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金貨の娘  作者: 之#u4e4b
第8章 泥濘の澱

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第8章 第3節 闇路の獣(第2項)

(はこ)(がた)()(しゃ)西(にし)へと()かう。



(ちゅう)(けい)(じょ)(ひま)をしていた(わか)(ぎょ)(しゃ)は、

(よう)(へい)(たち)()(かこ)われて()くムネモスや

(はな)()(おさ)えるわたしを()て、

(かれ)らの()(よう)(こば)んだ。



挿絵(By みてみん)



しかし(よう)(へい)(たち)(なん)()(なぐ)られた(あと)

(あか)(かみ)(つか)まれ、(けん)(どう)(かつ)されると

(ぎょ)(しゃ)(いのち)()しんで(したが)うしかない。



ムネモスはずっと()いているし、

トリンはずっとわたしに(いら)()っている。



()かっている(さき)(けもの)()(あな)か、

(はか)(あな)になる(やみ)(しょう)(かん)のどちらかだった。



(ゆび)(はな)(した)(さわ)ると

(はな)()はすでに()まって(かわ)いたので、

(ひげ)(おとこ)()(こう)(かく)()げる。



(かれ)(たた)かれた(ほお)はまだ(ねつ)(はっ)していた。



()(あん)はあっても()()られないように

()(すじ)()ばす。



(さわ)いで()(しゃ)から()()りても、

(まち)西(にし)(がわ)では()(たい)(こう)(てん)するとも(おも)えない。



(けん)(さき)(ゆか)(いっ)(てい)(かん)(かく)(たた)(ひげ)(おとこ)が、

わたしを(にら)みつけている。



()(おく)(はい)(いろ)(もや)(つつ)まれていても、

(てき)()()(おぼ)えがあった。



こんな(じょう)(きょう)でも

(れい)(せい)()(ぶん)(ない)(しん)(おどろ)かされる。



(あめ)()(しゃ)()()(たた)()らした。



――グルグスとウントは()れてないかしら。



()(じょう)()んだ二人(ふたり)()(あん)じ、

()()のない()(こう)(よぎ)る。



()もなく()(しゃ)()まった。



()(どう)()(かん)からして(きょ)()(みじか)い。



西(にし)(がわ)(ぼう)(へき)(ちか)く、

(しゅう)()(たて)(もの)(ひく)いおかげで、

(しょう)(ろう)(ほく)(とう)(がわ)(ちい)さく()える。



――(けい)()(じょう)(ちか)くかしら。



(ひろ)(にわ)の、(やかた)(はな)れにある(たて)(もの)



(いし)(かい)(だん)()り、

(おく)(うす)(ぐら)()()(しつ)にわたし(たち)()れられた。



(かん)(しゅ)(やく)部屋(へや)(ちか)くで(さけ)()み、

(ふだ)(あそ)びに(きょう)じている。



()(よう)(ぶつ)(しゅう)()()もる()()で、

()(えつ)()じりにムネモスは()(つづ)ける。



わたしはムネモスを()()()(すわ)らせた。



(かの)(じょ)身体(からだ)はずっと(こわ)()り、(ふる)えている。



ムネモスを(おう)()させて、

わたしの(ふと)(もも)(うえ)

(なみだ)()れる()(くち)(ぬの)(かぶ)せた。



(かの)(じょ)(きん)(ちょう)(やわ)らげる(ため)

しばらくのあいだ()(なか)()でる。



「あのさぁ。

 カミーリャだかって、なんの(はなし)?」



()()(しゅう)()(むせ)るトリンが(いら)()ち、

()(まぎ)らわせようとわたしに(はなし)()る。



『カミーリャの(はな)()(まえ)に、

 その(つぼみ)()としたくはないでしょう。』



(ひげ)(おとこ)()かって、

わたしはそんなことを()った。



「カミーリャは()(みどり)()(しげ)らせて、

 (ふゆ)から(はる)(あか)くて()(れい)(はな)()かせるの。


 (やかた)()(ぐち)()えてあるわね。


 ()(べん)()らない(はな)(ひら)かせるのは、

 (みつ)()いにくる(とり)(くちばし)()(ふん)()け、

 (べつ)(はな)(はこ)ばせる(もく)(てき)があるのよ。」



挿絵(By みてみん)



(はな)(せつ)(めい)なんて()いてない。」



()(ぜん)、オーブ(りょう)から()たお(きゃく)さんが、

 (かれ)らと(そう)(どう)()こした(とき)に、

 カミーリャの(はな)(たと)えて(おど)したのよ。


 (かれ)らの(とう)(もく)(たん)(けん)()()けてね。


 (はな)(くび)から()ちるカミーリャの()()よ。」



ウントの(さい)()(おも)()かべ、

トリンは()(ぶん)(がい)する。



「そいつのせいで

 わたし(たち)()()えになったわけか。」



フルリーンを便(べん)()(てき)に『お(きゃく)さん』と

()んでいた(ため)、トリンは(かの)(じょ)のことを

ドレイプを()いに()(おとこ)(かん)(ちが)いしている。



(ほっ)(たん)はわたしが(やかた)(だっ)(そう)して、

サンサがユヴィルの()(えい)(さつ)(がい)したことが

(げん)(いん)だったのだけれど、(てい)(せい)(はぶ)いた。



いまとなってはフルリーンのように

(ひげ)(おとこ)の『(しょう)(にん)』を()()げて、

(ぼう)(りょく)()(たい)(かい)(けつ)できるはずもない。



「ムネモス。


 エルテルではこんな(とき)に、

 『(いぬ)尻尾(しっぽ)()む』って()うのよね。」



()(ろう)(ちく)(せき)して(きん)(ちょう)(なが)くは(つづ)かないので、

(やさ)しく(はな)()けて(なご)ませるように()う。



(べん)(きょう)(かい)(ひら)いてる()(あい)ではないでしょ。


 それで、これからどうするつもり?」



(ゆう)(しょく)はなにが()てくるのかしらね。


 トリン、()ててみて?」



「はぁ?」



(いら)()つトリンの(こえ)(しつ)(ない)(ひび)く。



わたしは(はや)くも(いぬ)尻尾(しっぽ)()んでしまった。



(しず)かに。」



(とびら)()こうで(よう)(へい)(たち)(けん)()をしているのか、

(さわ)()てる(こえ)がこの部屋(へや)にも(とど)く。



(ぎん)(かぎ)もただの(しょう)(ごう)(しつ)(かぎ)だもの。


 (にん)(しょう)(かん)()をしたトリンも

 ()たことがあるでしょ?


 サンサなら()(えい)(ころ)してくる(あい)()に、

 (けん)()(こう)(しょう)なんて(さい)(しょ)からしないわよ。」



「それならなんで、

 (こう)(しょう)なんて()ったのさ。」



まだ(れい)(せい)でいられない(かの)(じょ)は、

()(かい)できずに()(けん)(ちから)()れる。



「こんな(じょう)(きょう)だもの。

 ()(かん)(かせ)(ひつ)(よう)があったわ。


 (かれ)らはまず、

 (かぎ)()(どころ)(かく)(にん)するでしょうね。


 (かぎ)()(かく)(にん)するのかしら。


 (げき)(じょう)(そう)(とく)()しがる(けん)()だもの、

 (しん)(ちょう)(うご)くわね。」



(こう)(しょう)()としたから、

 やつらは()()さないのか?」



トリンの()(かい)にわたしは(うなず)く。



「こちらの()(えい)(ころ)されたから、

 わたしも(たい)(とう)(はつ)(げん)ができたわ。」



(かわ)いた(わら)いが()かぶ。



ムネモスが(つか)まった()(てん)()げるのは(あきら)め、

わたしは二人(ふたり)()(たい)(おとり)

(こう)(しょう)(ざい)(りょう)とした。



(よう)(へい)(たち)(つみ)()(しき)がないので、

(てん)(しゅ)(あい)()使(つか)った(おど)しは(つう)(よう)しない。



「ユヴィルの(だい)()になる(じん)(ぶつ)も、

 あの()には()なかった。


 (こん)(かい)(けん)(すべ)て、

 あの(ひげ)(おとこ)(どく)(だん)かしらね。


 (かれ)らでは(はん)(だん)できないから、

 わたし(たち)(ころ)されずに()んだ。」



()()(よる)(やかた)()(えい)二人(ふたり)(ころ)し、

フランジの(ゆう)(かい)(もく)(てき)とした(かれ)ら。



わたしが(かぎ)使(つか)って()(ふだ)()(ゆう)()せると、

(あき)らかに(こん)(わく)していた。



(よう)(へい)(たち)()(えい)(ころ)して、

(つぎ)()(ふだ)(かんが)えて()かった。



(あめ)(かぜ)(ふせ)げる()(しょ)()かったわ。」



「なにも()くはない。」



(さい)(あく)でもないわね。」



「まだなにかあるの?」



()()での()(けん)(もん)(だい)になって、

 ユヴィルが(ひげ)(おとこ)との

 (かん)(けい)()った()(あい)(そう)(ぞう)して。」



――ユヴィルに(たい)する(ちゅう)(せい)

  (ぜっ)(たい)ではないのよね。



(けい)(きょ)(ひげ)(おとこ)と、

(しゅう)()(よう)(へい)(たち)(はん)(のう)(こと)なった。



――(とう)(そつ)(うしな)った()(しき)ほど

  (あや)ういものはない。



「ユヴィルが(よる)(やかた)との(こう)(しょう)(のぞ)まず、

 (ひげ)(おとこ)(たん)(どく)(はん)にさせられた()(あい)


 わたし(たち)(ひと)(じち)としての()()(うしな)う。」



わたしは(はん)(ぶん)自棄(やけ)になって、

()(しょう)()かべて()せた。



そうならない(ため)に、

わたしは(ふた)つの(かぎ)()げて(かれ)らを(ため)した。



――(とう)(もく)()(ごと)(あば)(ため)(かぎ)は、

  (けん)(のう)(うば)()いを(もく)(てき)にした(えさ)で、

  (かれ)らには(なか)()()れをして(もら)えたわ。




「ここから()るには、

 まず()(えい)()(たい)()(ゆう)(きん)(りん)(じゅう)(みん)

 (ぜん)()(けい)()(ねが)()てくれないと。


 (よる)になっても(やかた)(かえ)らないわたし(たち)が、

 ユヴィルの(よう)(へい)()れて()かれたことを

 サンサは()るわね。


 ユヴィルから()()(よう)(きゅう)をされても、

 サンサは()()れてくれるわよ。」



(こん)(きょ)のない、()(やす)めの(こと)()(なら)べる。



――サンサにとっては

  わたし(たち)(ひと)()御供(ごくう)にして、

  ユヴィルを(つぶ)した(ほう)()があるわよね。



()(ごと)のできないわたしに、

(いち)()()(れい)()(じょう)()()がある

とは()()れない。



(あと)(そう)(とく)()(かい)(ごう)()()て、

 (へい)(おく)()(のう)(せい)(いの)って

 ()つしかないわね。


 この()(しょ)()かるのかしら。」



()(のう)(せい)はあるの?」



トリンの()(もん)に、

わたしは(だま)って(くび)(たて)()ってみせた。



――(かく)(りつ)は0ではないわね。



「あいつらにムネモスの(しゅつ)()()かせば?


 エルテル(りょう)のお(ひめ)(さま)だって()えば、

 ()()(だん)(おそ)れて(かい)(ほう)するんじゃないか。」



「ムネモスの(くび)

 また(たん)(けん)()てさせるつもり?」



「は?」



トリンの()(そう)(てき)(てい)(あん)に、

わたしが()(もん)()げかけたので

(かの)(じょ)(いら)()った。



(とう)()(ふう)(じょう)(だん)とも(おも)える

(かの)(じょ)(かんが)えは(せま)(あさ)く、

ユヴィルの(よう)(へい)(れん)(ちゅう)()がない。



(みの)(しろ)(きん)()()ての(ゆう)(かい)になれば、

 (とう)西(ざい)(きん)(こう)(ほう)(かい)するわね。


 エルテル(りょう)(うご)(ころ)まで、

 (しょく)()()(はい)やお部屋(へや)(せい)(そう)

 (かれ)らがしてくれるのかしら…。


 ベッドも(よう)()して()しいわね。」



わたしなりの(とう)()(ふう)(じょう)(だん)に、

(てい)(あん)した(がわ)のトリンが(あさ)はかさを()(かい)し、

こちらを(にら)んで(いら)()ちを()せる。



この(じょう)(きょう)でムネモスを()めて()しくはない。



(ちゅう)(けい)(じょ)()かおうと(てい)(あん)したのは

わたしだった。



「このままなにもされず、

 (ほう)()されたら()()にするわね。


 (かれ)らの(しょう)()になるつもりもないわ。


 (いち)()でもっと()べて、

 (らく)()のように(あぶら)()めるべき

 だったかしら。」



(かの)(じょ)(たち)()(がい)(くわ)えられないように

部屋(へや)への(しん)(にゅう)(ふせ)(ほう)(ほう)(かんが)えても、

(とびら)(やぶ)られるか(ほう)()されて()えるだけで

なにも(かい)(けつ)にはならない。



(さい)(あく)(そう)(ぞう)もできたけれど、

いまのわたしにはそれらを()ける(すべ)がない。



「わ、(わたし)(たち)…、

 どうなってしまうのでしょうか?」



わたしの(ふと)(もも)をクッションにして、

(なか)()きつくムネモスが(くち)(ひら)く。



()()っていれば、

 (あさ)には(やかた)のベッドで()()ますわよ。」



(こん)(きょ)のない()(やす)めを()べると、

わたしが(つぎ)()(ふだ)()っていないことを

トリンは(さっ)して(にら)んでくる。



わたしが(よう)(へい)(たち)()せた(つよ)()(ふだ)は、

(れつ)()(あたい)(ふだ)()ぎない。



「わたし(たち)(しょう)(かん)()られるか、

 (ころ)されるより(ひど)()()うんだな。


 (だれ)かのせいで。」



トリンが()()(あら)げてわたしを()める。



ムネモスはそれで()き、

さらに(せき)(にん)(おも)(かん)じてしまう。



「なんでも(わる)(ほう)(こう)(かんが)()ぎよ。


 (しん)(ぱい)いらないわ、ムネモス。」



「あんたの(こと)()には(こん)(きょ)がないっ。」



「うるせえぞ!」



(かん)(しゅ)(やく)(よう)(へい)()()って(とびら)()った。



()(つづ)けるムネモスが(かた)(おどろ)かせ、

わたしは(かの)(じょ)(あたま)()き、

()(こえ)をお(なか)(なか)(おさ)えた。



――トリンの()(てき)(どお)りだわ。



――わたしの(かんが)えは(かり)()めでしかない。



――()()でムネモスが(つか)まった(とき)

  (かの)(じょ)()いて()げてしまえば、

  わたし(たち)のうちの、

  どちらかは(たす)かったかもしれない。



――(あし)(おそ)いわたしが(さき)(つか)まるわね。



――(こう)(しょう)なんて(うそ)もすぐに()(けん)する。



――サンサが、(よる)(やかた)がわたし(たち)

  ()()てる()(のう)(せい)も、()(てい)できない。



――(かれ)らに(ひざまず)いて、

  (いのち)()いをすべきだったかもしれない。



――(さい)(ばん)ではどうなるのかしら。



こんな(とき)にサンサがよく()っていた

(こと)()(おも)()す。



(ほん)()(すべ)てではないわよ。』



いくら(ほん)()(しょう)()(ろく)()んでいても、

この部屋(へや)からは()られない。



いまは(じょう)(きょう)()(まか)せるしかなく、

(なか)(あきら)めかけていると

トリンは(おび)(ぬの)(なか)からナイフを()()した。



「トリン、それ…どうしたの?」



(かな)(もの)()()いてあったでしょ?」



(くら)(にび)(いろ)のナイフを(にぎ)って()せる。



挿絵(By みてみん)



(いち)()でトリン(たち)(いち)()(はぐ)れた(とき)に、

(やす)()りされた(ほう)(ちょう)(きゃく)(こん)(ざつ)(まぎ)れて

(かの)(じょ)(ぬす)みを(はたら)いていた。



「それで、なにするつもり?」



(よう)(へい)(あい)()(けん)()(かな)うはずはない。



フルリーンのようにはいかず、

(しっ)(ぱい)(そう)(ぞう)できる。



「なにもできないのなら

 (しょう)()らしくその(また)使(つか)って、

 (たい)()でも(たた)いて(おとこ)(さそ)えばいい。」



(かの)(じょ)(ひだり)()にしたナイフの()(じり)で、

(とびら)()(かえ)(たた)いた。



その(おと)にムネモスは(おび)える。



トリンは(とびら)(たた)(つづ)け、

(うち)(びら)きの(とびら)(よこ)(かべ)()(なか)()()けた。



トリンの(きん)(ちょう)が、わたしの(はな)()(げき)する。



「うるせえぞ! (おか)されてえのがぁ…。」



(かん)(しゅ)(やく)(おとこ)()()りながら()()(はず)し、

(とびら)()(はい)ってきたその(しゅん)(かん)

トリンは(かれ)(くび)をナイフで()()いた。



(やいば)(けい)(どう)(みゃく)へと(ふか)(はい)る。



(おとこ)(くび)から()()()し、

()つだけの(ちから)(うしな)う。



(かの)(じょ)(おとこ)()(たお)して

一人(ひとり)部屋(へや)()()すと、

(おく)には(べつ)(おとこ)(ひか)えていた。



「おい、ガキぃ!」



(かの)(じょ)はすぐに()(かえ)し、(とびら)()めた。



(おとこ)(ひく)(こえ)が、

(ろう)()から部屋(へや)にまで(ひび)く。



(こえ)(ぬし)はフルリーンに()け、

ウントを(ころ)した(ひげ)(おとこ)



トリンは(ふたた)(かべ)()にして、

(ひょう)(てき)(はい)ってくるのを()(かま)えた。



(あし)(もと)()(たい)(あし)()め、

(けい)(かい)して部屋(へや)には(はい)らない。



「おい! 一人(ひとり)やられたぞ! (だれ)()いっ!

 (さい)(しょ)っから(おか)して()ればよかったんだ!


 (だれ)か! ()るんなら(だれ)()いってんだ!」



「お(とう)(さま)! お(かあ)(さま)! クロノォ…。」



ムネモスは()(つづ)ける。



(こわ)がらせてるだけよ。」



(きょう)()()(わめ)くムネモスを、

部屋(へや)(すみ)()(どう)させて(しず)めた。



(じょう)(きょう)(そう)(てい)した()(じょう)(さい)(あく)なものになった。



『あんたの(こと)()には(こん)(きょ)がない。』



わたしを()めるトリンの(こえ)(あたま)(ひび)く。



――でも、トリンの(せき)(にん)ではない。



(ひげ)(おとこ)(とびら)()(こわ)した。



すぐに(なか)(はい)っては()ない。



(ちょう)(つがい)()(かい)した(とびら)(よこ)()(みて)て、

(おび)えたムネモスを()(かか)えるわたしを(にら)む。



部屋(へや)(あし)だけ()()れて()せた(ひげ)(おとこ)

ナイフの()()()したトリンに()()いた。



(けい)(かい)していた(おとこ)は、

(みぎ)()(けん)(かの)(じょ)身体(からだ)(つらぬ)こうとする。



わたしは(とびら)(たい)()たりした。



(おとこ)()(ぶか)(うで)(けん)ごと(とびら)(はさ)まれ、

(かの)(じょ)()(まえ)()(さき)()まった。



「トリンッ!」



わたしの(こえ)にトリンは()がつき、

(とびら)(はさ)まった(おとこ)(みぎ)(うで)

ナイフで()()した。



(いか)りと()(めい)()ざった(こえ)(しつ)(ない)(ひび)く。



(かれ)(いた)みに()えきれず、(けん)()とした。



(おとこ)(くっ)(きょう)(にく)(たい)()(かえ)し、

(とびら)(とも)にわたしを(はじ)()ばした。



トリンが(おとこ)(けん)(ひろ)うよりも(さき)に、

(かれ)()りがトリンの(わき)(ばら)(えぐ)った。



(もだ)(くる)しむトリンは、

(ゆか)(ひざまず)いたまま()()がれない。



()めやがってっ! …ガキ(ども)

 ()らねぇ! もう()らねえよっ!

 (ぜん)(いん)(なぐ)って、(ころ)して、(おか)してやる!」



(さけ)び、(いか)りを(あら)わに()える(ひげ)(おとこ)



その(おとこ)()(あわ)()き、

(りょう)(ひざ)()として(ゆか)()せると、

()(ひら)いて(うご)かなくなった。



キャシュクから()(にじ)()している。



「なんで…?」



――ニースだわ…。



(とびら)()める(ため)()()がると、

()った()(なか)(いた)みだして(ねつ)()びる。



わたしは(ろう)()(おく)()つ、(おとこ)(ひと)(かげ)()た。



()(おぼ)えのあるその(おとこ)は、

すぐに()()ってしまう。



(とお)くなっていく(やわ)らかな(かわ)(ぐつ)(おと)と、

()()わるかたちで(べつ)(あし)(おと)(ひび)き、

部屋(へや)(だれ)かが(ちか)()いてくる。



(あし)(おと)()(ゆう)(かす)かに(こと)なる、

この(おと)には()()()みがある。



(ねえ)(さま)っ!」ムネモスがわたしに()きつく。



「もう(へい)()よ…。

 トリンは()てる?


 さぁ、ここを()ましょう。」



(かく)(しん)はあったものの(かく)(しょう)はなく、

(こん)(きょ)のないわたしの(こと)()二人(ふたり)(とど)かない。



「ニクスー? ムネモス?」



「サンサ。」



挿絵(By みてみん)



サンサは()(たい)(ふた)()()えて、

(まっ)(くろ)(ゆか)()()まりを()み、

(ゆき)のように(しろ)(あし)(よご)した。



()()(げん)()らんのか…。」



サンサに(おく)れてハーフガンと、

(まち)(へい)()(たち)もやってきた。



挿絵(By みてみん)



「3(にん)(とも)()きてるみたいね。」



「お(ねえ)(さま)ぁっ!」



(いた)(いた)いっ。」



ムネモスは()きながらサンサに()()み、

(ちから)(づよ)()いて(かの)(じょ)(くる)しめた。



トリンは()られた(わき)(ばら)(おさ)えて()つ。



()んだ(ひげ)(おとこ)(ぞう)()()(せん)()けたまま

(けん)(にぎ)()めていた。



「トリン。それはもう(ひつ)(よう)ないわ。」



サンサに()われ、

トリンは()(ぶん)()にした(けん)()つめた。



()きてたらダメだろ。こんなやつら…。」



(きず)つけた(みぎ)(うで)()み、

()(たい)(けん)()()てる。



「もう()んでるわよ。」とサンサ。



「わたしに(めい)(れい)しないで!」



「トリン、ごめんなさい。


 (わたし)の…せいなんです。


 ニクス(ねえ)(さま)も…わたしが、

 ()(えい)も…。」



ムネモスがわたしにまで(あやま)る。



()(てい)(さん)(ざん)なものだったけれど

(けっ)()(てき)にわたし(たち)(たす)かった。



(おお)くの(ぐう)(ぜん)(かさ)なって、

サンサ(たち)によって(たす)けられたに()ぎない。



トリンもこの(けつ)(まつ)には(なっ)(とく)していない。



(かの)(じょ)(じょう)(きょう)(あっ)()させ、(きゅう)(じょ)(おく)れていたら

わたし(たち)(ぜん)(いん)この(おとこ)(ころ)されていた。



トリンはそれを()(かい)して、

(けん)()(こわ)()った(ひだり)()を、

もう(かた)(ほう)()()()がした。



「ニクスは…。」



(よご)れたわたしの姿(すがた)()て、

サンサは(うなず)くだけだった。



(はな)()はもう(かわ)いている。



わたしも(かの)(じょ)()()(くび)(たて)()る。



(こと)()にしないサンサは、

わたしの(へん)()()()いたのかもしれない。



()(よご)れたサンサの(あし)(もと)()た。



(やみ)(なか)(やみ)(いろ)(えき)(たい)



あの()()の、(おり)での()(おく)(よみがえ)る。



――あのひとの()(まえ)は、ラミー…。



――わたしの(あね)だったひとだわ。



わたしの(なか)にあった()(おく)(もや)()れた。



()かいの(おり)()(やみ)(いろ)()(たい)は、

わたしの()(まえ)()びはしない。



――(かの)(じょ)(よわ)った身体(からだ)では、

  (ふゆ)()えられなかった。



(あん)()でも(つみ)()(しき)でもない、

()()ぜの(かん)(じょう)(はつ)()して、

(なみだ)となって(ほお)(なが)れた。




 ▶

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