第二話 変わらない距離
気づけば、私たちは並んで歩いていた。
夕方の風はまだぬるく、制服の袖にまとわりつく。
隣を歩く蓮は、昔と何も変わらない。
歩幅も、歩く速さも、少しだけ前を歩く癖も。
「……にしても、急に花火ってどうしたんだよ。」
「なんとなく。」
「なんとなくで二時間前に連れてくるなよ。」
呆れた声なのに、ちゃんと私に歩幅を合わせてくれる。
それだけで、胸が苦しくなる。
「あ、屋台あるよ。何か買おうよ。」
「そうだな。」
屋台の明かりが、少しずつ灯りはじめている。
結構人が込んできた。
人の波に押されて、思わず足が止まった。
「……危な。」
ぐい、と制服の袖を引かれる。
気づけば、私は蓮のすぐ後ろにいた。
「ほら、こっち。」
そう言いながら、私の袖を掴んで人混みをかき分けていく。
「何食べる?」
「チョコバナナ」
「言うと思った。」
その言葉にドキッとした。
蓮に分かってもらえてる感じがして、嬉しかった。
「あと、かき氷も食べたい。」
「もうこぼすなよ?」
小学5年生の時、初めて浴衣を着てはしゃいでいた私は、浴衣にかき氷を盛大にこぼしてしまったのだ。
私はお母さんに絶対怒られると大号泣。あの時は蓮も一緒に謝ってくれて何とか事なきを得た。
「あれからこぼしてないじゃん。」
「そう言った翌年、チョコバナナ落として泣いてたじゃん。」
あの時は、蓮が半分分けてくれた。
本当に蓮はよく覚えてくれてる。
それに比べ私は……泣いてばっかだな。
「そういえば、あの時は浴衣に付かなかったな。」
「うん、だってかき氷のことがあってもう浴衣に懲りたからね。次の年からは浴衣着てきてないよ。」
「あれ、そうだったっけ?でも去年は」
「あぁ、去年はほら。中学最後の年だったから思い出に?」
「なんだそれっ。」
そう言って小さく笑う蓮に、胸が高鳴る。
けど、去年の話は思い出して欲しくない。
「去年もすいは泣いてたよな?……あれ、靴擦れしたからだっけ?」
「そんなんで泣くわけないじゃん!」
「うーん、確か帰りにすいが足の痛みで機嫌悪くなって…ん?その前から泣いてたっけ?いや、その後…?」
「あ!花火見る場所確保しなくちゃ!でも、まだ焼きそばも買いたいし…」
咄嗟に話題を変えた。我ながらあからさますぎた。
多少強引だが、蓮はこれ以上追求してこられない。
また、蓮の優しさを利用してしまった。
「じゃあ、早く買ってくるか。」
私が触れて欲しくないところには蓮はいつも触れなかった。
それは蓮の優しさで、私は嬉しくも少し寂しかった。
ほら行くよ、っと私の制服の袖を掴んで歩き出す。
「……もう、そんな引っ張ったら制服伸びるよ。」
「確かに。じゃあ……」
「え、」
少し立ち止まって考えた後、蓮は私の手を繋いで歩き出した。
突然のことに驚き固まる私。
私、今、蓮と手を繋いでいる。
意識した瞬間、触れている手も顔も熱くなる。心臓がばくばくしてうるさい。
蓮は焼きそばの屋台を探してくれている。
顔を見られたくない私にはちょうど良かった。
ふと、繋がれた手に少しだけ力がこもる。
「人、多いな…」
その声は聞こえるか聞こえないか分からないくらい小さかった。
私に言っているのか独り言なのか。
蓮の横顔を盗み見る。
相変わらずの無表情。だけど何故だか、ほんの少しだけ照れてるように見えた。
蓮も私と同じ気持ちなのかな。
淡い期待を抱く。
夢なら醒めないで。一生この時間が続いてほしい。
そう願えば願うほど胸が苦しくなるのは、何故だろう。




