬美月:無理に売らなくてもいいと思います。


白石恒一:え?

一ノ瀬美月:まだ迷ってるなら、残す選択肢もあると思います。

      ただ、今では中々手に入らないお時計で、希少価値がつくので

      古いお品物で、傷もありますが私なら三万円お出しできます。


静寂。

白石は少し笑った。


白石恒一:合格。

一ノ瀬美月:え?

白石恒一:今のが接客だ。


最後は、神谷の番だった。


白石恒一:亡くなった父の時計なんです。

神谷悠真:拝見します。


時計を受け取る。

その瞬間、神谷はあることに気付いた。


神谷悠真:あの……。

白石恒一:はい?


神谷悠真:これ、動いてます…よね。

白石恒一:そうだけど?


神谷悠真:お父様が亡くなってどれくらいですか?

白石恒一:半年かな。


神谷悠真:じゃあ、どなたがいつも巻いてますか?

白石恒一:……


神谷悠真:手巻き時計ですよね?半年放置なら、普通止まってると思ったので。

白石恒一:……


神谷悠真:お母様ですか?

白石恒一:なんでそう思った?


神谷悠真:なんとなく…です。


静寂。

白石は時計を見つめた。

そして少し笑った。


白石恒一:そう。母親が毎日巻いてる。

神谷悠真:そうなんですね。それくらい大切にしている時計を何故お売りになろうと…?


教室後方。

腕を組んでいた黒田龍二が初めて口を開いた。


黒田龍二:ほう。


誰にも聞こえないほど小さな声だった。


研修終了後。

同期たちが帰っていく。

神谷が荷物をまとめていると後ろから声がした。


黒田龍二:おい。

神谷悠真:はい?


黒田龍二:お前。

神谷悠真:はい。


黒田龍二:査定向いてるかもしれんな。

神谷悠真:え?


黒田龍二:普通の奴は時計を見る。お前は人を見た。

神谷悠真:……


黒田龍二:忘れるなよ。

神谷悠真:はい。


黒田は立ち去ろうとして足を止めた。


黒田龍二:そういや。

神谷悠真:?


黒田龍二:配属先、もう決まってるらしいぞ。

神谷悠真:え?


黒田龍二:覚悟しとけ。

神谷悠真:何かあるんですか?

黒田龍二:知らん方が幸せなこともある。


そう言い残し、黒田は去っていった。


神谷悠真(心の声):配属先――。


いよいよ現場が始まる。

鷹野さんみたいな人の下ならいいな。

そんなことを考えていた。


だが…数日後。

その期待は思いもよらない形で裏切られることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ