第一話 再会
ごめんなさい。
あの時伝えてれば。素直になれていたら。
未来は変わったのだろうか。
ずっと後悔してる。
もしもう一度君に会えたら。
もしもう一度君と話せたら。
午後五時。
夏の空はまだ明るいのに、どこか一日の終わりを告げる色をしていた。
強すぎた日差しは少しだけ傾き、アスファルトの上に長い影を落としている。
制服のスカートの裾が、ぬるい風に揺れた。
睡蓮の刺繍が入ったハンカチを握りしめる。
道路の端には睡蓮の花が添えられていた。
苦しい。逃げたい。
そう思うのに、私は何故かその場から動けないでいた。
「……すい?」
「蓮っ!!」
さっきまで動けなかった身体は、蓮を見つけると吸い寄せられるように自然に動いていた。
「え、何。必死すぎて怖い。」
「だってそれはっ、……いや、何でもない。」
「てか、何で夏休みなのに制服?」
「これは、その、色々……」
せっかく蓮に会えたのに。せっかく蓮と話せているのに。
どう答えたらいいか分からない。
「あ、そのハンカチ使ってくれてたんだ。」
気を遣って蓮から話題を変えてくれた。
蓮は昔からそうだった。
口数は少なく、表情もあまり変わらないから何を考えてるのか分かりづらい。
でも、私のことをよく見てくれている。
私は、そんな蓮が好きだった。
昔も、今も。
「うん、誕生日に蓮から貰ったものだから。」
「俺、プレゼントとかよく分かんなかったからさ。母さんに聞いたんだ。」
「うん、確かに蓮にしてはセンスいいなって思ってた。」
「だろ?」
お互いのお母さん達も仲が良かった。
すいと蓮で睡蓮ね!と盛り上がり、睡蓮が入っているものをよく贈りあっていた。
「……じゃあ、俺そろそろ行くわ。」
「駄目っ!!」
「え、なんで?何かまだ話すことあった?」
「え、いや、無いけど…でもまだ行っちゃだめ。」
「えー、俺家帰りたい。家、隣なんだしいつだって会えるじゃん。」
次いつ会えるかなんて分からない。
これを逃したら一生会えなくなる。
そんな気がした。
「お願い。まだ、行かないで。1人にしないで。」
「……大丈夫?何かあった?」
あぁ、ほら。私がこんなだから、心配してくれる。
蓮は昔から優しい。
あ、そうだ、確か今日は
「……花火。一緒に見に行きたいなって。」
「もうそんな時期か。なんだかんだ毎年一緒に行ってるじゃん。そんな焦ること?」
「そんなんだから蓮はモテないんだよ。」
「どうせ俺は無口で無表情で暗いやつですよー。」
本当はそんなことない。確かに初めは怖がられるが、根は優しいので、そのギャップにやられる女子がちらほらいる。
「ごめんごめん。そこまで言ってないじゃん。」
「別に。俺すい以外の女子とまともに喋れないし。すいがいればそれでいいよ。」
全く。そういうところだ。
私だって、蓮さえいてくれたらそれでいい。
「一緒に行くのはいいけどさ。いつだったっけ?」
「今日だよ。」
「今日っ!?」
「何なら今から行こう。」
「え、花火って8時からじゃ……今5時だよ?やっぱり一回家帰らせてよ。」
嫌がる蓮を無理やり連れていく。
蓮は優しいから断れない。分かってる。
案の定、ぶつくさ言いながらも付いてきてくれた。
蓮の優しさを利用してまで、私は何をやってるんだろ。




