7、エルザ
目が覚めると、見慣れないベッドの天井が見えた。簡素だが、しっかりした造りだ。
起き上がろうと膝を立てると、左足首に痛みが走る。あのときは必死で気づかなかったが、転んだ時に捻挫していたようだ。
足首に負担をかけないように上半身を持ち上げ、ベッドの背もたれに身体を預ける。
初日から最悪だ。第一印象で今後の運命が変わると言うのに、傷だらけで運び込まれた手のかかる女というレッテルが追加されたはずだ。
エレノアは全く悪くないのだが、見知らぬ場所に来て早々気が重い。
眉間を人差し指で押さえ思案していると、艶のある黒髪を一纏めにぴっちり固めた女が、桶をもって入ってきた。
エレノアと目が合うと、ほんのわずかにその視線が鋭くなった。
「奥様、お目覚めでしたか。痛むところはございませんか?」
「大丈夫よ。それで、あなたは?」
「失礼いたしました。私、エルザ・モントレイと申します。奥様の侍女を務めさせていただきます」
「エルザね。よろしく。えっと、私はどのくらい眠っていたのかしら?」
「二日ほどでございます。皆、奥様がお目覚めにならないことを、たいそう心配しておりました」
「そう……なら謝りに行かないとね。悪いのだけど、案内してくれるかしら」
「いいえ、奥様。その必要はございません。しばらくの間、安静にさせろと旦那様から仰せつかっております」
「でも、そういう訳にもいかないじゃない?」
「いいえ、この部屋から出る許可は出ておりません」
あまりに淡々と話すので、全く感情が読み取れない。
しかし、ここまで言うのなら仕方がない。マイナス二百の印象をマイナス百に減らすために、わざわざ気力を削ってまで謝罪に行く必要はないだろう。
それに、きちんと看病をしてくれているのを見ると、このままでも最低限の暮らしは保障されていそうだ。
と、エレノアは考えていたのだが、現実はそう甘くなかった。あの日以降、エルザはぱたりと顔を見せなくなった。
一日二回、扉がノックされ外に食事が放置される。粗末な粥と小鉢が一皿。
エレノアは元々少食なので食事が少ないのは問題ないのだが、栄養の偏りのせいで目眩がする。おまけに足首の痛みが日に日に増していた。
三日ほど我慢したエレノアだったが、とうとう痛みに耐えきれず、薬を探しに行く決意をした。
扉をそおっと開き廊下を覗き込むと、薄暗い廊下が真っ直ぐ伸びていた。
人の気配がないことを確認して、左足を引きずりながら歩き出す。可能であれば、この家の人に頼みごとはしたくない。




